15.客人の回想、マイホーム
まさかの9千字超え…後悔はしてません!
パミス家メイドさん曰く。
クガタチの町は牧場や草原、オリーブ畑や山を除いた、建築物が連なる町そのものだけで言えば面積は25K㎡もないらしい。つまり町の端から端まで4, 5キロくらいの距離の小さな町だということ。
そんな小さな町だけど、発展レベルは国全体で見ても割と高いらしく、町は緩やかだけど確実に拡大していっているのだとか。20年前は人口2千人だったことを聞いて感心したわ。
南神殿のお膝元ということもあって、町は時間をかけつつも区画整備にも力を入れるようにしていて、その成果がプリムラのある中央エリアの賑わいになって現われている。
今の町長が中心となって進めた区画整備が始まったのは20年前。クガタチの発展は緑と共に中心から! という彼のランドスケープを理念に、中央広場(ロータリー広場のことね)を中心としてメインロード(街道)に垂直に交差するように作られたクガタチストリートに続き、そのクガタチストリートに並行して馬車も通れる幅の道が南北それぞれ5番通りまで作られた。
そうやって区画整理された町の中央エリア周辺が繁華街で、そこを外れた場所のほとんどが町に住む人たちの住宅ゾーン。
ちなみにクガタチストリートから1番通り、1番通りから2番通りまでと、5番通りまでの間隔はそれぞれ42メートル(つまりプリムラは店舗から工房までそれだけの奥行きがあるってことよね…)。
中央広場から東西にそれぞれ2キロくらいの距離には色んな建物が並んでる。途中々々100メートル置きに通り道が敷かれているから、繁華街は本当に分かりやすいの。
元の世界で分かりやすく例えると京都の繁華街みたいに長方形の区画の町とか、かなあ。
プリムラの工房玄関を行き先としたら、「中央広場から南に向かい、南1番通りを西に向かって折れて50メートル進んだら右手に工房の看板があるわよ」って説明できるのよ。
とは言え、それは5番街くらいまでで、そこから外側になるほど曲がりくねった道やら、いきなり斜めに入る細い路地なんかも多くなるんだけどね。町長も、昔ながらの町並みを壊すつもりはなく、人が働ける場所を増やしたくて中央エリアにいろんなものを集中させたんだって。
神殿でも教わったけど、メイドさんはこのお屋敷に来るまでは町に住んで働いていた人だけに、生の町の人の声って感じで、話にいろんな逸話も混じって面白かったわ。
当然、繁華街はそのエリアによって特徴もあって、中央広場から見て西北にあるブロックは町役場や学校、公共施設、町神殿に医療院、商工ギルドといったオフィシャルなイメージのある施設が建つエリアになっている。
中央広場から見て東北のブロックは歓楽街、西南のブロックはプリムラをはじめ衣料品や日用品を取り扱う商店や商会、カフェといった商店街エリア。
東南のブロックは広場寄りは西南と同じく商店街エリアで土産物屋や商店が目立つけど、山寄りになるにつれ温泉宿がひしめいているエリア。
ただしそういったお店が多いのもそれぞれ南北には2番通りくらいまでで(だって田舎町だもの)、3番通りあたりからは、中央エリアに店舗を持っている人の住宅や、役場関係の宿舎、こじゃれたアパートメントなんかが多くなっていくらしいの。
まあ一等地に近いエリアだから結構な賃料みたい。アパートメントのワンルームで4万から、らしいわ。
ちなみにパミス夫妻のお屋敷とも言える豪邸は、西側、草原や牧場の方にあるのよね。
クガタチの高級住宅地ってクガタチストリートの東側、温泉宿街からちょっと南寄りに入ったあたりなのよ。王都の貴族の別荘地が建ち並んでいるエリアでもあるらしいの。温泉あるからね。
だからどうしてそことは逆の西側なのか聞いたら「温泉宿街の逆サイドの北側は歓楽街だし~、人も多くて騒がしいのは嫌だもの~。温泉ならひけばいいだけよう」ですって。さすが超セレブ、発言が違います。
…と、話はかなりそれちゃったけど。
私がもし住むとしたら、良くて5番街ギリギリあたりかなあ? なんて思ってたんだよね。
パミス夫妻の屋敷のサロンで私がしていたのは、ただお茶を飲んでいただけじゃない。メイドさんに話し相手になってもらって、こうやって町のことや賃貸住宅の相場を教えてもらったりしてたのよ。
それなのに、メリア夫人が紹介してくれたこの蔦ハウス。
まさかのクガタチロードから3本目の「南3番通り」、しかもメインストリートから100メートルほど入ったあたりっていう好立地。おまけに玄関ホール・納戸・リビングダイニング・キッチン・トイレ・バスルーム・書斎・部屋2つ・物干し場・庭―――。
うわあー、絶対家賃高いよ! どうしよう! 住む気満々なのに、まさかの家賃でNG!?
メイドさんワンルームで4万からって言ってたよ!!
やっぱり超セレブに任せたのは間違いだったのか!? なんて本気で焦ってたんだけど、物干し場のど真ん中で様子のおかしい私に気づいたメリア夫人が「リオナちゃん、どうしたの?」と顔を覗き込んできた。
「メリア夫人~~~っ」
「っ、ど、どうしたの~?」
「家賃がっ! 家賃が! ワンルームは4万からって!! 私、このお家の家賃払えないかもです~~~」
マジ泣きしそうです。
+ + +
「うふっ、うふふ~。リオナちゃんったらかわいかったわあ。家賃が払えないって泣きそうなんだもの~」
「…………」
「ママを信用してほしいわあ~。リオナちゃんの支度金とうちのお給金考えてのお家探しなんだから、家賃は大丈夫に決まってるでしょ~。」
「……ゴメンナサイ」
「謝らなくてもいいのよう。初めての町で不安になるのは当然よ~。それに、もし払えないならママが出してあげるから大丈夫よう。うふふ~、ママが探したお家、そんなに気に入ってくれたのねえ~。嬉しいわあ。蔦ハウスなんてうまい言い方するのねえ~。ママ感心しちゃったわあ。うふふ。バルドにも今日のリオナちゃんのキラキラした目のこととか、泣きそうな顔とかセリフとか教えてあげなきゃあ」
「ホントニカンベンシテクダサイ」
ほんとに、ほんとに―――。
――― 本気で泣きかけたあの時の無様な私(黒歴史)を、お願いですから記憶から消去してください。
超セレブなマダムデザイナーの経済観念はしっかりしていました。
あの蔦ハウス。
南3番通り、メインストリートから100メートルという好立地にあの間取り――― 。
――― にも関わらず、家賃月に銀貨6枚(6万)と破格の安さでした……。
それを聞いた後は「住みます~。絶対この蔦ハウスに住みます~」ってメリア夫人に飛びつくようにして言ったら、夫人、一瞬驚いたものの大爆笑。
「リオナちゃん。お家は逃げませんよ~」
って、ひぃひぃ笑われながら言われちゃったよ……ああ、黒歴史がまた一つ。
私はスーパーで「買って~買って~」と床に転がって欲しい物ねだる子供かっ!
その後、夫人に同行していただいて、持ち主(マダム・シリル、これまた上品なご婦人だった)との交渉・契約もあっさり完了。前金もしっかりお支払い済み!
契約書の入居日は明日からだけど、月末だから今日からどうぞ、ですって。やったね。
本来なら借りる時に保証金――元の世界で言う敷金・礼金とか契約料みたいなもの――が四か月分は必要なんだそうだけど、メリア夫人と神殿の口利きで一か月分で済んだから、かなり支度金余っちゃった。うーん、必要な物買って余ったら貯金しておこ。
しかし、やっぱり不思議なんだよね。蔦ハウスの立地と家賃。
メリア夫人の紹介ということを入れても、随分と安すぎるんじゃないかと首を傾げたら、確かに場所を考えると少し安いけどクガタチ全体で考えたら平均なんだって答えが返ってきた。
そう言えば、メイドさんも生活水準は高くないから下手するとワンルームの方が割高って言ってたの忘れてたよ……。
でもまさか一戸建ての方が割安だなんて、ねえ?
蔦ハウスは、持ち主であるマダム・シリルの長男夫婦が2人で住んでいた物で、数年前に建てたばかり。ところが、役所勤めの長男がサカイに栄転になったので、空いて1年以上になるとか。
長男夫婦は最低でもあと5年は帰ってこないだろうし、帰ってきたら帰ってきたで子供(孫)も増えているだろうから、あの家には住まないだろうってことを考えると頭が痛かったとか。
「あんないい場所で?」
「そうなの…ちょっと建てる時に息子とお嫁さんの意見を取り入れ過ぎたかしらねえ…」
契約書にサインをした後、お茶を飲みながら蔦ハウスについて質問していたら、住居者が決まった喜びからか、マダム・シリルがベラベラとお話してくれた。
曰く、
―― 長男の奥さんが料理好きで、お金をかけて好きなようにキッチンやバスルームを作らせたけど、設備費がかかり過ぎる(まあ、中級信奉石使う物多そうだったしね)。
―― クガタチの生活水準からすると、裕福な夫婦2人だけで住むにはなかなかに贅沢な造りだけど、子供が2人以上いると狭過ぎるし賃料が張る(せめて玄関ホール無しで部屋数を増やせば良かった、らしい)。
―― 庭を作るくらいならそのスペースを建物にすれば良かったのにどうしてあの間取りにしちゃったのか(そうすれば9万の賃料でも人は入るらしい。道理で両隣りは庭がなかったわけだ)。
って感じでなかなか借り手がつかなかったらしい。
その上、彼女はメリア夫人の王都時代からの常連客ということからも、そこそこの階級の方ってことになる。そうなると家を貸すとしても、保証人もいない人や、ルームシェアは当然お断り。
そうやって条件が付けば付くほど入居希望者はいなくなり、とは言え、家を空きっ放しも嫌で、以前からメリア夫人にも相談していたらしい。
そこで私が登場。
神殿出身者と言うこの上ない身元が明確な人間(『客人』と言う必要は無いらしい)で、おまけにパミス商会の従業員。保証人もバルド氏が引き受けてくれて万々歳だわ! と喜び全開のマダム・シリル。
なるほど、私としても予算は8万くらいまで、って思っていたので、すごくラッキーでした。
前に、地方に住んでいる親戚の家に遊びに行ったら同じ感じの一戸建てで8万の家賃だったんだよね。東京のワンルームの家賃と同じだよ! 東京なら月にウン十万だよ! ってビックリしたことがあるのよ。それでも、あの間取りと立地に惑わされて東京感覚になってたけどね…。
メリア夫人が思い出したのかクスって笑った。ああ、もう~~~お願い、忘れて~~。
しかし、クガタチってどれだけ田舎なんだろう…こんなに発展してるのに。不思議だ…。
って言うか、プリムラやパミス商会のお給料が良過ぎるんだろうなあ…。今さら再認識しちゃったよ。
そうそう、私プリムラじゃなくて、雇用はパミス商会なんだよね。その方が、どこの商会にも通用するのは分かっているんだけど、なんだかパミス夫妻の思惑が……ま、何かあったらその時で考えればいいわよね。
ちょっぴり思うところはあれど、そして黒歴史は作られど、こうしてクガタチに到着した翌日午前中で家が決まってしまったのはほんとラッキーでした。
おまけに、正式に鍵をいただいてランチを食べてから蔦ハウスに向かったら、パミス家で見かけたメイドさんが何人か掃除道具やら何やらを持って家の前で待機していた。お掃除道具を持ってきてくれたのかと感動していたら、相手はもっと上手で、なんと既にお掃除が終わってた。
マダム・シリルとの契約の間、私が気づかない内にマダムから鍵をお借りしたメリア夫人がお付きのメイドに指示をしていたらしい。恐るべし行動力と気遣いだわ。
「お帰りなさいませ、奥様、お嬢様」
蔦ハウスの玄関先で並んだ4人のメイド。
いやいや、お帰りなさいって、私の家だから。って言うかお嬢様じゃないから。って言うか、ここにメイドさん4人も並んでたらどこのご令嬢かと勘違いされちゃうよ~~。
お掃除はありがたいけど、メイドさんのセリフに脱力しつつ家の中に入ったら、隅から隅まで綺麗になってた。いや、元々綺麗なままだったんだけど、1年も無人だった分、埃とかがね。
おまけに、納戸には一か月分の薪が入っていると言う。使うか分からないけど、夫妻の屋敷にたくさんあるものなのでどうぞ、ですって。
その後はランチの時に「どこに何を置くか」で盛り上がっていた会話の内容をしっかり覚えていたメリア夫人に引きつられ、近くの中古家具店に。
メリア夫人って意外と…って言うと失礼なのかもだけど、超セレブな生活様式や格好と違って、やっぱり商売人というかお金に対して堅実なところがあるんだよね。蔦ハウスの家賃もそうだったけど、まさかの中古家具店だもん。
「たまにのぞくけど、そのお店中古だけど趣味のいい家具ばかり扱うのよ~」
「へぇ、メリア夫人が中古家具買うんですか?」
「ええ、そういう時もあるわ~。掘り出し物があったりする時もあるし~、いろんな物のいろんなデザイン見ていると創作意欲が湧くのよねえ」
「なるほど」
「うふふ、リオナちゃんと一緒にお買い物嬉しいわあ。ママ頑張って値切るから~」
「あははー…」
メリア夫人の口から値切るって言葉にビックリだよ。
って言うか、ちょっとまけてもらっても「嬉しい~」って言いそうだよねえ。
そんな会話をしつつ、イロイロ思いつつ、歩いて南2番通りの東側に入ってすぐの所にある中古家具店へ。
確かに夫人のオススメだけあって、趣味のいい家具が多く、中古だけどちゃんと手入れされているのが見て取れた。
そこでは使い勝手のよさそうなダイニングテーブル、書き物テーブル、椅子、姿見、ラグなんかを購入。食器棚とか料理用の頑丈なテーブルとか、結構大きい物は、元々蔦ハウス作り付けされているんだよね。棚も階段下に作られてたし…助かるわ~。
なので、そういった作り付け以外で必要な家具を…ってことだったんだけど、一気に買うのは止めて、生活するにあたって最低限必要な物から揃えることにした。
近くなのと、メイドさんが待機してくれているってことで、購入後すぐに持って行ってくれることになった。ありがたや。
お会計の時には、確かに夫人が値切ってくれた。
結構イイ感じで値切れているのを見てすごいさすが商売人! って感心したけど、店主らしき男性がだんだん泣きそうな顔をしているのを見て、もしかしなくても値切り過ぎらしいって気づいた(だっていつの間にか16万が10万に!)けど、夫人の背中が何故か怖くて何も言えず。
ちょっとマケてもらうどころじゃなかった……。
(ごめんなさい、今度また私一人で買いに来ます。)
魂が抜けたような店主さんに心の中で合掌しつつ、次のちょっと高級な家具屋…って言うよりインテリアショップに。何が買いたいかって、ソファだ。こればっかりは中古だと質が悪いし、新品を購入となると注文制になるとかで少々お高くなるらしいんだけど、外せない。
「私がお昼寝出来そうな幅も奥行きもあって、適度にふかふかなのが欲しいんです!」
だってゴロゴロしたいもの。
このお店の店主さんに希望を伝えて見積を聞こうとしたら、私の前にまたもやメリア夫人が。
超絶イイ笑顔で立っていて、店主さんに向かって口を開く。
「この子ねえ、私の大事な娘のような子なのよう。これからうちで働き始める新人さんなの~。初めてのお勤めなの~…あなたも応援してくれるわよねえ~? さっきお隣のあなたの弟さんも頑張ってくれたわあ~」
メリア夫人、それは脅は…いえ、なんでもありません。
って言うか、兄弟揃って夫人の餌じ…いえ、なんでもありません。夫人の背中から伝わる何かが私にまで迫ってます。
そして、新品注文のソファ12万が何故か7万に。しかもサイドテーブルまでサービス…。
嬉しいけど、再び魂が抜けたような店主さんに心の中で合掌。
(ごめんなさい、ごめんなさいっ! 私を恨まないでっ!)
「ふう~いいお買い物が出来たわね~。ママ頑張れたかしらあ?」
ドヤ顔で立派な胸を張る夫人。
あそこまで頑張らなくても良かったような…とは思うものの「ありがとうございます」と感謝を口にすれば、すごく照れて「ママ嬉しいわ~。娘と一緒にお買物できて」って。いや、照れる様子はすごいかわいいんですけどね。値切ってくれるのもありがたいんですけどね。
いかんせんやり過ぎなような、なんと言うか…うーーん。考えるのよそう。
思うところは多々あれど、主に私の心の平和を保つためにもイロイロスルーで。
次は、その家具屋から近い鍛冶屋と言う名の荒物屋で鍋やフライパンなど調理器具、カトラリーを購入。長い剣とか盾とか武器が置いてあって「おお! ファンタジー!」って驚きと感動もちょっとはしたんだけど、本当にちょっと。
何せ、剣の側にたくさんの鍋が置いてあるからね……。
生活に使う物が9割を占めてて、もう荒物屋でいいんじゃ…とか思ったよ。
その次は日用品を扱っている商店で、陶器類やタオル類を購入。ガラス製品は無いのか尋ねたら、町外れのガラス工房に行けと言われた。今度行ってみよう。
生地屋もあって、ちょっと覗いたけどスルー。メリア夫人がいるのもあるけど、生地なら従業員割引でパミス商会で買った方が安いもんね。夫人に「何か欲しい生地でもあるの~?」と聞かれて「カーテン作ろうと思って。パミス商会で選ぶつもりですけどね。朝早く来て作ってもいいですか?」と返答しつつ確認したら…。
「まぁあ~、リオナちゃんウチで買うだなんていい子ねえ。ママがちゃーんとあのお家に似合うカーテン生地選んであげるわあ。ママが作ってあげましょうか~?」
「イイデス。自分で作ります」
どこをどうして、不思議ママスイッチが入るのかイマイチわからない。
それに生地選びはともかく、夫人にカーテン作ってもらったら、超お高そうなレースとかくっつきそうだもの。
寝具店では枕とお布団のみ購入。ベッドに関しては、パミス夫妻のお屋敷にある予備をいただくことに。最初は、何でもかんでもお屋敷から家具も持って行きなさい~って勢いだったんだけど、断固拒否させていただきました。あんな超高級家具いただけません。
って言うか、ノスタルジックな蔦ハウスに、宮殿にありそうな金ぴかの姫家具似合いません!
でも、ベッドもソファと同じく注文制で時間がかかると言われてしまい「客室の予備ベッド持って行きなさい!」ってお言葉に甘えたんだよね(ちょっと脅迫まがいだったと思う…)。
そんなこんなで夕方5時には蔦ハウス、人が住める環境になりました!!
ほとんどメリア夫人と執事さん、メイドさん達のおかげだけどね。
改めて感謝したらメリア夫人に言われたの。
「リオナちゃん、朝言ってたでしょう? 『私もプリムラの従業員になるから、区別はつけたい』って。あのセリフねえ、うちの娘にも昔言われたのよ~」
「そうだったんですか」
「そうなの~。その時にね、私もバルドも学んだの~。親として子供の独り立ちは寂しいけど、お互いの信頼の証でもあるって。親が言うのもなんだけど、うちの子供達は他の場所で今を頑張ってるわあ。だから私たち親は子供が帰ってこられる家で待ちながら見守ればいいんだって思うようになったのよ~。でもやっぱり寂しくなってたのねえ。リオナちゃんの朝の言葉に久々に気づかされたわあ」
「そんな、メリア夫人が気遣ってくださって私本当に幸せだと思ってます! 娘だって言ってくださるのだって、恥ずかしいけど嬉しいですよ? きっとお子さんたちもそう思ってると思います」
「うふふ、ありがとう。私もねえ、朝のリオナちゃんの言葉を聞いて、ああ、やっぱりうちの子はみんな素晴らしい頑張り屋さんなんだ! そんな子供を持てて幸せだって思うことができたのよ~。だから私にもリオナちゃんにお礼を言わせてね~。ありがとう~。一人暮らしは大変なこともあると思うけど頑張ってね~」
「……はいっ」
優しく微笑むメリア夫人に、母親の面影が重なって涙腺が緩みそうになった。
夫人の後ろに控えているメイドさんたちも嬉しそうだったり感激して泣きそうだったり…。
感動のシーンってこういうことを言うのね、って思った――― んだけど。
「でもリオナちゃんは、近くに住んでるからいつでもママの所に戻ってきていいのようっ! 今度は近くに娘がいて職場も一緒だし、ママ嬉しいわあ~~。でも、今日はお家に帰りましょうねえ~。ストーブも無いお家は寒いもの~。初出勤日に風邪でもひいてたら大変よ~」
「…………」
「さ、あなた達も帰るわよ。今日は御苦労さま~」
「はい! 奥様!」
「お嬢様のお着替えはご用意しております!」
「屋敷にも夕食を準備させております!」
「奥様、お嬢様、馬車にいつでもどうぞ!」
「…………」
メリア夫人はやっぱりメリア夫人だった。
私の理想のマイホームとなったのはとっても素敵な「蔦ハウス」。
今日からここが私の我が家!
こんな素敵な我が家なら! こんな素敵な人たちがいる世界なら! どんな状況でも頑張りますよ~~。
って決意も感動も虚しく、私のマイホーム初日は初出勤日と同日になったのである。
道理で、メリア夫人、オーブンや冷庫を扱うお店はスルーした訳だよ……。
『あれ? 今のお店、冷庫売ってたような』
『ああ、あのお店。そうね、冷庫も必要だけど取り急ぎ無くてもいい物は次回にしましょう』
『はあ。(……まあすぐ必要じゃないけど。どんな物があるか見たかったなあ)』
『リオナちゃん、あっちのお店の食器はデザインが豊富なのよう~(ストーブは見させないわあ~)』
当然メリア夫人の作戦です。
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どうしてマイホーム話が2話にもなったのか、私にも謎です。
ただ書いてたら、メリア夫人とのやり取りが楽しくなってしまった…。
次回投稿は明後日(3/20)9時の予定。




