9.客人の回想、まさかの独り立ち?
前回と同じく、話が長くなったので分割した後半を投稿。
ようやく状況が進展…かな?
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3/14、後半に文章追加。感謝祭のこと忘れてましたー(><)
それにあわせて、暦表記も修正。
「え? 町に? まだ実地研修にも行ってないって言うのにいきなり本番!?」
ライオスお爺ちゃんに連れられて神官長室の扉を開けると、そこにはいつものようにイルメールお婆ちゃんとルイジールお爺ちゃんがいた。二人とも総務部門で見たライオスお爺ちゃんと同じような表情で…。
そうして席に着いて切りだされたのが、町行きの話だった。
「うむ…そうなんじゃ。リオナさんには申し訳ないんじゃが、来月後半、この神殿は随分と忙しい状況になりそうでの。みな、そちらに集中することになることもあって、三人で話し合って、リオナさんの町行きを早めようということになったんじゃ」
「私たちも急な話でどうしようかと思ったんだけど…本当に腹立たしいわ! これから忙しくなる時って言うのに! あの人たちったら融通が利かない人たちばっかりなんだから!」
「まったく迷惑な話じゃ。うちからリオナをこんなに早く出す羽目になるとは…儂は…儂は嫌じゃっ! 儂はまだ賛成しとらんぞ!」
状況を困ったように説明するのはライオスお爺ちゃん。
誰かに怒っているかのように文句を言うのはイルメルお婆ちゃん。
この事態に怒ると言うよりも、ショックでずっとプルプルして癇癪を起こしているのはルイジールお爺ちゃん(よく分かんないけど、儂は嫌じゃって…それじゃあ嫁に出すことを渋るお爺ちゃんだよ)。つついたら喚いて泣きだしそうだ。
うーん、ちょっとカオスな感じ。一体何が?
+ + +
「えーっと。町行きは三か月目の研修後だったと思うんですが…」
「うむ、確かに経理部門や総務部門でのリオナさんの研修も予定されていたんじゃが…どうにも急な予定変更を余儀なくする羽目になった依頼が王都経由で来てしもうてのう」
「王都経由…」
ということはどうやら国の中枢からの依頼らしく、断れない案件ということだ。
それじゃあ仕方ないよね、そう思いつつ話を聞いてみれば…。
各国では、毎年一度、北(冬)の一月目に、北か南どちらかの代表格神殿または王都の中央神殿で、貴族や富裕層の子息・息女たちによる徳と経験を積むための「一月神殿奉仕」なるものが一か月ちかくにわたって開かれるんですって。例えるなら寺の体験修行合宿ね。
これは三年に一度の持ち回りで、南神殿は一昨年担当した為、本来なら来年の予定だったそうなんだけど、今月の頭くらいから今年担当の北神殿に仕える神官たちの間でひどい風邪が流行ってしまい、そんな場所に子供たちを送れないと各所から非難の声が続出。
当然、開催が取り止めとなった北神殿は来年以降連続で担当する約束で今回の分を他神殿に依頼することになった。
ではどこにするか、となった時に、去年この行事を受け持った王都の中央神殿は、2年連続は嫌だとゴネた。そうすると消去法で残るのは、この南神殿だけだ。断りたくとも例年の行事をさすがに取りやめる訳にはいかない。それで、渋々引き受けたのが今朝の話なんだとか…(道理でここ数日のお爺ちゃんたち忙しそうだと思ったよ)。
イルメルお婆ちゃんが誰かに文句を言ってるかのように怒ってたのも、中央神殿に対してらしい。「去年やったんなら、多少は去年の教本や備品も残ってるだろうし、今年もやんなさいよ! 」らしい。
なんとなく怒っている気持ちは分からなくもない。
だって来月って3週目の後に4日間【感謝祭】があるんだよねえ…。
こっちの暦って、何月何日って数え方しないからね。一月=5週間=35日×10か月で350日。
それに追加する年間15~16日を四大祭に振り分けるのは神殿の星暦部門の仕事らしいんだけど、今年は西二月目3週目と4週目の間に4日間だったかな。
その【感謝祭】4日間が終わって、次の日から西二月目4週目が始まるんだよ。ちょっとわかりにくいんだけどね。
その4日分時間が出来た! とかならいいんだけど【感謝祭】って、主神グラナバスへ感謝と敬愛を捧げるお祭りだからねえ……当然、神殿は忙しいに決まってるんだよ。超鄙びた神殿でも、由緒ある代表格神殿。ここって普段から意外と参詣者多いのよね。それがさらに増える時期になるわけだから…そりゃ、いきなり大イベント組み込まれたらたまったもんじゃないわよねえ。
だって、体験修行を引き受けることになったのはしょうがないかもだけど、実際に、体験修行のスタートは、北(冬)一月目初日なんだもの。この為に来月末、【感謝祭】が終わってから王都や地方都市の貴族や富裕層の子息・息女たちが一斉にやって来るとかで、これからその準備に追われてとてもじゃないが私の相手は出来ないんだそうだ。
それどころか、神殿全体で準備に取りかかる為、各部門での研修そのものが厳しいんだとか。
「じゃあ、そのお手伝いをします」と言えば、お爺ちゃんたちは揃って困った顔をした。思わず首を傾げると「あまりこういうことは耳に入れたくないんじゃがのう」と言いながら言葉を続けた。
この毎年の行事でもある神殿奉仕、聞けば、貴族の子息・息女たちの「ぷちお見合い」の場でもあるのだとか。
もちろん一か月という間だけでも真剣に神に仕えたいという気持ちでいる者の学びの場でもあるんだけど、大半は、夜会で見知り合った十代の若者たちが北二月目(早い話が1月ね)の【成人祭】が行われる前に、神に仕える奉仕の場で祈ることで徳を積み、内面を磨き、神殿内の各部門で見習いとして働くことによって社会のマナーを学ぶことを第一の目的として、同じ場所で生活をする中で気の合った、もしくは優秀な伴侶を見つくろうことも目的の一つとした、通過儀礼のようなイベントでもあるそうな(集団見合いかよ、と突っ込みそうになったのは言うまでもない)。
また、国を支える貴族や富裕層の次代としての情報交換の場も兼ねてるみたい。誰が味方になってくれそうか、誰がライバルになりそうか、って。うわあ、権謀術数の世界っぽい!
そんな訳で訪れる人の身分も出身地も様々。体験修行する本人達だけでなく、最少人数でとは決められているものの、お付きの者や自家で雇った警護も引き連れてくるんだとか。多い年で200人って時もあるらしい。体験修行料なるお布施も相当だろうけど…。
とにかく、いろんな地域からたくさんの人が来るために、まずは参加者名簿の作成と確認と並行して、宿泊施設となる客室棟の準備に部門関係なく人を動かすんだとか。なんせ、人によっては来月の2週目という早い神殿入りをする人もいるらしい。遠方からってだけでなく、【感謝祭】も神殿で過ごしたいから、って言う人も当たり前のようにいるんだって。
【感謝祭】の準備にあわせて、イベントの準備…うわあ、嫌過ぎるわあ…。
だから、南神殿勤めの人たちはかなりハードなシフトを決めて前入りするその人たちのお世話をする傍ら、教本作成、体験修行中の神事の準備、客室棟の備品補充や修繕、警備の見直し…そのた諸々たくさんの仕事に追われて走り回ることになるらしい。
そしてここで一番問題なのが。
若者たちの中には勘違い野郎もやっぱりいて、神殿関係者たちがバタバタするさなかに隙間を縫うようにして不埒な振る舞いをする危険もあると言う。これは過去にも何度かあった事件みたいで、若い女性神官や巫女たちに手を出せば、かなりの罰則が科せられるらしいんだけど、身分を嵩に勘違いする者も結構いるんですって(まあ十代の若い子だしねえ…)。
下手をするとお付きの下男なんかも手癖が悪いのがいる時もあるんだそう。
ただでさえ同じ場所に一か月も若い男女が生活を共にするのだ。しかも自制のなかなか効かない十代。恋愛は自由だが、本来の目的は精神修行の神殿奉仕なのだ。肉体交渉はご法度に決まっている。だけど、そういった危険があるのも現実なので、警備部門は客棟への人員配置に見回りに、場合によっては警護にと目の回る忙しさなんだとか。
また、今回はいないらしいが場合によっては自国の王子・王女のみならず、他国の王侯貴族も参加することもあって、かなり緊張感を強いられる行事ってことは確実だと言う(そりゃ、中央神殿の人も2年連続嫌がるわな)。
それだけに本当なら一年をかけて準備する行事なんだとか。それがいきなり一か月で…となると、もう大変って言葉では表しきれないくらいの事態らしい。
そんな貴族や富裕層の子供なら、一か月もの神殿生活は耐えられないんじゃ? って思うけども、これは何百年と続いている儀式で、この一か月が耐えられない若者はエリートコースから外れるどころか、下手すると勘当されることもあるらしい。
若者たちもだが、神殿側もかなり神経を使う行事なんだそうな。
話を聞くにつれ、確かにそんな時に、いくら神殿が保護しているとは言えど客人の私がいるのはとても良いこととは思えない。
相手が誰かも分からない内に、間違った接触があればお互いにデリケートな問題を生じる可能性も無いとも言えない。そうなったら神殿としては(国としても)とても困る。私も困る。
この神殿での生活が楽しくて、周りの人もいい人ばっかりだったから忘れてたけど、世界は広いんだから、そりゃそういう人もいるに決まっている。
いかんいかん、ただでさえ海外に旅行すると「自分たちがいかに平和ボケした日本人」かって実感することがあるのに、あまりに平穏な生活だから、ここが外国(異世界)だってこと忘れてたよ。
だからこそ、今が、私を外に出すタイミングなんだろう。
かくして私は、お客人と言われる立場にしてはかなりの短期間で町に放り出されることになったのだ。
「大丈夫、大丈夫。リオナ(さん、ちゃん)ならどこ行っても大丈夫」
って言う、嬉しいような嬉しくないようなお言葉とともに。
+ + +
そうして町行きが決まってからは本当に慌ただしかった。
だって準備に2日しかなかったのだ。
どうせ働くなら西二月目の1週目、月頭からがいいだろうってことで。
だけど、二か月にも満たない神殿生活だったのに、それなりに荷物は増えていて大変だったんだよねえ。この世界に来た時に身に着けていた元の世界の洋服やアクセサリーを見て「うわ、懐かしい。こんなのあったなあ」って間抜けなこと言うくらいには。
私の町行きは早々に神殿内に通達され、廊下や食堂、歩けば誰かしらに声を掛けられ、お世話になった部門に挨拶に行けば、何故か「みんなからです」と、これからの生活に役立ちそうな日用品の餞別を大量に貰ってしまい、気付けば結構大きなサイズの行李6両っていう大荷物に。
でも実際に持って行くのは衣類やすぐに使う日用品が入った2両だけだ。家が決まるまでは神殿で預かっておいてくれるんだとか。うーん、愛されてるなあ私。
そして。西(秋)一月目末、5週目土の日。
ブルンブルンと鳴く馬が繋がれた馬車を背後に、うーうーとむせび泣く若干一名(言わずもがな)を含めた神殿の皆さまにお見送りしていただいた。
その様子なんだけど…。
「ライオスお爺ちゃん、イルメルお婆ちゃん、ルイジールお爺ちゃん、皆さん、お世話になりました。本当にありがとうございました」
「頑張ってな。何かあれば、町の神殿に駆け込めばいい。向こうの神殿長は私の後輩だから、リオナは安心して頼ればいい」
「リオナ、あなたのことは紹介先の人間にはちゃんと頼んであるから。心配せずに行ってらっしゃい……って、ちょっと副神官長! あなたがそうやってリオナの手を握り締めてたらいつまでも出発出来ないでしょう?」
「っ、うっ…うう、ぅ、リオナ、リオナっ、体を大事にな。無理するんじゃないぞ、っふ、ぅう」
「あははー、ルイジールお爺ちゃん。本当にありがとう。町に行ってもお爺ちゃんを思い出して頑張るから。出来るだけ手紙も出すし、お休みの日は神殿にも遊びにくるから」
…とまあ、いつもの通りでした。
でも、この町行きをきっかけにちょっとした変化も。
ルイジールお爺ちゃんの影響を受けたのか、ライオスお爺ちゃんもイルメルお婆ちゃんも、私のこと「リオナ」って呼び捨ててくれるようになったんだよね。
それに神殿の皆さんも。
「まったく副神官長様は…孫溺愛の祖父そのものになっちゃってるなあ」
「それを言うなら神官長様や巫女長様もよ」
「ほんとねえ。あんなんで来月からの準備地獄ちゃんとこなせるのかしら?」
「まあ、今はあんなでもリオナちゃんがいないところでは、ルイジール副神官長様はライオス神官長様より厳しいんだから」
「確かにねえ…でもリオナちゃん、本当に気をつけてね」
「何かあったら知らせてね。駆け付けるから」
「お休みの日は町に行くから案内するわよ」
なんて風に、お世話になった各部門長の神官さんや、食堂やお風呂で仲良くなった巫女さんたちも見送りに来てくれた。
私の荷物を馬車に載せてくれたり、御者さんにくれぐれも頼むとお願いしてくれたりと、ほんと至れり尽くせりだ。
ああほんと、私、この世界に来て良かった。
グラナバス神に感謝ね。
リオナちゃん、ようやく出発。
ほんとはこの話も6話目くらいのつもりが、私が書くとどうしても1話が長くなる(余裕で8,000字超え)ため、分割せざるを得ず。
1話あたり、4~5,000文字を理想にがんばりますー。
次回投稿は明日(13日)午前を予定。
ちなみにこんなにも神殿生活やこの世界の知識を書いたのは、生活ってやっぱりどの世界もリアルなことばっかだと思うから。ディティールとか細かく書いているつもりですが、読んでくださる方が、この世界の景色を思い浮かべて楽しんでいただければ幸いです。




