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075 品評会

 用意していた材料は、7の刻、午後2時には売り切れました。この後はどうしましょうか?予定だとパレードが始まるくらいに売り切れになるはずだったのですが…。

 うーん、パレードは夕方からですし、品評会でも見に行ってみましょうか?ガラムさんの作品も見てみたいですし…。品評会はお城のホールでしたよね?

 え?なんでいきなり屋台なんか出しているのかって?それにはいくつか理由がありますが、大まかにいえば2つでしょうか?

 1つ目は美味しいものを広めることです。

 以前にも説明したとおり、この世界の味付けは塩胡椒と少しの香草が基本です。むしろそれ以外にないと言っていいでしょう。よく言えば素材のおいしさなのですが…。

 自分で料理をすれば、少なくとも家では美味しいと思えるものを食べることはできますが…。旅の途中などはどうしても美味しいものから遠ざかってしまうのですよ…。

 そこでわたしは考えたのです。ならば美味しい物を広めればいいと。もちろん、ただレシピをばら撒くだけでは美味しさは発展しません。そこで2つ目の理由です。

 味付け次第で美味しくなることを知ってもらおう!という作戦です。幸い、このお祭りには国中からこの王都に観光客が押し寄せてきます。そこで新しい味の物を売れば、多くの人の目に留まるのではないかと思ったのです。

 もちろん、この味が商売になることを確認する意味もあります。そして美味しいものが売れると知った人達は、自ら美味しい料理を創作していくと言うことになるわけです。人間は一度美味しいものを知ってしまうと、なかなかランクを落とすことができなくなりますからね…。我ながらなんて恐ろしい計画でしょうか!?

 ふふふ、これで旅先でも美味しいものが食べられるようになる日も近いですね…。

 え?なんで焼き鳥なのかって?それは…、コストやレンタル屋台の都合ですよ…。ええ、思いついたのが遅かったせいもあり、レンタル屋台や仕入れの関係上、焼鳥屋さんしか選択肢が無かったのです。ちなみに、屋台の一番人気はがっつり系のお肉です。続いてが飲み物系。焼き鳥は地味であまり儲けが無いと言うことで人気は無いのですよ。まあ、だから結構ぎりぎりになっても申し込みができたのですが。

 そんなわけで焼鳥屋さんをやっていたのですが…。今日までの売り上げや反応見るに、大成功だと思っていいでしょう。次の機会があれば、別の物をやってみたいですね。たこ焼きは…、まずタコを食べると言う習慣がありませんので難しいですね。焼きそばもそばの部分を作るのが大変ですし、かき氷は氷や季節の問題があります。お好み焼きやクレープなんかがいいですかね…?次の機会までに考えておきましょう。


 そんなこんなで、今わたしは品評会の会場に来ています。

 午後の中途半端な時間のせいか、人は少なめです。おかげでじっくりと見ることができますね。

 この品評会は4つに別れています。一つはアクセサリー部門。この部門は彫金やデザインなどが評価の対象です。なので、展示されている品は豪華で細かな装飾がされていて、見ているだけで楽しくなります。

 もちろん見た目も重要なのですが、豪華な材料を使えばいいと言うものではないので、お金を持っている人が有利にはなりません。この品評会で評価された作品の制作者は、あちこちの貴族やお金持ちの方々から引っ張りだこになるという、その道を志す者にとっては夢への近道なのです。

 二つ目は魔具部門。自由に作られた魔具の中から、発想やデザイン、仕上がり具合などを評価します。中には何に使うのか、どういう場面で使うのかが不明な物もありますが、それもこの部門の面白いところでしょう。優秀な作品には、研究所からのオファーもあるそうです。

 三つ目は防具部門。そのままですが、防具のデザイン、性能などを評価します。奇抜なデザインのものもありますが、基本的に堅実な物の方が評価されるらしいです。昨年の優秀作品は着脱が容易な移動用のプレートアーマーで、実際に一部の騎士団に配備されたそうです。ちなみに、毎年必ずネタ的な防具もいくつか出品されるそうです。今年はどんなものがあるんでしょうね?

 四つ目は武器部門。ガラムさんが出品しているのもここです。武器の形状は自由で、その中から実用性や汎用性、デザインなどを含めて評価されるそうです。ちなみに一番人気は剣類で、一番不人気なのが鈍器だそうです。

 鈍器、地味ですものね…。

 防具部門と武器部門は、魔具は出品禁止です。もちろん、魔具を前提とした作品もありますが、それは評価とは別の部分で考えられるらしいです。

 ガラムさんの出品は直刃の片手剣でした。わたしは詳しくは無いですが、他の展示品に比べても輝きやデザインなどは一線を画しているように見えます。これは知人としての欲目でしょうか?

 しかし、こうして見てみると色々ありますよね…。中でも目を引いたのが、ファンタジー作品ではおなじみのビキニアーマーでしょうか…。あんなの誰が着るんでしょう…?それでなくても、冒険者の女性はかなり少ないですし、騎士に至っては全体の1割もいません。本当に誰に向けて作られたのでしょうね…。

 あ、でもアリア王女なんかが着ると、違う意味で効果は高そうですよね。少なくとも相手が男性なら、隙を作ることはできるでしょうね…。

 おっと、じっくりと見ていたらいつのまにか随分と時間が経っていました。外を見ると、すでに日は随分と傾いています。パレードの時間も近いようですし、そろそろ戻りましょうか。


 外に出ると、随分と騒がしくなっていました。パレードを見る為の人が集まっているようです。

 パレードは王族一同が何台かの馬車に乗って街を練り歩くという単純な物なのですが、魔具や魔術を使って演出がされています。まあ、単純に言えば電飾もどきや魔術による打ち上げ花火なんですが。

 それでも一般の人には魔術を見る機会も滅多にありませんし、使われる魔術も中級ながらもそれを使う人数によってかなり大掛かりな物となっています。それに王族を間近で見る機会もそうそうあるわけではありません。なので、このパレードはそういう珍しいものを見ると言う意味でも人気なのです。

 まあ、わたしにとってはそう珍しいと感じるものでもないのですが…。

 人混みをかき分けながら進んでいると、お城の方から大きな歓声が上がりました。続いて大きな音とともに、空に花火が咲きます。

 人混みのせいで見えませんが、どうやらパレードが始まったようです。

 せっかくなので、わたしは前の方に出てみました。こういうときは自分の小さな身体が便利です。……ええ、こういうときだけは…。

 まず先頭には騎士の一団が馬に乗って進んできます。その後ろには歩兵が団旗と国旗を掲げながら、ゆっくりと歩いています。

 時折、魔術師でしょう、馬に乗ったローブ姿の人が腕を振ると、あちこちに色とりどりの光が弾けています。

 騎士の一団の後に続くのは、華やかに飾り付けられた何台かのオープンの馬車。そこには先頭に王様と王妃様が、続く馬車には見たことがありませんが、恐らくは先王とそのお妃が乗っています。続く馬車にはローブの一団が乗っていて、そこから空に花火を打ち上げています。あ、レンさんもここに乗っていました。

 その後の馬車にエドウィル王子とアベリア王女がいました。アベリア王女ってまだこの国にいたんですね…。

 次の馬車にはセドリム王子とアリア王女が乗っています。むぅ、なんだか別人のように爽やかな笑顔で手を振っています。中身はあの王子なのに、凄く王族らしく見えてしまいます。それが何故か悔しく感じてしまいました。

 そういえば、王子の顔を見るのは久しぶりな気がしますね。年末からずっとこのお祭りの事で忙しくしていたみたいで、12月の前半からはご飯も食べに来ませんでしたし…。わたしのほうも屋台の事や依頼で忙しかったですしね。

 ……あれ?これだけ王子の顔を見なかったのって初めてじゃないでしょうか?いや、まあ、今までが少しおかしかっただけですよね。これが当たり前なんです。

 ……寂しいなんて思っていませんよ?

 ん?今王子がこちらを見たような気がします。前の方と言っても、私の身長だと人込みに隠れてしまいますし、隙間から覗いているだけなので気付かれていませんよね?なんだか爽やかな笑顔が一瞬崩れたように見えましたが、気のせいですよね?

 大きな歓声の中を、馬車の一団が通り過ぎると続いて騎士団が歩いてきます。それぞれの隊で隊列を組み、団旗を掲げながら一糸乱れぬ足取りで進んでいきます。時折、中にまぎれた魔術師が魔術で観客を沸かせています。

 それらが通り過ぎると、歓声は徐々に街の方へと移って行きました。

 ここにいた観客はそれぞれに感想を言いながら、歓声を追いかけるように街の方へと移動し始めます。

 わたしもその流れに乗って帰路につきました。

 なんとなくもやもやしたものを胸に感じながら、今日の夕食は何を作ろうかと考えます。


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