第五十二話 カリーナの楽しい一日
美香が戴冠を終えて晴れて魔界の王となった。だからと言って何かが変わるわけでもなく美香への扱いは特に変わらず、重要な時だけ呼び出される「ちょっと忙しい」くらいでおさまったのだった。それは嵩月組も同じだった、美香への対応は今までと変えず、騒動になったら適当に収拾するくらいだ。
あれから2日が経つが嵩月組は至って平和だった。屋敷全体の装いは正月だったが嵩月組は活動は再開し、ヤクザ稼業に精を出していた。その中でお昼頃まで眠っているヒトが居た。彼女は目を覚ますと、池の水面から浮き上がる。薄紫の髪に雫を滴らせてゆらりと顔を上げるその動作はまだ眠気を感じさせる。しかし、可愛さというよりも妖艶さが強い。彼女の格好は水着のような格好なので肌の露出が多いのだ。腰に付いている犬と相まって不思議な雰囲気を醸し出していた。
「おはようカリーナさん、よく眠れたのかな? もうお昼だよ」
カリーナが顔を上げてその赤い目で前を見ると男性が一人立っていた。彼の名前は嵩月 拓津。嵩月組の元投手候補だったが、とある事件をきっかけに頭首候補の座を辞退、今では幹部として拓斗にこき使われている。
右手のお盆にはパンやスープといった軽食が、左手には大きめのバケツが。バケツには大きめに切られた生肉が入っている。腰についている犬用なのだろう。カリーナは縁側のような所に腰をおろす。拓津も隣に腰をおろした。カリーナに右手のお盆を渡して、腰の犬にバケツの生肉を食べさせていく。手慣れたもので、落とさないように生肉を咥えさせる。
「ふふふっ、部下を使えばいいのに、あなたはよく毎日運んでくるわねー?」
「別にいいよ、俺も楽しんでる」
「相当な物好きね」
「はははっ…よく兄貴…いや、頭首に言われてる。俺から言わせれば頭首の方が物好きだな。あんなに凄い魔物の女性を引っ掛けるなんて大したもんだ」
それを聞いてカリーナは嬉しい半面、少しムッとした。
「それって私が凄くないってこと?」
「い、いや……そういう訳じゃなくて。お、俺はカリーナさんの方が好み……って何言ってるんだ俺は!?」
「ふふふっ…大胆な発言ねぇ?」
「ああもう……食べ終わったみたいだから俺は戻るぜ!」
そう言って拓津はバケツを取り、盆を受け取ると逃げるように屋敷の奥へ去っていった。それを見たカリーナは自然と笑みが溢れてしまった。
人間の形態になると頭首の部屋まで歩いて行った。扉を開けると拓斗と天音が書類に追われていた。
「カリーナか! 丁度良かった、この書類まとめるのを手伝ってくれないか?」
「え、ええ…」
拓斗にいきなり書類を渡されて、少し驚いたカリーナだがすぐにデスクに座ると、書類に目を通したのだった。カリーナは元々手伝うつもりは無かった。しかし、美香に連れられて大事を解決するにつれて嵩月組の大きさを実感したのだった。それで少しでも嵩月組のことを知ろうと手伝いうことにしたのだった。
気がつけば夕方になっていた。書類も大半が片付いたみたいで、頭首室は落ち着きを取り戻していた。天音は机に突っ伏して満身創痍のようだ。
「いきなりスマンな。今日になって去年の分が飛び出してきてな、正直危なかった…」
「ふふふっ、気をつけてくださいねぇ? では、私はここでおいとましますわぁ」
そう言ってカリーナは部屋を後にした。
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今度は地下室に来ていた。牢の扉を開けると手を鎖に繋がれ、壁にかけられている少女が強気な目でキッとカリーナを見る。髪は来た頃は艶がある綺麗な緑だったが、日に日に傷んできている。気のせいか顔には疲れも見えていた。彼女はレヴィ、支援系の魔法使いで美香が買い物に行った時に襲ってきた勇者の仲間だと聞く。カリーナはその尋問係を任されていた。美香は「この娘を徹底的に尋問して勇者の情報を割らせて。手段はいとわないわ。最悪壊してもいい」と託してきたのだった。
「今日は何かしゃべることはあるかしらぁ?」
「…魔物なんかにしゃべる事などありません! さっさと殺しなさい!」
「昨日あれだけ傷めつけたのにまだそんな口が聞けるのねぇ?」
カリーナはスキュラの格好に戻ると、腰の犬達をレヴィに向けさせて威嚇する。レヴィは一瞬怯えた表情をしていたが涙を目にためてカリーナを睨み返した。
「じゃあ、始めましょうか?」
「殴られたって、噛み付かれたって屈しないわ!」
「ふふふっ、誰がそうするって決めたの?」
「へ!?」
「今日は趣向を変えてみようかしらねぇ?」
カリーナはレヴィのスカートを捲るとその白い右足を丁寧に舐めていく。
「んんっ……何? 今度は快楽漬けなの?」
そう思い少し安心したレヴィだったが。
「今日は骨が沢山折れると思うけど、悪く思わないでねぇ? あなたが悪いのだからぁ…」
ボキッ……。
気づけばレヴィの右足があらぬ方向に曲がっていた。一瞬理解が追いつかなかったが、すぐに激痛が自体の深刻さを教えてくれる。
「ぎゃああああああああああっ!!!」
「あらあら、いい声で泣くのねぇ?」
そう言って、折れた足を人形のように弄り始める。今までにない痛みに涙が止まらない。
「私ってスキュラなのよ? 人が泣き叫ぶのって結構好きなのよ♪」
そう言って左足に犬を一匹膝に噛ませる。最初は歯が刺さる痛みが伝わってきていたがミシミシと骨が軋む音も体を伝わってき始める。
「嫌っ、止めてよぅ……。足が…足がぁ!!!」
「ダメに決まってるでしょう?」
ボキッ……
「ーーーーーーっ!!!!!」
折れた…。
頭で認識していても痛みは和らがない。目は焦点が合わずに視線があちこちに行ってしまう。
じわりと下着が濡れた。失禁したのだろう。それを見てカリーナは哂う。
「何? 痛みから失禁しちゃったの?」
レヴィの耳顔を近づけて、囁く。
「回復を使ったら痛みが引くんじゃない?」
それはレヴィにとって救いのように聞こえていた。しかし、それはカリーナの口から出た言葉…。
「ひ、ヒール……」
レヴィの足が輝き、患部を治す。しかし、それがいけなかった。
「じゃあ、もう一回♪」
ボキッ……。
「あああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
痛い、辛い、帰して、もう投げ出したい!
その気持ちから逃げたくてヒールを再び唱える。それをカリーナはへし折っていく。
3時間続いたのだろうか、ついに治す魔力が切れる。口ではヒールを唱え続けるが何も起きない。体には力が入らなくなり、頭も座っていない。その時、レヴィの髪が白くなり始める。
「あらあら、体内の魔力を使い切ったのねぇ? もう死んじゃうの?」
魔力は本来どの生物が生命活動をするために必要なものだ。それが切れるということは死を意味していた。普通は魔力を自然から供給するものだがそれにも限界がある。
「……ぃや、……にたく……なぃ……」
涙は既に枯れていた…。しかし、死への恐怖がレヴィに声を出させていた。
「死にたくないなら私に全部預けて…。あなたの勇者は死んだのよねぇ? それなら私に任せたら楽しく生きられるわよ? 私が保証するわぁ」
レヴィは首を縦に振ることしか考えられなかった。死への恐怖が使命を上回った瞬間だった。
首筋にカリーナが齧り付く。魔力が流れてくる感覚が何故か心地よかった。レヴィはそれにその感覚に任せて眠ってしまった。それが人間でいられた最後の時間とは知らずに…。
ドクッ……
眠っているレヴィの体から魔力が溢れ始めた。それに合わせて体も変化が始まる。舌が伸び始め、耳が尖る。両足は混ざり、長くなっていく。最後に鱗が生え終わると変化は止まる。どうみてもラミアだった。
「ふふふっ、あはははっ…。魔力切れの人間に魔物の魔力を与えると魔物になってしまうのね!」
色も艶やかな緑に戻ったレヴィの髪を撫でたカリーナは満足そうに部屋を出て行った。
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池まで戻ると、拓津が縁側に座っていた。
「おかえり、今日は大忙しだったみたいだな」
「ふふふっ、そうでもないわぁ。楽しかったもの」
カリーナのその笑顔はさっきまで残酷な事をしたとは思えない。拓津はそれを見ると顔が赤くなってしまう。
「そうか…。それは良かった」
照れながら笑う拓津を見るのも嫌いでは無かったが、カリーナは眠ることにした。
「ふぁぁぁ、私はそろそろ眠るわ…」
「え!? そ、そうか…。おやすみ…」
悪いことをしたような気がしなくもなかったが、遠慮なく池に潜って目を閉じるのだった。
最近カリーナの描写が少ないなと思って書いてみました。
こうして書いてみると自分が悪堕ちがどれだけ好きか認識させられます。
これからも頑張ります!




