050 フルドへの道中
30日の朝、時刻は7時50分。
わたしは今、王都東門前の停車場にいます。
目の前には今回の依頼主の、アファガル・ヴェスタさん。
そして今、困っています。
「だからな、お嬢ちゃん。嘘ついちゃいけないって。ほら、黙っておいてやるから早く持ち主のとこに返してきな」
「何度も言っていますけど、本人なんです!カードも私のものなんです!」
そう、あの遣り取りです。
しかも今回の相手は、かなり手強い、というか全く話を聞いてくれません。
今までは冒険者カードを見せればわかってくれたましたが、この人はそのカードすら拾ったか盗んできたものだと思っているようです。
かれこれ、10分は同じ遣り取りをしているでしょうか?
「かーっ、お嬢ちゃんも強情だな!これは遊びじゃねーんだ!あんまりしつこいと、衛兵につきだすぞ!」
強情なのはどっちですか!
「貴方が、アファガル・ヴェスタさんですか?」
凛とした声が響きました。
アファガルさんが声のした方を向きます。
私の位置からは、馬車の影になっていて見えませんが……声からすると女性のようです。
「今回護衛の依頼を受けました、マリー・メルソーです。後ろにいるのは、同じ依頼を受けたパーティです」
「ああ、アファガルだ。よろしく頼む」
どうやら同じ依頼を受けた人達のようです。
「ところで、何かトラブルですか?それに、確か募集は5人だったはず。最後の一人はどこに?」
「ん?ああ、たいしたことじゃねぇんだが…。依頼を受けたって嘘をついてる子供がいてな。もう一人はまだ来てないみたいだな。ったく、もうすぐ出発だって言うのに…」
まだ言いますか。
「だから、わたしはギルドで正式に依頼を受けてきていると、何度も言っているじゃないですか!」
貴方が信じないだけでしょう。
「その子供と言うのはそこにいるのか?」
馬車の影から声の主らしき女性が現れました。
「ああ、悪いがちょっと追っ払ってくれないか?」
アファガルさんが何か言っていますが、わたしとその女性は動けないでいます。
どこかで見た気が…?
「「ああっ!?」」
二人の声が重なりました。
「いつも依頼板のところで助けてくれた人!」
「ギルドの天使!」
え?
なにか変な単語が聞こえた気が…。
いや、それよりも、です。
「丁度良かったです!わたしが冒険者だってお姉さんからも説明してください!何度言っても話を聞いてくれないんです!」
この人なら、わたしが冒険者だって知っています!
「お姉さん…。お姉さんか、いいな…。ふふふふ」
あれ?ちょっと…?おーい?
「マリー、どうしたの?あれ?この子って…」
ひょい、とマリーと呼ばれたお姉さんの影から、新たな女性が顔を出しました。
「いつも依頼板のとこで飛び跳ねてた子だ」
ちょ、いつもって最近はしていませんよ?
「なんだ?あんたら、このお嬢ちゃんと知り合いなのか?」
「あー、知り合い、というか、知ってるだけですよ。この子、ギルドじゃ有名だから」
有名ってなんですか?わたし、なにも目立つようなことしてませんよ?
「さっき言っていたトラブルって、この子のことですか?」
「ああ、ギルドで依頼を受けてきたって言っててな。カードも見せてもらったが、どっかで拾ったんじゃねーかって思うんだが」
「あはは、ちょっとカードと証明書、見せてくれる?」
冒険者カードと依頼の受理証明を女性に渡します。
「ふーん、サクラ・フジノ、15歳、あ、15歳なんだ。人族、ランクはDっと。もうランクDなんだ?まだ1ヶ月でしょ?早くない?」
「まあ、色々ありまして…」
「色々って…。ん、証明書も本物だね。この子の言っていること、本当ですよ。依頼を受けてきたみたいです」
カードと木札を返してもらいます。
「おいおい、あんたまでそんなこと言うのか?カードや証明書だって、拾ったか盗んできたんじゃねーのか?」
「あー、そりゃ無理ですよ。知らないんですか?冒険者カードは本人じゃないと文字が出せないんですよ?それにこの子、ほぼ毎日ギルドで依頼受けていますし」
あ、そういえばそんな機能もありましたね…。
すっかり忘れていました。
「へ?ってことは、このお嬢ちゃんは冒険者で、護衛の依頼を受けてここに来たってことか?」
「最初からそう言っているじゃないですか」
「ついでにいうと、15歳だって」
「え?15歳って、本気で?8歳の姪っ子より小さいぞ?」
「んー、まああたしらも最初は驚いたけどね。カードにそう書かれてるんだから、間違いないでしょ」
しばらくぶつぶつ言っていたアファガルさんでしたが、ようやく落ち着いたのかわたしの方へ身体を向けると、急に頭を下げました。
「済まなかった!お嬢ちゃんはずっと本当のこと言っていたのに、ハナっから嘘だと決め付けちまって…。商人失格だ」
これに驚いたのはわたしの方です。
「頭を上げて下さい!わたしもカードの事忘れていましたし…。わかってもらえたんですから、もういいですよ」
その時、タイミングよく4の刻の鐘が鳴りました。
「ほら、もう出発の時間ですよ。早く準備しましょう」
これ幸い、と話題を変えます。
「ん、ああ、そうだな。それじゃ俺は馬車の確認をしてくる。あんたらは自己紹介でもしていてくれ」
ああ、よかったです。あのまま頭を下げ続けられるのは、精神的にきついです。
ほっとしていると、先程の女性から声がかかりました。
「サクラちゃんでいい?あたしはメリアナ・シュツバール。メリアナでいいよ。得意なのは弓。んでこっちのがマリー・メルソーで剣士だね。あっちにいる獣人の男がボルト・マデアーノで、もう一人の男がシンディ・メラノね。あたしたちはパーティを組んでいて、全員Dランクよ。5日間、よろしくね」
メリアナさんは残りのメンバーを紹介してくれました。
「あ、はい。サクラ・フジノです。よろしくお願いします」
挨拶と簡単な打ち合わせをしているとアファガルさんの声がしました。
「おーい、出発するぞー」
出発の準備ができたようです。
「んじゃ、馬車に乗ろうか。ほら、マリー。いくよ?」
メリアナさんは、まだ空中を見つめているマリーさんを引っ張りながら馬車に乗り込みました。
馬車は2頭立ての幌付きの荷馬車で、結構大きいです。
アファガルさんが御者で、その横に一人、残りの4人は荷台の空いたスペースに乗ることになりました。
最初はシンディさんが御者席に、ボルトさんが後方警戒を担当します。
残りの3人は、空いたスペースでお喋りです。
わたしは護衛の依頼は初めてなので、色々と教えてもらいます。
他にも女性冒険者としての苦労や、気をつけることなども教えてもらいます。
話によると、女性の冒険者というのは少なく、全体の1~2割程度しかいないそうです。
昔は女性の冒険者に対して偏見や差別、セクハラなども多かったそうですが、ギルドの罰則の強化や様々な改善がされて、随分とましになったそうです。
ですがいまだにそういった意識はあるそうで、依頼を受けても女性と言うことで軽く見られたりすることも多いそうです。
他にも旅の注意などを受けました。
まあ、治安の悪そうな場所には近づかないことや、初めて行く場所はできるだけ下調べをしていく、怪しげな依頼は手を出さないなど、基本的な注意が多かったように思います。
なぜか、知らない人に声を掛けられても付いていかないようにとか、知らない人に食べ物を貰わないようにだとか、マリーさんにしつこく言われましたが…。なぜなんでしょう?
途中、休憩や昼食を挟みながら、何事もなく1日が過ぎていきます。
夕方、恐らく6時頃でしょう。森の傍で野営することになりました。
ボルトさんとシンディさんはテントの設営を、マリーさんは水を汲みに、わたしとメリアナさんは薪拾いです。
わたしは何往復かして、今夜の分+自分で使う分の薪を集めました。
というのも、どうやら皆さんは保存食と水で夕食を済ませると言っていたからです。
つまり、料理に使う分は自分で確保しておいた方が面倒がない、と考えたからです。
わたしは時間のない昼食はともかく、夕食時は時間もあるんですからせめてスープくらいは、と思います。
準備を終えてみんなで焚き火を囲む横で、わたしは少し離れて小さな竈を作って火を熾します。
そこにお鍋をかけて水を張り、さすがに出汁は取れませんが、干し肉、ベーコンを千切り、小さめにカットした野菜を入れて煮込みます。
インスタント出汁とかあれば便利なんですけど…。
野菜に火が通ったら、ハーブと香辛料で味を調えて完成。
マグカップに移してパンと合わせて夕食です。
スープを作ったお鍋は軽く水洗いをして、もう一度水を張って火にかけておきます。
食後のお茶用です。
わたしが夕食を食べ始めるころには、他の人はみんな食べ終わっていました。
もそもそと一人で食事をしていると、メリアナさんが興味深そうに覗き込んでいます。
「わざわざ料理するなんて面倒じゃない?あたしには無理だわ。スープがあれば確かにいいけどさ、面倒くさいって思っちゃうのよね。あれ?サクラちゃんが食べてるパンって、それお昼も食べてたわよね?今簡単に千切ってたけど、え?水もスープもなしで食べちゃうの?なにそれ?サクラちゃんって実は凄い力持ちなの?」
ちょっと、うざいです。
食べてる時に一方的に話しかけられるのって困りますよね?
賑やかに食事をするのと、騒がしいのとは別物だと思うのですよ。
しかも覗き込むように身を乗り出してくるものだから、非常に食べにくいです。
あ、ちょっと、髪の毛がマグカップに入ります!
「わたしは美味しいものが食べたいだけです。だから料理も自分でしているだけです。それを面倒だとは思っていませんし。あと、パンについては秘密です」
仕方なく、答えます。
パンを秘密にしたのは、教えるとなんだかすごく面倒な事になりそうだと思ったからです。
「えー、それだけでも凄いよね。あたしなんて料理からっきしだしさ。旅の間なんて毎食、保存食だよ。ね、ね、そのパン、一口でいいから食べさせてよ?」
「ちょっと、近いです!駄目ですよ、わたしのご飯なんですから!」
「いいじゃない、ケチケチしないでさ~。一口だけ、欠片でもいいから!ね?ちょうだいよぉ~」
「駄目ですって、あ、ちょっと、押さないでくださ、あっ!」
バシャッ
あぁ、スープが…。まだ半分残っていたのに…。
「あちゃ~、ごめんね~?」
ここで謝られても…。
「どうしたんだ?」
騒いでいたのが気になったのか、マリーさんが近付いてきました。
「メリアナ、お前また…」
マリーさんは地面にこぼれたスープの残骸と、転がるマグカップを見て状況を把握したようです。
「あはは、やっちゃった」
会話からすると、何度か同じような事があったようです。
「すまない、メリアナが迷惑を…」
「いえ…」
はぁ…。
気まずそうにしているマリーさんに背を向け、残ったパンをもそもそと食べます。
マグカップを洗い、ハーブティを淹れてようやく人心地つきます。
わたしがパンを食べている間に、メリアナさんはマリーさんに引っ張られてどこかへ行ったようです。
最初は悪い人ではないと思ったのですが…。いえ、悪い人ではないと思います。ただ、なんというか…。トラブルメーカー?それも悪意も自覚もない天然の、一番面倒くさいタイプじゃないでしょうか?
そうそう、今回の同行者ですが、マリーさんは金髪を肩で切り揃えた、クールな美人さんです。背も高く、すらりとした身体つきです。胸は……金属製の胸当てを着けているのでよくわかりません。クール、といいましたが、わたしには余所余所しく、交わした会話のほとんどは「ああ」や「そうだな」といった、単語のみです。気がつくと、わたしの方をじっと睨んでいることもあります。嫌われているんでしょうか?
メリアナさんは茶色の髪の、明るく賑やかな女性です。身長は170cmよりちょっと低いかな?ってくらいですが、その自己主張をする胸が特徴的です。Fはあるんじゃないでしょうか?砕けた喋り方で、暇さえあれば誰かと話しています。先ほどわかりましたが、実は面倒くさい人、のようです。
シンディさんはマリーさんと同じくらいの、180cmくらいでしょうか?赤みがかった金髪の、25歳くらいの男性です。わたしとの会話はほとんどなく、この人もわたしを睨むような目で見ています。
ボルトさんは……でかい、です。メリアナさんに聞いた話では虎の獣人らしいですが、身長は2mを超えているでしょう。服の上からでもわかるムキムキの筋肉で、その身長もあって壁のようです。無表情、といいますか、わたしが話しかけても首を 振るだけで、まだ声を聞いたことはありません。大きな身体と、頭の上に生えた耳と尻尾が特徴です。
あれ?わたしメリアナさん意外とほとんど会話していません。
……やっぱり嫌われているんでしょうか?
しばらくして、マリーさんから今夜の見張りについて聞きました。
2交代で、最初はわたしとシンディさん、夜中にマリーさん、メリアナさん、ボルトさんと交代するらしいです。
正直、誰と組んでも微妙な雰囲気になりそうで、憂鬱です。
一番ましなのは……ボルトさん?
そんなわたしの気持ちを余所に、わたしとシンディさんを残してみんな寝てしまいました。
焚き火を挟んで無言のわたしと、シンディさん。
気まずい、です…。
わたしから何か話題を振ろうとしますが、シンディさんがじっとこちらを睨んでいるので、未遂に終わります。
この沈黙をなんとかしようと、わたしはお茶を入れてみました。
「あ、あの…、お茶、飲みませんか?」
無視されました。
さらに気まずくなった雰囲気の中、わたしのお茶を飲む音と、夜食代わりのクッキーをかじる音が響きます。
「……まだ1ヶ月」
何の前触れもなく、シンディさんが口を開きました。
「え?」
何を言われているのかさっぱりわからないわたしは、間抜けな声が出てしまいました。
「登録して1ヶ月でDランクだと?普通、Dランクになるには半年はかかる。一体何をしたんだ?」
どうやらわたしが初心者なのにDランクなのが、納得いかないようです。
依頼を受けていれば勝手に上がる、と思いますが、実際はそう簡単な物ではないらしいです。
例えばわたしがメインで受けていた採取などでも、通常なら1日で終わらせる事の出来ない物もたくさんあります。初心者だと、薬草の生えている場所を探すのが大変だからです。
仮に生えている場所を見つけても、すでに採取されていたり数が足りなかったりして、大体は日数がかかります。
わたしは前世の知識からそう言った場所を把握していて、あまり人の行かない場所で採取していました。
つまり、わたしのようにほとんどの依頼を朝受けて、その日のうちに終わらせる、といった事は異常と言えるのです。
……そんなこと考えていませんでしたが。
なので半月でEランクになることも、ましてやDランクになるなんてありえない事、らしいです。
「何をした、と言われましても、依頼を受けていただけです。まあ、Dランクになったのは‘運’でしょうか?偶然でしたが、人攫いを捕まえましたので…」
「運だと?それだけでこんな短期間に、Dランクになれるはずがないだろう?人攫いって、ああ、あの誘拐事件のことか?ふん、立ち回りだけは上手いようだな」
なんか嫌なオーラを感じるんですが。
「だが俺は認めんぞ。俺だってDランクになるのに1年近くかかったんだ。犯人を捕まえた事だって、どうせ誰かが倒したのを横取りしただけだろう?登録して間もないお前が同じDランクだなんて納得ができるか!」
そんなこと言われましても……ねぇ?
ふと、わたしの耳に何かの唸り声が聞こえた気がしました。
動物…?いえ、何かの足音……複数の気配…。
こちらに近づいてきます。
シンディさんはまだ気付いていません。
「すみません、他の方を起こしてもらえますか?何か近付いています」
武器を持って立ち上がりながら、言います。
数は……5、いえ、6でしょうか。
荷物から明かりの魔具を取り出し、周囲を照らします。
「何かって…、わかった。お前はどうする?」
シンディさんは不審な顔をしていましたが、その気配に気付いたようです。
「数は多分、6。わたしは時間を稼ぎますので、皆さんをお願いします」
わたしは森を睨みながら告げました。
「すぐに戻る」
気配でシンディさんがテントに向かうのがわかりました。
「さて、何がでるんでしょうか…?」
ゆっくりと森の方へ歩いていきます。
「グルァァァァァ!」
森から現れたのは二足歩行の……豚?
でっぷりと太った身体と豚にしか見えない頭。身長は2m程度で手には斧や剣と盾を持っています。
身体には粗末な鎧を着けています。
恐らくは、オーク。
鈍重な身体に似合わず、素早い動きで襲いかかってきました。
数は予想通り、6体。
「ふっ!」
襲いかかってきた最初の一体を居合で斬り捨て、次の一体を袈裟に斬ります。
返り血を浴びないように素早く飛び退き、残りのオークに向き直ります。
数瞬で2体を殺されたオークは、怒りの声をあげて一気に襲いかかってきました。
斬りかかるオークの腕を飛ばしてその腹を斬り裂き、続くオークの胴を両断します。
それを見て、一瞬動きの止まったオークの足を斬りつけ、倒れたところで止めを刺します。
最後のオークは逃げようとしたところを、一気に近づいて斬り捨てます。
全てのオークを倒し、他に何もいないのを確認して、ようやく気を抜きました。
戦っている時は何も感じませんでいたが、気を抜いた瞬間、肉を切った感触や命を奪った事実に少し、震えが来ました。
考えてみれば、自分の手で人(?)を斬ったのも命を奪ったのも、これが初めてです。
思っていたよりもショックがないのは、やはり前世の影響でしょうか?
少し考えに耽っていると、人の近づく気配が感じられました。
「おい、大丈夫か!?」
シンディさんがみんなを起こしてきたようです。
「大丈夫です。もう終わりましたから」
刀についた血を拭き取り、鞘に収めながら答えます。
「終わったって……こいつら、オークじゃないか!?これを一人でやったのか?」
そりゃそうでしょう?わたししかいなかったんですから。
「ええ、武器に助けられました。……どうかしたんですか?」
見れば、みなさん硬直しています。何かおかしいことでもあったのでしょうか?
「……どうかしのかって、そりゃ、驚くだろう!?オークといやCランクの魔物だぞ?俺達Dランクだと数人がかりで一匹を倒すのがやっとだ。それを6匹も一人で、それもこんな短時間で倒すなんて…」
……そんなに強かったんでしょうか?
それなりに素早いとは思いますが…。
師匠なら50匹くらい、すぐに倒せそうですよ?
「いや、それよりもどうしてこんな場所にオークがいるのだ?この辺りは比較的魔物も少ないし、いてもせいぜいがゴブリン程度のはずだが…」
マリーさんが難しい顔をして考えています。
そういえば、この街道沿いは騎士団が定期的に巡回していて、魔物はすぐに排除されていたはずです。
となると、最近現れたのでしょうか?
考えてみてもわかることではありませんが。
「とりあえず、野営に戻りましょう。このことはギルドに報告しておく、ということでいいんじゃないでしょうか?」
わたしの言葉に、みんなが頷きました。
野営地に戻ったわたしたちは、全員で(アファガルさん除く)焚き火を囲んでいます。
というのも、もうすぐ見張りの交代の時間でしたので、今更眠っても……ということらしいです。
「すまなかった」
いきなりシンディさんに頭を下げられました。
「俺は君の実力を知らなかったとはいえ、あんなことを言ってしまった。きっと俺は、認めたくなかったんだ。つまらない意地だと思うが…。自分が1年近くかかった場所に、1ヶ月でいる君が羨ましかったんだと思う。だから…」
あー、うん、まあ、おかしい、と思いますよね。
「気にしないでください。そう思われても仕方ないと思いますよ?わたし、見た目こんなですし」
あ、言っててなんだか悲しくなります。
「しかし、君は実力がある。オーク6匹を一人で倒せたんだ。一人だとCランクでも難しいぞ?」
「ですから、武器に助けられたんですよ。これがなかったら、もっと苦戦していましたよ」
古代文字のおかげでしょうか。やたら切れ味のよかった刀を思い出します。
高い買い物でしたが、それだけの価値はあったと思います。
「ねね、その武器って珍しい形だよね?どこで手に入れたの?助けられたって言ってたけど、何か特別な力があるの?」
メリアナさんが刀に興味を示したようです。
「買ったのはガラム武具店ですが、ガラムさんは東方の国の商人から買ったって言っていました。古代文字は刻んでもらいましたが、特別、と言うような力はないと思います」
隠すことでもないので、答えておきます。
でないと、また何かトラブルになりかねませんし…。
「ガラム武具店って、あの気難しいドワーフのお店?へぇ~、よく買えたね?あそこ、物はいいんだけど、店主に嫌われると売ってもらえないって聞くよ?」
気難しい…?そんな風には見えませんでしたが…。
それに嫌われると売ってもらえないって、どこの頑固オヤジですか。
「ちょっと見せてもらってもいい?」
そう言いながら、すでにメリアナさんの手は刀を握っています。
ああ、ここで断るとまた面倒な事になるんでしょうね…。
「ちょっとメリアナ。やめなさい」
マリーさんが窘めますが、メリアナさんは聞いていません。
「構いませんけど…。気をつけてくださいよ?」
言っても無駄だと思うので、大人しく渡します。
「ありがと。お、結構重いんだね」
そりゃまあ、鉄の塊ですから…。
「おー、片刃なんだ?あ、古代文字だ。何が書いてあるんだろ?」
「『固定』と『鋭利』ですよ」
「へー。あはは、変な形~」
鞘から抜いて、ぶんぶんと振り回しています。
「ちょっと、あぶないじゃない。やめなさい」
「ちぇ、はーい」
マリーさんに怒られて、拗ねるように刀を納めています。
子供みたいな人ですね…。
話をしていると、いつの間にか交代の時間が過ぎていましたので、わたしは休むことにしました。