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040 初めての…

 ゆっくりと、闇の中から意識が浮かび上がってきます。

 まず最初に認識したのは、私のものではないぬくもり。固くて大きな、心地よいぬくもりです。

 なんとなく、それを失いたくない気持ちになってぎゅっと、しがみついてしまいます。

 力を入れ過ぎたのでしょうか?そのぬくもりがぴくり、と動きました。

 ……あれ…?なんかつい最近も、同じような事が…。

 意識の隅に引っ掛かったその考えに、まだはっきりとしない頭で状況を認識しようとしました。

 ぺたぺた

 固い、人の体のようです。

 ゆっくりと、顔を上げます。

 そこにいたのは…。

「セドリム王子…」

 顔をしかめながら眠っている王子の顔が見えます。

 じゃあ、わたしがしがみついているのは…?

 視線を王子の顔から下げて行くと、わたしの目の前にある肌色。

 王子の腕です。

 一気に先日の光景がよみがえります。

 そしてあの日と同じように、いまのわたしは裸。

「っっっ」

 しがみついていた腕を離し、かかっていた毛布で身体を隠そうと起き上がります。

「痛っ」

 下腹部に、鈍い痛みが走りました。

「え?」

 毛布にくるまりながら、恐る恐る、状況を確認します。

 新しい、真っ白なシーツの上には赤黒い染み。そして下腹部に感じる鈍い痛み。

 そこに手をやると、ぬるり、とした生温かい感触。

 その手には、べっとりと血が付いていました。

 思わぬ出来事に呆然とします。

 え?なにこの状況…。なんで血が…?まさか、まさかまさかまさか…!?

 でもこの痛みって、クラスの子が話していた…。

 もしも予想通りなら…?

 そう考えた瞬間、何か大切なものを失ったような喪失感が湧きあがりました。

 ポロ…

「うそ…」

 熱いものが流れる感触に頬に手を当てると、涙。

 それを意識した途端、ぽろぽろと涙があふれてきます。

「こんなのって、ないよぅ」

 涙は止めようと思っても止まることなく、次から次へとあふれてきます。

「やだ、やだぁ…」

 ぐすぐすと泣いていると、それに気付いたのか

「どうした…?何があった?何を泣いているんだ…?」

 目が覚めた王子が、涙を流すわたしに声をかけてきます。

「やだぁ、ひどいですよぉ。寝てる間にそんなことするなんて…。王子の馬鹿ぁ」

 ヘタレだけど、変な王子だけど、それでも、そんなことはしないと信じていました。

 裏切られた気がして、さらに涙があふれます。

「いきなり馬鹿とはなんだ。どうした?泣いていないで理由を話してくれないか?何でそんなに泣いているんだ?」

 少し、拗ねた口調で、それでも優しく話を聞きだそうとします。

「ぐすっ、だって、王子が、そんなこと……ぐすっ、ふぇぇぇぇぇん」

 言葉の途中で涙がこみ上げてきます。

「だから、きちんと言ってくれないと何も分からないじゃないか?」

 どうしても涙が止まらないわたしは、少し身体をずらしてシーツの染みを指差します。

「まだ、血が…、ぐすっ、止まらない、の」

 シーツに残るその染みと、泣き続けるわたしをみて王子はひどく動揺しました。

「血が止まらないって、どういうことだ?いや、それよりもこの血は…?」

「おう、じ、酷い、です。知らない振り、なんて」

 わたし、こんなに弱かったんでしょうか?

 確かにショックです。

 今までそんなことに興味はありませんでしたし、まだしばらくは自分には関係のない、そう言ったことをするとしても、大分先の事だと思っていました。

 だって、わたしの身体は小さくて肉付きも薄い、女性として魅力に欠けるものですから。

 でもそれだけで、こんなに涙があふれるとは思ってもみませんでした。

 信じていた、のでしょう。王子はわたしに、そういったことをしないって。

 王子はもっと大人っぽい、女性として魅力にあふれる人が好きなんだって。

 そこまで考えた瞬間、心にチクン、と痛みが走りました。

「え?知らない振りって…、え、もしかして…?いやまて!やってない!私はなにもしていないぞ!?」

 感じた痛みが何か、考える前に、王子の言葉が聞こえました。

 何もしていないって、なら、この状況は、なに…?

 この血は…?この痛みは…?

 悲しさよりも、怒りが湧き上がってきました。

「ひどいです!この状況で何もしていないとか!この血は!お腹に感じる痛みは!なのに知らないって、どういうことですか!?」

 無責任すぎます!

 怒鳴ると、お腹がじくじくと痛みます。

「私にもわからん!とにかく!人を呼んでくるから、ここでおとなしくしていろ!いいな!」

 王子はその言葉を残して、慌ただしく部屋を出て行きました。


 王子の出て行った部屋で、ぐるぐると、いろんなことが頭に浮かんできます。

 こんなのが初めてなんて、ひどすぎます。

 覚えている記憶は、高そうなワインを飲んだところまで。

 ここには王子が運んだのでしょう。

 新しい家で、久しぶりに料理をして食べて、笑っていた記憶。

 それが、起きてみればこんな状況になっていました。

 また、涙があふれてきました。

 初めての相手が王子。考えてみて、それ自体はそんなに嫌なことじゃない、と思うことに、ちょっと驚きます。まあ、いずれ誰かに捧げるものですし…。

 そりゃ、初めての相手は好きな人に、とか、そんな思いがなかったわけではありませんが…。

 ヘタレだけれど、それなりに優しいし、気も使ってくれているのもわかりますし…。

 でも、眠っている間にされたのは許せません。

 あ、もし、妊娠なんてしたらどうしましょう…。

 こんなことで子供ができたなんてことになったら…。

 王子とわたしの子供…?

 そこまで考えて、顔が赤くなるのがわかりました。

 いやいやいや、そもそも、わたしまだ子供できないし!

 あれ…?

 何かが引っかかりました。

 それを考える前に、バタバタと、誰かが来たのがわかりました。

「サクラ様!」

 声に顔を上げると、そこにはメイド服を着た女性がいました。

「え?シフォンさん…?」


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