表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/149

071 おまけの試作品、その後

「う…、うにゅ…」

 なんでしょうか、頭がぼーっとします。

「あら、気がついたようですわ」

「ん、んぅ…」

 誰かの声がします…。

「まだ寝ぼけているのね?可愛らしいわ」

 なんだか温かいです…。

「……サクラ、くすぐったいのだが…」

「いいじゃありませんか。それだけセドリム殿下に気を許されている証拠ですわ」

「いや、この体勢は私も恥ずかしいのだが…。それに少し足が痺れてきた」

 誰ですか?人の頭の上で話をしているのは…。

 重い瞼を上げて、ぼんやりとした目で頭上を見ると、青い瞳と目が合いました。

「……あれ?王子…?」

 やたら近い距離に、王子の顔があります。

「やっと起きたか。気分はどうだ?」

 え?気分…?

「おはようございます。気分は……なんだかすっきりしています」

「それは良かった。ところで、気分が悪くないならそろそろ降りてほしいのだが…」

「え?降りる…?」

 何からでしょう?

 ゆっくりと視線を下におろします。

 …。

 もう一度視線を上げて行きます。

 …。

「えええ!?どうして!?なんで王子の膝の上に乗っているんですか!!?」

 そう、わたしは王子の膝の上に、いわゆる横抱きの膝抱っこの体勢で座っていたのです。

「こら、暴れるな!落ちるだろう!?とりあえず落ち着け!」

 え?えええ!?

 どうして抱き締めるんですか!?

 うわ、顔が熱いです!きっと今のわたしは顔が真っ赤になっています!

「ほら、まずは落ち着け。落ち着いたらゆっくり降りろ」

 え?いや、確かに焦って暴れましたけど!でもだからと言って抱き締める必要は無いんじゃないでしょうか!?

「にゃ~」

 ほら、エルもそうだって…。あれ?エル?

「にゃ~」

「どうしてエルがここに?」

 いきなり現れた飼い猫に、わたしは慌てて王子の膝から降りました。

「あらあら、振られましたわね」

「猫に負けたな」

「情けないな」

 外野が何か言っていますが、とりあえずエルの確保が優先です。

 とことこと寄ってきたエルを捕まえ、抱き抱えました。

「こんなに葉っぱをつけて、どこを通って入って来たんですか?」

 エルの毛には何かの葉っぱがくっついていました。恐らくはこの庭に入ってくるときに付けた物でしょう。

 それを払っていると、すぐ傍からアリア王女の声がしました。

「サクラちゃん、その猫は?」

 いつの間にか傍に来ていたアリア王女が、なにかキラキラとした目でエルを見ています。

「1月ほど前に拾ったんです。何故か懐かれてしまったので、うちで飼っているんです。エルと言います。とても賢いんですよ」

 エルを紹介すると、アリア王女が興奮したように身を乗り出してきました。

 心なしか、息も荒い気がします。

「エルちゃんというのね?あの、触っても…?」

「にゃ~」

 その様子に苦笑しながら、アリア王女の方にエルを差し出します。

「いいと思いますよ?エルもいいと言っているみたいですし。でも抱くのはやめておいた方がいいと思います。少し汚れていますし、抜け毛も増えてきていますので」

 そう言うと、恐る恐るといった感じでアリア王女の手がエルに伸びました。

「……ふわふわでもふもふですわ…。ああ、幸せ…」

 あれ?アリア王女?顔が崩れていますよ?せっかくの美人さんが台無しになっていますよ?

「やっぱり我慢できませんわ!」

 あ、と思う間もなく、エルがわたしの手から奪われてアリア王女の胸に抱かれました。

「に~!」

 いきなりの事に焦ったのか、エルがバタバタと暴れ始めます。

「駄目です!エル、耐えて下さい!夕飯に鰹節をつけますから!!」

 わたしの声が届いたのか、エルは暴れるのをやめて大人しくなりました。さすがに暴れて爪でも立てたら大変ですしね。

 しかしアリア王女の大きな胸に埋まって苦しいのか、前足はまだ動いています。しかし前足で叩かれた胸は、その衝撃を吸収して弾んでいました。

 ……くっ、羨ましくなんてありませんから…!


 しばらくすると満足したのか、アリア王女がエルを解放しました。

 なんだかぐったりしていますけど…。

 わたしは受け取ったエルを椅子の上で膝に抱きなおしました。

「お疲れ様です。よく耐えてくれました。ですが大分汚れているので帰ったらお風呂ですよ?」

「に~…」

「駄目です。お風呂が嫌なら汚れないようにしてください」

「に~…」


 暴れて疲れたのか、エルが膝の上で丸まったところで、エルの乱入によって忘れていたことを思い出しました。

「……あの、ところでどうしてわたしは王子の膝の上にいたのでしょうか…?」

 出来ればそのまま忘れておきたいことですが、どうしてあんな状況になっていたかだけは確認しておかなければなりません。

 しかしわたしの恥をしのんだ質問に、なぜかみんなは妙な笑顔をしていました。

「サクラ、お前は最後のゼリーで酔っ払ったんだ。最後の実を食べた直後にそのまま寝てしまった」

 妙な空気の中、王子が顔をしかめながら言いました。

「あ、そうなのですか…。あれ?でもそれだとわたしが眠っただけで、どうしてあんな状態になったのかがわかりませんよね?」

 うん、酔っ払って寝てしまったとしても、どうして王子の膝の上にいたのかの説明にはなっていませんよね?

「うふふ、セドリム兄様ったら肝心なところを言わないのですから…。わたくしが説明して差し上げますわ。サクラちゃんは最後のゼリーを食べていて酔っ払ったのですが、セドリム兄様が止めるのを聞かずに残った実を食べようとしたのですわ。そこでセドリム兄様が実を指で摘まんで取り上げたのですが…。うふ、サクラちゃんたらセドリム兄様の手を掴んで摘まんでいた指ごと口に入れたんですの。それはもう、見ているこちらが恥ずかしくなるほど濃厚に舐めて…。そのときのセドリム兄様ったら顔を真っ赤にして固まってしまって…。ああ、思い出すだけでも笑いが…。ああ、ごめんなさい。その直後にサクラちゃんは眠ってしまったのですが…」

 ええ!?いくら酔っていたからって、何しているんですか、わたしは!王子の指ごとって、ええ!?しかも舐めたって…!

 ぼんやりとした記憶と、アリア王女に告げられた事実にわたしが悶えていると、追い打ちをかけるように新たな事実が告げられた。

「眠ってしまったサクラちゃんを客室に運ぼうとしたのですが、サクラちゃんがセドリム兄様の手を離さなくて…。それでセドリム兄様に運んでもらおうとしたのですけれど、セドリム兄様が客室に運ぶのは嫌だと仰られるし、どうしようかと思っていたらサクラちゃんがセドリム兄様の胸にしがみついたのですわ。客室にも運べないので仕方なく、そのままセドリム兄様の膝で寝かせることにしましたの」

 なんということを!意識が無い間、私は何をしていたんですか!?

「そ、それでわたしはどれくらい眠っていたのでしょうか…?」

「半刻と少し、といったところでしょうか?うふふ、可愛かったですわ~。セドリム兄様の胸に顔を押し付けて、時折甘えるように頬ずりまでして…」

 いやぁぁぁぁぁ!!1時間以上もそんな羞恥プレイをしていたんですか!今すぐに眠っていたわたしを叩き起こしてやりたいです!いえ、それよりも原因となったゼリーを食べる前に戻りたいです!!

「どうして客室に運んでくれなかったんですか!?」

 八つ当たりだとわかっていますが、王子に怒鳴ってしまいます。客室に運んでくれていたら、少なくとも恥ずかしい姿を1時間以上も見られることがなかったはずなのに…。

「サクラ、忘れたのか?お前が酔った状態でベッドに寝るとどうなっていたか…」

 うっ、それを言われると…。

「で、でも寝かせてすぐに離れてくれれば…!」

「今までだってそうしようとしたが、離れようとするとそのままベッドに引きずりこんだだろう?それに今回はアルコールの量が少なかったからな。すぐに目が覚めると思ったのだ」

 うう、何も言い返せません…。

「それで、どうしてサクラちゃんはセドリム兄様にしがみついたのかしら?他の者が引き離そうとしても離しませんし、胸に頬ずりまでして…。ねえ、どうしてかしら?」

「え?ええっと…。きっとあれですよ、王子の事はよく知っていますし…。あ、ほら!きっと王子の胸が収まりが良かったんですよ。身長差もありますし!」

「へぇ?そういえば先程も言っていましたわね。今までも何度かセドリム兄様の胸で眠ったことがあるのかしら?でないと、収まりがいいとかわかりませんものねぇ?」

 ああ!なにか不味いことを口走った気がします!

 だ、誰かアリア王女を止めて……ってみんなニヤニヤしています!ここに味方はいないのですか!?

 ちょっと、誰か助けて下さい!!


 教訓:たとえ少しでも、アルコールには気をつけようと思いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ