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【改定後投稿予定】客人の選択  作者: NINO
第一章 : 客人、情熱を注ぐまで
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4.客人の回想、初めての手作り

 

 

 

 西(秋)一月目、2週目末。

 この世界での初めての行商バザール。


 私が行商のおじさんから買ったのは、日用雑貨のほかにお爺ちゃん・お婆ちゃんへのプレゼント。


 いくら客人の保護や当初の世話が義務づけられているからって、お世話になっているからには、やっぱり何かお礼しなくっちゃ! って思うわけ。


 それで何かいい物は無いかな~なんて、テントのあちこちを見て回ったんだけど。

 まだ2週間(12日)しか働いてない私の手持ちは6万グラバ! 午前中の手伝いと午後の職業訓練? の5時間くらいしか働いてないしね。時給にして1,000グラバ。これが相場なのか、神殿だからなのかは分からないけど、多分、客人補正かかってるんだろうなあ。


 とにかく、6万グラバじゃ贈り物らしい贈り物は厳しくてどうしようかなあ…って思い悩んでいたところに、目に入ったのが綺麗な色の毛糸の山だった。



「うわあ、綺麗な色ばっかり」


「おや、お嬢さん。お目が高い。この毛糸は北の神殿に近い町の特産でね。季節柄、こちらの地域も必要だろうと思って大量に仕入れてきたんだよ」


 話を聞くに、この国の北は南大陸と言えど割合気温が低い地域で、山の斜面で山羊なんかを飼育しているらしく、毛糸や染色が特産になっているらしい。


 日本からこちらに着たのは7月末だったけど、こちらで一か月半経ったってことはあちらの暦で言えば9月後半、10月にほど近いのだ。温暖な気候の南大陸中央とは言えど、確かに朝晩寒くなってきて羽織る物が一枚欲しくなってきていた。

 来月はもう西(秋)の月だしね。そう言った意味でも、毛糸は確かに需要があるだろう。


 木の箱の中に山のように積まれた毛糸はどれも発色が良くて、色の種類も多い。糸の太さも太い物から細い物まであるので、これは編み物が得意な私としては是非とも手に入れたいところ。


 価格も一玉(ひとたま)あたり平均2,000グラバで、手に入れられない価格帯ではない。それに日本で買う物よりもかなりサイズが大きいことを考えたら随分お買い得に思えた。

 既製品の物を買おうと思ったら加工料(手編みだから技術料よね)もプラスされてかなり高くなる。見本で置かれていた凝った柄のセーターの価格を聞いたら3万5千グラバだった。使った毛糸は6玉だそうな。やっぱり日本で買う物の倍は量がある。



「セーター編むなら1着あたり1万2千かあ。でも時間かかりそうだしなあ」


 お爺ちゃん二人にお婆ちゃんで3着分3万6千。悪くないけど、セーターは大袈裟かなあ。どうだろう。

 悩んで唸って、行商のおじさんにも相談したら、まずは日常で気軽に使える物にしたらどうかとアドバイスされて小物に決定。

 お三方に似合いそうな色と、自分の分も含めて10玉購入。すぐ近くに布も売っていたので、そちらも購入。計3万8千グラバお支払い。おじさんがサービスでリボンを付けてくれた。



 その後は……ちょっと自分でも反省。



 久々のお買い物ってこともあってテンションが上がっていた上に、意外な物が売ってたりで、何と手持ちのお金全部遣っちゃったんだよねえ。もちろんライオスお爺ちゃんとイルメルお婆ちゃんにお小言くらいました。ルイジールお爺ちゃんは「まあまあ、そんな時もあろうて。次からは気をつけるんじゃよ」で済んだけど。


 いやあ、いい大人なのに自制心効かなくてほんとごめんなさい、だわ(きっとこういうこともあるから神殿が客人を保護するのかも…)。


 そんなことがありつつも、毛糸を購入したからには早速編まなくては!

 午前中に農作業のお手伝いしながら図案を考え、夜の自由時間にせっせと編んで1週間で完成!

 お休みの日の日は、朝から晩まで必死に編んで仕上げたわ。


 ライオスお爺ちゃんには、神官長様だけが着るダークブルーに金糸の刺繍が入ったローブにあわせてマドンナブルーのマフラー。一色だけどミックスローゲージ柄だから、お洒落な感じだと思う。


 イルメルお婆ちゃんには、巫女長様だけが着るガーネットカラーに金糸の刺繍が入ったローブにあわせて綺麗なカメリア色のストール。細いモヘアみたいな毛糸で編んだから透かし編みにしてみた。


 ルイジールお爺ちゃんには、副神官長様だけが着るオリーブグリーンに銀糸の刺繍が入ったローブにあわせてキャラメル色とオレンジ色の糸をかけあわせたアラン模様のリバーシブルマフラー。

 実は、これが一番時間かかったんだけど、ルイジールお爺ちゃんは「儂は副神官長と言っても神官長の代理みたいなもんじゃからの。結構ヒマなんじゃ」って、そんなこと無いだろうに私の授業をたくさん見てくれたり、お菓子をくれたり話相手を一番してくれたから、他のお二人よりもちょっぴり多めに感謝の気持ちを込めてみた。


 ラッピングってほどじゃないけど、綺麗に畳んだマフラーに、行商のおじさんにサービスしてもらったリボンを巻いて。


 そしてお爺ちゃんたちのお休みの月の日(神殿は日の日は信者さんがたくさんくるからね)に、お茶の時間に渡したの。

 「いつもありがとうございます。迷い込んだのがこの神殿で良かった。これ感謝の気持ちなの」ってお礼の言葉を添えて。


 お三方もすごくビックリしてたけど、とても喜んでくれた。

 普段冷静なライオスお爺ちゃんも目尻を下げて「ありがとう。とても素敵なプレゼントだ」って何度も繰り返して。

 イルメルお婆ちゃんも目を潤ませて「もしかしてこの為にお金を遣ったの? 私にとって初めての客人があなたで本当に良かった」って感激してくれた。だけどしっかり者のイルメルお婆ちゃんらしく「だけどあなたが苦労する方が私は嫌だから、お金は計画的に遣いなさいね」と付け加えられちゃったけどね。


 そしてルイジールお爺ちゃんは…ええっと、ほんと分かりやすかった。


 お礼を言った時から丸い顔を赤らめちゃって、マフラーを取りだした時には目を潤ませちゃって、手渡しした時にはとうとう号泣しちゃって…。

 マフラーをふっくらした手で大事そうに抱えて「ありがとうのう、大事にするからの」って何度も言われて、こっちまでもらい泣きしそうになっちゃったわ。


 ルイジールお爺ちゃんって、どこか日本にいる本当のお爺ちゃんに似てるんだよね。

 意外と私ジジコンだったのね。




 + + +




 そうそう。

 この神殿で保護された時から、毎月頭にシンプルなワンピースやシャツにズボン、靴、下着、タオルといった衣類、石鹸や歯磨き塩といった日用品なんかを支給してもらっているんだけど。


 この世界の衣類、結構センス良いっていうかオシャレなのよねえ。

 ミニスカやショートパンツ、キャミソールみたいに露出の多いタイプや、奇抜な柄物は無いけれど、色とか綺麗な物が多いし、デザインも思っていた以上に豊富。しかも使いやすいし。


 お爺ちゃんやお婆ちゃんもそうだけど、神官って言うと白いローブとか黒・グレーの修道服とか連想しちゃうんだけど、発色のいいダークブルーとかガーネット、オリーブグリーンってはっきりした色合いのローブ着てるんだよね。

 その下は、オフホワイトのシャツやベージュのズボンだけど。靴も黒の皮靴や編み上げブーツだし。


 他の神官さん・巫女さんたちにいたっても、男女関係なく何かしらの役職に就いている人のローブの色はラベンダーモーブで、一般の人はココアブラウン、見習いの人はアイスグリーン…って、すんごい色とりどりなのよね(私は普段ココアブラウンを着用)。


 若い神官・巫女さんのお休みの日の私服なんかも結構オシャレだなあ~って思ったし。


 これも知識の授業で教わったけど、やっぱり客人の恩恵だそうで、結構古くから木綿・ウール・シルクと紡錘・紡績産業や繊維産業、染色産業が盛んな地域が多いんだって。

 客人がもたらした紡錘機や機織り機をさらに改造して、信奉石を使った半自動の物が出来たから大量とは言わないけどそこそこ生産出来るからみたい。


 だから行商バザールでも繊維関係の品物は種類も色も豊富に揃っていたし、割合安く買えちゃったわけなんだよね。「なるほど~」って実感したわ。


 ただ、布や糸はたくさんあっても、パターン・裁断・縫製って技術面では便利な機械っぽい物は発達してなくって、こればっかりは手作業が大部分を占めちゃうみたい。神殿の衣料品部門では、神殿での売り物の衣料品を作ったり刺繍したりする以外に、専属の講師による縫製講義もあるんだよね(うーん、ハロワみたいって思っちゃったよ)。

 中には町から商業ギルド長の推薦状を持って受講料(特別信奉料って名目で笑っちゃったよ)を払った上で受けにくる一般の人もいるみたい。


 私の場合、客人ってこともあるんだろうけど、元々、母親の影響で自分で服の型を起こしたり縫ったりが玄人レベルだったからか、売り物を作るお手伝いとか言いながら、午後遅くの2時間程だったせいもあって「好きな物作っていいよ」って言葉に甘えて、余り物の布や端切れで自分の小物を作るばっかりだったんだけどね。


 ラッキーなことに、足踏みだけどミシン(これも客人の恩恵ですよ)があるから、行商バザールの時に購入した布や編んで貯めてたレースやら余り物のボタンなんかを使って秋冬用のワンピースやスカートを2着ずつに、パジャマを作ってみた。


 ちなみにこの時起こしたパターンの内2つ、デザインを神殿に買ってもらえたんだよね。

 なんと30万グラバで!


 特許とまではいかないけど、服のパターンが増えるのはありがたいことだからって。

 賢人お三方にプレゼントしたマフラーの柄の方がよっぽど凝ってるんだけどなあ、って思ったんだけど、ニット製品は大昔から色んなデザインが生みだされているから、私のデザインも高等技術ではあるけれど、あるにはあるんだって。


 それなら服のデザインなんて幾らでも生みだされそうなのに…って首を傾げたら、町の衣料品店や個人のデザイナーのような職業の人は、それが自分の食いぶちだから、誰かにデザインやパターンを売るってことをしないんだって。まあニットなら毛糸解けば分かる人は分かるもんねえ。

 服の場合、正確なパターン技術を持ってないと、分解しても厳しいし。


 そういった意味でも、今回、神殿が買った私のデザインは、各地の神殿にも伝えられて縫製講義でパターンから教えることになるんだとか。


 町から学びに来る人もいるから30万は安くて申し訳ないんだけどって言われて恐縮しちゃったよ。

 だって私からしたら、趣味みたいなもんだし、今回売ったパターンも初心者向けの超簡単な物だったし。


 早速、神殿バンクに貯金したね(銀行があるって聞いて最初ビックリした。これまた客人の恩恵なんだってさ)。


 もちろん、お爺ちゃんたち・お婆ちゃんもすごく喜んでくれて。


 『客人の恩恵』って言うのは、正式には神殿で特許として認められるものを言うんだよね。


 だから、今回のことは本当は恩恵って言える恩恵じゃないのに「リオナさん、この世界に恩恵を授けてくれてありがとう」って言ってくれたんだ。

 なんかすごく面映ゆかったけどほんと嬉しかった。


 

 だって、私は私のままでいいってことだもんね。

 

 

 

 

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