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055 救出

「くそっ、間にあえよ…!」

 私は今、朝の王都を馬で駆け抜けている。

 私に続くのは、レン導師と騎士団員が10名ほど。

 後からさらに2個小隊が続くことになっている。

 大通りを走り抜けて行く私達に、住民が慌てて道を開ける。

 事の始まりは、一人の騎士が駆け込んできたことだった。


「セドリム王子殿下!緊急の用件です!」

 朝食を終えたばかりの私の元に、近衛騎士が駆け込んできた。

「どうした?緊急とはなんだ?」

 父上や兄上でなく、私に緊急の用件とはなんだ?

 それにこの騎士の慌て様は…?

「はっ、詰め所に一人の騎士が駆け込んできまして……その、殿下の婚約者殿が誘拐された、と」

 私の婚約者だと?そのような者はいないが…。

「どういうことだ?詳しく話せ」

 とにかく、話を聞いてみよう。

「はっ、その騎士によると、今朝方、大通りへ続く道で殿下の婚約者殿が馬車に押し込められるのを見た、と申しております」

 婚約者、というのがわからないが、その騎士に直接聞いた方が早そうだ。

「その騎士に会おう。どこにいる?」

 近衛騎士に案内させて、その騎士がいる場所へと向かった。


 その騎士の話によると、今日は非番で朝まで飲んだ帰りに、偶然その光景を目撃したという。

 時刻は3の1刻頃、用を足そうと大通りから横道に入った先で、私の婚約者とやらが大勢の男に馬車に連れ込まれていたらしい。

 それを見た騎士はひとまず身を隠し、その馬車の後を追ったらしい。

 途中で見失ってしまったが、しばらく探した結果、王都の隅にある一軒家でその馬車を見つけ、私に知らせるために王城へ駆け込んだということだ。

 そこまではわかったが、私の婚約者というのが誰の事なのかわからない。

 それを問い質すと、子供のような外見の、長い黒髪の少女だという。

 サクラの事か!?

 そう気付いた時、すぐにその騎士を立たせ、場所を地図で確認させてすぐに出発できるように馬を引かせた。

 手近にいた、すぐに動ける騎士を捕まえ、偶然、私を探しに来ていたレン導師も一緒に来てもらい、その一軒家へと馬を走らせた。

 サクラを攫ってどうするつもりだ?

 それがわからない。確かに、私との関係は一部では噂されているが…。

 ただの人攫いか?

 考えてみても答えは出ない。

 サクラは自分の容姿に無頓着なようだが、傍から見れば十分、美少女と言える容姿をしている。それにころころとかわる表情。特にあの、ふにゃりとした笑顔は何とも言えない愛らしさを感じる。

 よからぬ輩がいかがわしい目的で攫ったのでなければいいが…。

 私達がその一軒家に着いたのは、丁度中からドォン!という音が響いた時だった。


 私はとにかく急いで、その音がした部屋へと向かった。

 後ろから私を呼ぶ声がしたが、聞いてなどいられるわけがない。

 そのドアを開けて、私が目にしたものは……部屋の中を荒れ狂う風だった。

 目をやると、部屋の隅に倒れている男が4人。

 動きはないが、生きてはいるようだ。

 それよりも……荒れ狂う風の中心はサクラだった。

 サクラを見つけた時、私の心は酷く乱れた。

 サクラの姿は、手足に枷を嵌められて服を切り裂かれ、涙を流すその瞳は何も映していないように虚ろだった。

 その唇は小さく動き、何かを呟いているようだったが、風が邪魔で聞こえない。

 唇の動きから察するに、「いや」と繰り返しているように思える。

「サクラ!大丈夫か!?」

 思わず声が出た。

 大丈夫な訳がない。そう思いはしたが、それ以外にかける言葉が見つからなかった。

 サクラは私に気付かないようで、変わらずどこかを見ている。

「サクラ!」

 二度目の呼びかけで、その虚ろな瞳が私の方を向いた。

 その瞳に、思わず手を伸ばすが風に阻まれて動けない。

「駄目です、殿下!危険です!」

 追いついたレン導師が、私が進むのを制止する。

「しかしサクラが…!」

 このままでは……サクラが壊れてしまう!

 早く、傍に行かないと!

「魔術が暴走しています!近付くのは危険です!」

 魔術の暴走だと?馬鹿な!サクラは魔術が使えないはずだ。

 何とかサクラに近づこうとしたその時、急にサクラの身体が糸の切れた人形のように倒れた。

 それと共に、部屋に吹き荒れていた風も急速に止んだ。

「サクラ!」

 阻む風が無くなり、慌てて私はサクラに駆け寄った。

 倒れたサクラの呼吸を確認し、気を失っているだけだとわかった時には全身の力が抜けるようだった。

 すぐにサクラの姿を思い出し、他の者に見られぬようにマントで包むとそっと抱き締めた。

 それから、部屋に駆け込んできた騎士に倒れている男達の捕縛を命じ、サクラを馬車に乗せて王城へと運んだ。

 サクラは客室へ運び、世話はシフォンに任せることにした。

 駆け込んできた騎士が見たという馬車は、すでにどこにもなかったようだ。

 これについては捕縛した男達を徹底的に締め上げるしかない。

 サクラを傷つけた事、後悔させてやる…!


 サクラが目を覚ました、と連絡が来たのはそれから2日後だった。


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