033 成り行きだったのです
地下室はあっさりと見つかりました。
入口が床を外せば現れるようになっていて、その上に重し代わりに木箱が置いてありました。変な場所にでん、と木箱があったらおかしいと思いますよね…。
地下室、というよりは収納庫の少し広い部屋でしょうか。そこに男女5人の、10歳前後くらいの子供がいました。
子供達を外に連れ出し、この後どうするかを考えます。
時刻は午後6時過ぎ、今から王都へ向かえば午後8時半といったところですか。
しかし、この人攫いを放っておくわけにもいきませんし…。
「ねえ、貴方達。貴方達だけで、この森を出てから、王都までいけますか?」
わたしが考えた行動は、森を出るまで子供達を送り、そこから王都まで子供達だけで行ってもらって兵士を呼んでもらう、ということです。
森を出てしまえば、大分傾いていますがまだ日はあります。
王都までわたしの足で2時間程度。街道まで出ればまず安全です。
わたしは子供達を見送った後、ここで人攫いの見張り役です。
「ああ、大丈夫。いけるよ」
不安そうにしていた子供達のうち、一番年長者っぽい男の子が言いました。
「けど、お前はどうするんだ?俺達よりも年下だろ?こんなとこに一人で残るのか?」
ちょ、またですか?しかもこんな子供(多分10歳過ぎ)にまで…。
「大丈夫ですよ、わたしは15歳ですし冒険者ですから。この人達を倒したのもわたしですよ?」
「ええ!?15歳って嘘だろ!俺より背低いじゃん!」
わたしは大人、わたしは大人、ワタシハオトナ。
「とにかく、大丈夫です。それで、王都までいって兵士さんにお話しできますか?」
「ああ、任せろよ」
「わかりました。それでは森の外まで送りますから、行きましょうか」
ここから森の外まで10数分、往復で30分程度の距離です。
とりあえず、今目が覚めている人攫いの人にはもう一度眠ってもらってから出発しました。
子供たちと一緒に森の外まで移動して、王都の方角を教えてその後ろ姿を見送り、再び人攫いの小屋に戻りました。
王都の兵士が来るであろう、約5時間。
その間に焚き火をしながら自分の夕食(時間があったのでスープを作りました)を取り、目が覚めた人攫いの人達は(うるさいので)また眠ってもらいながら待ちました。
時刻は夜の11時半。
眠気を感じながら待っているわたしの耳に、人の声が聞こえました。
耳を澄ましてみると、声は数人分。王都の兵士のようです。
わたしはこちらからも声をかけ、捜しやすいように、焚き火をしていた中から木を取り出して掲げます。
それからすぐにこちらの場所が分かったようで、兵士が数人、やってきました。
兵士の人達は、まずわたしを見て驚き、それから縛られて気絶させられている人攫いの人達を見てまた驚いています。
わたしは時間も時間ですし、わたし自身も眠たいので冒険者カードを見せ、簡単に状況を説明して後は明日にしてもらいます。
兵士の人達は気絶している人攫いを縛り直し、連れて行きます。
わたしも一緒についていきます。
森の外で待っていた馬車で宿まで乗せてもらい、明日(今日?)の7の刻(午後2時)に騎士団の詰め所に来るように、と言われて宿に戻りました。
いつもは朝5時ごろに目が覚めるわたしですが、さすがに今日は遅く、目が覚めたのは午前9時半も回った頃でした。
遅い朝食を食べ、昨日入れなかったお風呂も入らせてもらい、出かける準備が整ったのはすでに午前11時を回っていました。
依頼の報告にギルドに行き、セリブサ草6本の報酬を受け取ります。
そのついでに人攫いの集団のことも報告をしておきます。
人攫いのうちの一人がギルドの依頼がどうのとか言ってましたしね。
そのつもりはありませんでしたが、成り行きとはいえ他人の依頼を奪った形になったのでは?という心配もありましたし。
結果からいえばその心配は杞憂でした。
というのも個人で受ける依頼ではなく、解決した人に報酬を払う、という形だったそうです。
まあ、考えてみれば捕まるかどうかわからない、いざとなれば遠くに逃げることのできる人攫いを捕まえる、なんて依頼は失敗のリスクが高すぎて受ける人なんていませんよね。
で、それを解決したわたしはというと、騎士団のほうからの証明を貰ってくれば報酬が出る、らしいです。臨時収入です!
少し話し込んでから、思ってもいなかった臨時収入に少し浮かれながらギルドを出ます。
ポーチの腕時計を確認すると、午後1時前。朝食が遅かったのでそれほどお腹は減っていませんので、軽く、軽食を食べることにします。
近くの喫茶店(カフェ?)でお茶と軽食を頂いてから、昨日教えて貰った騎士団の詰め所へ向かいます。
騎士団の受付で用件を伝え、指示された部屋で待っていると3人の騎士が現れました。
わたしが挨拶をすると、まあ、いつものアレがあったので冒険者カードを見せて理解してもらいました。
この騎士団は街の警備などを総括している部門らしいです。
騎士さんからは誘拐事件のあらましや、人攫いが攫った子供を奴隷として北の国に売ろうとしていたこと(この国には奴隷制度はありませんが、一部の国では奴隷制度があります)などを聞きました。
わたしからは人攫いの隠れ家を見つけた経緯など、昨日のことを話しました。
それから、昨日人攫いが言っていたことなども話しておきました。
まとめると、この人攫いはかなり計画的で用心深く、街の噂なども集めており、一昨日に冒険者ギルドで依頼が出されたばかりなのに、すでに今日の朝には逃げ出す予定だったようです。
もしもわたしが昨日捕まえていなければ、あの子供達は今頃は北の国に売られていくところだった、と言うことでした。
1時間ほどの話を終え、帰るときに2枚の紙を渡されました。
見てみると、2枚とも何かの証明書のようなものでした。
1枚は誘拐事件解決の証明だと思いますが、もう一枚は何でしょうか?
首をかしげていると、騎士さんが教えてくれました。
「昨日捕まった人攫いのリーダーに賞金がかかっていたんだよ。それを冒険者ギルドに持っていけば報奨金をもらえるようになっているんだ」
え?リーダーに賞金って、いわゆる賞金首だったってことですか?「WANTED」とかのあれですか?
うわぁ、誘拐事件の報酬の上に賞金まで…。目標達成出来ちゃうかもですよ。
「ありがとうございます!」
早速冒険者ギルドに行きましょう!