からかさお化け
机の上に風呂敷に包まれた細長い物が置いてある。
また何か買って来た……。
教授の研究室はガラクタで溢れている、もっとも本人に言わせると大事な研究資料らしいが。
資料らしい物も確かにあるけれど欠けた茶碗や皿、そこの抜けた桶を資料だから大事にしまっておいて下さいと言われても正直困る。
場所は有限なのだから。
「教授、これ以上物を増やさないで下さいと言ったじゃないですか。」
「でもねみやさん、この子が寂しそうだったからつい……。」
「ついじゃないですよ、きちんとした資料ならともかくガラクタばかり増やして。」
勢いよく怒るともうすぐ60になる教授がしゅんとしてしまいなんだか悪い事をしている気になってしまう……それで、つい聞いてしまうのだ。
「それで、今度は何を買って来たんですか。小豆洗いの桶?、皿屋敷の割れ残った皿?」
すると教授はぱぁっと笑顔になって風呂敷を開きボロボロの唐傘を「この子はね、からかさお化けだよ。」と見せてくれた。
「からかさお化け?この子?それじゃぁまるでこの傘がお化け本人みたいじゃないですか。」
私が聞くと教授はいつものように笑顔で語り出す。
「そうなんだよ、この傘はからかさお化けなのさ!」
「ただの傘に見えますが。」
「からかさお化けは元は傘を持った普通の子どもだったのさ、それがふとしたきっかけで傘を被ったお化けになった。」
「かぶった……、傘がお化けだったのでは無いんですか?」
「もとはちゃんと人の形をしていたんだよ、室町時代の『百鬼夜行絵巻』にもその姿が描かれている。」
「という事は夜中になるとこの傘は身体を出して動き回ると?」
「それがね、からかさお化けは時代を経るごとに頭が無くなり傘と同化し、身体も無くなり、足も1本無くなり、目も1個無くなり、それから手と、どんどん欠けて行きついに傘だけになってしまったのさ。」
「もう身体は残っていない?」
「そう、この子はもう動けなくなってしまったんだ。」
「……つまりこれはただの古い唐傘という事ですね。」
「いやいやりっぱにからかさお化けだよ!だからね大事にしてあげたいんだ。」
手を合わせて見上げるようにこちらの様子を窺う教授、研究室の外では威厳のある白髪もそんなポーズをしてしまうと可愛らしいくしか見えなくて困ってしまう。
つまり私は教授のお願いに滅法弱いのだ。
「しかたないですね……。」と渋い顔をしながら答えるとまたまた教授の顔が輝いた。
「みやさんならわかってくれると思ったんですよ。」
整理をするのは大変だけれど教授がこれほど喜んでくれるのならそのかいもあるはず、……でも本当に場所が無くなって来たから今回だけ。
そう心に決めていると唐傘の方からクスクスと笑い声が聞こえて来た気がした、まるで「次も断るなんて無理な癖に。」とからかさお化けが言っているかのように……。