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072 ガラムさんのお願い

「ここがそうですか…」

 王都から北東に5日ほど離れた場所にある、エルレス山の中腹のすでに廃棄された坑道入口。

 今、わたし達はその前に立っていました。

 事の始まりは10日前程の事でした。


「嬢ちゃん、ちょっと頼みがあるんだが…」

 その日の夕方、珍しくガラムさんがわたしの家にやってきました。

 そして言い辛そうに、この話を切り出したのです。

「嬢ちゃんはエウレス山って知っているか?ここから北東に馬車で5日ほど行った所にあるんだが…」

「えっと…、一応は知っていますが、確かその山には今は閉鎖された坑道がありましたよね?しかしあの山には今は魔物や動物が住みついていて、坑道の跡地も魔物の巣窟になっているとか…」

 知識から拾い出してみると、その坑道は今から50年近く前に閉鎖されたはずです。かつては金や珍しい鉱石が発掘され、その麓の街は随分とにぎわっていた、とあります。

 しかし産出量が減り、坑道が閉鎖されるとしばらくして魔物が住みつき、残った鉱石を求めた冒険者が何人も挑戦し、帰らぬ人となったはずです。その話が25年前でしたが、今ではどうなっているのかはわかりません。まあ、ガラムさんの様子だと変わり映えしていない様ですが…。

「ああ…。実はな、どうしてもそこで採れる鉱石が必要なんだ。少し前からギルドに依頼を出してはいるんだが、いまだに誰も受けてくれるやつがいねぇ。そこで、だ。嬢ちゃんならいけるんじゃないかと思ってな。なんせ、神器持ちの竜殺しだろ?ランクこそBだが、俺は今いる冒険者の中でも最強に近いと思っているぜ?」

 え…?どうしてそれを…?ギルドでも緘口令が敷かれていますし、わたしも誰にも言っていないはずなのに…。

「俺にも色々とツテはあるんだよ。大丈夫だ、このことは誰にも言っていない。まあ、一部の人間は知っていることだけどな」

「どうしてわたしが思ったことを…」

「嬢ちゃんの顔を見てりゃすぐにわかるさ。まあ、そんなわけで嬢ちゃんに頼みたいんだが、受けてくれないだろうか?ああ、もちろん、内容が内容だけに、もしも無理そうなら引き返してもらってもかまわねぇ。俺だって命は惜しいからな。その時も依頼の失敗でマイナスにならないように話はつけとくからよ」

 ふむ…、行くだけでもいいのなら行ってみてもかまいませんが…。

「でも、どうしてその鉱石が必要なんですか?それにわざわざ自分で採りに行かなくても、鉱石自体は買えるはずでは?そこまでの危険を冒してまで採りに行く必要があるとは思えませんが…」

 確か、その鉱石は他の場所でも採れたはずです。例えば北の国とか…。って北の国?

「ああ、嬢ちゃんが考えた通りだ。鉱石自体はこの国でも採れるが、産出量がかなり少ねぇ。今まではほとんどが輸入、その大部分は北の国からの物だ。しかしここのとこ、北の国が輸出を止めちまっている。そのおかげで今この国にある鉱石が大幅に値を上げていて、とてもじゃないがそう簡単に買えなくなっちまっているんだ。量自体もほとんど出回っていないしな…。おかげで必要な量を買おうとすれば、とんでもない値段がかかっちまうし、とてもじゃないが期間が足りねぇ。だから危険とわかっていても、あの山に託すしかねえんだ」

 なるほど…。それで廃棄された坑道ですか。確かに、廃棄されたと言っても採算が合わなくなって廃棄されただけで、枯渇して廃棄されたわけでは無かったですしね。

 ちなみに、北の国とは高橋さんが召喚されたという、ソウティンス国のことです。今まで輸出をしていた物を止めてしまうとは、なにやらきな臭いですね…。

「それと、俺がその鉱石を欲しがっている理由だが…。今度の新年祭で行われる品評会に出す武器を作るためだ。今までなら鉄で作った武器でもよかったんだが、今度の品評会ではちょっとあってな。絶対に負けられねえ相手がいるんだ。そのためには、あの鉱石がどうしても必要なんだ。だから頼む。俺をあの山に連れて行ってくれねえか?」

 うーん、まあ行くのは構わないですけど…。それに危なそうなら引き返してもいいと言っていますし…。いえ、危ないのはわかっているんですが。

「とりあえず内容を確認してみますね?まず依頼としては、ガラムさんを護衛してエウレス山の坑道に連れて行くこと。その奥で鉱石を発掘して戻って来る。発掘はガラムさんがするんですよね?わたしはその間、周囲の警戒と外敵の排除をすればいいんですね?そして途中で奥に進むのが無理そうだと判断した時は、そこで引き返してもいい、と」

「ああ、その通りだ。もちろん、必要な物は俺の方でも用意するし、仮に途中で引き返しても半額は報酬として支払おう。嬢ちゃんが最後の頼みなんだ。もしもこのまま普通の鉄で品評会に参加してあいつに負けるなんてことになったら、俺は悔やんでも悔やみきれねぇ…。頼む…」

「はぁ…。わかりましたから、頭を上げて下さい。いいですよ、ガラムさんにはお世話になっていますし、引き受けます。ですが、無理だと思った時には目的地が目の前でも引き返しますからね?」

「本当か!?恩に着る!」

「それで、いつ出発するんですか?片道で5日なら、それほど時間もありませんよね?ガラムさんが武器を作るのにどれくらいかかるのかわかりませんが…。確かエウレス山の中腹は、雪が降るのが例年だと11月の終わりごろでしたよね?さすがに雪が降り始めると、登るのは無理になりますよ?」

 まあ、魔術を使えば多少の雪なら何とかなりますが、それだと目的地に着いたころには動けなくなりそうですしね…。

「今が11月の6日だろ?準備と下調べも必要だから、出発は4日後でどうだ?それなら雪が降り始める前に戻ってこれるだろ。その間に嬢ちゃんも必要な準備を整えてくれ。馬車も俺が準備しておくから、4日後の3の刻に東門前の停車場に来てくれ。ああ、ギルドに行って依頼も受けておいてくれよ?」

 そう言って、依頼を受けたことがよほど嬉しかったのか、跳ねるようにしてガラムさんは帰って行きました。


 それから防寒具や必要そうな物を買い、山登りの準備もして出発しました。

 ガラムさんの借りた馬車で揺られること5日、エウレス山の麓にある街で一泊し、次の日の朝早くに山登りを始めて約1日。ようやく目的の坑道の入口に辿り着いたのですが…。

「やけに獣が多かったですね…。やはり冬が目の前ですから、どの獣も餓えていたのでしょうか?」

 幸い、魔物には遭遇しませんでしたが、獣の多いこと…。熊や狼に襲われること10回以上。全部倒しましたが、そのせいで半日あれば辿り着けるはずの距離が、1日かかってしまいました。

「あー、まあ無事だったんだからよかったじゃねぇか…。さすがに狼40匹以上に囲まれた時は、俺もびびっちまったけどな。それを簡単に倒しちまうんだから、さすが竜殺しだな」

 簡単に言ってくれますね…。まあ、固まってくれていたおかげで、範囲魔術一発で半数が戦闘不能になったおかげでもありますが…。

「とりあえず、今日はここで野営ですね。向こうによさそうな洞穴があります。あそこで休みましょう」

 坑道の入口から少し離れた場所に、小さな洞穴が見えます。深さは……5mくらいでしょうか?高さは3m近くあり、夜露を凌ぐには十分な広さです。

 わたし達はそこで野営をすることにし、それぞれ必要な準備に取り掛かりました。

 わたしが薪拾いと結界等の魔術、そして料理。ガラムさんが寝床の確保と竈作りです。わたしのほうが仕事量が多いように見えますが、適材適所なので仕方がありません。一応の護衛対象であるガラムさんに魔物や獣がいるかもしれない中での薪拾いはさせられませんし、ガラムさんは魔術を使えません。それに料理もガラムさんに任せるよりは、私がやるほうがおいしく出来上がります。ええ、仕方がないんですよ…。

 とっぷりと日が暮れた中、薪を集めて火を熾します。ガラムさんが火を熾している間に、わたしは結界と警報の魔術を用意します。それが終われば料理です。

 ちなみに結界の魔術は同じような効果のある結界の魔具もありますが、この辺りの魔物はレベルが高いと言う話なので魔術を使います。同じ効果の魔具と魔術では、術者の能力にもよりますが基本的には魔術の方が高い効果を発揮します。

 まあ、結界と警報の魔術でも絶対に安全というわけでもないので、二人で交代で見張りをすることになるのですが。

 夕食を摂った後、最初の見張りをガラムさんに任せてさっさと寝ることにしました。

 慣れない山登りで疲れた身体は、すぐに睡眠を誘いました。


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