041 王子とメイドさんとわたし
「え?シフォンさん…?」
お城のメイドさんの、シフォンさんがいます。
シフォンさんは、涙を流しているわたしを見て、そしてシーツの染みを見て、部屋の入口に立っている王子を睨みました。
「セドリム王子殿下、これはどういうことですか?」
抑えた、けれど怒っているのがわかる低い声で、シフォンさんは王子に問いかけました。
「私は何もしていない。誓ってもいい。起きたらサクラが泣いていたんだ。お前なら、話を聞くこともできると思って来てもらったんだ。私だと何も分からないんだ、サクラを診てやってくれ」
「…わかりました。話を聞いてみますので、殿下は部屋の外でお待ちください」
低い声で、シフォンさんは王子にそう言って部屋から追い出し、わたしの方へと近づいてきました。
「サクラ様、お久しぶりです。どうなさったんですか?」
優しい声でそう聞かれて、わたしの目からはまた、涙があふれてきました。
「シフォンさぁぁん」
ベッドに腰掛けるシフォンさんの胸に顔をうずめて、泣きながら言葉を紡ぎます。
「わかんない、です。昨日、ワイン、飲んで、それから、ぐすっ、記憶なく、て。起きたら、血が、痛くて…。王子は、知らないって、ぐすっ、いうし、わたし、どうしたらいいか…」
泣きながらなので、途切れ途切れになる言葉を、シフォンさんは根気よく聞いてくれます。
「あんの馬鹿王子…!こんな小さな子を!」
あれ?なんか変な声が聞こえたような…?
「それで…、まだ痛むんですか?その、あの部分は…?」
「あの、ね、ズキズキ、というか、ぐすん、ジクジクって、お腹の、奥が痛い、です。血も、止まらないし…。ぐすっ」
「えっと?お腹の奥、ですか?ジクジク?それに、血が止まらないって…。もしかして…?」
シフォンさんは何か思い当たることがあるのか、少し考え込んでいます。
「あの、サクラ様?サクラ様は一応、15歳でしたよね?その、非常に聞きにくいことなんですが…。月のモノはこられていますか?」
一応ってなんですか、一応って。立派な15歳ですよ。
「へ?月のモノって…?」
いきなりの質問に、意味がわからず聞き返してしまいます。
「その、子供を産めるお体になっているか、ということですが」
生理、のことですか。
「え?ああ、いえ、まだ、ですけど…?」
「すみません、少し失礼しますね。恥ずかしいかもしれませんが、我慢してください」
そう言うと、シフォンさんはわたしの身体を仰向けにしてベッドに倒し、がばっと両足を開かせました。
「え?ええ!?何を!?シフォンさん??」
わたしは両足を開いた状態で仰向けに寝転がり、毛布も剥ぎ取られています。
そして開いた足の間にはシフォンさんが…。
なんですか、このシチュエーションは…?
「落ち着いてください。少し調べますので。出来れば動かないで、身体の力を抜いていてください」
え?え?
?マークを浮かべて混乱するわたしを見て、シフォンさんが微笑みます。
「あら?うふふ、サクラ様って生えてないんですね。ここも可愛らしいですね。うふふふ。胸もこんなに可愛らしくて…。あら?なんだかドキドキしてきましたわ」
なんか、雰囲気が危ない気が!
「ちょ、シフォンさん!戻ってきて!?」
わたしの声にハッとしたように、シフォンさんの表情が変わりました。
「あら、失礼しました。コホン。少し、サクラ様の身体を調べさせていただきますね。大丈夫です。怖いことなんてありませんから」
なんだか台詞からして怪しいのですが!
「んっ」
シフォンさんの指が、わたしのそこに触れて、思わず声が出ます。
そこがゆっくりと開かれて、空気に触れるのがわかりました。
何をされているのかと思って見てみると、そこをシフォンさんが覗き込んでいるのが見えました。
「シフォンさん!何してるんですか!?」
顔を真っ赤にして、思わず足を閉じようとしましたが、シフォンさんの身体があって閉じることができません。
「すぐに終わりますので、じっとしててくださいね?」
その台詞、かなり怪しいですよ!?
わたしのナカに何かが入ってきます。
「ふぁ」
その感覚に、わたしの口から声が漏れました。
しばらく、その何かは私のナカを探るようにうどいていましたが、すっと抜けて行きました。
その後すぐにシフォンさんが離れるのがわかりました。
慌てて毛布を掴み、包まります。
「サクラ様。おめでとうございます」
ハイ?オメデトウゴザイマス?ナニガ…?
「この血は月のモノですよ。サクラ様も今日から大人の女性になられました」
「え…?それじゃ、わたし、王子にされたわけじゃ…?」
「はい、先ほど確認させていただきましたが周囲に裂傷もなく、純潔の証も確認できましたので、月のモノで間違いないと思います」
じゃあ、わたしまだ、処女なんだ…。
わたしがほっとしていると、シフォンさんは不思議そうに聞いてきます。
「そもそも、どうしてそのような事を思われたのですか?それにどうして殿下がここにいらっしゃったのですか?」
その質問に、ビクッ、と身体が震えました。
しどろもどろになりながら、何とか説明をします。
「あの、わたし、お酒にすごく弱くて、昨日、王子が持ってきたワイン飲んじゃって。それで、意識なくなって、ですね。起きたら裸で、王子が隣に寝てて、そしたら血が。だから、あの」
「つまり、殿下にお酒を勧められて、弱いのにそれを飲んでしまって意識がなくなった。起きたら裸で寝ていて、隣には殿下が寝ていらした。シーツの血を見てそう言うことをされたのだと思った、ということですか?」
すごい、あの説明でわかったんですか?
シフォンさんの言葉にコウコクと頷きます。
「殿下は、サクラ様がお酒に弱いのを知っていらしたんですか?」
「知っていました…。この前もそうでしたから…」
その答えを聞くと、呆れたような、怒った顔でシフォンさんが呟きます。
「あの馬鹿王子!なにしてくれてんですか!」
あれ?また幻聴が…。
「コホン。それで、サクラ様は月のモノについてはご存知ですか?」
学校で習った基本的な知識はあります。
「基本的な事は…。でもどうしたらいいのかは…」
日本では生理用品を使うというのは知っていますが、この世界でどうなのかは知りません。だって前世、男だったんですもの。
「そうですね、一般的には身体に密着した下着に当て布をするか、詰め物をするかになります。身体を動かすことの多い女性は、詰め物をすることが多いようですね。当て布ですと、ずれて下着や衣服に血がつく事もありますし。サクラ様は冒険者ですので、詰め物のほうがよろしいのではないでしょうか?」
詰め物って、日本で言うタンポンってやつですか?
え?直接入れるんですか?怖い、かも…。
「えっと、詰め物って怖くないですか?出来れば当て布のほうがいいかな~なんて…」
「激しく動かなければ、当て布でも大丈夫なようですが…。冒険者となると、少し難しいかもしれませんね。体調の事もありますし…。そういえば、サクラ様は体調のほうはいかがですか?」
え?体調って、ああ、そういえばクラスメイトが重いとか軽いとか言っていたあれでしょうか?
「お腹が少し痛い、です。それに身体も少しだるいというか、重い感じはします」
「気分が悪いとかそういったことはございませんか?」
「気分のほうは……多分、大丈夫だと思います」
わたしの答えを聞いて、微笑むシフォンさん。
「サクラ様は軽い方でいらっしゃるみたいですね。重い方ですと、動けないほど痛んだり、気分が悪くて吐く方もいらっしゃるそうです」
うわぁ、それは大変そうですね。
よかった、軽いみたいで。
「ですが、色々な理由で症状が重くなることもありますので、体調不良を感じたら休まれることをお勧めします」
うーん、男性に比べると、女性って大変なんですね。
「それでは私は殿下にご説明をしてから買い物をしてきますので、サクラ様は、そうですね。今日はスカートのほうがよろしいですね。着替えてお待ちいただけますか?ああ、下着には適当な、清潔な布を当てて下さいね?」
頷き、染みのついたシーツを剥がして出て行くシフォンさんを見送ります。
ドアの外で王子とシフォンさんの話声が聞こえてきます。
わたしは言われた通り、ワンピースを取り出して着ることにしました。
着替えが終わって座っていると、ノックの音と、王子の声がします。
「サクラ、入っても大丈夫か?」
なんとなく、気まずいと思いながらも、一応は心配させたようですし…。
「……どうぞ」
素っ気ない口調になるのは仕方ないと思います。
「シフォンから話は聞いた。済まなかったな、その、昨夜酒を飲ませなければ、こんな騒ぎにならずに済んだと思う。ちょっと反応をみてからかう程度の悪戯のつもりだったんだ。謝る」
そう言って、王子は頭を下げます。
「……もういいです。何もなかったようですし。飲んでしまったのは、わたしも悪かったと思いますから」
「そうか。それで、その、体調はどうだ?気分が悪いとかはないのか?」
おずおず、といいますか、怖々、といいますか…。
わたしから見れば大きな身体をした、大の男か主人の機嫌を窺う犬のような雰囲気でそんなことを聞いてくるものなので、思わず吹き出してしまいました。
「ぷっ、くすくす…。王子、今、すごい情けない顔してますよ?」
「む?そうか?自分では普段通りのつもりなんだが…」
顔をしかめるとさらに情けない雰囲気になります。
「あははは、もう、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。少し、痛みやだるさはありますけど、シフォンさんの話だと軽い方らしいですから」
笑いながら答えるわたしに、王子はますます情けない顔になります。
「そうか。だが、もう一度だけ謝らせてくれ。済まなかった。もう酒は飲ませないように気をつける」
「わかりました。わたしも気をつけますから」
わたしがそう言うと、王子はそっと、わたしの頭に手を乗せました。
なんだかくすぐったく感じて、俯いてしまいます。
しばらく、ゆっくりとした手つきで頭をなでる王子。
なんですか、この雰囲気は。なんだかむずむずします!
「あの!王子は朝食はどうされるんですか?」
なんとかこの雰囲気を回避しようとして出た言葉がこれです。
「ん?ああ、そうだな。いいのか?ここで食べていっても…」
「え?はい。と言っても、簡単なものしか出せませんけど」
王子の手はまだ、私の頭をなで続けています。
回避失敗!
ガチャ
なんとかしようと、必死に頭を回転させている所にシフォンさんが戻ってきました。
「あら?あらあら?お邪魔でしたか…?うふふふ」
待って!また誤解されるんですか!?
「いえ!邪魔じゃないですから!おかえりなさい、シフォンさん!」
慌てて立ち上がるわたしと、そんなわたしから、なんだか残念そうに手を戻す王子。
「あら?そうなんですか?」
そうなんです!
「そ、そういえば!シフォンさんは何を買って来たんですか!?」
こうなったら、強引に話題を変えるしかありません。
「あらあら。そうですね、殿下はしばらく部屋から出ていていただけますか?女性同士のお話ですので」
またしても、メイドに部屋から追い出される王子。
それでいいのか?王子サマ。
「さぁ、サクラ様。こちらを着けて下さいね」
そういって取り出されたのは…薄い布を何層にも折りたたんで重ねられた細長い布と、白い、三角形の布切れ。それに筒状になった綿…?に紐のようなものがついたものです。
とりあえずそれを受け取りながら、シフォンさんに目で問いかけてみます。
「この細長い、重ねられた布が当て布で、こちらは月のモノの時につける下着です。この筒状のものは詰め物ですよ。全て、雑貨屋か婦人服のお店で買えます」
細長い、四角い布はなんとなくわかります。
専用の下着……は、いつもの紐パンと違って分厚い布で作られていて、腰部分に紐が入っていてお腹のところで結ぶようです。
詰め物は…、見なかったことにしましょう。
「さぁ、サクラ様。早速つけてみましょうね」
がしっと肩を掴まれ、シフォンさんに抱き寄せられたかと思うと、スカートの中にシフォンさんの手が入ってきました!
離れようとしても、しっかりと抱き締められているので身体をよじるくらいしかできません。
「待って、待って下さい!何してるんですか!?」
制止の声にもシフォンさんは構わず、
「んふふ~。可愛い♪大丈夫ですよ~?」
何が大丈夫なんですか!?
あっという間に下着の紐が解かれて、パサリ、と床に落ちる音がします。
「さぁ、サクラ様?着け方をお教えしますね?」
見上げた目に入ったのは、シフォンさんの手に握られた詰め物。
それを見た瞬間、硬直するわたしの身体。
硬直したわたしはくるり、と回転させて後ろから抱き締められます。
「怖くないですよ~?すぐに終わりますからね~?」
シフォンさんの手がゆっくりと下がっていきます。
「やだ、やだやだやだやだ……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ぐったりと、ベッドに横たわるわたしと、ツヤツヤした顔で立つシフォンさん。
「う~、なんか変な感じがします…」
ベッドに突っ伏したまま、唸るようにこぼします。
「うふふ。すぐに気にならなくなりますよ?ああ、少なくとも1日に一回は交換してくださいね?着けっぱなしでいると、病気になることもあるそうなので。そうそう、これは私からのプレゼントです。今回の分はありますから、気にせずに使ってくださいね?お代はもう頂きましたから♪」
お代ってなに!?
思わず顔を上げると、シフォンさんは両手を胸の前で合わせて、楽しそうに微笑んでいます。
そして急に真面目な顔になり、
「いいですか、サクラ様。悩み事や困ったことがあれば、いつでも相談してください。殿下……は当てにならないかもしれませんが、出来る限りのことは致しますから。女性の悩みとか、ね?」
王子、シフォンさんにヘタレ認定されてますよ?
その言葉に、ゆっくりとシフォンさんを見上げます。
やっぱり、でかい…。
「あの…、じゃあ、さっそくなんですけど…」
「はい、なんでしょうか?」
にこにこと微笑むシフォンさん。
楽しそうですね…。
「どうしたら、そんなに大きくなれるのでしょうか?」
わたしの質問に、困ったような微笑みに変わりました。
「それは…。身長のことでしょうか?」
「いえ、それも、ですけど…。胸、とかお尻、とか。シフォンさん、大きいじゃないですか。どうやったら大きくなるんですか?」
シフォンさんはあらあら、という顔です。
「そうですね。私は特にこれといったことは…。ですが、小さくてもサクラ様は可愛らしいと思いますよ?」
「でも、大きいほうがいいじゃないですか。この国の人も大きい人ばかりですし。王子も大きいほうが好きみたいですし…。やっぱり、わたしみたいに小さいと女性としての魅力、ないですよね…」
俯きながら続けるわたしに、シフォンさんは楽しそうに言います。
「そうでもないと思いますが…。どうしても大きくしたいなら、殿方に揉んで貰うと良い、と聞いたことがありますよ?殿下に頼んでみましょうか?」
その言葉に顔を上げると、ニマニマした顔でこちらを見ていました。
「え?なんで王子に?いや、それよりも揉んでもらうとか、無理です、無理。絶対に、無理!」
必死に無理だと伝えると、シフォンさんはくすくすと笑いながら、わかりました、とだけ答えました。
その後、リビングで待っていた王子とシフォンさんと一緒に朝食を食べました。
お手軽に昨日の残りのスープとベーコンエッグ、それに昨日焼いていたパンです。
多めに焼いていたパンも、今日の分で無くなるでしょう。
また作っておかないと…。
ちなみにシフォンさんがわたしの料理に驚き、パンを食べてまた驚いていたのは余談です。
王子の評判が悪かったので少しフォローを…。
王子は何かしようと思ってお酒を飲ませたのではありませんでした。
単に反応を見てからかっていただけだったという…。
そして何もできないヘタレです。
王子が謝る台詞を少しだけ変更。