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086 待ち合わせ

 お城まで行くと、丁度5の刻の鐘が鳴りました。待ち合わせはここのはずですが、王子の姿は見えません。

 ……普通、こういう時って男性の方が早めに来て待っているものではないでしょうか?

 ごめんなさい、待った?いや、今来たとこだよ。なんて、デートじゃ定番の受け答えじゃないですか。

 ……いえ、そもそもがデートでもないのに、わたしは何を考えているんでしょう…?少し脳がピンク色に染まっている気がします。やはり春だからでしょうか?

 ですが、やはり女性を待たせるのはいかがなものかと思います。あまりに待たすようなら、文句を言ってやりましょうか?

 しかし、一般的に待ち合わせというのはどれくらいの時間を許容するのでしょうか?日本では誰でもが時計を持っていますし、持っていなくても時間を知る方法はいくらでもあります。携帯電話があればすぐに連絡が取れますし、遅いようなら連絡を入れることが可能です。ですが、この世界では時計は一般にはありませんし、時間を知るのも太陽の位置と、2時間ごとの鐘だけです。つまりは、日本では分単位での行動が基本でしたが、こちらではそうではないということです。前世では、30分くらいの誤差は許容範囲でしたしね…。

 待ち時間の間、特にすることも無いのでそんなことを考えていると、お城の方から人が出てくるのがわかりました。急いでいるのか、その人はこちらに走って近づいてきます。

 輪郭がわかる距離まで近づけば、それが王子だということがわかりました。

 鐘が鳴ってからは、大体10分くらいです。まあ、この世界なら十分許容範囲でしょう。

「済まない、待たせたか?」

 息を切らせながらもわたしに近づき、第一声がそれでした。

「いえ、わたしも少し前に来ましたから」

 あれ?なんかこの会話って、デートっぽくありません?

 ……ああ、また脳が…。きっと春だからですね。

「おはようございます。今日は招いていただき、ありがとうございます」

 お城には何度か来ましたが、庭園の方は初めてです。王族や他国の貴賓の為にある庭園を見ることができるのは、仮にも王族の王子のおかげですからね。

 え?前世ですか?ええ、一度だけ見たことがあります。が、そのときはじっくりと見る時間もありませんでしたからね。庭園には基本、王族の誰かが一緒でないと入れないのですよ。そのときは執務をさぼった当時の王様を探しに入っただけですからね。

「ああ、いや…、よく来てくれた。今日はその……いつもとは随分と違う格好だな?」

「今日は激しい動きをすることはありませんので…。もしかして、似合いませんか?」

 この色合いは、結構気に入って買ったんですけど…。確かにいつもとは違う格好なので、似合うかと言われればわかりませんが、それでも似合わないといわれるとちょっとショックですよね…。

「いや、そんなことはないぞ!?よく似合っていて……その、か、可愛いと、思うぞ?」

 う…。異性に褒められるのなんて、どれくらいぶりでしょうか?むしろ、家族や身近な知り合い以外に褒められるのなんて、初めてじゃないでしょうか?家族の評価は当てになりませんし、知り合いもなんでも可愛いと言いますからね。お世辞とわかってはいますが、照れてしまいますね。

「あ、ありがとうございます…。その、王子もよく似合っていますよ?か、格好いいと思います…」

 褒められたので、王子の格好も褒めておきます。王子はいつものラフな格好では無く、きっちりとした、それでいて堅苦しさの無い服装をしています。元々顔はいいので、スタイリッシュな服装は見栄えがいいのです。それにいつもよりも身体のラインがわかる服装なので、いつもと違って鍛えられた肉体がわかってしまいます。

 王子って、結構いい筋肉しているんですよね…。って、何を思い出しているんですか!

「う、あ~……そ、そうか?たまにはこういう服装もいいか…」

 お互いに慣れないことを言ったせいか、二人とも妙に照れてしまっています。傍から見れば、なんとも恥ずかしい空気が漂っていることでしょう。

「こ、ここにいても仕方がありませんし、庭園の方に行きませんか?」

 ピンク色な空気に耐えきれなくなり、ついでに元々の目的を思い出したので移動の提案をします。呼びだしたのが王妃様かアリア王女かはわかりませんが、あまり待たせるのも悪いですからね。……不自然に声が大きくなったのは、仕方がないと思います…。

「そうだな、では案内しよう。ついてきてくれ」

 王子がわたしよりも冷静なのが気に入りません。それに、わたしが背負っていたリュックをさりげなく自分が持つなど、ちょっとドキッとしてしまったじゃないですか。

 ……ここは、やはり仕返しをしておかないといけませんよね?

 わたしは歩き出した王子の横に並ぶと、リュックを持っていないほうの手を握りました。身長差さえここまでなければ、腕を組んでやるのですが…。仕返しとしては定番ですよね?

 案の定、王子は急に手を握ったわたしに驚きますが、何もない様に前を向いてしまいます。しかしその顔を見上げれば、頬が赤くなっているのがわかりました。

 ふふ、仕返し成功ですね。

 わたしはにやけるのを我慢しながら、歩き出そうとしました。が、握った手が、逆に少し力を入れて握り返されたのに驚いてしまいます。さらに、その手を撫でるように、王子の指が動きました。

 まるで電気が走ったようなその感覚に、思わず手を離そうかとも思いましたが、元々わたしから手を握ったのに、ここで手を離せば負けたような気がするのでそのまま手を握り続けます。

 王子が歩き始めたので、わたしも横に並んで歩き出しました。

 ちらっと見た王子の顔は赤く見えましたが、きっとわたしの顔も赤くなっているでしょう。繋いだ手が、とても気恥ずかしく思えてきたのです。

 わたし達はお互いに顔を合わすことも無く、会話もほとんどないまま、庭園に向かって歩きました。

 ……それを見ている人物が、3人もいたとは気付かないで…。


 お城の中を通り、20分くらい歩いたでしょうか?最後にお城を出て、庭を抜けた先に庭園はありました。

 騎士が数人警備をしていましたが、王子を見るとなんのチェックも無しに通ることができました。顔パスというやつですね。騎士が王子に職務質問などするとも思えませんし。

 わたしも王子と一緒なので、特に何も言われることも無く通りました。しかし、何も言われなかっただけで、随分とじろじろ見られた気はしますが…。まあ、王族しか入れない場所に連れてこられたのですから、警備としては気にするのは当然ですよね。

 わたしはその視線を気にしないことにして、そのまま庭園へと入りました。

 庭園には、春という気候のせいか、色とりどりの花が咲いています。ぱっと見ただけでも、この国には無い花や植物がいくつか目につきました。

 前世の知識には、薬草や毒草、珍しい花などはありますが、一般的な花や植物はほとんど知識にはありません。元の世界の植物に似た物も見受けられますが、わたしの知識ではほとんどわかりませんでした。

 わたしにわかるのは、綺麗な花だとかそういったごく普通のことくらいです。

 それでも可愛らしい花や、大きく咲いた花は目を楽しませてくれます。植物に囲まれた時特有の、様々花の香りや湿気、それに静けさが時間を忘れさせてくれるようです。

 時折王子に花の名前などを訪ねながら、ゆっくりと歩きます。王子も植物には詳しくないようで、聞いた事の1割も答えられませんでしたが…。

 わたしも見た目はこんなですが、女です。花に囲まれるというのは気分は悪くありません。ですから、そんな王子のことも許してあげましょう。

 しかし、ここまで王妃様もアリア王女も見かけませんでした。出迎えは誘った王子が来るのは当然ですし、王妃様やアリア王女が簡単に出迎えなんてできないのは当然です。ですので、庭園の方で待っているのかと思ったのですが…。

「王子、王妃様やアリア王女はおられないのですか?」

 いると思っていたはずの人がいないのは気になります。王子も何も言わないのですが、気になり始めると落ち着かないのです。

「……あの二人なら、城のどこかにいるんじゃないか?二人がどうかしたのか?」

 聞いた途端、王子が何とも言えない表情をしたのが気になります。が、答えから察するに、王妃様とアリア王女はここにはいないようです。

 ……はて?ではどうして王子はわたしを誘ったのでしょうか?それに、今の表情の意味は…?

 ……ふむ、最初はお二人のうちどちらか、もしくは片方に言われてわたしを誘った。ですが、いざ当日になって用が出来て来られなくなった。そして王子が代わりとしてわたしの相手をしている、ということでしょうか?そして今の表情は、自分で呼び出しておいて、その相手を押し付けられたことに対する反発でしょうか?

 それなら説明もつきますね。王子はお二人に振り回されて、迷惑を被っているということでしょう。

 あれ…?なんだか胸がちくっとしました…。

「二人に用があるのなら、会いに行くか?」

 深く考える前に、王子の声がしたので頭を切り替えます。

「いえ、特に用というわけでは…。聞いてみただけですから」

 今日はお二人の事をあまり言わないほうがよさそうですね。日本人らしく、空気を読みますよ?

 それからお昼まで、温室を見たりしながらゆっくりと庭園を見て回りました。


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