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069 お菓子とお茶会

 翌朝、朝食も済ませてゼリーも箱に詰めたわたしは、ある事で悩んでいました。

「どうやって持っていきましょう…?」

 ケーキが二箱、アップルパイが3箱。コンポートやスイートポテト、それにゼリーの入った箱が並んでいます。

「……リュックでは、崩れますよね?」

 魔具のリュックだと全部入れることはできますが、リュックの中で崩れてしまってはどうしようもありません。一応、リュックの中は詰め込んでも潰れることは無いのですが、揺れは別物です。一番いいのは手で持って運ぶことですが、家から城までは距離がありますし、これだけの数だと結構な時間もかかります。

 しかしその悩みはすぐに解決されました。

「はーい」

 玄関から来客を告げる声がしました。

 出てみると、元・自称勇者の高橋さんがいました。

「エドウィル王子殿下から迎えに行くように言われた。荷物が多いだろうから、馬車に乗せて運ぶようにって」

 おお、意外と気がきくじゃないですか。

 エドウィル王子の好意に甘えて、全て馬車に積み込むことにしました。

「出来るだけ揺らさないでくださいよ?潰れちゃうと終わりなんですから」

 高橋さんに注意しつつ、順番に箱を馬車に積み込んでいきます。

 特にケーキは慎重に運ぶ。他の箱は多少揺れても大丈夫なようにしていますが、ケーキだけはまずいのです。

 全ての箱を積み込むと、馬車に乗ってお城へと移動します。もちろん、ケーキの箱はわたしと高橋さんの膝の上です。

 時折揺れつつ、王都の舗装された石畳を馬車が走っていきます。


 お城に着くと、エドウィル王子が直々に出迎えてくれました。セドリム王子もくっついていましたが。

 挨拶もほどほどにして、お菓子の箱を降ろします。持って行くのは厨房だそうです。そこで一時保管をして、お茶の時間に出すそうです。

 エドウィル王子の婚約者は、お昼過ぎに着くと連絡があったそうです。

 ……ならお昼前に納品でもよかったんじゃないでしょうか?

 そう思いましたが、依頼を出した時には何時に着くかなんてわからなかったのだろうと納得しておきます。

 王子達にも手伝わせて、全ての箱を厨房へ運びこみました。

「なあ、何を作ったんだ?」

 気になるのでしょうけど、それは見てのお楽しみです。

「食べるときにはわかりますよ。それも楽しみ方の一つです」

 そう言ってはぐらかしておきます。

 納品も終わったので帰ろうとすると、エドウィル王子に引き留められました。

「ふっ、まだお前を帰すわけにはいかん。茶の時間まで付き合ってもらうぞ」

 なんですと?どうしてわたしが王族の、しかも他国のお姫様までいるお茶会に出なければいけないのですか!?

「ふっ、理由はある。姫が菓子の事を聞いた時に説明できる者がいないだろう?それでは困るのだ」

 む、どうしてわたしが嫌がったことが分かったのでしょうか?

「ふっ、お前はすぐに顔に出るからな。考えていることなんてすぐにわかるさ」

 むぅ、それは今までも言われましたが…。そんなに顔に出ていますかね?

「ふっ、そう言うことだからこのまま城にいろ。茶が終わらんと依頼が完了したと認めんからな」

 うわっ、依頼を盾に取るなんて卑怯です!依頼はお菓子を作るだけだったじゃないですか!

「文句があるなら聞いてやるぞ?ただし聞くだけだがな」

 むきー!エドウィル王子の分だけ何か混ぜてやりましょうか!?

「そんなことをしたら、お前の分と交換させるからな」

 くぅ、悔しい!もうパンも作ってやるものか!


 仕方なくお城にとどまり、ゆったりと時間を過ごします。

 と言ってもシフォンさんとお話していただけですけどね。

 アリア王女や王妃様はお姫様のお迎えで忙しいらしいです。

 シフォンさんは担当の客室ではないそうなのでそれほど忙しくないそうです。というよりも、今わたしがその客室にいるからなんですが…。

 しかしこんなことになるならクッキーでも持ってくればよかったですね…。


 お昼を跨いで5時間以上待ち、ようやくお呼び出しがかかりました。

 案内に従ってお茶会の会場(?)へと移動します。

 会場は庭で、周囲には薔薇でしょうか?生垣のような物が作られていて、大きめのテーブルが真ん中に置いてありました。

 そして席にはすでに何人かの人がいました。

 王様、王妃様、王子、アリア王女の4人です。わたしで5人目。後はエドウィル王子とお姫様と…?

 首をかしげながら勧められた席へと座ります。

 ……あれ?わたしって説明役でしたよね?どうして席に座るのですか?

 首をかしげていると、エドウィル王子がやってきました。隣には女の人が一緒です。手を取っているのであの人が婚約者なのでしょう。

 王様たちが立ち上がったので、わたしも席を立ちます。

「お待たせしました。初めて会う方もおられるので俺から紹介します。こちらが俺の婚約者のサンドラ国第二王女のアベリア・アサ・サンドラ王女です」

 エドウィル王子の隣の女性がドレスのスカートを摘まんで挨拶をします。

「アベリア・アサ・サンドラです。よろしくお願いします」

 柔らかそうな青みがかった銀髪の、綺麗な女性です。瞳も青、でしょうか?身長は175cmくらい、胸は……アリア王女と同じくらい大きいんじゃないですか?ケッ、やはり胸で選びやがったんですね。

 わたしがやさぐれている間にも紹介は進んでいたようです。

「……最後に王族ではないが、今回アベリア王女の為に菓子を作ってくれたサクラ・フジノだ」

 おっと、わたしの番でしたか。

「サクラ・フジノです。初めまして、アベリア王女様。この度はこのようなお役目を頂きまして光栄に存じます」

 ふっ、わたしだってまともな受け答えくらいできますよ?……どうしてみんな驚いているんですか?わたしがまともに挨拶をしたらおかしいですか?

「……サクラって礼儀あったのか」

 ヲイ。聞こえましたよ?ぼそっと言ったつもりでしょうけど、隣だから聞こえるんですよ!わたしだって礼儀くらいありますよ。ただ、この国の王族にはそれを表す必要性を感じないだけで…。

 あのお姫様は外国の方ですし、すごくまともそうじゃないですか。性格もよさそうだし、どこかの王族みたいに人を振り回すばかりじゃなさそうですし。

 ……しかしその考えはすぐに消えました。

「まあ、このような小さな子供がお菓子を?まあまあ、なんて素敵なんでしょう。私、とても歓迎されていますのね」

 両手を胸の前で合わせながら、喜びを表現するお姫様。

 今小さな子供と言いましたね?ちょっと、エドウィル王子?笑っていないでちゃんと言ってくださいよ!

「くくっ、アベリア王女、彼女はああ見えて15歳です。それにとても料理が上手なんですよ。今日の菓子も期待してください。それに…」

 ん?あれ?どうしてこそこそと耳打ちなんてしているんですか?しかもチラチラとこちらを見て…。気になるじゃないですか。

「まあ、そうでしたの?ごめんなさい。ですが先程のお話が本当なら、いずれは私の義妹になるかもしれないのですね?楽しみです」

 は?何を言っているんですか?妹?どこからそんな話が…?

「ふっ、気にするな。それよりも席に着こう。おい、用意を頼む」

 いや、気にするなと言われても…。

 しかし考える前にメイドさん達によってすぐにお茶の準備が進められます。

 そしてテーブルの傍には大きな箱が置かれました。

「それではサクラ、菓子を出してくれ」

「え?わたしがですか!?」

 そんな話聞いていませんよ!?お菓子の説明だけのはずじゃなかったんですか?

 しかしここでそんな議論はできません。仕方なくわたしは席を立ち、傍に置かれている箱からアップルパイの箱を取り出してテーブルへ置きました。

「まず1つ目はアップルパイです。今の季節はリンゴが美味しいので、それを楽しめるように工夫してみました」

 取り分けはメイドさん?給仕?わかりませんけど他の人にお任せします。

 ……だってわたしじゃ、テーブルの奥に届きませんので…。

 全部大きすぎるテーブルが悪いんですよ。

 それぞれにアップルパイが行き渡ると、わたしは自分の席に戻ります。

 っていうか、わたしがいちいち席を立つ意味があるんでしょうか?

「美味しい!」

 もう食べていますよ!?ちょっと、毒見は!?いや、毒なんて入れていませんけども!

 もしかしてこのお姫様もここの王族と同じ種類ですか!?

 ねぇ、他の人も気にしないのですか!?ああ、みんなもう手を出しているし!

「美味いな」

「美味しいですわ」

 ええ、有難うございます!もう何も言いませんよ!?

「これは……どうやって作ったのか説明してくれるか?」

 はいはい、お仕事ですね。

「このアップルパイはフィリングにリンゴの水分を飛ばし、砂糖や蜂蜜などで煮詰めたものを使っています。それとは別に、食感を出すためにスライスしたリンゴを焼いてから蜂蜜に浸けた物をパイ生地に包んで焼きました」

 アップルパイは好評のようです。みんなのお皿の上も綺麗になっています。

 エドウィル王子が目線で合図をしてきたので、次の箱をテーブルに置きます。

「綺麗…」

「食べるのがもったいないくらいだな」

「甘い香りがします」

 ふふん、これは自信作ですよ?

「次はケーキです。栗を使っていて、スポンジの間には甘く煮た栗と、栗のムースが挟んであります。上面にもムースを重ねていて、栗の香りと甘さを味わってください」

 それぞれがケーキを口に運びます。

 ちょっとドキドキです。

「……美味しい」

 女性陣には好評のようです。

「うむ、美味いのだが……もう少し甘くないほうがいいな」

「1つならいいが、それ以上となると少しきついな」

 むぅ、男性陣には少し受けが悪いようですね。美味しいと思うのですが…。

「スイートポテトです。シンプルですが、サツマイモの美味しさが楽しめると思います」

「しっとりしているのに滑らかで、とても甘い…」

「いくらでも食べられそうですわ」

「ふむ、甘いがこれなら大丈夫だな」

 このくらいなら男性陣も大丈夫なんでしょうか?

「梨のコンポートです。ワインの仄かな香りと梨の甘みが感じられると思います。お酒にも合いますよ」

「本当、ワインの香りがします」

「これは…、酒を飲みたくなるな」

「うむ、ワインの摘まみによさそうだ」

 男性陣にはこれが一番好評みたいですね。

「最後に葡萄のゼリーです。甘く煮た葡萄を使っていますが、葡萄の風味と食感が楽しめると思います」

 ゼリーだけはカクテルグラスのようなものに入れてある。

「葡萄の酸っぱさがなくて甘いですわ」

「あっさりしているのに美味しいです」

「葡萄の香りもしていて、これならいくらでも食べれそうだ」

 むう、一番自信作のケーキよりもコンポートやゼリーの方が評価が高いってどういうことですか?やはりお菓子に関しては女性と男性では相容れないものなのでしょうか?


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