第三十九話 百合?
あのまま連れ去られたエリは美香に手を引かれながら知らない建物の中を歩かされていた。
不安しか思い浮かばないエリは質問することしか出来ない。
「どこに向かっているの?」
「う~ん、私の国かな?」
「テキトーなのね…」
「私は深く考えない人なの」
「そう…」
軽く悪口を言ったつもりだったが、全く動じない。
とある一室にたどり着くと、エリは放り込まれた。
「シャーリー、エリちゃんのお守り頼めない?」
「クククッ、ちょうど私も会いたかったから頼まれるわ」
「じゃあ、よろしくね」
美香は去っていった。
入れ替わるようにして入ってきたのは、以前一緒に戦地を駆けた天使……だったシャーリー。
エリを対をなして讃えられていたブロンドの髪は見る影もない血の色。
純白の翼は正反対の黒に染まっていた。
「あなたが……シャーリー……?」
「ええ、そうよ。お久しぶり」
聞かされてはいたが、あまりの変貌に言葉が出なかった。
シャーリーはエリの体を舐めるように眺める。
何かに心酔したようなトロンとした目を見ていると、彼女が堕ちたということを理解させられる。
「私ほどじゃないけど、エリもかなり変わったわねー?」
「う、うるさい! 私は好きでこんな姿をしてるわけじゃないわ!!」
「あら、そうなの? その格好かなり似合ってると思うのだけど?」
「それは魔王のせい! く、唇を奪われたと思ったらこうなっちゃったの!」
「羨ましいわね、私だってまだなのに…」
「うぅーっ…」
エリはなんだか悔しくなった。
あれほどの正義感に満ちた天使が今はこんな状態になるなんて思っても見なかった。
天使をあそこまで豹変させてしまうのかと。
「エリちゃん、そんなに泣かれると困ってしまうわ」
「グスッ……、あなたをこんなにした魔王が……許せないだけ」
「勘違いさせちゃったみたいだから言うのだけど、私は自分でこうなったのよ?」
「え?」
唖然としているエリにシャーリーは堕ちた時の出来事をを話した。
元から行き過ぎた魔族への弾圧に悩んでいたこと。
正義を貫いて抗議した結果、左遷させられたこと。
そこで知り合った優しい親父が実は裏で酷いことをしていたこと。
それを知って堕天したシャーリーを美香が保護したこと。
……………
エリは信じられなかった。
今まで周りにもてはやされて浮かれていた時にシャーリーは戦っていたのだ。
じゃあ、これからどうすればいい?
シャーリーから事実を聞かされて、エリは悩んでしまう。
それを見かねたシャーリーは抱き寄せてくれる。
一度は引いた涙が溢れてきた。
「シャーリー……私はどうしたらいい……?」
その問いかけに苦笑しながら、シャーリーは現実を語る。
「そうね……とりあえず、教会には戻れないでしょうね」
その通りだった。
教会の兵士達に変わった姿を見られてしまった。
もし元に戻って帰ったとしても、ろくな扱いを受けることはない。
それならいっそ美香に従った方がマシなのではないか?
「美香はあんな性格をしているけど、全部仲間の為に動いてるの。ちょっと残酷になってるけど、私達を苦しませるようなことはしないわ」
「信じてもいいの?」
「私は美香の下僕になって後悔はしてない。もし、ここに居るなら私が守ってあげる」
「…………私、シャーリーに依存しちゃうよ?」
「クククッ、エリみたいな娘なら歓迎ね」
「よろしくお願いします」
そう言ってエリが笑った瞬間、エリの体に異変が起きる。
体中の紋様が光り始め体が疼き始めた。
「うぅっ………あぁぁっ!!!」
エリは堪らず唸る。
シャーリーは優しく抱きとめて羽で包む。
「大丈夫、今ので天使との契約が始まったみたい。クククッ、これならエリを守れそう」
「あああっ、あああああああああっ!!!」
光が収まると、鎧が変化していた。
鎧のあちこちに翼の模様が描かれていて、よりヴァルキリーらしさが出ていた。
エリはシャーリーに抱きつくと、改めて言う。
「よろしくね、シャーリー」
「こちらこそ、エリ」
それ後も美香が戻ってくるまでイチャついていた。
美香は喜んでエリを仲間に迎え入れて、シャーリーをパートナーとして引っ付けたのだった。
それから何日か過ぎて、エリとシャーリーはエンプーサ領の守備につくことになった。
二人の息の合った動きは並みの魔物では刃が立たず、付近の住民には「黒百合の守護者」として恐れられるようになる。
なぜ百合かというと、あまりに仲が良いものだから愛し合っているのではないかと言う噂が絶えないからだ。
今回のはどうだったでしょうか?
思いつくままに書いて見ましたが、中々良い出来になったと思います。




