052 帰り道
次の日は街を散策してみましたが、特にこれと言ったことはなかったです。
強いて言えば、服を買ったことくらいでしょうか。
いえ、ズボンが安かったんですよ。……子供用ですけどね!
そして何もないまま、王都へ戻る日になりました。いや、何か起こって欲しかったわけではありませんよ?
こちらに来た時と同じように朝のうちに出発します。
うーん、魔物や山賊が増えてるって聞いちゃいましたから、注意しておきましょう。
何も出ないといいですよね。
かっぽらかっぽらとお馬さんの蹄の音を響かせながら、街道を進んでいきます。
来た時と同様に、幾度かの休憩を挟みながらの道中。
ふいに馬車が止まりました。
休憩は先程したばかりです。なにかあったのでしょうか?
その疑問はすぐに聞こえたボルトさんの言葉で解決しました。
「魔物だ」
ボルトさんの声、初めて聞きました。いや、そうじゃなくて。
魔物?
見れば、大分離れていますが確かに何かいます。
見えるだけでも10以上。
「どうしますか?」
ほかのメンバーに聞いてみますが、答えは一つでしょう。
「もちろん、ヤるわよ」
メリアナさんが答えます。
まあ、そのための護衛ですしね。
遠くに見えた集団は、こちらが停止して動かないのを見て、奇声を上げながら走ってきます。
「アファガルさんは荷台に隠れて下さい。他は降りて殲滅する。馬車に近づかせるな」
マリーさんが冷静に指示を出します。
メリアナさんは御者席で弓を構え、わたし達は馬車を降りて前に出ます。
近付いてみてわかりましたが、魔物は背が低く、150cmくらいで(それでもわたしよりは大きいですが)浅黒い肌に大きめの頭と醜い顔、そして長く尖った耳。ゴブリンです。数は……20はいないでしょう。
出発の時に魔物が出ないようにって思ったのがいけなかったんでしょうか…?
少し馬車から前に出たところで止まり、近付いてくるゴブリンを迎えます。
ヒュッと音がして、先頭を走っていたゴブリンに矢が突き刺さり、倒れました。メリアナさんです。
ゴブリンがわたし達に近づいた頃には、3匹が倒れていました。
それでもまだ、10匹以上残っています。一人3匹+αってところですか。
わたしの方へ来たのは4匹。
「ギギィッ!」
奇声を上げながら、真っ直ぐに襲いかかってくるゴブリンを一撃で斬り捨て、更に手近なゴブリンに斬りかかります。
すぐに残りの3匹を斬り伏せ、自分の周りに他にいないのを確認して、他の人の状況を確認します。
マリーさんは……2匹を相手にしていますが、足元にも2匹倒れています。大丈夫そうですね。
シンディさんは、ちょこまかと動くゴブリンに少してこずっているようですが…。
あ、一匹倒しました。残り2匹。
加勢しようかと思いましたが、大剣を振り回しているので近付くと危なそうです。
保留にしてボルトさんを確認です。
ボルトさんも大剣を使っていますが、力があるのか引き戻しが早いです。すでに2匹倒していて、残り1匹。時間の問題のようです。
となるとシンディさんのところですかね?
シンディさんの加勢に行こうとした時、ふと視界の隅に何かが映りました。
そちらに意識を向けると、街道脇の茂みにゴブリンが3匹見えました。弓を構えています。
「左前方の茂みに弓3匹!」
声を張り上げて他のメンバーに知らせながら、わたしはその殲滅に走ります。
足に気を送り、加速させて一気に斬り込みます。
「せいやっ!」
近付いた勢いで一匹を斬り、身体を転身させてそのまま隣のゴブリンに刀を振るいます。
「最後っ!」
残った一匹を斬り、ふぅ、と一息つきました。
振り返れば、残りのゴブリンも片付いたようで、お互いの無事を確認した後、後片付けをします(死体を退けないと馬車が通れないので)。
死体を片付けたあと、馬車に戻って移動再開です。
「サクラちゃんが戦うの初めて見たけど、凄いね~。4匹なんてあっという間に倒してたし。それに弓構えてたやつに向かってった時。すっごいスピードだったけど、あれってなに?魔術?」
しまった…。メリアナさんの興味を惹いてしまったようです。
うーん、多分、気功って言っても通じないでしょうし…。
「魔術ではありません。似たようなものですけど。一応、体術ですよ」
「そうなの?そんな体術、聞いたことないけど…。ね、わたしにもできるかな?」
「それは……わかりません。使えたとしても、かなり時間がかかると思いますよ?」
実際は、程度の差はあれ使えるようになる、と思います。
ただ、相当な時間がかかると思いますが。
師匠曰く、まずは自分の身体にあるエネルギー(生命力)を感じることが必要だと言っていました。これが出来るようになるまでに早くて数年で、まずそこで脱落するそうです。
わたしは前世で魔導師だったこともあり、それがどういうものか知っていたので1週間で感じ取れるようになりましたが…。
そして次の段階として、そのエネルギーを気に昇華させる(気を練る)ことになります。
練った気を自分の好きなように扱えれば一人前、らしいです。
あとはそれに慣れることだけだと言っていました。慣れれば気を練るのも早くなり、エネルギーから気への変換効率も良くなって、疲れにくくなるそうです。
わたしも最初の頃は、少し気を練っただけで倒れていました。
つまりは、メリアナさんが気を使えるようになるまで、早くても数年はかかります。
それまでずっと教えるわけにもいきませんし、適当に誤魔化しておきましょう。
「そっかぁ。使えたら面白そうって思ったんだけど、簡単にはいかないか」
うまく誤魔化せたようです。
それからは何事もなく、王都へ到着しました。
アファガルさんとは街に入ってすぐに別れ、マリーさん達とは依頼完了の報告と魔物の報告をした後、ギルドで別れました。
久しぶりの我が家です。まあ、久しぶり、というほどは経っていませんが。
ゆっくりとしたいところですが、寝ていても美味しいご飯は出てきません。
しかし今日は疲れていますし…。
忘れていましたが、そもそもろくな食材が無いじゃないですか!
5日も家を空けていたので、新鮮な物はありません。
あるのは日持ちする野菜やベーコン、チーズなど。
パンは一応、保存の魔具にパン種があるでそれを焼くとして…。
パスタとジャーマンポテトでいいですかね。
パスタは……あー、ミルクもないんでした。やはり、買い物に行かないと駄目ですかね?
仕方なく、最低限の材料だけ買いに行きます。
ミルクと卵と果物、野菜……あれ?いつの間にか色々増えて…。
なんだか予定にないものまで買って来たように思いますが、とりあえずは夕飯です。
メニューはスープカルボナーラとジャーマンポテトに決定。
そうと決まればまずはコンソメ作り。簡易ですけどね。ガラを煮込みながら、ジャガイモを茹でておいてっと。茹でたジャガイモは冷ましながら、パンを焼いて…。
ああ、結局手間がかかっている気がしますよ?
そんなことを考えながら、料理を進めます。
混ぜて、炒めて、茹でて、炒めて、混ぜて。
結局、3時間近くかけて夕食は完成。……あれ?
ああ、日本ではコンソメとか固形でしたし、スープも手軽に作れましたしね。
なんだ、メニュー選びで失敗していますね、あはは……はぁ。
例によって、王子も料理中にやってきました。
なんていうか、こういう日は料金をぼったくりたくなりますよね?いや、しませんけど。
そんなこんなで、いつもの夕食風景に。
道中の事や、オークやゴブリンと戦ったことなどを王子に話しながら夕食は終了。
戦闘の話をすると、王子に危険な事はするな、と言われましたが…。危険な事をしない冒険者ってどうなんでしょうね?
色々ありましたが、初めての護衛は無事に終わりました。