表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/149

008 今の状況その2

 わたしがあの穴に落ちた時に持っていたもの。

 教科書やノート、筆記用具一式の入った鞄。お弁当箱とお昼の残りのクッキー。今着ている道着とそれを入れていた袋。木刀。着ていた服一式。これだけです。

 木刀とクッキー以外は知識にあるアルセリアでは入手がまず不可能なものばかり。鞄にしても縫製技術が全然違うし服にしてもそう。木刀も武器の形としてはこの世界にはなかったはずですし、クッキーももっとパサついたものしかなかったはずです。

 つまりどれを持っていっても異世界のものと判断できるはずです。

 わかりやすいもの……携帯電話は、電池切れしています。まあ電池切れしてても十分なんですが、機能などの説明はしづらいです。これは保留っと。

 腕時計…。この世界ではまだ正確な時計はなかったはずです。ではこれと…。

 お弁当箱、は、よかった、軽くでも洗っておいて。見せても大丈夫そうです。

 あと、わかりやすいもの…。

 わたしは少し考えて腕時計とお弁当箱と勉強道具の入った鞄を持っていくことにしました。


「お待たせしました」

 わたしはセドリム王子とライアス団長のいる部屋へと戻ってきました。

「これで証明できると思います。アルセリアでは入手が無理なもののはずですから」

 そう言いつつ、鞄からノート・筆記用具とお弁当箱と腕時計を取り出して、机の上に置いていきます。

 一通り並べ終えたら、興味深そうにそれらを見ている二人の男に説明を始めます。

 まずノートと筆記用具を見せます。ノートはなるべく新しいもの、筆記用具はシャープペンシルとボールペンとマジックでいいでしょうか、消しゴムも見せておきますかね。

「こちらが記録をとるためのノートと書き込むための用具です」

 ノートとペン類を持ち上げながら、二人に説明します。

「このノートは私の世界の技術で作られた植物を原料とした『紙』を束ねたものです。これに自分が必要だと思うことを記入して、忘れないように記録をとるためのものです。こんなふうに…」

 ノートの最後のページを開き、二人から見えるようにアルセリアの文字で『セドリム・アル・ソビュール第二王子』と『ライアス・オル・オルフェード騎士団長』とそれぞれシャープペンシルで記入します。

「ほう、インクもなく文字が記入できるのか。しかも滑りもよさそうな紙だ。ペン先が引っかかったような感じも受けなかった」

 王子が感心した表情と口調で声を出します。

「ええ、今使ったのは『シャープペンシル』といってインクの代わりに『芯』と呼ばれるものが入っています。この『芯』が無くなれば文字は書けなくなります。紙のほうは後で触っていただければわかると思いますが、きめ細かなもので、ほとんど引っかかることはないと思います。そして書いたものはこうすれば…」

 説明しつつ、今度は消しゴムを使って『第二王子』と『騎士団長』の文字を消して見せます。

「今使ったものは『消しゴム』といいまして、先ほど文字を書いた『シャープペンシル』で書いたものを紙の上から消すことができます。これは書き損じなどを簡単に修正するための道具と思ってもらっていいと思います」

 そう言ってノートと消しゴム、シャープペンシルを持ち上げて見せる。

 王子たちは感心したようにそれらを見つめながら、

「すごいな、よく考えてある。それなら確かに高価な紙を無駄に使うこともないし、インクを持ち歩かなくてもいい。便利だな。しかし、先ほどの『消しゴム』とやらの説明を聞くと、その『シャープペンシル』とやらで書いたものしか無かったことにできないということか?他にテーブルに置いてある似たような道具とは違うということだろうか?」

 王子、鋭いですね。

 今の説明で他の種類のペンもあることに気付きましたか。

「ええ、その通りです。今使った『シャープペンシル』と『消しゴム』はセットで使うものと考えて下さい。他にも違う種類の筆記具がありますが、それらで書いた文字は『消しゴム』で消すことはできません」

 説明しつつ、わたしは持っていたノートとシャープペンシルと消しゴムを机に置き、代わりにボールペンとマジックを手に取ります。

「今、持っているものが『ボールペン』と『マジック』です。こちらの『ボールペン』は紙に書くための筆記具で、羽ペンとインクがセットになったものと考えていただいて結構です。この『ボールペン』の持ち手の中にインクが保存されています。そしてこの『ボールペン』で書かれた文字は『消しゴム』で消すことはできません」

 ボールペンを少し持ち上げながら説明します。

 ついでなので、マジックも説明してしまいましょう。

「そしてこの『マジック』は、ほとんどの物の表面に文字を書くことができます。ただし、表面が汚れていると文字がかすれたり、『マジック』が書けなくなってしまいますので注意が必要です。鎧や剣の表面にも書けます。また、書いた後は雨や汚れにも強く、わたしがいた世界では主に道具に所有者の名前を書きこむのに使われていました。『マジック』も先ほどの『ボールペン』のように書いた文字を『消しゴム』で消すことはできません。違いは中に入っているインクの違いと考えてもらっていいと思います」

 実際は構造的な違いや、金属などに書いた場合は消しゴムで消せることもありますが、そこまで説明するのも面倒ですし、そもそもこの世界の技術力では再現は不可能でしょうから説明しなくても問題ありません。

 わたしは持っていたペンを机に置いて、お弁当箱の説明に移ります。

「こちらは『お弁当箱』といって、食事を中にいれて外に持ち出すときに使う道具です。主に、朝、調理してこの『お弁当箱』に詰めてお昼ご飯として用います」

 アルセリアにはお弁当箱の代わりにバスケットなどを使いますが、このお弁当箱の材質はプラスチック、つまりこの世界にはない材質です。

「この『お弁当箱』はわたしの世界の『プラスチック』という材料でつくられていて、軽くて丈夫で持ち運びに向いた材質で作られています。これもアルセリアでは入手不可能なものだと思います」

 そう言いつつ、わたしはお弁当箱のふたをあけてテーブルの上に置きます。

 説明を聞いていた二人の男は、触ってみたそうに見つめています。が、説明が先です。無視しましょう。

 他にもお茶を入れていた魔法瓶もありますが、これは魔術などで代用可能なものですし、説明が面倒です。なのでテーブルには出していません。説明できないわけじゃないですよ?ほんとですよ?

 続いて腕時計です。

「これは『腕時計』といって、時間を教えてくれる道具です。この短い針が一周すれば半日で、半日を12分割した目盛りが刻まれています。長い針は1周で1時間、半刻になります。これでどこにいても正確な時間を知ることができます」

 二人の目が輝いています。わたしが触らないように注意すると、おあずけを食らった犬のような目をします。そんな目をされても…。勝手に触って時間をずらしてしまうと困るじゃないですか。

 気を取り直して、最後にお昼の残りのクッキーです。今がわたしの知っている時代とどれだけ違うのかわかりませんが、わたしも小腹が減りました。クッキーを食べながらお茶でも飲みたいものです。

「最後に『クッキー』です。これはわたしの世界ではメジャーなお菓子です。似たようなものはこの世界にもありますし、材料さえ揃えば同じものが作れたはずです」

 クッキーが入っている袋を少し持ち上げつつ、これで終わりとばかりに二人を見ます。

「さて、これでわたしが異世界から来たという証拠になるなると思います。お二人とも興味がおありのようですので触っていただいて結構ですよ。でも、あまり乱暴には扱わないでくださいね?わたしはお茶の準備でもしてきますのでそれまではご自由にしていてください」

 そう言い残して、わたしはお茶の道具を用意するために1階の食堂に降りて行きます。


説明に関する部分を変更・修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ