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【改定後投稿予定】客人の選択  作者: NINO
第一章 : 客人、情熱を注ぐまで
20/23

18.客人の回想、パンへの道のり

 

 

 

「ごちそうさまでした!」


 ピタサンドもスープもすべて完食。

 食後に温かいお茶を飲んだら、ふはー、なんて息が零れた。


 妙齢の女がどうなのそれ? と思わなくもないけど、飲んでいるのが神殿医療院の特製ハーブティーっていう、絶妙のブレンドのお茶なんだもの。すっごく落ち着くのよ。

 食欲が満たされ、気持ちが満たされ…ってなると、なんかダラっとしたくなるじゃない?


 いや、ここで満足して今日を終わったら意味無いのでこれから頑張るけどね。

 お茶を飲みつつ目線はテーブルの上の工程表。お行儀悪いけどゴハン食べつつ書いたのだ。


【パンが完成するまで】

・酵母液完成まで(5~6日):西二月1週目木の日夜~2週目火の日夜完成(予定)

・パン種作成(3日):2週目水の朝~金の日夕方

 「発酵・4時間→冷庫で休・6~12時間→常温に戻・1時間→継足す」を3回繰り返す

・パン生地作成:2週目金の夜、パン種使って発酵

・パンを焼く:2週目土の朝

 ※場合によっては酵母液作成に1日プラス


【 あいまにやること、確認すること 】

・家計簿をつけ始める(ノート購入)

・買い物用の大き目バッグ作成(トートかエコバッグ)

・カーテン作成(通り側の寝室)

・スリッパ作成(パミス商会倉庫で確認、生地購入、革があればバブーシュ)

・エプロン、ミトン作成(スリッパに同じ)

・中古ミシン(プリムラで相談)

・粉屋さんの位置を教えてもらう(プリムラで聞く)

・牧場と町、どっちがミルクは安い?(プリムラで聞く)

・乾燥パスタはどこで買えるか(プリムラで聞く)

・砂糖(優先順位低)


【 作り置きたい物:スープ下地や一品 】

・トマトソース

・カッテージチーズ

・クリームソース

・ピタパン生地

・パイ生地

・リンゴジャム(ハチミツ使用)



「……うーん、私、今まで勢いだけで生活してきたけど、リストアップするとこんなにもやることあるのねえ…」


 思わずポツリと零したけど、ほんと、やることは結構ある。他にもしないといけないことやした方が良さそうなことはたくさんありそうな気はするけど……まあ追々(おいおい)だよね…。

 あ、もうすぐ【感謝祭】だし、お礼する人もリストアップしなきゃだわ。


 西二月目の3週目が終わると4日間の【感謝祭】。

 【感謝祭】は毎年、西(秋)の季節に、グラナバス神にその年の恵みをもたらされたこと・健やかに生かされていることを感謝するお祭り。そして周囲の人に日ごろの感謝を改めて伝え合う期間でもあるそうな。


 私も感謝する人はたくさんいるけれど、特にあげれば第一に神殿のライオスお爺ちゃん・イルメルお婆ちゃん・ルイジールお爺ちゃんだ。そして、パミス夫妻。あとはヴィヴィアン。

 ヴィヴィアンは会ったばかりだけど、私が無駄にマイナス思考に陥りそうになった時にシンプルな言葉で一番大事なことに気づかせてもらって、本当に嬉しく思ってる。もう私にとっては大事な友達。


 そんな大事な人たちがいるこの世界の『客人』に私を選んでくれたグラナバス神にも感謝してるよ。


 だけどね。



「異世界来たからこその大感謝オンパレードだわ。でもなあ……」


 一番の感謝すべき人は、この世界にはいない。

 感謝をする相手を思い浮かべていったら、最後に現れたのはいつもの笑みを浮かべた母親、だったんだよねえ。


 この世界に来たからこそ、やっと気づくことが出来た。

 今の私がいるのは母のおかげだと。




 + + +




 前々から度々母のことは語っているけれど、私の母って、超人気売れっ子料理研究家なんだよね。

 メリア夫人と張るほど超天然だけど…。


 母は、父と結婚する前―― 独身時代から何でもかんでも手作りをする物作り大好き人間で、本人にナチュラル志向って意識はないんだろうけど、日用品や衣類はおろか、特に食品に関しては酵母どころか、味噌も醤油も塩も砂糖も作るような人なのよ。


 脚本家の父と出会って2年の交際後に結婚。24歳で第一子である兄を出産。1児の母になるも結婚前と変わらず、まめまめしくいろんな物を作っては、ママ友達や父の友人・知人にふるまってたの。

 その内、出版社に勤めている父の友人から本を出さないかって提案されて、私が生まれる頃に初の料理本を出版、妹・弟が生まれる頃にはオーガニック料理研究家として第一線で活躍していた。当然、今も進行形で。


 10年前には、機械に強い現代っ子の弟が母のブログを作ることを条件にパソコンを買ってもらったんだけど、実際に作ったブログが口コミであっという間に大流行り。母はますます各方面から声をかけられる売れっ子に。マクロビなんかも知られ始めた頃だったしね。


 母自身のことを言うならば、結構美人で穏やかな性格な上にお料理上手なかわいいママって感じかな。なかなかにあちらの世界の神様は二物以上を母に与えたようだけど、それはそれでやっぱりと言うかオチもあって、どうにもこうにも天然さんなんだよね。


 例えば自画自賛ってつもりじゃないって言うのは知ってるけど、新しい料理や時間のかかる物を「大丈夫! わたしって出来る子だから!」とか言いながら作ってたり、母の納得いく物が出来ると「美味しい(上出来)! わたしって天才!」とか叫んでたり…、(はた)で聞いてると、ちょーっとアイタタタなセリフが彼女の口癖だったりする。

 本人は自慢とかそういうつもりは全然なくって、自分を叱咤激励しているセリフってことみたい。だから何十年も母と付き合ってる私たち子供はみんな慣れちゃってるけど、子供の頃に我が家に遊びに来た友達なんかには「リオナちゃんのママって変わってるね。面白いけど…」とか言われてたなあ。


 その上、愛妻家で知られる父が「美音子(みねこ)(母の名ね)は可愛い上に料理上手だ。愛してるよ」と恥ずかしいセリフを真面目な顔して毎日のように言うもんだから、母の天然っぷりはますますひどくなっているのよね。


 二つ上の兄や三つ下の弟・妹(双子)、私を含めて兄弟妹(きょうだい)全員、子供の頃からバカップル(天然夫婦)を見て育ったからね。何て言うの? 両親のことは好きだし仲もいいけど、子供の前でも「夫婦である前に恋人」って感じ全開だと、子供はどん引くのを乗り超えてすごく冷静というか…基本的に冷めた性格になるんだよね。


 ほんとパミス夫妻のやり取り見た時は「異世界来てまで、このカオス(ピンクワールド)~~~!?」って本気で泣きそうになったわよ。


 まあとにかく。


 そんな超天然さんな母だけど、作る料理は他のプロが唸るほど美味しい上に手間はかかっても簡単でシンプル・分かりやすい物が多いからか、開く料理教室は予約でいっぱいな超人気料理研究家ってわけ。

 ブログで掲載しているちょっとした日用品とか衣類の作り方を無料で公開しているのも人気の秘訣だと思うけど。


 だけど、母が本当に凄いのはそういう対外的な部分ではなくて、母が『最も大事にしていることは、夫である父や子供である私たちとの時間だ』と憚りなく口にし、仕事やお金よりも家族を優先させる実行力なんだと思う。


 どんなに忙しい時でも家族の時間は削らない、どんなにお金になる仕事を持ちかけられても負担が家族の時間になるなら受けない、そう徹底してた。「お金になるなら受ければいいのに」そう言う私に母は言った。



『そうねえ。もし我が家が大黒柱のパパがいなくて経済的に不自由な状態だったら、ママは家族の時間を犠牲にしてでも働くわ。でも、うちはありがたいことにパパのお給料でやりくり出来るんだもの。分不相応に欲張っても失敗するだけなのよ。それにママのやっていることは、時間がかかっても丁寧に根気よく頑張れば誰にでも出来ること。家族を想ってする家事の延長だから、これ以上仕事を受けたら、ママは今度は手抜きをするようになっちゃうわ』


 家の中が見渡せるようにと作られたオープンキッチンで私や兄妹弟(きょうだい)たちのお弁当のおかず作りをしながら話していた母が、箸を動かす手を止めて顔を上げて私の顔を見た後、視線を移していく。


 ダイニングテーブルにはカフェオレを飲む私、学校の宿題をする妹、すぐ近くのリビングではゲームをする兄、ソファには何だか難しい工学関係の本を読む弟。


 みんな個々に部屋を持っていると言うのに、気付けばここにいるのだ。何のかんの言って、私たち子供は両親が好きで家が好きなのだ。それを解っているかのように、ニッコリと笑う母はいつもの答えを口にする。



『自分の家族を幸せな笑顔に出来ないようなら、幸せな物作りは出来ないのよ~』


 今思えば、私たちは本当に贅沢な子供だったんだろう。


 家族に純粋な愛情を注いでくれる母が丹精込めて作るたくさんの物を、私たちは当たり前のように受け取っていたのだから。母の気持ちに「嬉しい」と感じ、母を「好き」とは思っているけれど、「ありがとう」って言葉は気軽な気持ちでしか言ってなかった。

 だから……私たち兄妹弟(きょうだい)の誰一人として母と同じ物作りの道に進もうという気持ちを持たなかった。


 両親の愛情も、その形も、いつだって望めば与えてもらえる物だと思いこんでいた。


 この世界に来るまで。


 だからね。


 この世界で私が服を作ったり、保湿ローションを作ったり、そしてこれから「パン」を作るにあたっても…こういう知識や技術があるのはすべて母のおかげであり愛情なんだってやっと気づけた。

 この世界に無い物を生み出す『恩恵』を授けてくれたのは、母だ。

 だから、母は私にとっての『客人』なんだ…って思ったら、今まで感じたこともない母への感謝の気持ちが湧いてきたのよね。


 もうすぐ27にもなるのに、この状況になって初めて気づいたあたり、子供として情けないっていうか申し訳なさも感じてるし、素直に言うのもちょっと恥ずかしいんだけどさ。


 だけど、ほんと。



『人は誰でも、一人で何でも出来るし一人でも生きていける。だけど一人じゃ寂しいし喜びも分かち合えないわ。物作りってね、幸せを分かち合える幸せなのよ』


 母のそんな言葉を、この世界で「今、実感」している。



 ほんとのことだね、ママ。感謝してます。


 日本に還ったら、必ず心からのお礼をするからね。




 + + +




 西 二月1週目 金の日、時刻は夜9時。


 蔦ハウスでの初めての自作料理も完食(我ながら美味しかった…)!

 簡単なメモ書きレベルだけど、パン作りの工程表も作成。


 母への感謝をしたところで、早速、美味しい物へのスタートよ。


 キッチンにて作るのは「リンゴ酵母液」。

 パンを膨らませるために必要な「イースト」の一つね。


 用意したのは、リンゴに水、煮沸消毒した(かめ)、ハチミツ。

 本当はね。ここに「砂糖」が欲しいところなんだけど…残念ながら食料品店では砂糖を扱ってなかったのよ。

 リンゴ酵母や人参酵母を作る時って、砂糖があった方が完成度は高いんだよね。特にリンゴの蜜(糖分)が少なそうな時とかね。ラムレーズン酵母なんかだと、元々ブドウの甘みが強いから、砂糖がなくてもいいんだけど、この世界で手っ取り早く作るには、リンゴ酵母が一番シンプルだと思ったわけ。


 それで、食料品店でリンゴは購入した訳なんだけど…。



「え? 砂糖って無いんですか?」


「いやー、無いってわけじゃないんですけどね。でも…」


 食料品店で砂糖が見当たらなくて聞いてみたところ。


 砂糖はこの南大陸の南国の南神殿(南だらけ!)に20年前に現れた『客人』によってもたらされた最近の『恩恵』なんだとか。

 その客人は、サトウキビからの砂糖の製法を伝えたらしく、今や砂糖は南国の特産品。だけど、まだまだ大量生産出来るほどでもなくて高級品だというの。この辺で買おうと思うとせめてサカイ辺りの商会じゃないと取り扱ってなくて、しかもお値段何と、1キロ5万円もするんですってよ!


 「砂糖ください」って言ったら、最初「はあ?」みたいな顔されちゃったけど、それじゃあ納得よね。


 だから今回の酵母は、砂糖の代用品としてハチミツを使用。

 ハチミツは結構一般的に出回っていて、手頃な値段で買える甘味。砂糖の方がハチミツより高級嗜好品って、私からしたらすんごく不思議よ。まあ、元の世界でも大昔は砂糖も金と同様の価値があったって言われてたらしいから、この世界では今がまさしくそんな感じなのね。


 そして思い出したのが、神殿の養蜂場。私はそこには足を運んでないんだけど、神殿で出されたおやつで、麦粉を水やミルクで溶いた物を焼いた物(クレープね)にオレンジのハチミツ漬けをかけた物とか、バターとハチミツたっぷりのキャラメルを、お爺ちゃんたちと食べたことがあるわ。


 他にも――― 。



「あれ? なんか…今の今まで気にしてなかったんだけど」


 リンゴを切りながら、不意にルイジールお爺ちゃんの顔を思い出した。その手にキャンディを持ったニコニコ顔のお爺ちゃんを…。



「うわ、お爺ちゃんがくれた“普通のキャンディ”って実は高級品だったとか? …だよねえ、きっと」


 どんだけ私のこと好きなんだ? ルイジールお爺ちゃん。

 「これをやろう」って包み紙に入った丸い飴玉をふくふくした手から渡してくれたお爺ちゃんの、あまりのジジバカっぷりの真実に、思わず脱力しそうになる。いや、ほんとに嬉しいんだけどね。


 うーん、感謝祭には神殿に参詣するつもりだし、その時にでも何かプレゼントしよう。となると、To do(やること)リストに、お爺ちゃんたちへのプレゼントも項目追加だなあ。感謝祭、忙しいだろうけど会えるかしら? 来月の「体験修行」の準備で忙しいはずだけど……。


 ま、今それを心配してもしょうがない。とりあえず自分に出来ることをしないとね。そう思いつつも、砂糖が凄く高価という現実は、今後のことを考えるとかなり痛い。自分でもサトウキビがあれば砂糖も作れるけれど、現状では厳しそうだしねえ。

 それにあの(・・)母ですら、砂糖はお取り寄せで買うくらい作るのが面倒なのだ。


 とりあえずしばらくはハチミツが砂糖代わりだなあ、って言うかそれでやってみるしかないわよねえ。


 …と、そんなことを考えつつ作業を進めてリンゴ酵母液の仕込み完成。


 まあ、リンゴを皮ごと適当な細さに切って甕に詰め込めるだけ詰めて水とハチミツいれるだけって作業だしね。ほんと簡単。


 元の世界なら100均で買うスクリューキャップやツイストキャップの広口ガラス瓶で出来るけど、こっちでは白い陶製の甕だからねえ…一番不安なのは密封性なのよね。

 何せ酵母が出来る過程っていうのは、容器の中で酸素がない環境に強い乳酸菌が増えていくってことだから。その過程で雑菌は無くなっていくんだけど、この雑菌が無くならずにいると酸っぱくなって失敗なのよね。だから密閉は大切。

 工房で分けてもらった油紙を挟んでしっかり蓋をしたから、一応は容器と蓋の隙間はほとんどないはず…陶製だけに結構重い蓋だしね。こればっかりはうまくいくことを祈るしかないわね、うん。


 置く場所はキッチンの出窓って決めてるけどどうしよう?

 季節は西(秋)の二月目はじめ、元の世界で言えば10月半ば。結構寒いのよねえ。我が家は、キッチンとリビング・ダイニングにストーブを1台ずつ置いてるんだけど、いくら寒がりの私でも常にストーブを稼働させているのは後者だけなのよね。さすがに食べ物置いてるキッチンだと、調理する時しか使わないわ。


 …となると、ほとんど24時間室温が24度くらいで保たれてるダイニングの方がいいのかも。


 ちなみに、酵母液を仕込んだ甕は失敗した時のことも考えて二つ。たぶん大丈夫だと思うんだけど念のため。まあどっちも失敗したら目も当てられないんだけどね。

 どっちも成功したら、一つは他の物を作ってもいいかも。確か、ママが酵母からいろいろ作ってた気がする。ま、何にせよあとは時間の経過を大人しく待つのみね。

 

 今日はお風呂に入ってもう寝よう。明日の朝は早いからね。

 明日から大忙しだわ。うん、頑張ろう。



 おやすみなさーい。




--- --- ---



< リンゴ酵母液 レシピ >

・リンゴ 適量(今回2個使用)

・水 リンゴがかぶるくらいの量

・ハチミツ大さじ6~8(果実100gに対して大さじ1~2)

※リンゴの甘さが強い場合はハチミツは少なくても可


1.保存容器となる物(甕)を煮沸消毒して乾かす。

2.水を沸かして冷ます(生水はおすすめしないわ)。

3.リンゴは洗って、ヘタだけ取って皮は剥かず、芯もそのままで細くカット(くし切りが容器に詰めやすいかな)。

4.3を容器の中に入れる甕の中に放り込む。果実100gに対して大さじ1~2のハチミツを投入。

5.2の水甕の縁まで目いっぱい入れて蓋をする。

6.暖かい場所において放置(約5日)。

7.一日1回、蓋を開けて空気を入れるように揺すったら蓋をして放置。

8.3日目に蓋を開けた時にアルコール臭がしていれば、まず第1段階成。

9.下記【目安】を参考に、様子を見ながら7を続ける。

10.完成したら清潔な布巾などで濾して容器に保存(リンゴもしっかり搾る)。

【目安】

丸1日:水が濁り始める。丸2日目:小さな気泡が発生、リンゴジュースのような香り。丸3日目:蓋を開けたら勢いよく泡が出る、アルコール臭、丸4日目:泡の勢いが少しおさまる、リンゴが茶色くなり始める、瓶の底に澱が溜まる。丸5日目:泡の勢いがかなりおさまる、リンゴを噛んだらスカスカする。

※暑い時期だと3~4日で完成することもある。リンゴや水の状態で6~7日かかることもある。

※酸っぱい匂いだけになったら失敗

 

 

 

 

 

次回投稿は、明後日(3/24)の予定。

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