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043 第一王子

 あれから10日が過ぎました。

 わたしは相変わらず、一日で終わる依頼を受けています。

 ランク的に討伐や護衛もあるのですが、そういった依頼は数日掛りと言うのが基本のようで、なんとなく手を出し辛い気がしています。

 そのうち、受けてみたいとは思っているのですが。

 王子はほぼ毎日、夕方になるとわたしのところにご飯を食べに来ています。

 最初は仕方なく用意していたのですが、なぜか当然のように毎日来るので諦めました。

 王子がそんなに毎日で歩いていて、大丈夫なんでしょうか?

 実は暇なんでしょうか…?

 さすがに食費もかかるので、材料費として1回に付き銅貨2枚をもらってはいますが。

 ほぼ毎日、というのは1日は王子が夜会でこれない日があったのと、1日はわたしが戻るのが遅くなった日があったからです。

 なぜか次の日に文句を言われました。

 その結果、遅くなる可能性がある場合や、前もっていないと分かっている日などは前日に言っておくか、玄関にそれとわかるように、合図を置いておくことになりました。

 わたしは王子の料理係ではないのですが…。

 それに、王子はわたしの服装にも口を出してきます。

 女らしい恰好をしろとか、足は見せるな、とか。貴方はわたしのなんなんですか?

 あまりにも口煩いので、この数日は家に戻るとワンピースにズボンという格好に着替えています。


 そして今日も、玄関の前には王子がいます。

 いつも通り、王子を家に入れようとしたときに、それは聞こえました。

「それがお前が毎日いなくなっていた原因か」

 声のするほうを見ると、そこには金髪の男性が立っていました。

 誰でしょうか?王子の知り合い?

 その王子を見ると、驚いた表情でその男性を見ています。

「兄上…、どうしてここに…?」

 は?兄上?王子の兄ってことはこの人も王子?

 そう言えば…。

 金髪に碧の眼、通った鼻筋、この人も美形です。

 王子に似ている、といえる顔立ちです。

 というか、この国の王族はふらふらするのがデフォルトなんですか?

 この王子といい、あの王子といい…。

「ふっ。最近、お前が夕刻になるといつもいなくなっているからな。夕食も外で食べているようだし…。父上に聞いても笑っているだけだし、ならば、自分で調べてみようと思ってお前をつけて来たのさ」

 ああ、夕食時にいつもいなくなっていれば不思議に思いますよね。

「それで、そいつが噂の娘か。話には聞いていたが、小さいな。本当に15歳か?まあ、人の趣味にはとやかく言いたくはないが…」

 その、おそらく第一王子(名前知らないし)は近づいてきて、わたしをじろじろと見ています。

 なんか、嫌な感じですね。

 それよりも噂?また何か変な噂をされてるんですか?勘弁してください。

 それに貴方から見れば、大体の人が小さいでしょうよ。

 近づいてみてわかりましたが、この人王子よりでかいです。2mくらいあるんじゃないでしょうか?

あまり近づかないでください。見上げるのに首が疲れるので…。

「ふむ、見た目は悪くないが…。しかしセドリム、知らなかったぞ?お前の趣味がこんなのだとは…。ああ、だからどの令嬢とも婚約をしなかったのか」

 さっきから王子の趣味がどうとか…。どういうことですか?

 わたしは困って、王子を見上げてみます。

 王子はわたしの頭にぽん、と手を置きました。

「それで兄上、もう気は済んだのでしょう?戻られてはいかがですか?」

 そうですよ!用が済んだのなら早く帰ってください。

「ふっ、まだ用は済んでいないぞ?せっかくだ、お前が毎日通う夕食とやらを食べて行こうと思っている」

 は?作るのわたしなんですが?

 そもそも、王子だって勝手に食べに来ているだけですよ?

「兄上、それは…」

「ふっ、次期国王たる俺が、食べてやるんだ。そこの、あー、名前を言え」

 なにこれ?こんなのが次の王様?

 こんな王子で大丈夫なんですか?

「……人の名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが礼儀だと、わたしは教えられましたが?」

 わたしの言葉に、第一王子はぽかんとした表情。

 そしてわたしの頭にまだ乗っている手に、少し力が入ったように感じました。

「ははははは。面白いことを言う娘だ。いいだろう、俺の名前はエドウィル・イル・ソビュール。この国の第一王子だ。さあ、お前の名前を教えろ」

 うわぁ、なんかめんどくさいタイプですよ。

「サクラ・フジノです…」

「ふっ、サクラか。よし、サクラ。俺の分の食事を用意しろ」

 ほんとにこんなのが王子でいいんですか?

 何とも言えない表情でセドリム王子を見上げると、そこには同じような表情がありました。

「すまん」

 一言だけでしたが、それで大体わかりました。

 いえ、わかりたくはなかったのですが…。

 いや、だから頭なでなくていいです。いい加減、手をのけて下さい。

「さぁ、案内しろ」

 はぁ、と溜息をついて、エドウィル王子を家の中へ招き入れました。


「すまん、サクラ。迷惑をかける」

 いえ、勝手に食べに来てる、というのは王子も同じなんですよ?

「まあ、かまいませんよ。今更一人分増えたところで…」

 そう言って、わたしは作りかけの料理を再開します。

 幸い、というか、今日は人数が一人増えた程度なら許容範囲のものばかりです。

 せいぜいが王子がお代わりする分がなくなると言った程度でしょう。

「ああ、王子、そこに立っているだけなら食器を用意してください」

 わたしが料理しているのを、後ろから眺めていた王子に指示を出します。

 王子は文句も言わず、言われた通りの食器を並べて行きます。

「なんか、いいな。こういうのも…。夫婦のようだ」

 ダンッ

 カットしていた野菜が真っ二つになりました。

 ダレトダレガフウフデスッテ?

「どうした?顔が赤いぞ?」

 誰のせいですか!?

 そりゃわたしだって、女です。そういう、いわゆるらぶらぶな新婚生活、というのも考えたことはありますが…。

 お相手が王子…?ナイナイナイ!ない…ですよね…?

 あ、想像したらまた顔が…。

「余計なこと言ってないで、手を動かしてください!ほら、フォークやスプーンも出しておいてください」

 誤魔化すように、王子に指示を出します。

「ははは、照れているのか?赤くなったサクラも可愛いな」

 か、可愛いって…。何サラっと言ってくれてんですか!?

「余計なことばかり言っていると、王子の分はなしにしますよ?」

 王子に背を向けながら、多分これが一番効果的だろう、と思う台詞を口にします。

「せっかくのサクラの料理が食べられなくなるのは困るな」

 やはりこれが一番効果的なようです。

「ちゃんと食器を並べるから、美味い料理を作ってくれよ?」

 自分が食べる為に作っているんですから、わざわざまずいものを作る気はありませんよ?

 別に王子の為に料理を作ってるんじゃないんですからね!?

 あれ?


 そんなキッチンの風景を、リビングからエドウィル王子が覗いていたことには気がつきませんでした。

 ちなみに、お城に戻ったエドウィル王子が他の王族の方にこの話をして、しばらくセドリム王子が妙な視線を感じていた、というのはきっと余談です。


 夕食の準備を終えて、エドウィル王子と初めての食事です。

 メニューは煮込みハンバーグ、ミモザサラダ、じゃがいものポタージュ、天然酵母パンです。

 エドウィル王子は最初、見たことのない料理に戸惑っていましたが、セドリム王子やわたしが食べ始めると、意を決したように口に入れました。

 直後、痺れたように身体を震わせて硬直していましたが、硬直から復帰するとすごい勢いで食べてしまいました。

 煮込みハンバーグは1回、ポタージュは2回、お代りをして、パンも5個食べていました。

 セドリム王子が自分の分のお代りがないことにしょぼくれていましたが、些細な事なので割愛します。


 食事が終わると、王子二人にはバタークッキーと水出しのハーブティを出して、わたしは後片付けです。

 片づけをする私の背中から、二人の話声が聞こえてきます。

「おい、セドリム。お前いつもこんな美味いものを食べているのか?」

「そうですね、いつも、というわけにはいきませんが」

 まあ、勝手に食べに来ているだけですし。

「よし、俺も明日からここで夕食を取ることにしよう」

 え?なんでそんな話に?

 待って下さい!王子なんて一人で充分ですよ!?

「ちょっと、兄上!」

 そうだ!王子、頑張れ!

 セドリム王子はこっちに来て下さい、と部屋の隅に引っ張っていき、小声でぼそぼそと何かを伝えています。

 時折二人でこちらを見て、またぼそぼそとやっています。

 内緒話が終わってこちらの方へ戻ってくると、エドウィル王子はにやにやしながら言いました。

「そういうことなら俺は遠慮しておこう。セドリム、頑張れよ」

 バンバン、と音がするような強さでセドリム王子の肩を叩いています。

 対するセドリム王子は顔をしかめながら、されるままになっています。

 何を言ったのでしょうか…?

 エドウィル王子のあの顔も気になりますが…。

「しかし、だ。セドリムだけがあんな美味い物を食べているのは許せん。あのパンだけでもなんとかならないか?」

 だから、セドリム王子も勝手に食べに来ているだけですって。

 というか前に聞いた話だと、第一王子って堅苦しくてうるさいって話じゃありませんでした?

 どっちかというと、面倒くさい性格の気がしますが…。

 うるさいのは違う意味でうるさいですけど。

 セドリム王子に確認してみると、「王族としてのプライドが高いんだ」とのことです。

 つまり、プライドを傷つけないようにしていればそれほど扱いにくい相手ではない、ということらしいです。やっぱり面倒くさい人のようです。

 ということは、この場合の対処としては…。

「はぁ、約束はできませんけど…。偶に、でいいならセドリム王子に持って帰ってもらいますが?」

 つまり、一回でもお土産に持たせれば、嘘をついたことにはなりません。

「ふっ、それでいい。楽しみにしているぞ」

 よし、これで毎日王子二人に押しかけられる事はなくなりました。

「ふっ、それでは、俺は戻るとしよう。セドリム、お前、まだあの話をしていないのであろう?さっさと済ませて戻ってこい。ではな」

 うーん、自由人ですね。やはりこの王子も、あの王族の一人ですね。

 キッチンに置いてあったパンを数個持って、エドウィル王子は帰って行きました。

 勝手に持っていかないでくださいよ…。


「で、あの話ってなんですか?」

 エドウィル王子を見送ってリビングに戻ったわたし達は、アイスティーを飲みながら顔を突き合わせています。

「ああ、サクラに頼みたいことがあるのだが」

「お断りします」

 面倒事の予感がビシバシします。

「せめて、話を聞いてから断ってくれ」

 なんだか聞くだけで、面倒事になりそうな気がしますよ?

 じっと、わたしを見る王子と、それを見返すわたし(身長差があるので上目遣い)。

 王子は頬を染めて、目を逸らしました。

 いまのどこに、照れる要素が…?

「実をいうと、サクラには今度の夜会に出てほしいんだ」

 聞くとも言っていないのに勝手に喋り出しましたよ!?

「私のパートナーとして」

 やっぱり面倒事です!

「今度開かれる夜会は、パートナー同伴が規則でな。しかし、私は参加が義務付けられているのだが…」

「いつもはどうされているんですか?その方にお願いすればいいじゃないですか」

 今までも同じような事があったはずです。

「いつもは妹のアリアに頼んでいたんだが、アリアは視察に行くことになっていてな。今回はパートナーがいないんだ」

 だからといって、なんでわたしなんですか。

「王子なら貴族の令嬢に声をかければいいじゃないですか。婚約者候補の方とか。喜んで引き受けてくれるんじゃないですか?」

 正直言って、見てみたい、という気持ちはあります。

 笑顔の裏で腹黒いやり取りが行われている場所、というのは知っていますが、表面上の煌びやかさなどは一見の価値はあるはずです。二度は御免ですけどね。

「それが、そうもいかなくてな。わたしが婚約しない理由は前にも話しただろう?夜会にパートナーとして連れて行く、というのは周りからもそう見られるんだ。そんなことになると、後で苦労することになる」

 それを想像したのか、王子は嫌そうな顔をしました。

「それならわたしでも一緒じゃないですか。むしろ、わたしがそんな目で見られるのは嫌ですよ?」

「サクラは平民だろう?貴族と違ってそう思われる可能性は少ないし、仮に思われたとしてもどうなるものでもない。頼む、サクラにしか頼めないんだ。この通りだ」

 そう言って、頭を下げる王子。

 だから、仮にも王族が(以下略)。

 やっぱり面倒事じゃないですか。それも性質の悪い…。

 だから聞きたくなかったんですよ。

「やはり、無理か…?」

 わたしが何も言わないでいると、王子は少しだけ顔をあげて、わたしを窺います。

 捨てられた子犬のような目で!

 ああああああ、垂れ下がった耳と尻尾の幻覚が!

 苦手なんですよ、小動物の円らな瞳ってやつが!

「わかりました!わかったので、顔をあげて下さい!」

 根負けしたわたしが叫ぶと、王子はがばっと顔を上げて、いえ、顔どころか立ち上がってわたしの方へ近づき、抱き締められました。

「ありがとう!サクラなら受けてくれると信じていた!これで計画通りだ!!」

 王子が何か叫んでいますが、わたしはそれどころじゃありません。

 座っている状態で抱き締められて、そのまま持ち上げられたのです。

 王子の身長は184cm、わたしは四捨五入で140cm。

 足なんてすでに浮いていますよ?

 その状態でぶんぶんと振り回すものだから、わたしは王子の首に手をまわして、落ちないようにしがみつくのに必死です。

 さすが、騎士だけあっていい身体してますね…。

 いやいや、そんなこと考えている場合じゃなくて!

 一瞬、視界の隅に、庭からリビングを覗いているエドウィル王子が見えたような気がしましたが…。気のせい、ですよね?


「それで、その夜会とやらはいつなんですか?」

 ようやく解放されて、わたしは必要な事を確認します。

「明後日だ」

 は?

「明後日の夜が夜会なので、明日はドレスを用意させる。4の2刻に城に来てくれ」

「明後日って…、いくらなんでも急すぎやしませんか?わたし、何の準備もできないですよ!?」

 そう、仮にも王子のパートナーとして行くんです。あまり酷い真似もできません。

「準備はこちらでしておく。必要なのはドレスの採寸くらいか?心配しなくてもいい、私の横にいればいいだけだ。踊る必要もないしな」

 え?何もしなくていいんですか?

 何かおかしい。わたしがこの事に違和感を感じたのは、これが最初でした。

「だから明日は朝から城のほうに来てほしい。さすがにドレスは急がないと間に合わんからな」

 えっと、4の2刻って午前9時ですよね。まあ、そのくらいなら…。

「とりあえずは、わかりました。一旦引き受けた以上は、頑張ります」

「頼む」

 それからしばらくして、王子は帰って行きました。

 わたしの胸にもやもやとしたものを残して…。


えっと……40~42話を投降後の感想が一気に増えていて驚きました。

読んでいただいてありがとうございます。

レス着けてないですけど、読ませていただいてます。


胸を揉めば~については42話の最後に少し書き足しておきます。


第一王子は、最初はもっとお固い性格の予定だったのですが…。

書いてみるとこんな性格になっていました。

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