006 初めての××
ソビュール王国の王都、ソビュレムから東に1日ほど離れた森の中。
鬱蒼と茂った森の中の開けた場所、泉のそばの広場で、普段は静かなこの広場が今は剣戟と怒声に包まれている。
「オラァ!」「セヤッ!」「ウリャァ!」
身なりの整った、揃いの金属鎧をつけたグループと身なりの悪い、武器や防具も不揃いのグループが入り乱れて戦っている。
どうやら王国の騎士団と盗賊のグループが戦っているようだ。
「ハッ」
ズシャッ!
「降伏しろ!今なら命までは奪わん!」
騎士団の中で一番身なりの良さそうな男が声を張り上げる。
「ふんっ、馬鹿にするなよ、小僧が!全員殺してくれるわ!」
盗賊の中でも一番大柄な、大剣を持った男がそれに答える。
「ならば殲滅するまで!」
先ほどの騎士の男が叫びながら、手近な盗賊を斬り伏せる。
数は騎士団が15、盗賊が25ほどか。実力では騎士団が有利に見える。
実際、盗賊のほうが押され気味で大剣の盗賊も少し焦った雰囲気が見て取れる。
「そいつだ!その金髪の男を狙え!」
大剣の盗賊が降伏を呼び掛けてきた騎士の男を指し、その騎士がリーダーとみて部下に指示を送る。
その指示を聞いた数人の盗賊が一気に金髪の騎士に群がる。
「貴様らが何人来ても変わらん!」
金髪の騎士は向かってきた盗賊を一人、また一人と斬り伏せる。
金髪の騎士が後ろを向いた瞬間に一本の矢が飛んできて金髪の騎士の左腕をかすめた。
「クッ」
傷は大したことはないが、一瞬だけ騎士の動きが止まる。
そこに盗賊の一人が斬りかかり、とっさに金髪の騎士はそれを正面から剣で受け止めた。
「もらったぁ!!」
大剣の盗賊が金髪の騎士の背後から斬りかかる。
「「王子!」」
周囲の騎士がとっさに声を上げた。その時、大剣の盗賊の頭上から何かが落ちてきた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゴスッ!ドサッ!
わたしは悲鳴を上げながら光に包まれたと思った瞬間、どこかに放り出されました。と思ったらお尻から何かにぶつかり、そのまま地面に放り出されたようです。
「いたた…、なんですか、もう!」
お尻が割れそうですよ、全く。
痛むお尻をさすりながら周りを見渡すと、何やら注目を浴びています。
突然現れたわたしに驚いてるように見受けられますね。
剣でしょうか、両刃の直刀・・・ロングソードでしょうか。
それを持った金属鎧を着た男数人と身なりの悪い革鎧?をつけた男が武器をぶつけ合った体勢で固まっています。なんでしょう?コスプレですか?
状況を把握しようと見渡していると、すぐそばで倒れていた男から声をかけられました。
「なんだこのガキ。どこから現れやがった?」
そばで倒れていた男は大剣を構えてこちらを睨みつけてきました。
ガキ呼ばわりに少しムカっときたわたしは無言で大剣の男を睨みかえします。
それと同時に止まっていた周りの男たちも気を取り直したように動き始めました。
キンッ ガキッ ドガッ ザシュッ
どうやら二つのグループに分かれて争っていたようです。
身なりのいい、金属鎧をつけた集団がさしずめ騎士団で、身なりの悪いほうは盗賊といったところですか。
地面に身なりの悪い男が数人、倒れているのが目に入ります。
「ガキが!邪魔すんならお前も殺してやる!」
大剣の男が武器を振りかざしながらこちらに向かってきます。
いきなり修羅場ですね、状況把握もまだだというのに。
とりあえずガキ呼ばわりがムカつくのでこの男を黙らせましょう。
武器を用意する余裕はないので素手で意識を奪うとします。師匠の教えが役に立つ時が来るとは・・・。
向かってくる男にタイミングを合わせて踏み込みます。
右足を踏みこみながら体重を乗せ、肘を鳩尾に……と思ったら肘が届きません。主に身長の理由とかで。
でかすぎでしょう、2mあるんじゃないですか、もう。
仕方ないので鳩尾はあきらめ、下腹部、臍の下あたりに肘を打ち込みます。
体重を乗せたカウンターに加え、師匠直伝の気功とやらも組み込みます。
当たるとかなり効くらしいです。
大剣の男が思わず身体をくの字に折り曲げたところに体のひねりを効かせたハイキックを首筋に打ち込みます。これも気功乗せです。気功使えますね、意外と。
男の体がぐらりと傾きます。
これで意識は刈ったはずです。
「頭っ!」
盗賊っぽいグループから声が上がります。
改めて周囲を確認しようと周りに目を向けたところで何かに身体が引っ張られました。
とっさに確認したところ、意識を刈った筈の大剣の男の手がわたしの着ていたサマーセーター(わたしの服装は学校指定の半袖のブラウスの上にサマーセーター、下は膝までのスカートにスパッツを穿いています。なので先ほどのハイキックでもぱんつは見えていません)を掴んでいました。
男の意識は無いようですので無意識でしょうか、油断しました。
さすがに組み合った状態での体格差はどうしようもありません。
男に引っ張られるまま倒れ込みますが、倒れながら男の手を払います。
「よくも頭をっ!」
盗賊の一人がわたしに向かって剣を振りかざして突っ込んできます。
わたしはまだ体勢が整っていません。頭と呼ばれた男の手がしつこいのです。変態め。
迎撃態勢は整っていませんが仕方ありません。
相手の攻撃に合わせてできる限り引きつけてから、一歩踏み込みます。
本来ならそのまま攻撃して気絶させたいのですが、掴まれたサマーセーターが邪魔でうまく距離を調整できません。
なので被害を最小にするために、あえて左手で剣を受けます。
剣の根元を押さえることで、威力を殺す受け方です。
そして攻撃が止まったところにミドルキックを叩き込みます。
しかしこれは距離が詰め切れず、空振りになりました。面倒ですね。
盗賊はそのまま横に払うように斬りつけてきました。
わたしは思いっきり後ろに飛んで避けようとします。服を掴まれていますが。
勢いよく後ろに下がったことで頭の手はわたしの服から外れました。
これで自由の身です。
しかしながら、勢いよく下がり過ぎたせいで思わぬ不幸が訪れました。
そう、この場所は「森の中のひらけた場所、泉のそばの広場」です。
つまりどうなったかというと…。
ズルッ…!バシャーン!
勢いよく下がった位置は崖っぷちならぬ泉の淵、そこに勢いよく着地したものだから足場が崩れてそのまま泉へ落ちました。想定外です。
なんとか泉から顔を出し、岸へ這い上がろうとするわたし。
そこに剣を振りかぶって襲い来る盗賊。
ヤバイ、ピンチです。
さすがにこんな状況では回避は難しいです。
しかしこの場には勢力はっわたし、盗賊、騎士団の3つ。
そして敵対はわたし、騎士団vs盗賊であってわたしと騎士団は敵対はしていません。
なのでこうなりました。
「セイヤッ!」
金髪の騎士の人がいつの間にか近寄っていて、わたしに攻撃しようとしていた盗賊に斬りつけます。
盗賊はわたししか見ていなかったようで、金髪の騎士の攻撃には対応ができませんでした。
つまりわたしは助かったようです。
泉から顔を出し、岸にしがみついた状態で広場を見渡すと、どうやら決着はついたようです。
立っている盗賊はいないようです。倒れてる騎士もいないようです。騎士強し。
「大丈夫か?」
声に見上げると金髪の騎士がこちらを見下ろし、手を出しています。
どうやら引き上げてくれるようです。
わたしは好意を受け取り、騎士の手を掴んで引っ張りあげてもらいます。
上から下までびしょ濡れです。
早く着替えたいですね。風邪ひいちゃいます。
「先程は危ないところを助かった。礼を言う」
金髪の騎士はそう言ってほほ笑みかけてきました。
美形ですね、しかもでかいし。180cmくらいでしょうか、目線を合わせようとすると見上げなくてはいけません。ぺっ。
内面の気持ちは表に出さず、わたしは無難に答えておきます。
「いえ、こちらこそ危ないところを助けていただきました」
首が疲れますね。
ところでここはどこなんでしょうか、いきなりの戦闘シーンで状況把握ができません。
目の前の騎士にでも聞いてみましょうか。
「あの「そう言えば君はどこから来たんだ?いきなり空中から現れたように見えたが…。君は魔導師なのか?」
こちらの質問を遮られました。
とりあえず無難に答えておきましょう。
少なくとも騎士の印象を悪くするよりは良くしたほうがメリットが多いはずです。
「いえ、わたしもなぜこのような場所にいるのか、そもそもここがどこかもわかりません。あと、わたしは魔導師ではありません」
とりあえず答えられる範囲で答えておきましょう。
ついでに状況確認だけはしておいたほうが良いようです。
「あの、いきなりこのような場に居合わせてしまい、状況がよくわからずにいます。どういった状況だったのでしょうか?」
「私達はこの国の騎士団で盗賊の討伐の最中だった。やつらは最近この周囲の街道を荒らしていた盗賊団でな、その討伐命令が下ってここで交戦中だったわけだ」
金髪の騎士はそういって周囲を見回しました。
わたしもつられて見回すと、すでに死んでいる盗賊はひとまとめに固められ、まだ息のある盗賊はロープで縛られていました。ちなみに頭と呼ばれていたわたしが気絶させた盗賊も縛られている最中でした。
「えっと、すいません。できれば今いる場所と近くの街だけでも教えてもらえると助かるのですが」
とりあえず目先の危険は回避できたようですが、このままここにいても何の問題も解決しません。
まずは寝床と安全の確保が最重要項目です。
そのためには目の前の騎士からできるだけ情報を得なければなりません。
「ああ、ここは王都から東に馬で1日ほどの位置にある森だ。ここから一番近いのはラティスの村だが…。そうだな、君みたいな小さな子供を放っておくわけにもいかないし、助けてもらった礼もある。君さえよければ王都まで来てくれないか?悪いようにはしない」
「そうしていただけると助かります。お言葉に甘えさせていただきます」
そう言って頭を下げます。
子供扱いされたのは苛っときますが、ここは我慢です、我慢。
「まずはラティスの村で一泊して、明日王都へ向かおう。傷の手当てもしたほうがいいだろう」
そう言って私の左手を見ました。
忘れてました、わたし剣を手で受けたんでした。
気づくと痛みます。言われなければ痛みとか感じてなかったのに…。
「はい、お世話になります。あ、わたしは藤野 桜です。こちらで言うと桜 藤野になるのでしょうか。名前が桜で家名が藤野です。ちなみに子供じゃありません。15歳です」
いまさらながら自己紹介です。ついでに子供扱いにも苦情です。
「え?15歳…?まさか成人しているとは…。しかしどう見ても7~8歳…」
何やら不穏な言葉が聞こえたような気がしますが・・・。
「何かおっしゃいました?」
「いや、なんでもない。私はこの国の第二皇子でこの騎士団のを率いているセドリム・アル・ソビュールだ。セドリムでいい」
王子だったのですか。道理でキラキラしてると思いました。でかいし。
「できれば道中にでも君のことも詳しく聞かせてほしい。何故ここに現れたのか、どこから来たのか。答えられる範囲でいい」
そう言って移動を促されます。
「わかりました、セドリム王子。わからないことだらけですけど可能な範囲でお答えします」
そう答えて王子の後に続きます。
おっと、忘れるところでした。わたしと一緒に落ちてきた手荷物を回収です。
わたしの唯一の持ち物ですからね。
「それはサクラの持ち物か?」
「ええ、わたしがここに来る前に持っていたものです」
そう答えながら騎士たちが集まっているほうへ歩いて行きます。
これからどうなるんでしょうね、わたし。
しかしソビュール…?聞き覚えのある単語ですね…。