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067 王子、頑張る2

 次の日、私はなるべく昨日のことを思い出さないようにするのが大変だった。

 しかしふとした時間に思い出してしまい、赤面しては周りに首をかしげられた。

 はぁ…。今日はどういう顔をして会えばいいのか…。

 彼女の顔が浮かぶ。

 くりっとした、少し釣り眼気味の黒い瞳。細いが意思の強そうな眉。小さな鼻に可愛らしい唇。小さな顔に行儀よく並んだパーツが、花が綻ぶように私に微笑みかける。

 それを支える細い首に、抱き締めると折れてしまいそうな細い肩。

 その下にはささやかな胸が小さく主張し、左右の中心には…。

 くっ、私は何を考えているんだ!?

 頭を左右に振って浮かんだ姿を消しさる。

「はぁ…」

 今日何度目になるかわからない溜息が出た。

 これではまるで女を知らない少年みたいではないか…。

 私は全てを忘れるように仕事に打ち込んだ。




「……王子、いらっしゃい」

「…ああ」

 しかし時は勝手に流れるものだ。

 今日も夕食の時間が来た。

 気まずい思いをしながら、彼女の家に入る。

 気まずいなら来なければいいという意見もあるが、その選択肢は選べない。この時間がなければ私と彼女の接点はほとんどないに等しいのだから。


 カチャカチャと食器の音だけが響く。

 その空気に耐えられなくなり、私は何とか口を開いた。

「……母上やアリアがまたサクラに会いたいと言っていたぞ。ああ、シフォンもだな」

 よりにもよって出て来た話題がこれとは・・・。

 思わず突っ伏しそうになるのを堪えて食事を続ける。

「王妃様達が?ですが、わたしがそう簡単に王族に会うことはできないしょう?ああ、シフォンさんにはまた遊びに来て下さいと伝えていただけますか?」

 サクラが普通に反応してくれた。これで何とか会話が続けられる。

「ああ、シフォンには伝えておこう。まあ、彼女も忙しいからな。しかし簡単に王族に会えないって、私には会っているじゃないか?」

「王子は別ですよ」

 む、それは私が特別だということか?

 そう考えると心が沸き立つ。サクラも私の事を特別だと考えてくれているのだろうか?

「だって王子は勝手に会いに来るじゃないですか。わたしの方から王族の方を訪ねるのはよっぽどじゃないと無理ですよ」

 ……そういうことか。一瞬でも喜んだ私が馬鹿みたいだ。

「それほど大層な物でもないがな。今回などは母上達の方から会いたいと言っているわけだし…」

「それでも、ですよ。むしろこの国の王族はもっと威厳というものを持つべきです」

「……威厳、無いと思うか?」

「少なくともここで夕食を食べているようでは無いですね」

「……そうか」

 それっきり、会話が途絶えた。

 しかし、昨日のような気まずさは無くなった……と思う。

 今日のところはこれで良しとしよう。勝負は明日だ。




「王子、いらっしゃい」

「ああ、今日も頼む」

 昨日に比べて出迎えにも気まずさがない。

 ……よし、今日はいけるかもしれない。


 夕食を食べながら、どうやって話を切り出そうか考える。

 しかしそのタイミングは向こうの方からやってきた。

「王子、どうしたのですか?さっきからそわそわしてますけど…。美味しくなかったですか?」

 サクラの方から話を振ってくれた。チャンスだ!

「いや、何でもない。料理もいつも通り美味いぞ。ちょっと思い出していたんだ」

 サクラが訝しげに私を見る。

「昨日も言っただろう?母上達が会いたいと言っていたと。王族だから会いにくいなら、その、サクラも王族になれば会いやすくなるのかなと…」

「は?」

 サクラの顔に困惑が浮かぶ。

 よし、このまま言うんだ!

「いや、母上が言っていたんだ。サクラを娘にしたいと。サクラが母上の娘になれば、王族だとか気にすることもなくなるんじゃないか?」

 サクラの顔に浮かぶ困惑の度合いが強くなる。意図を測りかねているようだ。

「それは……わたしに王妃様の養子になれ、ということでしょうか?」

「少し違うが……結果として母上の娘になるということになるかな?」

「……確かにわたしはこの世界に家族はいませんが…。だからといって王族の養子になるのは…」

 む、これだけではうまく伝わらなかったか。

「いや、何も養子になるだけが王族になる手段ではないが…。例えば、その……結婚しても娘と言うことになるだろう?サクラは結婚とかは考えたことは無いのか?15と言えば結婚もできる年齢だろう?」

「結婚、ですか?……考えたこともありませんでしたね。ほら、わたしってこんな容姿じゃないですか?女性としては魅力に欠けると思うのですよね。そんなわたしが結婚なんて無理だと思っていますし。それに今は生活するのに精一杯ですから。ああ、この子もいますしね」

 そう言って足元の猫を見る。

「そんなことはないぞ?サクラは……その、可愛いと思うし、結婚できると思うぞ?」

 手を伸ばしてサクラの手に重ねて言葉を続ける。

 サクラは一瞬、ピクリと反応したが何も言わない。

「それに……いつかは結婚するのだろう?ならば少しくらい早くてもいいのではないか?それに結婚したほうが生活も安定するだろうし…。だから、私なんてど「にゃ~」

 最後の言葉を遮るように鳴き声が聞こえた。

「あら?ああっ!?もう、こんなに汚して…。ああ、これはお風呂に入らないと落ちないじゃないですか」

「に~」

 彼女は私の手をすり抜けて足元の猫の世話をしだした。

「あ、すみません。先程なんて言ったのですか?」

「……いや、大したことではないから気にしないでくれ」

「そうですか?でも……やはりわたしには結婚はまだ考えられません。そういったことを考えるのはもう少し先ですね」

 彼女はそう言って猫の世話を続けた。


 城への帰り道、私は空を見上げた。

 月が夜道を明るく照らしている。

「頑張ったよな…」

 独り言が空へと消える。

 私は大きくため息をついて、城へと足を進めた。




「セドリム、どうなりました?」

 約束の3日が過ぎた次の日、私の執務室に母上がアリアとシフォンを引き連れてやってきた。

「母上…」

「その様子だと何も進展がなかったようですわね?」

 ストレートな言葉に何も言えなくなる。

 言い訳をさせてもらうなら、私はかなり頑張ったと思う。

「やはり3日ではお兄様には無理でしたわね」

「それは最初からわかっていたではありませんか。ここは別の作戦を練るべきです」

「そうですね。次はどのような作戦がいいかしら?」

「殿下に動いていただくのは……やはり失敗の可能性が高いのではないですか?」

「そうですわね…。お母様、シフォン。部屋に戻って新たな作戦を練りますわよ」

 言いたいことだけを言って嵐のように去っていく3人を見送る。

「…もしかして私は遊ばれただけなのか?」

 その事実に気付き、3人が先ほど言っていた「新たな作戦」とやらが自分にも降りかかることを思い、溜息が出た。

「はぁ~…。頼むから放っておいてくれ…」


感想で王子がキモイとか変態とか言われていたので、王子のフォローをと思って書いたのですが…。

あれ?評価がひどくなる気がする。

最後の方、王子頑張ってますよね?


王子のパッシブスキル

 ヘタレ 8/10

 ラッキースケベ 2/10


猫のスキル

 忠誠[パッシブ] 2/10

 護衛[アクティブ] 2/10



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