032 よくわかりませんが
あれから半月、わたしは毎日依頼を受け続けました。
朝一番に冒険者ギルドへ行き、1日で終わる依頼の中から、出来るだけ報酬のいいものを選んで受けました。
試験であったような採取系の依頼から、街中での日曜大工のような依頼まで様々でした。
時には半日もかからず終わることもあったので、その時はさらにもう一つ、依頼を受けました。
中でも変わった依頼は、新規オープンした喫茶店のウェイトレスというものがありました。これは拘束が3日ありましたが、報酬が良かったので受けたのですが…。
あれです。いわゆる、メイド喫茶のようなお店でした。
なんでもオープニングスタッフの一人が急に来れなくなったとかで、緊急で募集をしたらしいのですが…。
そういう喫茶店ですから当然、制服があるわけですが、一番小さいサイズでもこの世界の女性基準。ピンチヒッターのわたしに、別注で制服を用意するなんて手間も時間もありません。どうみてもぶかぶかな、サイズのあわないメイド服をなんとか着こんで、お店の中を必死に走り回ることになりました。
他のウェイトレスの方はみんな膝下くらいのスカート丈なのに、わたしはウェストを思いっきり引き上げてなんとか床に摺らないくらいの長さに。裾を踏んでしまわないように必死でした。
後で店長に聞いたところによると、その姿がとても評判が良かったらしいです。子供が必死にお手伝いしているようだったとか何とか…。
まあ、集客効果があったということで報酬を少し、多めに頂いたので結果オーライということで…。
他にもEランクの依頼を幾つか受けたこともあって、もうすぐランクアップ出来そうです。
お金も金貨1枚と銀貨が40枚と少し、貯まりました!
……まだまだ先は長いです…。
今日受けた依頼はEランクの採取依頼、セリブサ草という、ちょっと探しにくい薬草です。セリブサ草は外傷にとても効果が高く、煎じて飲めば強力な痛み止めと治癒薬にもなる、試験の時のセブル草の強化バージョンみたいな薬草です。ただ、生息地などの条件が厳しく、高価な薬草として認識されています。
探すのが大変そうな薬草ですが、わたしには強い味方があります。
そう、前世の知識!
セリブサ草の生えているであろう場所にいくつか、心当たりがあります。
この依頼はセリブサ草1本ごとに銀貨15枚という、数を見つけることができればとてもおいしい依頼です。
わたしは早速、心当たりの場所へ向かって歩き出しました。
やりました!大量です♪
セリブサ草の生えていると思われる、心当たりの場所を3箇所ほど回って6本のセリブサ草をゲットしました。これだけで銀貨90枚です。
わたしがいまいるのは王都の北西の森の奥、試験の時に狼に遭ったあの森です。
普段は人を襲うような獣もいないので、あの狼が退治されれば安全な森です。
そう、心当たりの場所のいくつかは、この森の奥にありました。
そこで採取を終えたわたしは、次の目的地へと移動している途中です。
一旦、この森を出てさらに北へ約5kmほど行った場所、少し急な斜面がありますが、その斜面を下って少し北西へ行ったところに次の心当たりがあります。
太陽は大分傾き、森の中は薄暗くなってきました。
腕時計を見てみると、時刻は午後5時。
一応、野営の準備もしてきてはいますが、できればベッドで寝たいです。
少し急ぎましょう。
森の外に向かって歩いていると、木々の間に明かりが見えました。
他の冒険者でしょうか…?
少し気になって、明かりが見えるほうに歩いてみます。
近くまで行ってみると、小さくひらけた場所があり、そこに小屋が建っていました。
猟師小屋でしょうか?明かりはそこから漏れていました。
明かりの原因を確認したわたしが小屋から離れようとした時、中から一人の男性が出てきました。
その、ガラの悪そうな男性は扉の前できょろきょろと周りを見渡した後、わたしを見つけて一瞬、吃驚したような顔をした後に、訝しげな顔と声で問いかけてきました。
「あん?誰だ…?おい、嬢ちゃん、ここで何してる?」
猟師、にしてはガラが悪そうですが…。
「えっと、わたしは冒険者です。今は依頼の途中です。森を歩いていたら明か「冒険者だと!?くそっ!もう見つかっちまったのか」
なんすでか?いきなり叫び出して。
「おい、出てこい!冒険者だ!」
男が小屋の中に向かって叫ぶと、中から武器を持った男が4人、出てきました。
中から出てきた男達が周りを見回し、その後にわたしを見て、最初の男に問いかけます。
「おい、冒険者はどこだ?」
「そのガキが冒険者だ」
それを聞いた男達が笑います。
「おいおい、どう見ても子供じゃねーか。こんなガキが冒険者な訳ねーだろ」
「いや、俺は街で聞いたんだ。長い黒髪の、子供にしか見えない女が冒険者やってるってな。そいつと特徴は一致している」
男達に動揺が走ります。
「本当か?ならこのガキが本当に冒険者か?」
なんでしょうか、この人達は。猟師には見えませんが…。
わたしが冒険者だと不都合なんでしょうか?
「あの、わたしが冒険者だと何か問題が?それと、貴方がたは猟師には見えませんが、ここで何をされているのですか?」
その言葉に、最初の男が訝しむような顔をしました。
「何言ってんだ?ギルドで依頼を受けてきたんだろうが」
はぁ、確かに依頼を受けてきましたが…。なにやら話がかみ合いません。
「おい、冒険者だろうがどうでもいいだろう?相手は一人だ。捕まえて他の子供と同じように売っちまえばいいんだ」
男の一人がそう言うと、他の男達もそれぞれに武器を構えます。
「おい!大人しくしてれば痛い思いはせずに済む。わかったら両手をあげて膝をつけ!」
え?ちょっと、どういうことですか?何この展開。
「ちょっと待って下さい!いきなり何ですか?説明くらいしてください!」
誰か説明してください!
「む、抵抗するつもりか?おい!上玉だ、できるだけ生け捕りだ!」
その声と同時に、男の一人が剣で斬りかかってきました。
「ちょっと!いきなり斬りかかってくるとかおかしすぎでしょう!」
男の攻撃をかわしながら叫びます。
「うるせぇ!痛い思いをしたくなけりゃ抵抗すんな!」
あー、もう!話が通じない!反撃していいですよね!?正当防衛です!
「てやっ!」
斬りかかってきた剣を短剣ではじき、がら空きになった鳩尾へ気を加えたソバットを叩きこみます。
その男はあっさりと気絶。
「こいつっ!おい、囲んでやるぞ!」
男が気絶したのを見て、他の男達が色めき立ちます。
4人でわたしを囲むように広がりました。
わたしも木刀を取り出して応戦準備をします。
「食らえっ!」
正面と背後の男が一人ずつ、斬りかかってきます。
「ふっ」
正面の男目掛けて踏みこみ、木刀を足の間に振りあげます。いわゆる急所攻撃です。
木刀からちょっと嫌な感触が伝わってきましたが、これで二人が戦力外に。
それを見て他の男達が硬直します。
「うわっ、ひでぇ…」
いきなり斬りかかっておいて何を言いますか。
その隙に、背後から斬りかかってきた男に向かって木刀を振るいます。
男は反応しようとしましたが、その前に剣を握っていた手を打ちます。
間を開けずに再び股間目掛けて、下から掬い上げるように木刀を振ります。
男は咄嗟に足を引き、剣でそれを防ぐように動きました。
そこで思いっきり地面を蹴り、飛びあがりながらその勢いのまま、顎をめがけて木刀を振り抜きます。
命中、そして撃沈。
3人目。残り2人。
残った二人は交互に斬りかかってきました。
それぞれの攻撃をかわし、木刀で受け流します。
交互に、しかし連携をしての攻撃はなかなか厳しいです。
一人目の攻撃をかわして反撃しようとすると、そこに二人目の攻撃がきます。
時にはその攻撃を木刀で受けざるを得なくなり、固いといっても所詮は木。じわじわと削られます。
このままでは木刀が持たないので、一気にいきます。
斬りかかってきた剣の腹に気を乗せた木刀の一撃を叩きこみ、それで態勢が崩れたところでお腹めがけて木刀を振り抜きます。
これで4人目。
しかし、4人目の男が倒れるその横から、最後の一人の攻撃が来ました。
咄嗟に木刀ではじきますが、それが止めとなったのか木刀は折れてしまいました。
それを見た5人目はにやり、と笑みを浮かべましたが、相手はまだ剣を振り抜いた態勢。
手元の折れた木刀の片割れを、その顔面目掛けてその顔面目掛けて投げつけました。
コーン!
小気味よい音がして命中。
その衝撃でのけぞったところにお腹に肘を入れ、少し身体が下がったところで鳩尾にもう一度、肘を突き上げるように入れました。
これで5人終了。
最初から油断せずに、連携でこられていたら危険でした。3人目までほとんど、不意打ちのような攻撃で気絶してくれたので助かりましたが…。この人達はどうして攻撃してきたのでしょうか?
とりあえず、状況がよくわかりませんが、いきなり斬りかかってきた男達はロープで縛っておくことにします。気絶から回復したらまた、斬りかかってこられても困りますからね。
急斜面を降りる予定だったので、ロープを多めに持ってきておいてよかったです。
5人の手足を縛り、さらに起き上がれないように手と足のロープを結んでおきます。
いわゆる体育座りの格好です。
全員を縛り終わってどうしたものかと考えていると、最初に気絶させた男の意識が戻りました。丁度いいので話を聞いてみましょう。
「おはようございます」
意識を取り戻した男は、わたしの声にこちらを向き、そしてビクッと身体を震わせました。
「お前!よくもやってくれたな!」
怒鳴りながら立ち上がろうとしますが、その手足は縛られています。
そのままコテン、と横に倒れました。
「ちくしょう、ほどきやがれ!」
「嫌ですよ。ほどいたらまた斬りかかってくるじゃないですか。それよりも、わたしは何故、急に斬りかかられたのかを聞きたいのですが?」
「はぁ?何言ってんだ?ギルドからの依頼を受けて探してたんだろうが。依頼内容は何だったんだ?俺達の捕縛か?それとも子供の捜索か?いまさら俺に聞くようなことじゃねぇだろうがよ」
はて?どういうことでしょう?
「貴方達はギルドに捕縛依頼が出されるようなことをしたのですか?それに子供の捜索、というのはどういうことですか?」
「何を言ってやがる。俺達が攫った子供の親だかがギルドに依頼したんだろ。お前はそれを受けて探しに来た。そういうことだろうがよ」
ふむ?
「ということは、貴方達は人攫いの集団で子供を攫っていた、そこにわたしが来たので攻撃してきた、ということですか?」
「だからそういうことだろ。ちくしょう、明日にはここを離れることになっていたのに、ついてねぇ」
なるほど、わたしは攫われた子供を探しに来た冒険者と間違われて攻撃された、ということですか。
ああ、そう言えば宿のご主人やギルドの受付のお姉さんが「最近、何人か子供が攫われてるって話を聞いたから気をつけて下さい」とか言ってましたっけ。
この人達が犯人だった、ということですか。
「話はわかりました。それで攫ってきた子供はどこにいるんですか?」
「ああ?地下室だ。5人まとめて入れてある」
「やけに素直ですね?」
「こうして捕まっちまったんだ。隠してもしょうがねぇだろ。それにちょっと調べりゃすぐにわかることだ」
うーん…、聞いてしまった以上、このまま放っておくわけにもいきませんし…。
仕方ありません、乗りかかった船です。
とりあえず、子供を助けてみましょう。