視聴者と生口論
インターネットの怖さと陽気な黒人を組み合わせて書いてみました。是非、お楽しみください。
お昼の12時に平均視聴率23%を叩きだすモンスター番組があった。番組は『イカレていいかも』という名前で、黒人の司会者がブラックジョークを言いながら、ゲストに毒を吐きまくるという番組内容だった。
今日も同じ時間に番組は開始した。お客さんのスタンディングオベーションと共に、奥から司会者とゲストが歩いてくる。もはやスーパースターなみの大歓声だ。
「今日のお客さんには天日干しされたババアはいないようだな」
開口一番の毒舌に、会場は笑いの渦に包まれる。そして次にゲストの紹介が始まる。
「イエエエエエ、今日のイカレた仲間たちを紹介するぜ!」
司会者の掛け声と共に、会場のボルテージはヒートアップする。
「バスターボインズの2人だぜ」
バスターボインズという名前の通り、2人はGカップの白人女性芸人である。2人はカメラ目線で楽しそうな表情をお茶の間に送る。
「今日もボインな胸だな。モミ倒したいぜ。勿論、目を瞑ってな」
強力なブラックジョークが炸裂する。
「さて、次はチンピラヤンキーの2人だぜ!」
スラム街出身の外国人タレントである。視聴者を威嚇するトークで大ブームを起こしている若手芸人だ。
「おうおうおう、ずる休みしている学生諸君に言うぜ」
カメラの前で、ラップに乗りながら喋る2人。
「全部お前の母ちゃんにバレてるぞ! 母ちゃんが優しいだけだからな!」
「イエエエエエ。ナイスな忠告だ。学校を休んでいる諸君は今すぐ学校に行って、給食だけ食べて帰りな!」
今日のゲストは4人だけである。
「ゲスト紹介が終わったところで、最初のコーナーに行くぜ」
司会者がそう言うと、奥から1個の携帯電話が流れてきた。司会者は携帯電話を手に取って、観客席とカメラに向かって見せつける。
「視聴者と生口論!!」
観客が両手を上げながら歓声の声を上げる。このコーナーは7年近く続いている人気コーナーだからだ。台本一切無しで司会者と視聴者が口論するという事もあり、放送事故が日常茶飯事である。
「今日の生贄を紹介するぜ!」
司会者が指を鳴らすと、モニターに一人の男子学生が映された。そう、テレビ電話である。
「こいつは俺様の番組を嫌ってるそうだ。なんでも、俺様がテレビに映るとチャンネルを変えるとか」
観客とゲスト達が手を叩いて爆笑する。
「それがどれだけ愚かな行為か教えてやるぜ!」
二人の生口論が今始まる。
「あー、もしもし。最初に名前を名乗ってくれるかな?」
「名乗る訳ないだろ。お前みたいな調子乗ってる奴に」
男子学生は眼鏡をかけて、喋り方が早口な如何にもオタクなタイプである。しかも、モニターでキャラクターの抱き枕が見切れているのだ。
「こいつは非常識な野郎だぜ。今日は学校どうした?」
「お前を論破するために学校休んだった」
学生は鼻で笑いながら答える。
「おー。学校をずる休みしてる奴がここにいるぜ。現行犯逮捕だ!」
司会者がパトカーのサイレン音を真似すると、観客たちの爆笑声が聞こえてくる。
「調子に乗るなよ。お前みたいな奴がテレビを汚してるんだからよ」
人気者に妬む者はいる。それがこの学生である。
「俺がテレビを汚してる? 視聴率の神様と呼ばれる俺様が?」
「それ自称だろ」
男子中学生は腹を抱えて笑い始める。
「おうおう。言うじゃねーか」
「お前がネットでなんと呼ばれてるか知ってるか? ゴキブリ黒光り野郎だぞ。お前を嫌ってる奴はこの世にたくさんいるんだよ。調子に乗るな!!」
男子中学生は激昂している。だが、観客たちは学生の妄言に大爆笑している。
「それ以上に、俺様を好きで好きで仕方ない連中はいるんだぜ」
「いねえよ。ネットが全て語ってるからな。ネットではお前を嫌いな連中で溢れてるし、お前を好きだと言う奴は俺が全員論破した」
男子中学生は自信満々に答えている。
「ネットネットてうるさい奴だぜ。現実世界の話しをしな!」
モニターに向かって、指を差す黒人司会者。
「現実世界ではお前を好きな奴が大勢いるから話が合わないんだよ。現実世界の奴はお前の印象操作で洗脳されてるから」
テレビでブラックジョークを吐く司会者が、印象操作をしているというのだ。
「俺様が印象操作だってよ。イヤッハー! こいつはイカレてやがるぜ」
「なんとでも言え。お前の悪巧みは全てお見通しだ」
「たとえば?」
「お前は枕営業している」
「誰が言った?」
「ネットの皆が言ってる!!」
男子中学生は顔を真っ赤にして激昂する。
「話にならねーな。CMの時間が迫ってるから電話切るぞ」
黒人司会者が電話を切って暫くした後、『ゴキブリ司会者を論破したった』というスレッドが某巨大掲示板に立ったのだ。まだ、このコーナーには続きがあると知らずに。
番組のスタッフがスレッドを全国中継し、先程の中学生がスレッドを立てていると全国の視聴者に教えたのだ。無論、この中学生は赤っ恥を世にさらす事となった。番組の最後は『インターネットは正しく使わないと怖いぜ』という司会者の決め台詞を残して。