078 尋問?
……どうしてわたしはこんな場所にいるのでしょうか…?
「さぁ、サクラちゃん?女同士なので隠し事はなしですわよ?」
目の前にはアリア王女が。
「うふふ、サクラ様?時間はたっぷりとありますからね?」
そして後ろにはシフォンさんが。
「あらあら、誰にだって隠しておきたいことはあるわよね?」
さらに斜め向かいには王妃様が…。
どうしてこうなったのでしょうか…?
新年のお祭りも終わり、身内でのお祝いの期間も終わった1月7日。わたしは買い物の為に街を歩いていました。
そこへ豪華な馬車が通りかかったかと思うと、いきなりわたしの目の前に止まり、あろうことかそのまま中へと引っ張り込まれたのです。
そしてその馬車の中には、アリア王女がいました。わたしは訳もわからないまま連れ去られて、気がつけばアリア王女の私室にいたのです。
「あの…、どうしてわたしはここにいるのでしょうか…?」
目の前にお茶が用意されて、ようやくわたしは口を開きました。
「……?」
しかしそれに返ってきたのは言葉では無く、どうしてそんなことを聞くのかわからないといった顔でした。
「わたし、買い物の途中だったんですけど…」
「大丈夫ですわ。お買い物はほとんど終わっていたはずです。きちんと確認してから連れて来たのですから、間違いは無い筈ですわ」
……どこから狙っていたのでしょうか?目の前の女性が、初めて怖いと感じました。
「単刀直入に聞きますわ!貴女、セドリム兄様のことどう思っていますの!?」
「へっ?」
そしてアリア王女の口から出てきた言葉は、全く予想もしていなかったものでした。
質問が理解できずに目を白黒とさせていると、何も言わないわたしに焦れたのか、アリア王女がもう一度口を開きました。
「ですから!サクラちゃんはセドリム兄様のことを、男性として見ていらっしゃるの!?」
えっと、どう答えれば…?
ここで冒頭に戻るわけです。
「王子は、男の人、ですよ?」
恐らく、全く答えになっていないでしょう。
ですがそれ以外に何と言えばいいのか思いつきませんでした。
「そんなことを聞いているんじゃありませんわ!サクラちゃんも15歳でしょう?ならわからないと言うこともないでしょう?一人の女として、セドリム兄様のことをどう見ているのかを知りたいのです!」
「あ、11月の終わりで16になりました」
日本での暦とこちらでの暦は正確にはイコールではありませんが、数日の差です。まあ、今は関係のないことですが。
「え?あら、そうなんですの?遅れましたが、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ってそれはいいですわ!いえ、よくはありませんが、今はいいのです!今聞きたいのは、サクラちゃんが、お兄様のことを、どう思っているのか、ですわ!」
いや、だからそんなことを言われても…。
助けを求めるようにシフォンさんや王妃様を見てみますが、二人ともわたしの答えを興味津津と言った風で待っています。
駄目です!ここには味方がいません!
わたしは少し考えてから口を開きました。
「えっと…。どう思うかと聞かれても答えようがないです。今までそんな風に考えたこともありませんでしたし…」
実際、答えようがありませんし…。しかしいきなり連れてこられて、なぜこんなことを聞かれるのでしょうか?
「うーん、では質問を変えますわ。セドリム兄様が毎日のようにサクラちゃんのお家に行っていましたが、それはどのように考えていますの?」
え?えっと、どのようにと言われても…。
「……最初は戸惑いました。仮にも一国の王子がご飯を食べに一冒険者の家を訪ねるなんてって思いましたが、まあ、この国の王族ならあり得ないことではないかなと。色々と変わっていますし…。それに一人分も二人分も作る手間はそれほど変わりませんし、やはり作ったご飯を美味しいと言ってもらえるのは嬉しいですし…。なので王子がそれでいいなら、別にかまわないかと思います」
「……仮にも一人暮らしの、それも成人した女性の家を殿方が訪れることに対しては、何とも思いませんでしたの?」
「え?だってわたしですよ?背も低いですし、胸だって小さいですし…。とても女性としての魅力はありませんから。王子はそういった趣味の人ではないと聞いていたので、気にもしませんでしたね」
あ、ちょっと自分の言葉でダメージが…。
「で、ではサクラちゃんは、お兄様のことを少しでも格好いいだとか、男らしいと思ったことはありませんの?」
「え…?」
これまた予想外の質問です。そりゃ、そういう風に感じたことが無いかと言えば……あります。
お祭りの時のパレードや剣術大会の事、もっと遡れば最初の頃はきちんと男性として見ていましたし、わたしをすっぽりと包みこむような大きな身体や厚い胸板、引き締まった筋肉など…。
って、何を思い出しているんですか!?
「あら?その反応は…。ありますのね?いつ!?どこでですの!?」
怖い!美人さんの顔が迫って来るのがこんなに怖いとは、初めて知りました!
「アリア王女殿下、そのように迫ってはいけません。サクラ様が怯えられていますよ?」
シフォンさん!やはりシフォンさんはわたしの味方だったのですね!
シフォンさんにやんわりと止められ、アリア王女の顔が元の位置に戻りました。
「恐らくですが、サクラ様の思われることはセドリム王子殿下のお身体の事だと思います。かつてサクラ様が酔われた時に、セドリム王子殿下を抱き枕がわりにして眠られていたことがあります。その時のことを思い出しておられたのではないでしょうか?」
って、ええ!?なんてことを言い出すんですか!いや、当たっていますけども!
ほら!アリア王女が食いついてきたじゃないですか!
「それは初耳ですわ!どうして隠していましたの!?もっと詳しく教えなさい!」
駄目!これ以上言わないで!!
わたしは必死にシフォンさんにアイコンタクトを送ります。
シフォンさんはそれを見て、一つ頷きました。
ほっ…。これで少しは安心です…。
「サクラ様の許可も出たので説明させていただきますね。私が見たのは二度です。一度目はサクラ様の家で、サクラ様の初潮の日ですね。あの日はセドリム王子殿下が慌てた様子で私を呼びにこられ、駆け付けた先で見たのですが…。二度目はサクラ様が夜会に出られた次の朝です。その時はサクラ様がセドリム王子殿下の胸に縋りつくようにして眠っておられました。セドリム王子殿下が身体を離そうとすると、離れるのが嫌だとばかりに頬ずりまでして…。とても可愛らしかったですわ…。ちなみに両方とも、サクラ様は衣服を纏っておられませんでした。セドリム王子殿下の方は着崩された風でしたが…」
いやぁぁぁぁぁ!!何を暴露しているんですか!アイコンタクトが全然通じていないじゃないですかぁぁ!!
しかしわたしがシフォンさんの口を止めようにも、いつの間にか隣に来ていた王妃様に口を塞がれ、後ろから抱き締めるように抑え込まれていたので話を遮ることは不可能でした。なんとか王妃様から逃れようともがいてみましたが、その細腕のどこにそんな力があるのか、拘束は全く緩みませんでした。
おかげでわたしはシフォンさんの暴露話を、聞きたくもない自分の赤っ恥を聞かされる羽目になったのです。
落ち込み、ぐったりとしているわたしを横目に、アリア王女のテンションはMAXを突き破っていました。
「それは…、もしかしてサクラちゃんとお兄様が同衾していたと言うことですの!?しかもサクラちゃんは、その、裸でお兄様に抱きついていたのでしょう?まさか、お兄様は眠っているサクラちゃんに…?」
「それは大丈夫だと思われます。少なくともサクラ様の家での時には私も確認をしましたので…」
「確認って、どうなさいましたの?」
「もちろん、その部分を覗いてですが、サクラ様は小さすぎて中まで確認できませんでしたので、僭越ながら私の指で確認させていただきました」
「そ、それで…?」
「はい、確かに“膜”を確認しました」
「もがっ、もがー!!」
やめてぇぇ!!わたしの恥ずかしい話をばらさないでぇぇぇ!!
「そのときのサクラ様の反応は、とても初心で可愛らしくて…。私、危うくそちらの道に目覚めてしまいそうでしたわ…。そうそう、サクラ様ってば身体のサイズさながらに、あの部分も幼子のように可愛らしいんですよ?」
もう…!もうわたしのMP(悶えポイント)は振りきれています!いっそ殺してください!
慈悲を、わたしにお慈悲を…!
公開処刑のような会話は、恥ずかしさに顔を真っ赤にして俯くわたしを余所にしばらく続いたのでした…。