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054 誘拐

「さあ、どうする?」

 今、わたしの周囲には腰に剣を下げたチンピラ風の男が10人。

 対するわたしの格好は、薄手の上着にショートパンツだけ。

 わたし、ちょっとピンチです。




 今日も普段通りに起きて、いつもと変わらぬ朝の準備をし、日課のジョギングに行きました。

 そう、いつもと変わらない、そんな一日になるはずでした。

 いつもと違ったのは、ジョギングを終えて家に戻ろうと、大通りから家に向かう道に入った後の事でした。

 6人の男がわたしの行く手を塞ぐように出てきました。

 そしてすぐに背後に聞こえる足音。

 ちらり、と目をやり確認すると、4人の男が少し距離を置いてわたしの背後に立っています。

「サクラ・フジノだな。大人しくしてもらおうか」

 前方にいた、ガタイのいい男から声が発せられます。

 男達は少し破れた、標準的な街の住人の服装をしています。

 見た目はチンピラ。ですが、その身体つきや身のこなしは明らかにチンピラのものではありません。

 どうしてわたしを…?

 疑問が湧きますが、とにかくこの場を何とか切り抜けないといけません。

 男達は剣を腰に下げています。

 わたしの手元に武器はなし。

 かなり厳しい状況です。

「人違いじゃありませんか?」

 苦し紛れとわかっていますが、そう答えます。

「サクラ・フジノ、冒険者。見た目は7歳くらいの子供で長い黒髪。身体つきは貧相な子供で「誰が子供で絶壁ですか!その目は節穴ですか!?ちゃんとあります!」

 あ、つい…。

「本人で間違いないようだな。大人しくしていれば痛い思いはせずに済む。一緒に来てもらおう」

「お断りします」

 拉致?誘拐……はありませんね。誰かに命令されているんでしょうか。

「俺達はお前をつれてこい、と言われている。手段を選ばなくてもいいともな」

 脅し、ですか。

 今の時刻は午前6時半。周辺に人の姿はありません。

 助けは期待できなさそうです。

「……それでも、お断りします」

 前に6人と後ろに4人。4人の方へ先制攻撃をかけて一気に大通りへ出れば…。

 逃げる手筈を考えていると、再び声がしました。

「そうか。ならば我らも強硬手段を取るしかないな。……おい」

 一番ガタイのいい男が手を挙げて合図をすると、さらに一人の男が現れました。

 ……その腕に小さな男の子を抱いて。

「大人しくしなければ、わかるな?」

 人質ということですか。

 その男の子は気絶しているのでしょうか?先程から身動きをしません。

 顔は見えませんが……おそらく近所の男の子でしょう。

「さあ、どうする?」

 ガタイのいい男が、答えを求めます。

「……わかりましたから、その子を離してください」

 わたしは身体の力を抜いて、そう言いました。

「それはできん。お前は体術も出来ると聞いている。まずはお前を拘束してからだ」

 ガタイのいい男がそう言って小さく頷くと、後ろにいた男がわたしに近付いて身体を縛りました。

「これで気は済みましたか?その子を離してください」

「ふん、離してやれ」

 その子を抱いていた男が無造作に手を離すと、男の子は崩れ落ちるようにその場に倒れました。

 男の子が倒れた拍子に、髪が男の子から離れて地面に落ちました。

 その後に見える顔には……なにもありません。目も、耳も、鼻も、口も。

「人形!?」

 思わず叫ぶわたしの頭に、強い衝撃を受けました。

「そう言うことだ。こんな手に引っ掛かるとはな」

 わたしの意識はそのまま暗闇にのまれました。




 あたまが、ズキズキする…。

 わたしは、どうして…。

 ゆっくりと意識が戻ります。

 目を開くと、そこは薄暗い部屋で。

 わたしはベッドに寝かされているようです。

「っ!」

 意識を失うまでの事を思い出して、急いで身体を起こします。

 ガチャガチャ

 身体を起こそうとしましたが、手は動かせずに音がするだけ。

 手首には冷たいものの感触。

 わたしの両手は後ろ手に拘束されているようです。

 そして足も。

 なんとか身体を起こして確認できたのは、いまいるのが10畳ほどの部屋だということ。

 部屋には窓がなく、わたしがいるベッドとテーブル、それに椅子だけ。

 どうやらわたしはあの男達に拉致されたようです。

 でも何が目的で…?

 考えられるのは王子関連だけです。

 でも、王子との関係といってもご飯を食べに来ているくらいです。

 わたしを攫ってもメリットがあるとは思えませんが…。


 ガチャ


 犯人の目的を考えていると、一つしかないドアが開きました。

 入ってきたのはドレスを着た女性と、わたしを攫ったガタイのいい男。それにメイド服の女性。

 ドレスの女性には見覚えがありました。

「気分はいかがかしら?」

「おかげさまで、とても爽快です。エリーナ・イサ・ヘラスミール公爵令嬢様」

 夜会で会った、王子の婚約者サマ。

「それはよかったですわ。今日は貴女にお話があってお招きしましたの」

 これが、お招きですか。

「ああ、逃げようとしても無駄ですわ。ここは王都の片隅にある一軒家。助けを呼んでも誰も来ませんわよ。それに、貴女につけてある枷は魔封じの魔具ですの。貴女、魔術は使えないけれど似たような術を使うのでしょう?」

 言われて、気を練ってみますが途中で拡散したように消えてしまいます。

 体内のエネルギーから変換するのを妨害しているんでしょうか?

 魔封じの考察をしていると、お嬢様から拉致した理由が語られました。

「率直にいいますわ。貴女、王子の前から消えていただきたいの」

 はい?何をおっしゃっているのでしょうか、このお嬢様は?

「貴女、冒険者でしょう?貴女の事は調べさせましたの。そうですわね、セルバトス共和国なんてどうかしら?ああ、もちろん旅の資金は差し上げますわ」

 本当に、お嬢様は何を言っているのでしょうね?

 いえ、わたしもそのうち旅に出ようとは思っていましたが。ですが、それはまだ先の事で、ついでにいえば誰かに強制されてする旅ではありません。

 それに王子の前から消えろって、王子が勝手に来ているだけだと言ったはずです。

 まあ、旅の資金というのは魅力的ではありますが。でも、それで旅に出る、というのは違うと思うんですよね。

 ということで、わたしの答えは決まっています。

「せっかくですが、お断ります」

 わたしの返事を待っているお嬢様に、にこり、と笑顔を浮かべながら言いました。

 お嬢様は、意味がわからない、というような表情をしていましたが、次に顔を真っ赤にして怒りだしました。

「あ、貴女、平民の分際でわたくしの言うことが聞けないというの!?少し殿下に気に入られたくらいで調子に乗って!いいですわ、貴女がその気なら後悔させてあげますわ!セリカ、あれを出しなさい」

 お嬢様がメイドさん(セリカさん?)に指示すると、メイドさんは懐から小瓶を出してお嬢様に渡しました。

「これが何かわかるかしら?ふふっ。素直に言うことを聞かない貴女が悪いのよ?」

 わたしの目の間に、薄いピンク色の液体の入った小瓶を見せながらお嬢様が微笑みます。

 きゅぽっという音をさせて、蓋が開きます。

「押さえて口を開かせなさい」

 お嬢様の命令に従って、ガタイのいい男がわたしの頭を押さえ、口を無理やり開かせます。

 ゆっくりと小瓶がわたしの口に近づき、中の液体が口の中に注がれます。

 吐きだそうとしましたが、すぐに口を押さえられて無理矢理飲み込まされてしまいました。

「げほっげほっ。……何を、飲ませたんですか?」

 無理矢理飲み込まされたことで少しむせましたが、何を飲まされたのか気になります。

「ふふ、すぐにわかりますわ」

 その言葉通り、効果はすぐに体感することになりました。

 急に身体に力が入らなくなり、ぽてっ、とベッドに倒れ込みます。

 身体を動かそうとしても、痺れたように動きません。

「痺れ薬…?」

 喋ることは何とかできましたが、少し喋るだけでもかなりの体力を使います。

「それだけじゃありませんのよ?ふふふ。言ったでしょう?後悔させてあげますわ。殿下の前に立てないくらいに…」

 お嬢様のその微笑みに、ぞくり、と背筋に寒気が走りました。

「何を…」

 何をするつもりかと問い質そうとした時、身体に異常を感じました。

 何、言われると答えにくいですが、じわり、と感じる熱。

 それは身体の中心から広がるように、じわじわと全身に広がっていきます。

「効いてきたようですわね。今、とても身体が熱いでしょう?」

 すでに身体中が熱を持ったみたいに感じます。

 熱い、苦しい…。

 身体の熱を逃すように、呼吸が荒くなっているのがわかります。

「貴女が飲んだものは、痺れ薬と……媚薬ですわ」

 びやく…?

 熱に浮かされたように思考がまとまりません。

「貴族御用達の物ですから、効果は保証済みですわ。せっかくですから貴女にも気持ち良くなって貰おうという、わたくしからの気遣いですわ。他の男に穢された女なんて、殿下にも顔向けできませんわよね?おーほほほほほ」

 ほかのおとこ、けがされる、でんか…?

 何を言っているんでしょうか…?

 それよりも、熱い……苦しい…。

「あら?もう言っていることもわからないのかしら?心配しなくても大丈夫ですわ。ちゃんと殿下に助けていただきますから。もちろん、全てが終わった後で、ですが」

 お嬢様が何か言っていますが、もう何も考えられません。

 浮かぶのは、どうすればこの苦しさから解放されるかだけ。

「もう限界のようですわね。セリカ、男達を呼んで頂戴」

 しばらくして、何人かの男が部屋に入ってきたようです。

「あとは任せますわ。好きにして」

 その言葉を残して、お嬢様とガタイのいい男とメイドさんは部屋を出て行きました。


 残されたのは数人の男と、わたし。

「好きにしろっていってもよ、こんなガキ相手にすんのか?」

「命令だから仕方ないだろ?でもこいつ、こんなナリして15歳だって話だぜ?それに王子サマも通ってるって言うしよ。実は凄い具合がいいんじゃねぇのか?」

「やる気がないならお前らは見てろよ。俺はガキでもいけるぜ」

「お前、守備範囲広いよな。まあ俺もいけるけどよ」

 男達がわたしを見下ろしながら、何か話しています。

「おい、今から俺たちが遊んでやるからよ。王子様のことなんて忘れさせてやるぜ」

 一人の男が下卑た声で言いながら、わたしの腕を掴んで起こそうとしました。

 男に腕を掴まれた瞬間、身体に電気が走ります。

「ふぁっ」

 わたしの口から、声が漏れます。

 それと同時に、身体の奥にさらに熱がたまるのがわかりました。

「おい、触られただけで感じてるぜ?貴族様の薬ってすげーもんだな」

 男が調子に乗ってわたしの身体に触れてきます。

 そのたびにわたしの口からはこもった熱を逃がすように声が漏れ、それ以上の熱が身体の中に溜まっていきます。

「見た目は子供でも、身体は女ってことか」

 男が何か言っても、何かしても、わたしは身体にこもる熱に翻弄されるように荒い息を吐くことしかできません。

 このままだと、狂ってしまいそうです。

「そろそろ直接触ってやるか」

 声と同時に、わたしの服を裂く音が響きました。

 その音に、いま、何をされているのか理解しました。

 一瞬ですが、身体がひやり、と冷えたような気がします。

「や……いや、いやぁ…」

 なんとか声を絞り出し、小さく首を振って拒絶を示します。

 この後、自分が何をされるか理解して、思わず涙が流れ出ました。

 しかし、身体は痺れ薬で動かず、また、媚薬のせいで頭もろくに回りません。

「へっへっへ、嫌だって言っても俺達は命令されてるだけだからよ。怨むならあのお嬢様を怨んでくれよ?」

 男達が辞めるつもりもなく、自分の力では逃げることもできない。そう理解すると、心が恐怖に塗りつぶされます。

「やだ、やめて…」

 拒絶の言葉も効果なく、男の手がわたしに伸びてきます。

「やぁ……いやぁぁぁぁ!」

 触られる、と思った瞬間、わたしの中からそれまでの熱とは別の熱があふれてきました。

「なんだ!?」

 ‘その熱’は力となり、わたしに触ろうとしていた男を吹き飛ばします。

 吹き飛ばされた男は、大きな音を立てて壁にぶつかり、動かなくなりました。

「このガキ!何をしやがった!?」

 残りの男達が色めき立ちます。

「やだ、やだ、やだ、やだ…」

 一人がわたしを抑えつけようと、飛びかかってきました。

「やだ、やだ、やだ、やだ…」

 飛びかかってきた男も、先程の男と同じように吹き飛ばれて動かなくなります。

 身体の熱は、さらに大きくなっていきます。

「こないで…こないでぇぇぇぇ!」

 自分でも何が起きたのかわかりません。

 気がついた時には男達は床に倒れていて、部屋の中は嵐のように風が吹き荒れています。

「サクラ!大丈夫か!?」

 王子の声がしました。

「サクラ!」

 2度目の声。

 声のする方を見ると、王子が風に阻まれながら手を伸ばしています。

「駄目です、殿下!危険です!」

 王子を止めるのは、レンさん…?

「しかしサクラが…!」

 何を言っているんでしょうか?

 わたしが、どうしたのでしょう?

「魔術が暴走しています!近付くのは危険です!」

 魔術?暴走?意味がわからないです。

 まだ王子やレンさんが何か言っています。

 しかしわたしは、急に電池が切れたように意識を失いました。


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