007 今の状況その1
「もうすぐラティスの村だ」
セドリム王子がわたしに声をかけてきました。
あれから森を出てすぐの場所に止めてあった馬車と馬に乗ってカッポカッポと約2時間。
ようやく村に到着のようです。
さすが王族の馬車。わたしの肉付きの薄いお尻でも痛くなりませんでしたよ。
村には早馬で連絡がなされていたようで、村に入るとすぐに村長らしき老人と他3名の男性が出迎えてくれました。
「王子殿下にはご機嫌麗しく、ご無事に賊の討伐がなされたようで」
村長(仮)が頭を下げました。
「堅苦しい挨拶はいい。部屋は空いているか?」
さすが王族。このくらいは簡単にあしらいますね。
「は、ご指示の通りに用意しております。こちらへ」
村長(仮)が案内に立って宿屋らしき建物へ向かいます。
一緒にいた3人の男性はそれぞれ馬車と騎兵の馬を案内するようです。
役割分担ができていますね。
さっさと宿にいって濡れた服を着替えて休みたいところです。
え?怪我ですか?
馬車に乗る前に治療を受けました。
魔術で軽く治してくれるのかと思いきや、薬を塗って包帯を巻いて終わりでした。
期待外れですよ。
魔術で治せるんじゃないか?と聞くと、
「魔術を使えるものは数がいない。治癒術を使えるものは神官か極一部の魔導師だけだ」
とのことでした。
幸いにもわたしの怪我は深くもなく、薬を塗っておけば1週間もあれば完治するらしいです。ファンタジー万歳。
宿に案内され、指定された部屋に入ると時間は大体4時頃でしょうか。
宿は2階建てで、1階が食堂と宿の人の住居スペース・お風呂でしょうか。2階が客室になっているようです。
これから着替えて王子のところで色々確認です。
あ、わたしは一人部屋でした。女の子ですからね。
さすがに男所帯の騎士団で相部屋はないとのことです。
とりあえず荷物を部屋に置き、わたしと一緒に落ちていた鞄から道着を取り出します。
道着は上が白で下が紺色の袴です。
剣道とか弓道とかで着ている道着と一緒ですね。
制服はだいぶ乾いたとはいえ、生乾きで気持ち悪いですから道着でもあるだけましってなもんです。
さっさとサマーセーターを脱ぎ、制服を脱いだところでふと手が止まりました。
「下着まで濡れてますね……どうしましょう…」
さすがに下着の替えまでは持っていませんでした。
今日は道場では軽く練習してから、スーパーで夕食の材料を買って家に帰って着替えるつもりだったので、肌着や下着の替えまで用意していませんでした。
うむむ、かといって濡れた肌着や下着のままというのもなんともしがたいものもあります。
用意した道着をじっと見つめながら考えること5分。
「まあ、道着も分厚いですし大丈夫ですよね」
どうせ今日は動きまわることもないですし、この後は王子たちとお話してご飯食べて寝るだけです。特に問題は起きないでしょう。
そう判断したわたしはさっさと裸になって道着を身につけ、脱いだ服が乾きやすいように椅子や机にかけておきます。
下着類はあとで宿の人に言って洗濯させてもらいましょう。
さすがにそのまま乾かしたものをきるのは抵抗がありますしね。
簡単に準備を終えたら早速王子のところへ行きます。
そういえば……どう見ても言葉が通じないと思われる人種なのに言葉が通じてますね。
不思議です。
これも確認事項の一つですね。
そんなことを考えて歩いているとすぐに王子のいる部屋に到着しました。
まあわたしの部屋から3部屋ほどしか離れていないのですが。
「セドリム王子、桜です。入ってもよろしいでしょうか?」
ノックの後にそう声をかけます。
「どうぞ」
中からセドリム王子とは違う男性の声が聞こえました。
「失礼します」
一声かけてからドアを開けます。
「ああ、かけてくれ」
セドリム王子に声をかけられ、手近な椅子に座ります。
部屋の中にはセドリム王子ともう一人、30過ぎに見えるダンディなオジサマがいました。
「こいつはうちの騎士団の団長をやってるライアス・オル・オルフェードだ。こっちはサクラ・フジノ」
王子がそれぞれを紹介します。
「ライアスだ」
「桜 藤野です」
お互い名前だけの挨拶。簡単ですね。
「じゃあ早速だが…」
王子が話を切り出しますが、わたしは先に気になっていたことを確認したいと思います。
「セドリム王子、その前に確認しておきたいことがあります」
そう切り出しておきます。
今わたしが気になっていることがはっきりすれば質問も減りますからね。
「ふむ、なんだ?答えられることなら答えよう」
「ありがとうございます」
話の途中で遮られたにもかかわらず、特に気にした様子もありません。やるな王子。
ちなみにもう一人のライアスさんは一瞬だけ眉が動きました。まだまだですね。
「まず1点目ですが、王子の名前に入っていたソビュールというのはこの国の名前でよろしいでしょうか?」
王子の名前を聞いたときから気になっていたことです。
「そうだ。この国はソビュール王国。国王を頂点とした国だ」
なるほど。やはり思っていた通りでした。
そうするとこの世界の名前は…。
「では2点目。この世界はアルセリアであっていますか?」
もしここがアルセリアなら…。
わたしは少し緊張しつつ、王子に確認をとります。
「あっている。この世界はアルセリア、同じ名前を持つ唯一神によって作られた世界だ」
やっぱり…。
そうすると言葉が通じるのは……なるほど、そういうことですか。
「わかりました。確認したいことはこれで終わりです」
「そうか…。よくわからないことを聞いていたが、もしかして今の質問からするとサクラはこの世界の者ではないのか?しかしそれならどうしてアルセリアの名前を…」
王子がなにやらブツブツいっています。
「ええ、今の質問でわかったことがいくつかあります。一つ目はわたしはこの世界とは違う世界、つまり異世界から何らかの原因でこの世界に来たということ。そして二つ目は言葉です。これは先ほどの王子の疑問にもつながりますが、わたしはこの世界の言語を知っています。そして無意識に今まで使っていた言語とこちらの言語とを切り替えて使っていたようです。信じられないかもしれませんが、わたしは前世というものを覚えています。いえ、知っていると言ったほうが適切でしょうか。その前世というのがこの世界だったようです」
そう、つまりわたしは異世界転生というものを経験し、そしてその転生前の世界にトリップしてしまったということなのです。
王子の反応をみると眉間にしわを寄せて何やら難しげな表情をしています。
「信じられませんか?」
そう問いかけると
「正直言って信じがたいな。いや、サクラが嘘を言っているとも思っていないのだが、突拍子もなさ過ぎてな…」
まあ言いたいこともわかります。
わたしも他人が言ったことなら信じるのは難しいでしょうし。
「ならば異世界の証拠となるものがあればよろしいですか?」
「なにかあれば信じやすいだろうな」
そう答える王子にわたしは
「では少しお待ちください」
そう言って自分の部屋に一旦戻ることにしました。