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2、幼心に刻まれた父親の不名誉


 タバサは手際よく女の手当てをしてからにこりと微笑んで「終わったわよ」と声をかけた。

 女は反射で笑顔を返して頷く。

 言葉が解らないから返答に困り適当に頷いたのだろう。


「変わった子ね」


 枝を引き抜く時に一頻りギャーギャー喚いた後は力尽きたのか寝台の上でぐったりとしている。

 その隙に化膿止めの軟膏と麻布を当てて包帯で巻いただけの治療では、傷が膿む事もその結果高熱と痛みが襲う事も覚悟しておかなければならない。


 猟師小屋として使われていた小さな小屋は屋根裏にイヴリールが眠り、一階の奥に衝立を置いて目隠しをしてそこに寝台を置いてタバサが寝ている。


 玄関入ってすぐの左側に小さな調理台があり、鍋の端と端を結ぶ把手の付いた鍋と食材が並べられ、床に置かれた水瓶の中には飲み水が溜められていた。

 これは近くの川から毎日汲んでくる物で数あるイヴリールの仕事のひとつでもある。


「変わってるって言うか……無防備っていうか」

「あの恰好じゃあんたじゃなくても目のやり場に困って動揺するわよ。途中で押し倒さなかっただけ誉めてあげるわ」

「誉めるとこそこかよ」

「あら?それ以外のどこに誉め所があるのか教えてもらいたいもんだわ」


 眉を跳ね上げてタバサは赤銅色の緩く波打った髪を結び直しながら息子を睨む。

 無造作に束ねて淡い黄色のスカーフを被り直しイヴリールと同じ紫色の瞳を女が寝ている寝台へと向けた。


「叫んでた言葉は聞いたことない物だったわ。よっぽど遠い所から来たのね」

「詳しい話も今はできないだろうし……。落ち着いてから聞く事にする」

「そうね。バダムとクララには悪いけど、また面倒抱え込むことになりそう」


 タバサの中では事情如何によっては女を居候させるつもりだと決めているようだ。何処の誰かも解らない、言葉も通じない相手を。


「………………面倒見る余裕も義理も無いだろ」

「そうかもしれないけど、あの子と会話をできるのは今の所あんただけよ。それなのに見捨てるの?」


 確かに現状では女と会話をできるのはイヴリールだけだ。

 自分が見捨てれば女は途端に自分の意思を伝えることができなくなり、周りからは好奇の目と疎ましい目で見られ孤立する。


 得体の知れない人間を集落に受け入れる村や町は何処を探してもない。

 言葉を話せるのならば素性を隠して信用を勝ち得る事も可能かもしれないが、女の操る言葉を理解できる者などいない。


 いや。


「俺と同じ竜族に運よく出会えれば問題ないだろ」


 不貞腐れたイヴリールを横目で見てからため息を吐くとタバサは「運よく出会える可能性はかなり低いけどね」と棘のある声で同意する。


「いっその事竜族に託しちまえば良いんだよ。俺達があの女を匿えばまた村の奴らになんて言われるか」

「生涯一人の女を愛すると誓いながら、あっさり浮気して子供まで作っちゃうような竜族にあの子を預けるなんて酷い事をよくも言えるわね!」


 軟膏を塗った際に拭った手拭いを怒りに任せて息子に投げつけタバサは女の敵だと言わんばかりに目を剥く。


「しかもあそこは男しかいない無法地帯よ!そんな所に女の子を入れたらどうなるかっ」


 ぶるりと震えてタバサが息を飲む。


「いや。竜族は男ばっかりだけど、伴侶の女性だって一緒に住んでるんだし。無法地帯ってのとはちょっと違うだろ」

「飢えた雄竜が子孫繁栄の為に人里に下りてきて人族の女を攫って行くって昔話は古来より語り継がれてきた真実よ」


 かくいう私もたぶらかされて竜族の住まう国へと渡った愚か者だけど、と悔やむように続けてイヴリールを指差した。


「いつあんたが村の女の子に手を出して竜族の国へ連れ戻るかもしれないと怯える母の気持ちをあんたは理解してないわ!」

「……じゃあその、女と見れば見境ない竜族の俺がいるここで、あの女をここに住まわせるのは矛盾してんじゃないのか?」

「あんたはあの好色なウィンとは違う。普通の竜族とは違って人族の世界で大きくなった、理性や人族の決まりごとを護れる貴重な竜族なんだからね」

「その割には信用してないような事さっき言ったよな」

「黙りなさい!これは覆す事の出来ない母の命令です!あの子の事情がはっきり解って、どうしたいのか言えるようになるまでここで預かります」


 タバサには言葉を操れない女を放り出す事は到底できるはずも無く、そして覚悟を決めた母に刃向う事もイヴリールには許されていない。


 「返事は?」と責められてできる事があるとしたら「はい」と首肯するだけなのは幼い頃より刻まれた絶対母親制の賜物である。


「さて。そうと決まればあの子の服を用意しないと」


 壁際に置いている木箱の衣装箱へと向かう母の後ろ姿をチラリと見てからため息を吐く。

 そういえば春先の不安定な寒さでタバサが風邪を引いて最後の熱冷ましを使ってしまったことを思いだし、今宵熱が出るだろう奇妙な女の為に頭を掻いて歩き出す。


「じゃあ俺はグリッドのとこに行って熱冷ましの薬草貰ってくる」

「ついでにスカフマとファミノイアを畑から引っこ抜いてクララのとこに持って行ってあの子しばらくうちで預かるって伝えてきて」


 気の進まぬ用事で出かけようとしているのにタバサは更に嫌な仕事を押し付けてくる。


「なんで俺がっ」

「母はこの子の看病をしなくてはいけないからよ」

「言葉解んないくせに!」

「イヴ、人はね……言葉など無くても意思疎通はできるのよ」


 眉を寄せ少し困った顔をしてタバサは言い聞かせるようにゆっくりと話す。

 こういう時はまるで子供扱いされているかのようで神経が逆なでされる。


 だがここで感情に任せて反発するほど子供ではないつもりだ。

 ぐっと堪えて「最低限の、だろ」とだけ発言するとタバサはにこりと微笑んで「当たり前じゃない」と明るく応えた。


「それで十分。さあ無駄口叩いてないでさっさと行く!」


 追い立てられてイヴリールは衝立の外へと飛び出した。

 そしてがっくりと肩を落として玄関へと足を踏み出すとタバサが女の枕もとに移動したのか、優しく「貴女は運の良い子ね。言葉の解るイヴと出会えたんだもの」と囁いた声が聞こえた。


 意味は解らないだろうに母の優しい声と顔の表情から察したのか女が小さく「ありがとう」と答えたのが耳に届いた時、何故か無性に心がざわついてイヴリールは足音をわざと立てて床を進んで扉を開けた。


 玄関扉の右横には薪を積んで置いている。そして左横には農具が置かれ、そこから籠を取り肩に担ぐと薪置き場の前を進み小屋の裏手にある畑へと向かった。


 畑は狭いが母子が人食べるだけの野菜を作る分には十分だ。

 今はスカフマとファミノイア、ジャリングとカタンが収穫されるのを待っている。


 青々とした葉が茂る中タバサに言われたスカフマとファミノイアの植わっている場所へと分け入り、小さく繊細さの感じられる葉が沢山開いている細い茎の下から黄味がかった赤い色が土の中から少しだけ出ているスカフマの付け根を掴んで引っこ抜く。

 土を払って肩越しに籠に入れ、更に二本抜いて葉が枯れかけているファミノイアの方へと移動する。

 畝の外側から手を使って二株分掘り返すと子供の握り拳位の薄茶色の実が出てきた。

 それも籠の中へと入れて立ち上がり、ついでに細長い茎が倒れている香りが強く球形の白っぽい実のジャリングも三個ほど抜く。


「これぐらいでいいだろう……」


 手の泥を払ってから小屋の横を通って村へと続く唯一の道をもう一度歩く。

 木々が思い思いに枝を伸ばしているので道の上には影が落ち、涼やかな風も通り抜けていた。


 こうしているといつもの日常と変わらないのに確実に面倒事を抱え込み、更に女から事情も聞けないままバダムの所へと報告へ行かねばならないのだと思うとやはり気が重い。


 そんな事を考えていると足が重くなってきて中々村が見えてこない。


 太陽はゆっくりと傾いてその力を弱めて行く。

 イヴリールは白竜が治める光あふれる国を思う。

 そこは夜の少ない所で天空にあると聞いたことがある。

 自分が五つまで住んでいた黒竜の地は逆に日のある時間が少なく闇の中に星のような光が舞う国だった。


 イヴリールはあの国が好きだ。

 静かで、安らかな時が流れるあの場所が。


「あのクソ親父が余所の女なんかに手を出さなけりゃ」


 舌打ちしても現状が変化するわけでは無い。

 父であるウィンロウが母タバサ一筋だったのは子供のイヴリールですら解るほどで、そんな愛妻家の父が何故ふらりと人族の住む土地へと降り、どんな経緯で行きずりの女と関係を持ったのか理解に苦しむ。


 男は愛情がそこになくても女を抱ける。


 これは村一番の女たらしジョーが笑いながら言った言葉だが、そこには確かに真実もある。

 魅力的な女性が誘って来たら初めて会った相手でも寝台を共にできるのは男の子孫を残そうという本能が働くからだろう。


 だが。


 ウィンロウは人族ではない。

 竜族だ。


 母に父が言った通り生涯一人の女しか愛さないのが竜族の男で、他の女に幾ら誘われ、泣いて縋られようとも浮気などしない。たった一晩の一刻だとしても肌を合わせるような行為に及ぶとは考えられないのだ。


「っの癖に子供まで作りやがって!」


 竜族で兄弟がいるなど恥も外聞もあったものではない。

 竜族の子供を産むことは人族の女にとっては負担が大きく、どんなに強靭な身体に恵まれていようとも二度の出産は難しく確実に命を落とす事となる。


 つまり兄弟がいるという事は余所に女を作り、その女に子供を産ませた不実の男として言いふらしているような物なのだ。


 不名誉極まりない。


 そしてタバサはあの国で自尊心を踏み躙られ、同情した黒竜たちの手を借り国を出て故郷へと帰ってきたのだ。


 自分は決して父のようにはならない。


 ウィンのようにならないでちょうだいねとそれこそ五歳の頃からずっとタバサに聞かされ続けた言葉だった。

 あんな惨めな思いを母にさせた父をイヴリールは恨んでいる。


「一人の女も幸せにできないような男が、他に手を出すなんて有り得ないだろ」


 太陽が沈む方を睨んでウィンロウを責めるがその声が彼の国へと届くことは不可能だ。

 竜族が治める地は人族の治めるこの広大な大地とは別の次元にあるのだから。


 毒づきながら歩いていたらいつの間にか村の入り口を通り越していた。


「やべっ」


 グリッドの家は入口から入って右奥の森の近くにある。

 このまま真っ直ぐ行ってしまえばバダムの家の方へと向かってしまう。

 気の進まない事は後回しにしてしまうのはイヴリールの悪い癖かもしれない。


 慌てて右へと道を折れて進むと民家からは煮炊きする良い匂いがしてきた。


 肩に担いだ籠の重さを思い、やはり先にクララへと野菜を届けて報告をしてきた方がよかったかもしれないとチラリと過ったが頭を振って進む。


 柵で囲まれた家が見えてきてイヴリールは早足で近づく。

 腰の高さの木の門を押し開けて中へと入ると薬草を栽培している畑と果実のなる樹が多い庭に出る。

 洗濯物を取り込んでいるグリッドの母キキが「どうしたの?薬が入用なの?」と気づいて声をかけてくれた。


「熱冷ましの薬が欲しくて」

「熱冷まし?タバサ風邪でも引いたの?」


 乾いた衣服と布を山盛りにした籠を抱えて心配そうな顔で尋ねてくる。

 それに「母さんは心配ない」と苦笑して否定するとキキは首を傾げて必要な理由を無言で聞いてきた。

 手短に迷い込んできた怪しい女が怪我をしたことを伝えると「ああ、グリッドが見つけてきた不思議な子のことね」と了解し、玄関に向かって「クラップ!」と旦那を呼びながら入って行く。


 その後ろに続くと奥の方から白いエプロンを着けた中年男が出てきた所だった。

 柔和な笑顔はグリッドと同じでイヴリールを見てもその表情や態度は変わらない。


「やあ、イヴ。どうしたんだい?」

「今タバサの所にいるグリッドが連れてきた女の子が怪我したらしくて、熱冷ましが欲しいってさ」


 エプロンを持ち上げて手を拭ったクラップが穏やかな口調で用件を問うと、キキがイヴリールに代わって説明をする。

 蜂蜜色の柔らかな前髪をスカーフから出しているキキは、タバサと同じ年齢だというのに見た目が若い。

 ほっそりとした身体に色白の肌で鼻の上から頬まで雀斑があるが、小さな顔と慎ましやかな顔立ちで派手な印象のローラより可愛らしい。

 そんな妻を目を細めて微笑んで見つめてからイヴリールに「怪我?化膿止めの軟膏は?」と確認してくる。


「まだあるから。熱冷ましだけ」

「そうか。すぐ用意するから、ちょっと待ってて」


 クラップは取って返し作業部屋へと消える。

 主婦にとっては忙しい時刻なので洗濯物を持って台所へとキキが向かう。

 放置されたイヴリールは玄関で待っていたが、ほどなくして熱冷ましの丸薬を持ってクラップが戻ってきた。

 受け取ってから礼を言い、スカフマとファミノイアとジャリングを渡してから辞すると扉を閉める前に「キキ、美味しそうな野菜を頂いたよ」と妻に語りかける優しげな声を聞いて苦笑した。


 夕日色に染まり始めた道を次は村長の家まで急ぐ。

 あまり暗くなるとタバサが心配するし、夜行性の獣たちが動き出してくる。

 そうなると面倒で、いらぬ血を流さなければならなくなるので遠慮したい。


 ぐずぐずしていた自分の行動を反省しつつ扉を叩くと、出てきたクララはふくよかな顔に笑顔を浮かべて迎えてくれた。

 美人というよりは柔らかい雰囲気の癒し系の女性で、娘のローラとは全く似ていない。

 その場で残りの野菜を渡して説明すると「私から話しておいても良いけど、きっとあの人はいい顔しないからね……。悪いんだけどイヴから伝えてくれる」身体を端に寄せて扉を大きく開けるとクララはイヴリールを中へと招く。扉を閉めてからクララは台所へと姿を消す。


 本日二回目の村長の部屋へと続く廊下を歩くと、夕食の準備をしている良い匂いが家中に充満しており腹がぐうっと音を鳴らして空腹を訴えてくる。

 こんな時でも腹は空くのだと呆れながら村長の部屋の扉を叩いて「小父さん。イヴだけど」と声をかけた。


「入りなさい」


 どこか疲れたような声にイヴリールの気持ちはぐんと下がり、ノブを握る手が嫌にゆっくりとそれを回して押し開いた。

 部屋の中央にある向かい合った椅子の向こうにある立派な机の上は羊皮紙の束が置かれている。

 村の記録を毎日つけるのも大切な村長の仕事であり、今日はとんでもなく奇妙な女が村へと連れて来られた日でその記録を書いているバダムの顔が強張っているのも仕方の無い事だともいえた。


 そんなバダムにあの厄介事をしばくうちで預かることにしたと伝えるのはとても恐ろしく、そして難易度の高い仕事である。


 心の中で「なんで俺がっ」と舌打ちしたのは何度目だろうか。


「どうした?あの女は何処から来た何者なのか聞いたんだろう?」


 目鼻立ちのくっきりとしたバダムは丸みを帯びた体格をしているが、身長が高いお陰でそう太っていると思わせない。

 頭頂部は少し薄く、それを隠すようにいつもは帽子を被っているが今は難題に頭を抱えており机の端の方へと追いやられている。


「それが、家に連れて行く途中で枝を踏み抜いて怪我して。詳しい事情がまだ聞けて無い。しかも」

「どうした?」


 タバサからの伝言を口にするのを躊躇ったイヴリールを鋭い視線で見つめバダムが先を促してくる。


 逃げられない。


「母さんが、あの女をしばらくうちで――預かるって言ってて」


 言い淀んで言葉を探したが、結局は良い言い回しを思い浮かぶ事ができずにそのまま伝えた。

 バダムは明らかに顔を顰めて反対の意思表示を表し、額を押えて深いため息を吐き出すと「イヴ……」と呻くように名を呼ぶ。


「この村から出て行ってくれるように説得するのがお前の役目だったはずだ」

「俺は始めに説得できるかは解らないって」

「どうしてセロ村にばかりこんな厄介で面倒な事が起こるんだ」


 じっとりと目を据えられてイヴリールは唇を噛む。


 そんな事を言われてもあの女がここへと来たのは自分の所為ではない。

 イヴリールとタバサがこの村を頼ったのは、母の故郷がこのセロ村だったからだ。

 子供を抱えて見知らぬ場所で生きて行くには女の身には辛く過酷で、せめて故郷ならば知人も多く温かく受け入れてくれるだろうと思っていた。


 だが現実はイヴリールが竜族であるという事が障害となり、タバサは故郷で肩身の狭い思いをしている。

 面には出さないが悔しそうな悲しそうな顔をさっと後ろを向いて隠していても、背けられる瞬間の横顔を何度も目にする内にイヴリールの胸を苦しくさせた。


 いっその事あの国へイヴリールだけでも戻れば、母は村に受け入れられて幸せに暮らせるのかもしれないと暗い考えを巡らせる事も多々ある。


 そんなことをしたらタバサが逆上して何をしでかすか解らないので、口にしたことも無いがイヴリールがこの村に居られる限界がそろそろだということは薄々感じてはいるが。


「…………まあ、いいだろう。あの女の怪我が治って元気になったら、しっかりと説得してくれよ。そもそも些細な怪我が原因で死ぬ可能性も無きにしも非ず」


 縁起でも無い事を言い放ち、バダムは口を歪めて笑う。


「これも何かの縁かもしれないな。お前にしかあの女の言葉は解らない。お前が一生守ってやれば問題は無いか。これで村の若い娘を持つ親は安心して暮らせると思えば、あの厄介な女を受け入れる事も悪い事ではないのかもしれんな」

「…………俺の一存ではなんとも言えません」


 お互い選ぶ権利はあるだろう。

 無理矢理押し付けられるのも、相手の意思を無視して縁を結ぶのも本意ではない。


「しばらく様子を見ようじゃないか」


 バダムが朗らかに微笑むと立ち上がり、帽子を取って頭に乗せた。

 机を迂回してイヴリールの肩を叩いて「どちらへ転ぶか楽しみだな」と囁いて出て行く。

 拳をきつく握り、苛立ちと不快感を押さえつけてゆっくりと息を吐いた。


 バダムが悪いのではない。


 彼は自分の娘であるローラがイヴリールと婚姻を結んで、村を出て竜族の治める国へと行ってしまうのではないかと恐れているだけなのだ。


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