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062 絆されました

 てくてくてく…。

 とことことこ…。

 てくてくてく…。

 とことことこ…。

 てくてく……ピタ。

 とことこ……ピタ。

 わたしの後ろからついて来ていた足音は、わたしが止まるとピタリと止まりました。

「はぁ…」

 溜息をついて振り返り、わたしの後をつけて来た犯人に視線を向けます。

「にゃ~」

 犯人は行儀よく(?)そこに座り、わたしを見上げて可愛らしい声をあげました。

「どうしてわたしについてくるのですか?」

「にゃ~」

 すみません、何を言っているのかわからないです。

「はぁ~」

 わたしは何度目になるかわからない溜息を、空に向かって吐き出しました。


 そもそも、事の発端は何気ない一コマでした。

 今日も依頼を終えたわたしは、ギルドの報告を終えて買い物に向かう途中でした。

 通りを歩いていると、猫の鳴き声が聞こえたのです。何気なく顔を向けた先に、白地に茶色のぶちのある子猫が蹲っていました。

 近付いてみても逃げる気配もなく、少し様子を窺ってみると、どうやらお腹をすかせていることがわかりました。

 わたしはお昼に持っていったサンドイッチの残りがあったことを思い出し、少し分けてやることにしました。

 子猫は何の警戒もなくサンドイッチにかぶりつき、よほどお腹が減っていたのか、すぐに食べてしまいました。わたしは残りのサンドイッチ(といっても1つだけ)を子猫に与え、食べ終えるのを見てから買い物へと戻ったのですが…。

 てくてくてく…。

 とことことこ…。

 くるり。

「にゃ~」

 てくてくてく…。

 とことことこ…。

 くるり。

「にゃ~」

 なんだか懐かれてしまったようです。困りました…。

「サンドイッチはさっきので最後です。ついてきてももうありませんよ?」

 と言ったところで、わかるはずもありませんよね。

 てくてくてく…。

 とことことこ…。

「だから、ついてこられても困るのですよ」

「にゃ~」

 尻尾がてしてしと地面を叩いています。

 とりあえず、無視していれば諦めるでしょうか?


「これとこれ……あとこれも下さい」

「あいよ。お、猫を飼い始めたのか?」

「にゃ~」


「ベーコンをいつも通りと……ソーセージもお願いします。あ、豚肉も500g貰えますか?」

「わかった、今晩にでも届けるよ。ん?この猫はサクラちゃんのかい?お、ベーコン食べるか?」

「にゃ~」

「ちょっと、猫にあまり味の濃いものは食べさせないでください!」


「すみませーん、ミルクを1リットルください」

「ちょっと待っておくれ…。はいよ。あら、可愛い猫だね。ミルク飲むかい?」

「にゃ~」

「ああ!冷えたままだとお腹壊しますよ!」


「えっと……レタスにトマト、キュウリにピーマンと…」

「お待たせ。ん?猫を飼い始めたのか。何か食べるか?」

「にゃ~」

「玉葱は食べさせちゃだめですよ!」


「ああ、もう!どうしてみんな変な物を与えようとするんですか!?そもそもわたしの飼い猫でもないのに、どうしてわたしが…」

「にゃ~」

 おもわず膝をついてがっくりと項垂れてしまいました。

 てしてし

 地面に着いた手を、何か柔らかいものが叩いています。目を向けると、猫が前足でわたしの手を叩いていました。

「慰めようとしてくれたんですか…?」

「にゃ~」

 もしかして、言葉がわかるのでしょうか?

「どうしてわたしについてくるのですか?」

「にゃ~」

「わたしのことが好きですか?」

「にゃ~」

「嫌いですか?」

「に~」

「わたしの家に来ますか?」

「にゃ~」

「わたしと暮らすなら言うことを聞いてもらいますよ?」

「にゃ~」

 そっと抱きあげてみます。

「ふわふわですね。でも少し汚れています。家に戻ったらお風呂に入りましょう」

「に~」

 てしてし

 お風呂に反応したのか、猫パンチでわたしの腕を叩いています。

「駄目ですよ。一緒に住むなら、言うことを聞いてもらうと言ったじゃないですか」

「に~」

 てしてし

「さぁ、帰りましょうか」

「にゃ~」

「ふふ…」

 思わず口から笑みがこぼれます。

 あれ?いつの間に飼うことに…?これが猫の魔力…?はっ!まさかこれが巷で言うところのニャンデレってやつですか!?


「こら、じっとしなさい」

 ごしごし

「に~」

「もう少しですから……さあ、後は流して…」

「に~」

「ほら、綺麗になりましたよ?後はちゃんと拭けば終わりです」

 がちゃ

 子猫を抱いて脱衣所に出ます。

 ぴょん

「あ、こら!待ちなさい!ちゃんと拭かないと…!きゃっ」

 ぶるぶるぶる

 子猫が身体を震わせて、滴を飛ばしてきました。

 わたしが怯んだ隙に、ドアに飛びついて開けてしまいます。

 ちょっと、子猫のくせに性能が高くないですか?

「にゃ~」

「待ちなさい!あ、王子、その猫を捕まえて下さ……い?」

 え?王子?どうして…?

「あ、サクラ…?えっと、これはその……呼んでも返事もなかったし、ドアも開いていたんで…」

「あ…、それはすみませんでした。お風呂に入っていたので…」

「にゃ~」

「その猫は…?」

「あ、拾ったんです。なんだか懐かれたみたいで…」

「にゃ~」

「そうか…」

「はい…」

「にゃ~」

「それで……そろそろ何かで隠してくれると…。目のやり場に困るのだが…」

 隠す?え?ああ、そういやわたし…。

「……きゃぁぁぁぁぁぁ!!見てないで後ろを向くなりしてくださいよ!」

 慌てて身体を腕で隠し、その場にしゃがみ込みます。

「す、すまん!」

「にゃ~」

 てしてし

 にゃ~じゃないですよ!元はと言えばあなたのせいじゃないですか!!また見られた!王子にまた見られました…!

 その後、脱衣所に戻ってしばらくは出られませんでした。

 そして今日の夕食は凄く気まずい雰囲気だったことも付け加えておきます。

「にゃ~」


にゃ~。

王子のパッシブスキル

 ヘタレ 7/10

 ラッキースケベ 2/10


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