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059 事後処理

「……君はこの周辺に住んでいるのかい?どうしてこんな場所にいたのか、教えてもらえるだろうか?」

 自称魔王を拘束し、落ち着いたところで甲冑の男性がわたしに声をかけてきました。

 ちなみに、この場にいるのはわたしと目の前の男性を除いて20人ほどです。全員が同じような甲冑を着けているので、恐らくは騎士団でしょう。

 つまり、尋問でしょうか?

 まあ、別に隠す必要もないですけどね。

「わたしは冒険者ギルドでゴブリン討伐の依頼を受けてきた冒険者です。ここにいたのはその依頼の為です」

 簡単に説明(?)すると、案の定というか、甲冑の男性は驚いています。

「冒険者ギルドで…?依頼って君が冒険者?いや、しかし…。そう言えば噂で聞いたことがあるが…」

 チッ、やっぱり初対面だとこうなりますか。この遣り取りにも慣れたと思っていましたけど、この先も一生同じことが繰り返されるかと思うと…。自称神様(笑)め…!

 わたしは苛つきながらも、黙って冒険者カードを提示します。

「ふむ……確かに…。君が冒険者であることは確認した。それで、できれば君が知っていることを話してもらえないだろうか?我々が来た時にはレッサードラゴンが暴れていて、すぐに戦闘に入ったものでな。正直、この男の事もわからないのだよ」

 縛られて、まだ気絶したままの自称魔王を見ながら言いました。

 これも隠すこともないので、わかる範囲で答えておきます。

「なるほど、従属魔術か…。厄介な代物だな。しかし、被害が大きくなる前に止めることができたのは幸いだった」

 少なくとも、人的被害はまだ出ていないようですしね。

 そういえば、どうして騎士団がこんな場所にいるのでしょうか?

 少なくとも、わたしが最初にドラゴンを見つけてからそれほど時間が過ぎているようには見えません。普通に考えれば、騎士団に連絡が入ってすぐに討伐に出たとしても、王都からだと数時間はかかるはずです。太陽の位置から見れば、まだそんなに時間は経っていないように思いますが…。

 それを質問してみると、甲冑の男性の答えはこうでした。

「我々は街道付近の討伐を兼ねた調査隊だ。その途中にアイレ村に立ち寄った時に、一人の男が駆け込んできたのだ。『ドラゴンがいる!』と叫びながらな。すぐに詳しい話を聞いてここまで駆けつけたのだ。王都にも伝令を走らせたので、もうすぐ着くころだろう。まあ、それも君のおかげで必要なくなったがな。っと、それよりも聞きたいのだが、君は何者だ?Sランクオーバーのレッサードラゴンを一人で、しかもあの固い鱗や皮膚を軽く切り裂いていたが・・・」

 ん?ということは、ここに騎士団が到着したのはわたしが倒れてから30分といったところでしょうか?

 しかし、何者っていわれましても……ねぇ?

「ただの冒険者ですよ?」

「ただの冒険者のはずがない!さっきカードを見たが、君はDランクだろう?Dランクの冒険者がレッサードラゴンを一人で、しかも無傷で倒せるはずがないだろう!」

「そう言われましても…。実際ただの冒険者ですし。それに無傷じゃありませんよ?尻尾の攻撃で死にかけていましたし」

 あ、思い出したらまたむかむかしてきました。自称神様(笑)め…!

「死にかけたって……どう見ても無傷じゃないか!それにどう考えてもおかしいだろう?ドラゴンの尻尾を一撃で斬り落とすなんて!!」

 あー、そのあたりは…。

「多分、言っても信じられないと思いますけど…。わたしが死にかけた時に神様を名乗る人に会ったのですよ。それで身体を回復してもらって、武器にも祝福したと言っていました」

 あと、祝福と言う名の呪いもですけどね!

 まあ、こんなこと言われても頭がおかしいんじゃないか?って思いますけどね。わたしが聞いてもおかしいと思いますもの。

 しかし、甲冑の男性の反応は違っていました。

「なに?神に会ったのか?しかも祝福を受けたって…。ではその武器は神器か!?それならば納得もできる…。その武器を見せてくれぬか!?」

 ちょっと、詰め寄らないでください!怖い、怖いですよ!?

 慌ててコクコクと頷き、刀を渡します。

「おお…、これが神器か…。まさか、この目にする日が来るとは…!」

 酷く感動しています。

 まあ、神器ですからねぇ…。あの自称神様(笑)の祝福なので嬉しくもないのですけど。まあ、切れ味は確かに良いですけどね?


 神器とは、まあその名前のままで神様の祝福を受けた武器や、神様が作った道具と言われています。

 この大陸には23個あると言われていますが、どの存在も噂ばかりで本当なのかはわかりません。なにせ、神器と呼ばれるものはそのすべてが国宝として保管されているので確認のしようがないのです。稀に神器の公開がされますが、もちろん触れるどころか近付くことも難しく、ましてや性能の確認なんてもってのほかです。

 そもそもが神器は使用者を選ぶと言われ、認められたもの以外が使おうとしてもただのガラクタにしかなりません。

 そして一番の特徴が……呪いです。呪いと言われていますが、正当な使用者が所持し、使用する分には問題はないのです。しかし認められない者が無理矢理能力を使おうとしたり、所有者から盗んだり奪おうとすれば災厄が訪れると言います。噂なのでどこまで真実かはわかりませんが、盗もうとした者がいきなり馬車に轢かれたり、道端の小石に躓いて転倒して頭を強打して死亡した、なんて話もありました。また、とある国家が神器を所有しようとして戦争を準備したところ、開戦前にその国を流行り病が襲い、兵士は半数が死亡、さらに干ばつや洪水で大打撃を受けたともあります。まあ眉唾な伝説なのですが…。

 それが真実かどうかはわかりませんが、実際に歴史上では神器を巡って大きな争いが起きた事実は残っていません。

 しかも一度所有者と認められれば、死ぬまで神器は手放すことができないらしいのです。

 捨ててもいつの間にか手元に戻ってくるらしいですし、もちろん盗まれても同じです。それなりに有名な話なので、神器の売り買いはもちろん、盗んだり奪おうとする輩もまずいないらしいです。

 らしい、というのは記録上、前に神器を個人所有していたのは200年近く前になるからです。

 ちなみに神器の力を悪用しようとしたり、神器を使って悪事を働こうとすれば所有者に災厄が訪れるとも言われています。


 ああ、すごく面倒そうですよ?なんか嫌ですねぇ…。

「捨ててしまいたいですね…(ぼそ)」

 思わず漏れてしまったわたしの呟きを聞いたのか、甲冑の男性が付け加えるように言いました。

「有名な話なので知っていると思うが、神器は失くすことがない。仮に盗まれても、捨てても本来の所有者の元に帰ってくると言われているので手放すことは無理だろう」

 いや、どう見ても呪いのアイテムっぽいですよね。似たような怪談を聞いたことがありますし…。呪いの人形でしたっけ?

 あの自称神様(笑)、何が祝福ですかね?武器といい、不老のことといい、全部呪いだと思うのです。ああ、今度会うことがあったら頭に毛を全部毟って代わりに芝(wwwww)植えてやりましょう。そして髪様(w)って呼んで上げることにします。ふふふ・・・。

 思わず、兄に教えられたネット用語(?)を使って自称神様(笑)への報復を考えてしまいました。

 コホン、落ち着いたところで甲冑の男性から刀を返してもらいます。

 刀を受け取るときに、なんとなく指で摘まむようにしてしまったのは仕方のないことだと思います。

 あ…、そういえばゴブリン討伐、どうしましょう…?

 一応、討伐系の依頼は証明部位を持っていく決まりになっていますが…。どう見ても証明部位なんて取れないですよね…?それに倒したのってドラゴンですし…。

 今回って依頼失敗になるんでしょうか?

 とりあえず、わたしよりも詳しいであろう、甲冑の男性に聞いてみます。

「あの、こんなことを聞くのもおかしいかもしれませんが…。わたし、ゴブリン討伐の依頼を受けていたんですけど、今回のってどうなるんでしょうか?わたしが来た時にはゴブリンは全滅してましたし、やっぱり依頼失敗ですかね…?」

 甲冑の男性は、わたしの言葉にきょとん、とした表情をしましたが、すぐに笑いだします。

「はははは、何を言い出すかと思えばそんなことか。ああ、すまない。冒険者にはそんなことではなかったな。大丈夫だ。ゴブリン討伐は確かに失敗かもしれないが、レッサードラゴンというイレギュラーが出たんだ。こういった極端な場合は失敗ではなく、依頼の取り消しになるんだ。むしろ、レッサードラゴンの討伐として報酬が出るだろう。騎士団からもギルドへ話はさせてもらうから安心していいぞ」

 あれ、そうなんですか。よかったです。せっかく今まで失敗なしでやってきたのですから、できれば黒星なんて付かない方がいいに決まっています。

「それよりも、レッサードラゴンの素材はどうする?これだけの大物だ、かなりの金額になると思うが…。もしよければ騎士団の方で買い取らせてもらうが、どうだろうか?」

 素材…?ああ、鱗とか牙とかですね。そうですね…。

「大部分は買い取ってもらえますか?鱗を何枚かと、牙をいくつかは頂きたいと思います。それとお肉を少し、貰っていいですか?」

 ドラゴンの鱗や皮膚は防具の材料に、牙は魔具や武器の材料になります。そしてお肉は……最高級食材の一つに数えられています。まあ、たくさん貰ってもわたしだけじゃどうしようもありませんけどね。

 ちなみに鱗も皮膚も、素材として使える部分と言うのは決まっています。鱗は足と首周り、皮膚は尻尾と背中部分が素材になります。それ以外の部分は固すぎるか、防具に加工するには不向きなんだそうです。それでも今回のレッサードラゴンは全長が15m近くあり、かなりの量が取れると思います。


 ドラゴンの解体は他の騎士に任せて、甲冑の男性は報告と自称魔王の護送があるということで王都へ戻るそうです。そのついでにわたしも一緒に馬車で送ってくれるそうなので、ありがたく便乗させてもらうことにします。

 ちなみにドラゴンの解体と王都への搬送(荷馬車を3台も使うらしいです)、素材の確認等で2日ほどかかるらしいです。

 素材の代金はそれ以降に取りに来るようにと言われました。


 一旦村へと戻り、村長にゴブリンとドラゴンはいなくなったことを伝えて王都へと向かいます。この分だと夕方には戻ることができそうです。

 ちなみに、甲冑の男性はグローブさんって言うそうです。今更ですけどね!

 自称魔王は途中で目を覚ましましたが、暴れたのでグローブさんが力づくで眠らせました。


 夕方には王都へ到着し、そのまま冒険者ギルドへと向かいました。

 そこで一旦馬車を止め、グローブさんと一緒に受付へと向かいます。

 受付で経緯を話してゴブリン討伐が出来なかったことを説明します。レッサードラゴンの部分で少し騒がれましたが、グローブさんがうまくなだめてくれました。が、ドラゴンをわたしが倒した部分でまた驚かれ、それをグローブさんが細かに説明をして(神様や神器の事まで)どんどん騒ぎが大きくなっていきます。

 ……グローブさんを連れて来たのは失敗だったようです。

 幸いだったのは、今は他に冒険者がいなかったことでしょうか?それでも騒ぎになっているのは、レッサードラゴンや神器に驚いた職員が他の職員を呼び、その職員が騒いでまた別の職員が……という連鎖が起きているからです。特に神器の話が出てからは、次々と職員が現れました。どこにこれだけいたんだろう?というくらいに、受付周辺は職員に囲まれています。

 この状況、どうするんですか?

「静まらんか!騒々しいぞ!!」

 突然、騒がしかった受付に怒号が響きました。

 見れば恰幅のいい、50過ぎでしょうか?身なりの整った男性がこちらを睨んでいます。

 そしてその後ろからは、アイリさんが顔をのぞかせています。

 お忘れの方もいるかもしれませんが、アイリさんはわたしがいつもお世話になっている受付のお姉さんです。

「私はこのギルドでマスターをしているギャロップ・シシトリーです。詳しい話は別の場所で聞かせてもらえますかな?」

 鶴の一声、とでもいいましょうか。この人の一声で、あれだけ騒がしかったこの場も静まりました。状況からすると、アイリさんが呼んできてくれたようです?ナイスです、アイリさん。

「ではついてきて下さい。この場での事は他言無用とする。全員、わかったら仕事に戻りなさい」

 その言葉で、蜘蛛の子を散らすように周りにいた職員もそれぞれの持ち場に戻って行きました。


 わたし達がギャロップさんに連れてこられたのは、ギルドの3階にある応接室のような場所でした。

 部屋の中央に置いてある応接セットのソファに勧められるままに座ると、テーブルを挟んでギャロップさんもソファに座ります。

「改めて、私はここのギルドマスターのギャロップ・シシトリーです」

 ギャロップさんに自己紹介をされて、わたし達もそれぞれ自己紹介をします。

「第4騎士団所属グローブ・オル・シンバルトです」

「サクラ・フジノ。Dランクの冒険者です」

 そう言って、軽く頭を下げます。

「早速ですが、お話を伺えますか?大筋の話は聞いていますが、当事者から直接伺いたいのです」

 言葉は丁寧ですが、そこには有無を言わせぬものがあります。

 わたしはグローブさんをちらり、と横目で見て、丸投げすることにしました。

 グローブさんはそれに気がついたのか、一つ頷いて話し始めました。


「……というわけです」

 グローブさんの説明が終わると、ギャロップさんは唸るように声を出しました。

「……信じられん。いや、貴方の言うことが信じられないのではないが…。それが全て真実ならかなり厄介な事になるが…。従属魔術とやらが問題だな。そちらの調査は騎士団にお任せするとして、サクラ・フジノ君だったか、神の祝福を受けたと言うのはその剣の事かね?」

 そう言って、わたしの傍らに立てかけてある刀を見ます。

「そうです」

 実際は刀だけじゃないですけどね!言わないですけど!

「ふむ…。話からすると、神器なのは間違いないようだ。騎士団がそのような事で嘘をつくはずもないしな。まあ、そのことはあまり言わないほうがいいだろう。神器の噂を知らない者もいるだろうし、噂自体を信じていない者もいる。無用なトラブルは避けたほうがいいからな。しかしレッサードラゴンを軽く斬って捨てるとは、神器の威力は噂通り凄まじいものだな」

 うーん…、あの自称神様(笑)の祝福とか言われても、わたしには有難味も何もないんですが…。

「とにかく、何らかの被害が出る前に処理できたのは僥倖と言えるだろう。サクラ・フジノ君には、この件についての報酬もきちんと考えさせてもらう。そうだな……2日後には報酬も決まるだろう。それ以降にこちらから声を掛けさせてもらう。それでいいかな?」

 とりあえず頷いておきます。実際、これは確認の為であって、わたしが否と言っても関係なさそうですけどね。

「それではこれで終わりとしましょう。騎士殿も態々の説明、ご苦労様でした」

 どうやら終わりのようです。わたし、挨拶以外ほとんどしゃべっていませんが…。

 ギャロップさんが立ち上がったので、わたし達も立ち上がって部屋を出ます。

 そのままギルドを出て、グローブさんは騎士団に戻ると言うのでそこで別れます。

 わたしも早く帰って夕飯の支度をしないと…。なんたって今日はドラゴンステーキです。うふふふ、どんな味なのでしょうね?楽しみです。


 結論:美味しくありませんでした。というか不味いです。

 なんて言うのでしょうか…、ウニと納豆とタケノコ(アク抜き前)を足して3で割ったような味、というか…。しかし王子は喜んで食べていました。わたしの味覚がおかしいのでしょうか?期待していただけに、凄く残念な夕食になりました…。




 注)ドラゴンのお肉は最高級食材の1つであり、‘珍味’です。ドラゴンのお肉は死後1週間で固くなり、食材として使い物にならなくなります(保存の魔具も無効)。その希少性と独特の味から、世界の美食家(ゲテモノ好き)やお金持ち(成金)が追い求める食材だそうです。


57~59話がうまくまとまりませんでした。

色々ご都合主義になっています。


感想で主人公が神器について知らないのはおかしいと指摘がありましたので、神器の説明部分を主人公視点に変更。


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