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060 勇者登場

 今日はあのドラゴン討伐から3日後です。今日は冒険者ギルドでドラゴン討伐の報酬を受け取ることと、騎士団でドラゴンから剥いだ素材の代金を受け取る予定です。

 まずは冒険者ギルドに向かいます。

 受付でその旨を伝えて冒険者カードを預けると、先日の応接室へと案内されました。

 そこでドラゴン討伐の報酬が渡されるそうです。

 ちなみに、レッサードラゴンの出現や討伐についてはすでに王都に知れ渡っています。

 まあ、レッサードラゴンの素材をたくさん積んだ荷馬車が王都を走り抜ければ、すぐに知れ渡りますよね。一応、騎士団と協力した冒険者が討伐したことになっているので、わたしの名前は出ていないようです。なので内緒で報酬が渡される、というわけです。


 名前が出ていない理由として、神器の問題もありますが、ドラゴンを倒した冒険者を倒して名を上げようと言う、馬鹿な事を考える輩がいるからだそうです。もちろん、街の中での戦闘はご法度ですし、冒険者同士の戦闘も基本的にはご法度です。基本的に、というのは申請をすれば決闘と言う形での対戦は可能ということです。まあ、それも殺し合いではなく模擬戦と言う形で、ですが。特にわたしのような低ランクの冒険者だと、そういった輩は増えるだろう、ということで名前を出さないのだそうです。


 ドン!

 目の前に座ったアイリさんが、中身の詰まった革袋をテーブルに置きます。

「ギルドマスター不在の為、私が代わりに担当させていただきます。これがドラゴン討伐の報酬です。それと、冒険者カードをお返ししますね」

 そう言って渡されたカードを見ると、ランクのところが……B!?え?さっきまでDでしたよね?

「今回の討伐で、フジノ様はランクBにランクアップされました。本来はランクB以上になるにはそれぞれのランクでの昇級試験を受けていただく必要があるのですが、レッサードラゴンを一人で討伐できる方を低ランクのまま置いておく方がもったいない、ということで特別に試験無しでのランクアップとなっています。まあ、レッサードラゴンの単独討伐がランクSの依頼になりますので、実力としては十分と判断された、ということですね」

 いきなりランクアップしたカードを見ながら、ほえ~と話を聞きます。

 ……あれ?わたしってまともなランクアップは1回しかしていない気が…?

「今回の討伐報酬は金貨100枚です。今回は本来なら災害級の案件です。それを被害が出る前に処理されたことを、ギルドからもお礼申し上げます」

 ひゃくっ!?

「金貨100枚って…」

 日本円で1000万円ですよ!?すごい大金です!

「Sランク依頼にしては少ないですよね?申し訳ありません。色々と事情がありまして、今回はそれが精一杯なんです」

 え?これで少ないんですか?わたしは多すぎると思ったんですけど!?

 ちなみに、色々な事情と言うのは表向きは騎士団による討伐となっていることらしいです。なんでもどこかの貴族様が色々とイチャモンをつけて来たとか何とかで、騎士団からギルドへの報酬分がかなり目減りしたということらしいです。

 わたしは怖々と報酬の入った袋を受け取ります。それを見たアイリさんは、苦笑いを浮かべながら言いました。

「フジノ様、一定額以上のお金を持ちたくないのであればギルドへ預けませんか?ギルドメンバーには無料で預金のサービスを行っています。預金額はカードの備考欄に記入され、どこのギルドでも引き出すことが可能です。ただし、ギルドに預けたまま死亡、または行方不明になって3年が過ぎると全額、ギルドへと寄付されることになりますが。大金を持ち歩きたくない方には好評のサービスなんですよ?」

 え?そんなサービスがあったんですか?

「ぜひお願いします!」

 よかったです…。こんな大金持ち歩いているかと思うと、怖くてたまりませんよ。もし落としたりでもしたら…。ガクガク

「かしこまりました。それでは金貨100枚を預金と言うことで預からせていただきます。カードをお預かりしますね。すぐに終わりますので、1階の受付付近でお待ち下さい」

 席を立ったアイリさんに促されて、わたしも1階へと向かいます。


「カードをお返しいたします。備考の欄を確認して、間違いがないか確かめて下さい」

 渡されたカードを見ると、備考欄に「預金 100」と書かれています。100?

「預金は最小額を金貨1枚、10,000ゴルシュとなっています。以降、預ける時も引き出す時も最小単位は金貨1枚になります」

 エスパー!?まるでわたしの考えが読めるように、補足の説明が入りました。

「それで、記載に間違いはございませんでしょうか?」

「ま、間違いないです」

 念を押すような問いかけに、コクコクと首を縦に振ります。

 そんなわたしを、アイリさんはなにか微笑ましいものを見るような目で見ています。

 う、なに?なんですか、その目は?

「し、失礼します!」

 なんだか居たたまれなくなって、飛び出すようにギルドを出ました。


「そこの黒髪の女!貴様が魔王だな!!成敗してやる!」

 わたしが冒険者ギルドを出たところで、いきなり声が響きました。

 声のした方を見ると、そこには豪華なマントと青いチュニック、白いズボンにキラキラと光る鎧を着けた男性がこちらを指差して立っていました。

 金髪に金色の目をした、美形です。なんだかキラキラとしたオーラが出ているようにも見えます。

 その男性の後ろには、これまた美形の女性が4人。戦士風のきわどい恰好をした女性と、白いローブを着た女性、ラフな格好に弓を背負った女性、いかにも魔術師といった格好の女性です。あれですか、噂に聞くハーレムパーティですか?

「今、建物から出てきたお前だ!黒目黒髪の子供!お前が魔王だと言うのはわかっているんだ!!この勇者様が倒してくれる!!」

 わたしが観察していると、またも男性が大声を張り上げています。

 黒目黒髪?わたしと同じですね。他にもいたんですか。え?私の事じゃありませんよ?だって子供って言っているじゃないですか?

 黒目黒髪の人を探してキョロキョロしていると、再度男性が大声を出します。

「無視すんな!お前だ、お前!そう!キョロキョロしている、そこのちっさいのだ!」

 騒ぎ立てる自称勇者の指は、わたしを指しています。

 はぁ?子供だとかちっさいのって人を馬鹿にしているんですか?それに人を指で指したらいけないって教わらなかったのですか?

 全く、この前から自称神様(笑)だの自称魔王だの自称勇者だの、自称が多すぎます。名乗るのはタダですけど、あれですか?14歳の病気ですか?流行っているんですか?

「ふん、貴様が魔王だと言うことはわかっているんだ。そして俺は勇者だ。つまりお前は俺に倒される運命にある!さあ、大人しくこの剣の錆になれ!」

 自称勇者が勝手な口上を述べて剣を抜きました。

 自称勇者の後ろからは、「キャー!勇者様、ステキー!!魔王なんてやっつけちゃえ~」とかいう、黄色い声が響いています。


 今の時間は朝の9時前、この辺りもかなり人通りが多いです。そんな場所でいきなり武器を抜くなんて馬鹿でしょうか?ここで武器なんて振り回したら他の人に迷惑がかかるのがわからないのでしょうか?

 わたし達を遠巻きにするように、かなり多くの人が集まっています。

「さあ、剣を抜け!それとも怖気づいたか?もしそうなら、泣いて許しを請えば手加減をしてやらないこともないぞ?俺は優しいからな」

「勇者様~。魔王なんてやっちゃえ~!」

「どんな相手にも慈悲を見せるなんて…。さすが勇者様ですわ!」

 うわぁ…、安い挑発ですね。まだそこいらのチンピラの方がましな事を言いますよ?

 それよりも、こんなの相手にしないと駄目なんですか?正直かなり面倒なんですけど。

 そもそも、わたしが魔王って何ですか?魔王なんて名乗ったことも、そんな風に呼ばれるようなことをした覚えもありませんよ?

「何を騒いでいる!」

 その時、人をかき分けて二人の兵士が現れました。王都の巡回兵のようです。

 兵士はわたしと自称勇者をみて、顔を顰めました。

「どういうことだ!?街中での戦闘行為はご法度だぞ!」

 ふむ、これは使えるかもしれません。

 わたしは思い付いた作戦を実行に移します。

「あの人が!わたしを怒鳴りつけていきなり剣を抜いたんです!大人しくしないと殺すって言って…!わたし、怖くて何も言えなくて…」

 怖がるようにして自分の身体を抱き締め、俯いて地面を見ます。

 片や恐怖に震える(ように見える)見た目は幼い少女、片や剣を抜いた男性。どちらの味方になるかは簡単ですよね?

「こんな小さな子供になんという非道な事を…!貴様!同じ男として許せん!詰め所まで来てもらうぞ!!」

 作戦通り、兵士はわたしの方に味方をするようです。

 慌てたのは自称勇者。

「ちょ、ちょっと待て!俺はまだ何もしていないぞ!?あんたらは騙されてるんだ!俺は勇者だぞ!?」

「黙れ!‘まだ’何もしていないだけで何かするつもりだったんだろう!?詳しい話は詰め所で聞かせてもらう。さあ来い!」

 剣を取り上げられ、両脇を兵士に掴まれた自称勇者。

「こら、離せ!勇者にこんなことしていいと思ってんのか!?おい!」

「ちょっと、勇者様に何をするんですか?その手を離しなさい!」

「勇者様~!」

 自称勇者はずるずると引きずられるようにして、兵士に連れて行かれます。

「ふん、散々人を子供だ小さいだの言ってくれたお礼ですよ。反省すればいいんです」

 全く、ちょっと自分が背が高くて美形だからと言って・・・。おまけにあの取り巻きもなんですか?背が高くてスタイルも良くて胸も大きくて…。全く、うらやま……けしからんですよ。次に会ったらもいでやりましょうか?

 さて、変なのもいなくなったことですし、騎士団に行きましょうか。


 ちょっと、金貨120枚ですって!

 何がって、ドラゴンの素材がですよ!驚きですよ!?

 全部で鱗が40枚と牙が12本、皮膚とお肉でそれだけの値段になったらしいです。

 うはぁ…、ドラゴンって凄く儲かるのですね!

 あ、もちろん自分用に鱗を5枚と牙を2本、皮膚を少し貰った残りが、です。

 今日だけで一気にお金持ちです!

 あぁ、でもお金をためても元々の目的が無くなったんですよね…。

 あの自称神様(笑)を信じるのも癪ですけど、一応は説得力もありましたしね…。

 もう日本に戻れないって、これから何を目標に生きていけばいいのでしょうか?

 元々、帰れる可能性は低いのはわかっていましたが…。いざ帰れないとわかると、どうしていいのか分からなくなりますね…。

 あー、もう!うじうじと悩むのも性に合いません!こういう時は美味しいご飯です!そうだ、今日はデザートも作りましょう!ケーキがいいですね。ふわふわのスポンジに生クリームをたっぷり乗せて…。今の季節のフルーツだと、キウイなんかがいいですね。そうと決まれば、早速買いに行きましょう!


「やっと見つけたぞ、魔王め!朝はよくもやってくれたな!今度はそうはいかないぞ!!」

 青果店で買い物をしていると、またもや自称勇者の登場です。

「どちらさまでしょうか?」

「勇者だ!ゆ・う・しゃ!朝に会っただろうが!忘れるなよ!」

 いえ、忘れてはいませんけどね。

「その勇者がわたしに何のご用でしょうか?」

 わたしは忙しいのですよ。用件があるならさっさと済ませて下さい。

「朝もいっただろうが!魔王、お前を倒すために俺はここまで来たんだ!さあ、俺と戦え!」

「お断りします」

「断るなよ!!」

 うるさい人ですね。もう少し静かにできないのでしょうか?ほら、また野次馬が集まっているじゃないですか。

「意味もなく戦うなんて、面倒じゃないですか。そもそも、魔王って誰の事を言っているのですか?わたしは魔王なんてものじゃありませんよ?」

「嘘をつけ!お前が魔王だと言うことは調べがついているんだぞ!」

「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないですか。怒りっぽい人ですね…。カルシウム不足ですか?ちゃんとご飯食べていますか?知っていますか?イライラしやすい人はカルシウム不足のほかにも、空腹や食事のバランスが悪いと怒りっぽくなるらしいですよ?食べるって大事なんですよ?」

「そんなことどうでもいい!お前が俺と戦えば全て済むんだ!!さっさと戦え!」

 全く、人の親切も受け取れない様では駄目駄目ですね。

「はぁ…、ここで戦うのですか?」

 自称勇者は朝と違って剣を抜いていません。

「ふん、ここで武器を抜くとまた兵士が来るからな。街の外に行くぞ、来い!」

 そう言って、自称勇者はわたしに背を向けて東門の方へと歩いていきます。

 もちろん、取り巻きの女性陣も一緒です。

 どうしてこういう人種は人の言うことを聞かないのでしょうか?

 そしてどうして自分の思う通りに事が運ぶと思うのでしょうか?

「はぁ…」

 わたしは溜息をついて、青果店で買ったものを持って歩き出しました。

 ……自称勇者と反対の方向に向かって。

 さて、次はミルク屋さんです。生クリームを作るためには少し量が必要ですしね。

 ガラムさんのところでケーキの枠も作ってもらわないと…。

 ああ、忙しいです。

 野次馬の皆さんの、何とも言えない視線を受けながらミルク屋さんへと急ぎます。


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