第1話
彼女に初めて遇ったのは、青い空がとても綺麗な日だった。学校の昼休みに、僕はいつものように独りで屋上に行った。昼休みにまで教室にいたくなかったからだ。暗い階段を登って屋上のドアを開けると、まぶしさに目を細める。夏休みも終わって九月に入ったのに、いつまでも暑い。誰もいなかったけど、僕はいつもの場所──屋上のすみに移動した。
鞄を先に置いて、その隣に僕が座る。鞄を開けると、表紙が途中から破けている教科書が目に入った。僕はその教科書を何となく手に取ってみた。
所々、破られたりグチャグチャにされたり、マジックで落書きされたりしている。
まるで、今の自分みたいだ。
そう思うと、涙が込み上げてきて慌てた。
泣くな、泣くな。
自分にそう言い聞かせて、泣かないように唇を噛んでうつむいた。僕が泣いたと分かったら、あいつらはきっと喜ぶ。
その時だった。すぐそばで鈴の音が聞こえた。それから、人の声も。
「泣かないでよ」
え? いつの間に人が?
「元気出して」
驚いて体を起こすと、僕と同じくらい年頃の女の子が僕の顔をのぞき込んでいた。
僕は、いきなり現れたその子をポカンと見つめていた。あまりに唐突に現れたから、何て言っていいのか分からない。見慣れない制服を着ているのが印象的だった。
「あれ……?」
彼女は、不思議そうに僕を見た。まるで見えてるのか確認するように、僕の目の前で手のひらをヒラヒラさせた。そうだ、何か喋らなきゃ、何か……
それからさらに時間が経って、一言だけ言えた。
「えっと……あの……君、誰?」
その子は驚いた顔をして僕を見た。パクパク口を動かしたあと、やっと喋った。
『あたしのことが見えるの!?』
そりゃあ……と言おうとした時、すごい風が吹いて、思わず目をつぶった。目を開けると、彼女はいなくなっていた。
どこからか、鈴の音だけが聞こえた。
何なんだ……今の……?




