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【改定後投稿予定】客人の選択  作者: NINO
第一章 : 客人、情熱を注ぐまで
21/23

19.客人の回想、パンへの道中は寄り道がいっぱい

 

うーん、1万字前後、ですけど、お付き合いくださいませ。

それと…気づけばお気に入り100件超え!

脳天気マイペースだけど真面目な主人公のほのぼの異世界ライフ、今後ものんびりお付き合いくださいませ!

お気に入り登録してくださる方にも、評価してくださる方にも、メッセージをくださる皆さまにも心からの感謝を。

 

 

 

 

 

 

 西 二月1週目 金の日、本日も快晴。



「うーん、今日もいい朝だわ」


 朝6時の起床はちょっと大変だけど、やりたい事や自分の為のノルマがある時って、テンション上がるんだよね。起きた時に、わくわくするって最近無かっただけにちょっと楽しい。


 身支度をして2階から降りて顔を洗いつつも、気持ちの行き先は、昨夜仕込んだリンゴ酵母液。

 早速手にして蓋を開けてもこれといって変化は無し。ま、仕込んだばっかだからね。


 空気を入れるように揺すって、油紙と蓋をしたらまた放置。

 置き場所はダイニングのキッチン側の壁を背に設置した白いミドルキャビネットの上だ。ダイニングテーブルからも近いので、ティーセットやら茶葉の入った箱やら、何かと使用頻度の高い物を収納してあるの。2日前に中古家具屋で見つけたお気に入り。


 (そう言えば、私の顔見て店長さんビクっとしてたっけ…メリア夫人の影響だろうけどなんか複雑)


 朝っぱらから思い出すのがメリア夫人の迫力ある笑顔って、結構毒されてるなあ私。そんなことを思いながら、朝食を作りにキッチンに向かう。


 今日の朝食は、麦粉と卵とミルクとハチミツで作ったパンケーキにバターを載せた物と、野菜サラダに、昨日の残りのスープ。

 サラダドレッシングは無いから、オリーブオイルと塩だけ。こちらの世界ってバターもオリーブオイルも手作りだからか、すごく濃厚で美味しいのよねえ。

 でも、ずーっとこのドレッシングだと飽きそう…。



「ドレッシングにマヨネーズ…マヨネーズ。んー、酢が必要よね。酒屋さんでワインビネガーがあるか聞けばよかったなあ」


 今日の夕方にでもまた寄ってみよう…って予定表に書いておかないとすぐ忘れそう。スカートのポケットから取り出したTo doリストに鉛筆で書き込む。


 そうそう、こっちの文房具って思った以上に豊富だし便利よ。

 筆記用具は万年筆か鉛筆。どちらも昔の『客人の恩恵』でもたらされた物。同じく紙も上質紙とまではいかないけど、それなりに色んなタイプの物が出回っていて、安価でもないけど思ったよりは買いやすい値段かな。B5サイズのノートで1冊400グラバくらい。


 ラノベや中世ファンタジー物なんかには羽ペンや羊皮紙とかの記述があるんだけど、そういった物は何百年も昔に廃れたんですってよ。とは言っても万年筆はプラスチックのカートリッジがある訳でないから墨壺にペン先を付けて…ってタイプだけどね。家でお手紙書く時なんかはそれかなあ。

 だから、ほとんどの人が普段持ち歩いて使っているのは鉛筆。元の世界の物よりちょっと太めなんだけど、使う分には問題なし。書き損じたら消しゴム…は無いからそのままだけど、みんな気にしない(パンが普及したらパンで消すようになるのかしらね? )。


 それと鉛筆はポケットに入れたりするので別売りで金属製のキャップがあるの。私もそれを使用。毎朝ナイフで削って先を尖らせたらキャップをしてポケットに入れるようになったわ。

 ポケットに入れる物と言えば、ハンカチかティッシュが定番だったのに、所変わればってやつよねえ。


 朝食が終わったら、お茶を飲んだ後、洗い物にお掃除にランチのお弁当作り。


 お弁当とは言え、昨日の夕食と同じくチキンの入ったピタパンサンドなんだけどね。全部同じは飽きるから、違う物も作ってみた。


 一つは、茹でたじゃがいもを潰して、水につけて苦みを抜いた玉葱の薄いスライスと茹で卵を混ぜてオリーブオイルと塩・胡椒で味付けしたものを、ピタパンサイズに千切ったレタスと一緒にパンの中にイン。ピタサンドの中がポテサラもどきだから、ピタポテサラサンドって笑っちゃう名前を付けてみたわ。

 もう一つは、厚めのイチョウ切りにしたリンゴをバターとハチミツとで煮た物を詰めたスイーツ代わりのピタサンド。


 雑貨屋さんで買っておいたお弁当用の籠に厚手のハンカチと油紙を敷いてそこに入れれば「うん、十分立派なお弁当」よね。各2個ずつ入って全部で6個。食べ過ぎかしら…? まあいっか。


 作った余りはもちろん今夜のおかずの一部。しっかり冷庫にしまって、今度こそ本当の“ランチトート”を持って出勤だわ。




 + + +




「おはようございます」


「おはよう…って、リオナちゃん。早いのね。そう言えば今日からカーテン作りだったかしら?」


 工房の扉を開けると、引き戸に合わせてカランカランとドアベルの音が鳴る。

 中に入れば、既に出勤していたらしいマーサ副主任が作業台の上に紙を広げてハサミを入れているところだった。


 壁に掛かった時計の針は8時を指している。



「はい。それもあるんですけど、ちょっとお家で使う日用品を作りたくって…10時になったら仕事始めるので、それまでミシン借りても構いませんか?」


「いいわよ。ちゃんと元通りにしてくれるなら…って昨日も言ったわね。自分の始業時間までは好きに使って」


「ありがとうございます!」


 返事をしつつ荷物を棚に置いて、パミス商会の倉庫に向かう(隣だけどね)。

 パミス商会は各地にある支店と商品や生地のやり取りをしていることもあって、プリムラよりも朝は早い。8時には半数の従業員が出勤しているのよ。早番・遅番って決めてるみたいだけど。


 そしてパミス商会の倉庫には、大量の生地やボタン・レースといった素材がストックされていて、記録帳を使って管理している担当の従業員がいる。その人に言えば、使ってもいい物いけない物が分かり、欲しい分だけ従業員割引で購入出来るのよ。

 倉庫の入り口は、パミス商会とは逆側。つまりプリムラの工房と同じく南1番通りに面している。

 初出勤日は挨拶も兼ねて、メリア夫人と一緒に来たけど、それ以来だわ。


 今日早くに私が来たのは、自分の物(家の物ね)を作るため。

 メリア夫人には許可を得ていたんだけど、私物を作るなら、朝早い時間か夕方以降と思って様子を見てたの。だってさすがに初出勤からしばらくは早出(はやで)も居残りも何となく失礼かと思うじゃない?

 そう思っていたら、昨日の午前中、メリア夫人が工房に様子を見に来た時に「そう言えば~リオナちゃんはカーテン作ったの~?」って聞いてきたことから、周りのメンバーが「そんなことなら早く言えばいいのに!」って、始業前と終業後に工房の道具を使っていいことになったのよ。


 (あれは絶対確信犯だ。ありがたいワザとだったけど…)


 まあ、昨日は朝から「パン」のことが気になっててそれどころじゃなかったのもあるし、これからしばらくも夕方以降は買い物があるから、早朝だけにすることにしたんだけどね。



「おはようございまーす」


「おはよう。や、君か。今日も生地選び? 何作るんだい?」


 ドアを開ければ、パミス商会の従業員さんが一人ノートを手に積まれた生地の前に立っていた。

 この人は、カーテン生地を選びに来た時に挨拶して以来、気軽に声をかけてくれるセルジュさん。茶髪・茶目の優しそうなお兄さんって感じなんだけど、私より年下の25歳。とは言え、高等学校卒業後、16からパミス商会で働き始めて9年、商品管理部門に勤めているベテランさんなんだよね。

 仕事柄、しょっちゅうプリムラの工房と倉庫を行き来してる。ヴィヴィアン曰く、勤勉な性格でバルド氏の覚えもよく、サカイからの移動組の一人。


 同じく移動組であるプレス担当のカロルに長い片思いなんだとか。おおー、職場恋愛(片思いだけど)かあ。うまくいくといいねえ。そんな情報を仕入れたからか、セルジュさんを見るとついニマニマしちゃうね。いかんいかん。



「おはようございます。今日は買い物に使う大き目のバッグに、お家で使う室内履きとか、エプロンとかミトン、キッチンで使う物ですかね」


「へぇ、また面白い物作るんだねえ」


「そうですか?」


 どうも、私が作る物は一風変わっているみたいで面白いらしい。

 前に来た時もカーテンやベッドカバー、シーツまでは理解できたけど、大き目の物入れを作るって言ったら「布で物入れ?」って首を傾げられたのよね。その時一緒にいたメリア夫人もだけど。

 まあ、日用品店や雑貨屋に行けば竹や藤で編んだ籠が豊富に売ってあるから、それでもいいんだけど、せっかくの蔦ハウスだから自分の好きなデザインの物で飾りたいって思ったのよね。

 そう思っての物入れ発言だったんだけど、彼らにするとあまり一般的でなかったみたい。


 それと言うのも、プリムラのメンバーが布を買うのは自分や家族の服の分くらいで、私みたいに50センチとか1メートルといった少ない単位で布を買ったりはしないそうな。


 その時も「中に芯を挟んでリバーシブルで作れば結構しっかりした籠になるんですよ」と説明すれば、「へぇ、見てみたいな」とは倉庫係のセルジュさん。「作ったら見せてね」とはメリア夫人。

 まあ、その時は「わかりました」と応えたものの、実際に作るのは今日からなんだけどね。あはは。


 何せ、カーテンにしても―― 普通新居に越したら真っ先にカーテン! って言うのが元の世界でも一般的だったんだけど、蔦ハウスって両隣が建物だから窓は玄関側と2階の通り側しかなくて、あまり不自由しなかったっていう実情もあるのよね。

 ベッドのシーツは寝具屋さんがサービスしてくれたし(メリア夫人がつけさせたとも言うけど…)。


 いろいろ世間話をしながら、大量の生地を目の前に手にしてたり確認したり質問して、欲しい分だけカット。前々から思っていたけど、この世界の紡績・織物ってレベルが高くて、元の世界とそう変わらないレベルの物が豊富にあるのよね。目移りして困っちゃうわ。

 まあ、国内どころか今や他国の王都にも支店を構えるパミス商会の生地倉庫だから…っていうのが一番大きい理由なんだろうけど。まさか国の僻地とも言える場所にある町に、王都並みの種類と数の生地が管理されているなんて誰も思いもしないわよね。


 だからって訳じゃないけど、たくさんの色んな生地や素材を見てたらもうテンションが上がっちゃって…軟らかい革もゲット出来て良かった! と思うものの、気付けばカウンターの上には本当に山のような大量な布と素材。

 しめて6千グラバのお買い物。従業員割引(ほぼ8割引き)なのに…うーん、材料だけ買って物を作らなかったらただの買い物依存症になっちゃうわ。コツコツ作らなきゃ。


 そうこうしていたら時間は9時近くに。


 慌てて購入した布を抱えて工房に戻ってみれば、ほとんどのメンバーが出勤していた。マーサ副主任から話を聞いていたのか「おはよう」とともに「今日からお家の物作りなんですって?」「何かあったら手伝うわよ」と声を掛けられた。

 ミシンの前に座っていたヴィヴィアンも「隣空いてるわよ。ミシン必要な時は使うといいわ」と。うーん、ほんといい職場だ。


 私も作業台の前に立ってなんやかんやと後回しにしていたカーテンから作成開始。この世界の一般家庭のカーテンレールって金属の棒に小さなピンチのついた輪っかを通すタイプだから、カーテンフックとか考えなくていいのが楽。窓のサイズに切って端をまっすぐ縫うだけだもの。アイロンもかけさせてもらって1時間もあれば完成。次はお昼にエコバッグかなあ。


 そしてお昼。

 カーテンのミシン掛けの時に、隣のヴィヴィアンに今日はお弁当を持ってきたからと伝えると、「わかったわ。じゃあ誰かと出かけてくる」とあっさり回答。この辺、ヴィヴィアンって付き合いやすいんだよねえ。女子特有の何でもどこでも一緒! って言うのが無いの。

 無理にこちらに合わせて「じゃあ私もお昼買ってくる」とかも無いし。


 プリムラの休憩室でお昼を食べるお弁当組は、日によって違うらしいけど大体5人くらい。意外と少ないよね。いくらクガタチと言えど、中央エリアで外食すれば少なくとも600グラバは財布からとんでいく。リアルな話、クガタチの就労者の月収入平均は14万って言うから、結構な出費よね。

 クガタチでも給与レベルが最高ランクになるプリムラの従業員じゃなきゃ、気軽に外ランチってならないだろうなあ…。まあ、そういう人で町のお店ももってるんだろうけど。


 プリムラの休憩室は広くてゆっくり出来る食堂って感じ。マーサ副主任はいつもお弁当っていうのは知ってたけど、他の人はまだあんまり接したことのない人もいてお喋りできて楽しかった。

 私が作ったピタサンドはしっかり注目を浴びたみたいで、おかず交換会みたいにはならなかったけど、みんな興味津々で「どうやって作るの?」と質問が。味付け方法とか話してたら「ちょっと待って!」といきなり言われてビックリしたら、全員がスカートやエプロンのポケットからメモと鉛筆を取り出すんだから、思わず笑っちゃったわ。


 そしてお約束なのが、お昼から帰ってきたヴィヴィアンがその話を聞いて「ズルイ! 私も食べたい!」とゴネだした。何がズルいのかはよくわかんないけど、早速、明日の休日前の夜に我が家でディナーって話になっちゃったわ。


 いろいろやることあるんだけどなあ、と思ったけど、友達付き合いも大事だしね。一応「結構いろいろやりたいことあるからうちに来ても放ったらかしになっちゃうかも」って言ったんだけど「気にしないし、手伝えることは手伝うわ」って返事だったからまあいっか。

 うーん、そうなると明日の朝とお昼休みは室内履きを早々に2足は完成させないとよね。


 そんな会話となる前に、お昼を急いで食べ終えた後、お買い物バッグ<エコバッグ>の作成。


 今回選んだのは帆布。厚くもなく薄くもなく、そこそこの軽さと頑丈さを第一にね。帆布なのに紺地に白と黄色と赤の細いストライプが入った物があったのでそれをチョイス。

 どうも売れ残った物みたいで、セルジュさんに喜ばれちゃったわ。ほとんどタダ同然だったもの。


 それを140cmの長さに切って、長方形の布を両端を合わせるように二つ折りに。それを今度は縦に半分に折って直裁(じかだ)ち。「わ」になった方を持ち手にするように切るの。

 形は持ち手を長くしたレジ袋を垂直に半分にした感じって言えばわかるかしら? エコバッグってレジ袋から発生したような物だから持ち手の長さは個人の自由だけど、形はレジ袋を真似ると楽なのよ。

 そして持ち手を底じゃなくて「わ」の方にする理由は、こうすると持ち手を別に作ったりする必要も無いし、縫う量も手間も少ないから。それに持ち手が別だと重い物入れても取れたりしないしね。


 後は本当に簡単。端という端をすべて伏せ縫いした後に、底と脇を縫い合わせてるだけ。私はトートと同じく底の端をつまんで三角の形にした底辺を縫って12センチほどのマチを作ったけど、作らなくてもOK。

 薄い布で作ったバッグなら裏布つけた方がいいんだけど、帆布だし、それにエコバッグだしねえ…。バッグの予備なんだから無駄に豪勢にすることないわよね。

 最後に切り取った部分で細長い紐を作って、輪っか状態にして丸い大き目のボタン1個と一緒に付けてみた。エコバッグらしく丸めた時にグルリと巻いてボタンで止められるようにね。

 30分ほどで<お手製エコバッグ>が完成。


 「よし完成」そう言った私に、即反応を見せたのはヴィヴィアン。



「見せて見せて~…ってかわいいけど、なんか変わったバッグね」


「お買い物用バッグだからね」


「そうなの?」


「うん、これをこうして丸めて…この輪っかになった紐でボタンに留めれば、ほら。普段使ってるバッグに入れられるでしょう?」


「おお~、これは便利かも」


「でしょ? これなら急な買い物で大きな物買っても入れられるし」


 実際に見せていると、近くにいたマーサ副主任から「確かに便利そうね。帆布だとしっかりしてるし裏布が要らないのは作る側も楽だわ」との声が。



「そうなんです。予備用と思えばそんなに立派なバッグは要らないし。昨日、食料品店往復するハメになっちゃって、その時に思いついたんです」


「あら? メリッサさん、いらっしゃらなかったのかしら?」


「メリッサさん? ああ、女性の店長さん…でしたっけ?」


 そう言えば、昨日の食料品店はマーサ副主任オススメの店だった。

 なるほど、店長さんはメリッサさんと言うのね。



「そう、彼女なら、女の子がたくさん荷物買ったら手押し車貸すか店員に運ばせることくらいするはずなんだけど」


「残念ながらいらっしゃらなくて。お店にいたのは若い男性でしたよ」


「まあ、じゃあ最近入ったっていう人かしら。じゃあリオナちゃん大変だったのね」


「あはは、大丈夫ですよ。私はまだ早アガりが出来て家と店を往復しても十分時間があったので。それに最後の買い物では酒屋でワイン樽買ったら、お店のおじさんに手押し車で一緒に運んでもらっちゃいましたから」


 食料品店の買い物じゃないけどね。

 まあ嘘は吐いてないのでいいでしょ。せっかくお店を教えてもらったのに変に気遣われると悪いしね。



「それに。今度からこんなこの買い物バッグがありますから! どんなに買っても大丈夫です!」


 胸を張るようにして言えばヴィヴィアンから「持って歩くのが大変になりそうだけどね」ってツッコミが。「それは言わない約束」と即返したら工房から「いいコンビねえ」と笑いが…いやいや、夫婦漫才じゃないんだから。


 そんな夫婦漫才もどきをよそに、いつの間にか私のエコバッグを手にしたリシェル主任とマーサ副主任が、真面目な会話。



「これなら、売れ残った布も有効活用できそうね」


「プリムラじゃ厳しいけど、商会の方で売るのはアリかもねえ」


 …と。おおう、商売熱心な。

 って言うか、それちょう(・・・)手抜きのバッグなんですけど…。


 私がそう思うも、この会話から予測できるように、一応パターンを作って出せと言われて、午後は型紙作成と試作品と銘打った自分たち用を作らされる羽目に。

 午後の就業3時間で作ったエコバッグの数10個!! おかげでお昼休みに作った物以外も形を多少アレンジしたエコバッグを3つも持って帰ることが出来たけど…なんかちょっと複雑だわ。


 来週あたり、メリア夫人とバルド氏に揃って呼び出されそうな気がするのよねえ…。

 またあの(・・)話し合いかなあ。


 (正直言って、ちょっと面倒なんだけどなあ……)




 + + +




 そして今日も夕方4時にアガって、早速エコバッグ1号(お昼に作ったやつよ)に工房で増えた荷物を入れて町を散策しつつお目当ての酒屋さんへ向かう。そう、昨日、白ワインを買ったお店ね。


 夕方4時だと昼間ほどの賑わいは無いけれど、そこそこ人はいて、お店の軒先から「安いよ、安いよ~!」「ほら今日はもうすぐ店じまいだから今なら3割引きだ!」「ほらほら寄った寄った~」なんて威勢のいい掛け声も聞こえてくる。


 クガタチの中央エリアにあるお店は、朝8時か9時にオープンで、クローズは大体夕方4時か5時。中央から外れるほど店じまいの時間は早くなるんだとか。クガタチで一番の客層である主婦たちは午前中かお昼過ぎくらいに買い物を済ませるそう。

 人口の半分以上の人が外の麦農園か、畑仕事、森での狩りや林業、山のオリーブ畑やブドウ園で労働といった第一次産業的な仕事に就いてるから、そういったお家の女性は早朝から家事をした後、家族を仕事に送り出してから買い物に出るか、午前中手伝いをした後に午後イチで買い物に出たりするかが通常で、夜暗くなってから買い物に出かけるなんてことはないからなんだって。


 だから昨日みたいに8時くらいまでやっているお店と言うのは、顧客層が中央エリアでフルタイムで働いている人や、東北ブロックの歓楽街だとか温泉宿の酒場に品物を卸しているお店だったりするみたい。


 一応、「基本のお休みはブロックごとに違うよ」ってリシェル主任が教えてくれたんだけど、日の日は公共施設の多い西北エリア、月の日は歓楽街のある東北エリア、火の日は東南エリア、水の日はプリムラもある西南エリア…だったかな。今日は金の日だから、どこかのエリアのお店が閉まっていることもないのよね。


 ただ、人が集まる中央エリアのお店はこの日といった定休日が無いのよね。参詣客や観光客が多いから、飲食店や従業員の多いお店なんかだと年中無休が多いみたいだし、個人で経営しているお店だと平日に周囲のお店とぶつからないようにお休みにしているらしいのよ。


 (うーん、田舎町、田舎町って連呼してるど、労働環境とか結構都会と同じよねえ。)


 そんなことを考えながら歩いて5分。酒屋さんに到着。



「おや、嬢ちゃん。昨日はどうもな」


「こんにちは。トマスさん。こちらこそ昨日はありがとうございました」


 店に入ったら、すぐに昨日のおじさん―― トマスさんが声をかけてくれた。



「おお、俺なんかの名前を覚えてくれてるなんざ、ありがたいねえ。今日は何をお探しだい? まさか、昨日の今日で酒が空になったとか言うんじゃあるめぇな」


「あはは、まさか。そこまで大酒飲みじゃないですよ…たぶん」


「うわはは、こりゃ近い内に詰め替えがありそうだ。で? 話がズレちまって悪ぃな。今日は何だい?」


「いえいえ。ええっとですね。ワインビネガー…ってありますか?」


 この酒屋の店主というトマスさんは、気さくでちょっとがらっぱちって感じのおじさん。短髪ゴマ塩頭に体も大きくて、エプロンしてなければ工事現場の親方って感じ。古くからクガタチに住んでいて、20年前の区画整理がスタートした時に、早々にこの土地を買って酒屋を開いたっていう、意外にやり手なおじさんなんだとか。


 ここの他にも酒屋は酒場を兼業したお店が2軒ほどあるらしいんだけど、町のほとんどの大口(宿とか酒場ね)は、このトマスさんのお店で一手に引き受けてるんだって。まあパミス家御用達酒屋っていうくらいだものね。

 そのせいか、お店の中には、ずらりと並んだ酒樽があって、棚にはガラスのボトルに入った高級そうな蒸留酒なんかも置いてあるんだよねえ。だから、ワインビネガーも期待してたりするんだけど…。



「ワインビネガーか…あるにはあるが、ちぃと切らしちまっててな。嬢ちゃんがいるってんならサカイから取寄せるが1週間は待ってもらうことになるなあ」


「そうなんですか。ちなみに、ワインビネガーって高いんですか?」


「いや、そうでもねぇぜ。こんくらいの瓶で千グラバってぇとこだ」


 そう言って棚から出したのは500mlサイズの陶製の瓶。

 おお、そのサイズで千グラバならぜひ! だわ。って言うか、ワインビネガー、あるのね。よかった~、無かったらリンゴ酵母液から酢を作るつもりではいたんだけど、既製品であるならあるにこしたことはないわ。



「それくらいのお値段ならぜひ! 待ちますので取寄せでお願いします。白なら1リットルは欲しいです!」


「いいぜ。白も赤も扱ってるが、うちじゃあ白の方が出るんで問題無ぇわ。ちょうどパミス家や温泉街の高級宿あたりもそろそろ必要な頃だしな」


「よかった! でも、パミス家や宿って…この町の人はあまり使わないんですか? ワインビネガー」


「ああ、ありゃあ、あんまり出るもんでもないんでな。どうにも料理法がよく分からなくってなあ」


「そうなんですか? 私は、サラダのドレッシングとかで結構使いますけど…」


「へぇ、サラダのドレッシングかい。そういや王都やでかい都市のレストランじゃドレッシングに使ってるって聞いたことがあんな。そりゃ、簡単に出来るのかい?」


「ええ、オリーブオイルと塩と胡椒があれば、すごく簡単ですよ」


 そう言うと、トマスさんが太い腕を組んで「簡単か…」と呟いて考えこみ始めた。


 なるほど。サラダドレッシングのレシピって広まってないのかあ。

 道理でクガタチのカフェで出るサラダにかかっているのが、オリーブと塩だったわけね。


 神殿だとちゃんとドレッシングがかかってたんだけどなあ…って、あれ? なんだ、悩まなくても酢はあったってことね。あはは、今頃思い出しちゃったよ。


 自分の間抜けさ加減にちょっと笑ってたら、大きな手で顎をこすりながらトマスさんがおずおずと声をかけてくる。



「うーむ、…なあ嬢ちゃん」


「はい、いいですよ。作り方ですね」


 あっさり言えば、トマスさんは目を丸くした後、首をかいて恥ずかしそうに「なんでぇ、俺の考えは嬢ちゃんにはお見通しだったってぇ訳か。嬢ちゃんも人が悪ぃなあ」とボヤく。



「あはは、すみません。もしかして、って思ってただけです」


「そうかぃ、まあ教えてくれるってんなら、ありがてぇ話だ。ほんとにいいのかい?」


「はい。それでワインビネガーの需要が増えて、いつでもここで買えるようになったら私もありがたいですから」


「ほう、嬢ちゃん見かけによらず、賢いんだなあ」


「見かけによらずって…まあいいですけど。じゃあ、1週間後にでもお店に寄るので、その時にでも実演してみましょうか?」


「わはは、口が悪いのは愛敬だと思ってくれや。でもよろしく頼むわ。ちょいと多目に仕入れとくからよ」


 うーん、また18そこそこの子供と思われたっぽいわ。

 どうも私はこちらだと成人を迎えたばかりくらいに見えるらしく、話すと驚かれることが結構あるのよねえ。

 プリムラのメンバーにも年齢を言ったら驚かれたし。リシェル主任にも「道理で物をよく知ってると思ったし、何より技術力が成人迎えたくらいの子が持つレベルじゃないと思ったのよ」とやたら納得されたし。


 ええ、ええ、知識はともかく技術に関してはチートでも何でもないんです。私も子供の頃から針と糸が遊び道具でしたから。



 ああ、でも、ワインビネガーが手に入れば!!

 ドレッシングにマヨネーズ…蔦ハウスでの食事情が一気に前進だわ!!



「じゃあまた来ます!」


 酒屋を後に家に向かう私の足取りは、とても軽かった。

 

 

 


 

次回投稿は明日(3/25)8時を予定。

ちょっとパン話からズレるので、出来れば連続投稿したいと思ってます。ダメだったらごめんなさい。

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