第九話 倒しちゃっていいよね?
裏社会があると噂される町に佇む嵩月組本部。
その中にある巨大な武道館に嵩月組頭首と次期党首候補の一人、そしてその取り巻き達(黒服)が集まっていた。
嵩月 昴
嵩月組をまとめる現頭首。
渋いダンディさを感じさせる顔で歳はとっているがその威圧感だけは歳を感じさせない。
圧倒的なカリスマと知力を用いて頭首の座を勝ち取ったとされている。
しかし、喧嘩はあまり強くなく自分の子供に託して今回の決闘を考えたという。
嵩月 拓津
嵩月 昴の息子で拓斗の弟であり頭首候補。
顔は昔拓斗に喧嘩でやられたらしく、傷を隠すためにフードをかぶっている。
表では正々堂々を語っていたがとある配下を招き入れてから様子が一変したらしい。
拓津は後ろに最近入れたという女性を侍らせ立っている。
勝った気のようでそのにやけた口をフードから晒していて気持ち悪い。
頭首が口を開く。
「拓斗はまだか?」
「あいつ、怯えちゃったんですかねぇ?」
「冗談は止めろ…」
「へいへい」
拓津は全然反省した様子が無い。
頭首はため息をついたその時、武道館の扉が開く。
そこにはまともに歩けてない拓斗とそれを支える見知らぬ女性がいた。
それを見た頭首が一瞬目を見開くがすぐ落ち着く。
「遅刻か拓斗…」
「少し妨害にあってな、捕まえたんだが中々口を割らないんで幽閉した」
「では、試合を始めようか。怪我だからといって止めはせんぞ?」
「ああ」
そういって拓斗は俺の支えから離れ、臨戦態勢に入る。
それを見た拓津はヘラヘラ笑いながら聞く。
「おいおい、その状態で勝とうって訳じゃあないよなぁ?」
「無論そのつもりだ、さっさと来い」
「はははっ……舐めてんじゃねぇぞ!!!」
そう叫び拓津が迫る。
しかし、拓斗は動かない。
拓津の蹴りが入ろうとした時、拓斗は……拓津の背後にいた。
凄い、いつの間に!?
拓津に逃げる隙も与えずに後頭部を殴る。
「なっ、どうやって!?」
そう言って倒れる拓津。意識が飛んだようだ。
「あんな大ぶりの蹴りが入るか!」
そういって拓斗は座り込んだ。
ええー、勝っちゃったよ!?
怪我してるのに…。
ちくしょう、格好いいじゃないか!!
それは置いておいて気になることがある。
「拓津さんが侍らせていたその女性…何者?」
彼女の周りには魔力が漂っている。
一般の人には無い量のだ。
「あーあ、折角の拓津洗脳作戦が台無し」
静寂を破り彼女は言った。
結構可愛い声だな、可愛いし。
彼女は拓斗に向かって指をさす。
「もう、殺しちゃおう♪」
そう言って彼女は人に出せないような速度で走る。
そうは、させるか!
俺は拓斗の前へ滑り込み彼女の道を塞ぐ。
彼女と俺の二人がお互いに睨み合う。
「あなた、死にたいの?」
「決着はついたの、あなたの出る幕はないわ」
やっと動揺から回復した黒服達が拓斗を囲む。
これで安心して戦える。
彼女は苛ついたのか魔力を爆散させる。
耳と尻尾から察するに猫又!?
「はははっ、私が猫又の末裔…天音様だとしても?」
周りの黒服達が再び驚く。
そうだよねー、人外だもんね。
初めての対人外戦かぁ、緊張するなぁ。
それより、天音さんはさっきから俺の正体に気づいていない?
俺の種類だけなのかな?気づけるの。
まあ、なら好都合だし…このまま倒してやる!
それに
「それならむしろ惹かないわ、珍しいもの」
「死んだわね、あなた」
そういって天音は俺に肉薄する。
天音のミドルキックを俺は指で抑え、蹴り返す。
痛そうにしている天音に更に一発蹴り入れる。
「あなたいったいどんな鍛え方してるの!?」
「至って普通の過ごし方してますよ♪」
平然と答える俺に天音はついにキレる。
天音の手から炎が上がり始める。
ちょっ…それ聞いてない!?
そう言う俺に天音は笑いながら
「私に本気を出させたあなたが悪いの。地獄で後悔することね」
そう言って俺に炎を投げた。
炎上する俺。
「「「「「「「姐さん!!」」」」」」」
黒服達の叫び虚しく燃えている。
あと姐さんって呼ぶな!
あーもう、半殺しにしてやる。
俺の奥からドス黒いものが這い出てきた気がした。
俺の頭の中でカチリと音がして魔力が体から爆散させる。
要するに悪魔化である。
俺の肌は薄い青色になり、服装も恥ずかしいアレになる。
ちなみに火傷はもう治って綺麗な青い肌に戻っている。ちゃんと髪の毛もね?
魔族になると回復力が異常に良くなるみたい。
炎を振り払い天音を一瞥する。
「あ、あなたその姿!?」
驚愕の表情を浮かべて動揺しているが俺にはそんな時間与えない。
「うるさい黙れ!!」
天音に対する重力を二倍にして伏せさせる。
それに寄って行き。顔を近づけ。
「天音さんがこんなことを考えなければ、私はこの姿を晒すことなんて無かったの!」
天音の右手の人差し指に力を加え、折った。
ぎゃあああああああっ
天音は泣き叫ぶが、俺はなんとも思えない。
「拓斗との出会いには感謝してるけど、不意打ちしてくれたおかげで大怪我しちゃってるじゃない…」
中指を折る。
あああああああああああっ。
泣き叫ぶ天音を俺が過度にいたぶってるのに黒服達は言葉も出せない。頭首も黙っている。
「痛いの?このくらいで泣いてるなら今まで大した奴と戦って無いのね?」
天音は動けずにただ泣くだけになっている。
ああ、イラつく!
「おまけにさっきのあれは何?私が死ぬところだったわ」
薬指を折る。
ぎゃああああああああああ。
なんでだろう?
妙に楽しい。
悪魔化の影響かな?
まあ、いっか♪
「そこで提案があるのだけど、拓津を元に戻して私につくなら許してやってもいいのよ?」
俺はニタッと笑い天音を見る。
震える天音は何も出来ずにいる。
小指を折って目を覚まさせる。
ーーっ!!!!
最早叫ぶ事が出来ないくらい疲弊している天音は全力で重力に逆らい頷く。
それを確認すると力を解く。
俺から出ていたドス黒い感情は収まっていく…
天音を見ると気絶していた。
拓斗の様子を見ないと。
俺は拓斗の元へ向かう。
黒服達は道を開けてくれた。
黒服の一人に天音の手当を頼んで拓斗の前へ。
「美香、お前…」
やっぱり驚いていた。
そうだよね、魔族だしね。
「悪かったわね、私魔族なの」
そう言って拓斗からの追放の言葉を待った。
しかし、俺は拓斗の言葉に驚かされる。
「その姿も可愛いな…」
「冗談でしょ?」
笑って返す俺に真顔で返される。
「いいや、俺の好みだね。ゲームみたいな展開は好きだ!」
あはははは!!
そういえば、ネトゲするって言ってたわ。
……うん、決めた!
俺は拓斗の前にしゃがむと顔を見つつ
「私、拓斗組に入るわ、好きにさせてもらうけど」
「そうか…歓迎する」
怪我が痛むのか、顔をしかめつつ笑う。
「あと、私のこの姿はなるべく知られないようにしてねー」
「ははっ、実はそれが目的だろ?」
そう言って笑う拓斗に釣られて私も笑う。
動揺して動けない黒服達や頭首が居たが構わず笑っていた。
こうして俺はヤクザに入った。
ちょっと、長めになりました。
バトルって思った以上に難しい…。