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025 王族の威厳

 まだ、他の人は来ていないようです。

 席に案内されて椅子を引かれましたが、大人用の椅子なのでそのまま座れなくて抱えられて座らされました。もう何も言いません。

 席に座ると王様と王子も来たようです。

 挨拶をして二人が席に着くと、給仕さんが料理を運んできました。

 あれ?確か王子って第二王子だったはずです。となると、第一王子がいるはずです。そういえば、王族って二人以外、どうなっているのでしょうか?

「すみません、他の王族の方はどちらに?」

「ん?ああ、そういえば言っていなかったな。第一王子は今は西のサンドラ国に行っている。サンドラ国の第二王女が婚約者でな。婚約者に会うのとよその国を学ぶためだ。戻ってくるのは半月後だったか。あれが次の国王だからな。まあ遊学、というやつだな。妃と第一王女は北の直轄領に保養に行っている2,3日後に帰ってくる、と聞いている」

 つまり、王様と第二王子以外は今はこのお城にいない、ということですね。

「わかりました、ありがとうございます」

 王様はそれで話が終わった、と察して食事を始めます。

「神と大地の恵みに感謝を」「感謝を」「いただきます」

 順に王様、王子、わたし、です。

 食事の挨拶はその場で一番上の人が祈りの言葉を唱え、最後に他の人が斉唱します。

 わたしは日本式の挨拶です。

 今朝のメニューは白身魚の蒸し焼き、緑黄色野菜のサラダ、スープ、黒パンです。

 もちろん味付けは塩と香草のみ。

 この世界では一般的なメニューです。王族と言ってもメニューはそれほど変わらないようです。材料は大分高級そうですが…。


 前世のわたしは王宮勤めでしたが、仮に王族と食事をするにしても昼食か夕食のみで、朝食は一緒にとることは無かったようです。

 この食堂は王族用で、王族以外が利用できるのは王族と一緒に食事をするときのみです。

 王族以外で食事を取る人は、自室で食べるか専用の食堂が別にあります。

 今日のわたしは、お礼のこととかこの後のことを話す必要があるので、朝食を一緒に食べることになった、ということのようです。

 というわけなので、わたしは前世も含めて初めて、王族の朝食というものを見たわけです。

 ちなみに、今のような情報は一般の生活とは関係がないせいか、意識して前世の知識から探らないと出てきませんでした。どうやらそのあたりの基準は、前世のわたしの日常に密接しているかどうか、ということのようです。




 朝食を終えて、食後のお茶が出されたころに宰相とレンさんが入ってきました。

 二人も交えてお話しするようです。

 宰相とレンさんにもお茶が出されると、王様が話を切り出しました。

「まずギルダスだが、あやつは今は牢に入れている。ライル殿殺害の件に関してはラグリア・オル・シュナードと共に尋問する手筈になっている。ラグリア・オル・シュナードは昨夜のうちに拘束させて、今朝、牢に入れたと報告が来ている。まあ、ラグリア・オル・シュナードに関しては拘束した時点で自白したらしいがな。サクラの言っていた通り、ラグリア・オル・シュナードは当時の宰相、ソドム・カラル・バルシニアに命令されたらしい。当時の地位や昇格については調べるように言ってある。ソドム・カラル・バルシニアだが、騎士団を拘束に向かわせた。領地が離れてはいるが、昼には拘束されるだろう。今はこんなところか」

 一夜のうちにほぼ、片がついたようです。

 思っていたよりも早く終わりそうです。王様の評価を上方修正するべきでしょうか。

「それで、だ。ソドム・カラル・バルシニアが拘束されてからの話になるが、礼をしたいと考えている。横領や密輸の金額はかなりのものになるからな。多少の無理は聞けると思うが。それにセドリムの分の礼もあるからな。希望があれば言ってくれ」

「昨夜も言いましたが、欲しいものは無いのでお礼はいりません。あえて言うなら宿を紹介してください。わたしは冒険者になるつもりなので、安くて女性一人で泊まっても安全で、できれば清潔でいつでもお風呂に入れる宿がいいです。ああ、宿代とかは口利きしていただかなくて結構です。下手に王族と関わっている、なんて知られたら面倒なことになりかねないので」

「ふむ、いらぬと言ってもな…。しかし冒険者になるのか…?働き口が必要ならこちらで探してもいいし、口利もできるぞ?むしろ、一生とは言わんが数年遊んで暮らせるだけの金でもかまわんのだが…。昨夜も言ったが、サクラは礼を受け取るに十分な事をしている。それに対して何もなし、というのは王族として示しがつかんのだ」

「冒険者になるのはお金を稼ぐためではありません。まあ、お金も稼ぎますけど。わたしは別の世界から偶然、迷い込んだ人間です。元の世界に戻りたいのです。その手段を探すために、冒険者になろうと思っています。それに働いた、といっても結果的にそうなっただけでただの成り行きです。そんな大金を頂いて、お金目当てに変な人に狙われるのも困りますので」

 冒険者として稼いだお金ならそんな人も減るでしょうが、ぽっと出の小娘にいきなり大金を握らせるとお金目当ての強盗だとかが寄ってくる可能性があります。お金を持ってることを言わなくても、そういった人はどこからでも沸いてくるものです。宝くじの高額当選者が殺された、という話もありましたし。

「そうか…。ならばどうだろう、旅に必要な魔具を用意させる、と言うのは。いくら金が要らんといってもそういったものは必要だろう?冒険者として旅をするならそれなりに金もかかると思うが?」

 む……そうですね、わたしの所持金は銀貨90枚と銅貨が20枚ほど。魔具の質にもよりますが、他にも着替えなども必要です。確かに全部揃えるとなると資金不足だと思います。それに魔具ならば見た目からは価値を推察しにくくなります。つまりは上質の魔具を持っていてもばれにくいのです。

旅に必要なものを知識から引っ張り出し、ざっと計算します。

今の価格がどれくらいかはわかりませんが、一般的なものでしたしそれほど大きくは変わっていないでしょう。上質の物でも合わせて金貨2枚もかかりませんね。そのくらいなら問題ないでしょう。

「わかりました。ではそれでお願いします」

 いつまでもお礼を受け取るかどうかで時間を使うのももったいないですし、このくらいの金額なら報酬として考えると許容範囲でしょう。

「では用意させよう。宿についても指示しておこう」

 王様は執事っぽい人を呼んで指示を出しました。


「昼までには準備できるだろう。どの道、ソドム・カラル・バルシニアが拘束されるまでは城から出せぬしな」

 なんですと?

 元宰相が捕まらなければ、またお泊り、ですか?

 いや、むしろ午後の遅い時間だと冒険者登録や買い物が…。

「ちょっと待って下さい!わたしにも予定があるんです。元宰相が確実に捕まるかどうかもわからないじゃないですか。もし捕まらなかったときはどうするんですか!」

「落ち着け。どっちにせよ、ソドム・カラル・バルシニアの屋敷を調べれば連絡が来る手筈になっている。遅くても6と半刻(午後1時)にはな。拘束できなかった時はそれから考えればよい。少なくともそれまでは城からは誰も出せん」

 むう、お昼までは何もできない、ということですか…。

「……わかりました。ですが連絡が来たらどちらにせよ、街に出ますので」

 それまでは我慢します。

「それはまだ何とも言えんのだが…。しかし、あれだ。サクラは一国の王の前だというのに、なんというか、そう、あまり敬意が感じられんな。敬意を持て、ということではないのだが。すぐに言い返す上に怒鳴りつける。気に入らないことがあればすぐに態度に出す。他のものなどは畏まるだけだというのにな。そういえば、昨日もそうだったな。まあ、私はそういったことはあまり気にしないが。セドリムやアリアもそうだな。うちの家系か?」

「わたしは王族に幻想は抱いていませんので。それに前世のわたし、ライル・ディストのせいでもありますが。知っていますか?ライル・ディストが宮廷魔導師になった理由を」


 5歳の誕生日、前世の知識のおかげで高熱を出した時に見ていた夢を思い出します。

 あの時は1週間の間、高熱にうなされながらライル・ディストの人生を夢で見ていました。その中でも、印象に残っていた部分を思い浮かべ、さらにそれに関する細かい部分を探り出して言います。


「いきなりカイル様が、ああ、王様の父上、で合っていますか?合っていますね?カイル様がライル・ディストの住んでいた家にやってきて、『おい、娘を嫁にやるから俺のために働け』ですよ?理由を聞くと、もうすぐ国王になるから実力のある家臣を探している。だから家臣になれ、と。ライル・ディストは断りましたが、家臣になるまで帰らない、とか言って勝手に住みついて。しかも付きまとうだけ付きまとって手伝いも何もしない。勝手に食料はあさる、ベッドは占領する、おとなしいのは食べている時と寝ている時だけで、それ以外の時間は『家臣になれ』ばかりで。まあ、生活費だけは出していましたが。おかげで、魔術の研究も調べ物もできなくて。それが毎日、1ヶ月続いて、ついには根負けして宮廷魔導師になったんです。ああ、結婚は断りましたが。そして宮廷魔導師になったらなったで、今度は好き勝手に動き回って。何度もその尻拭いをさせられていました。例を上げると、溜まっていた仕事を放っておいて、書き置き一つ残して友人の領地に遊びに行ったまま数日帰ってこなかったり。別の時は身分を隠して冒険者について魔獣退治に行って怪我をしてきたり。またある時は夜にお城を抜け出して、朝まで酒場で飲んで潰れていたり。他にもまだまだありますが、その尻拭いは全部ライル・ディストに回ってきたんですよ?」

 そんなことを、5歳の子供が夢で見せられ、それを知識として植えつけられたんです。王族の威厳も何もありませんでした。

 まあ、そういった部分もありましたが、他の部分ではそれなりにきっちりとしていましたし、締めるべきところは締めていたのでそれなりには敬意はありますが。

 ただ、王族と言うだけでは尊敬できるかどうかは別物だということは理解できました。

「ついでに言えば、ライル・ディストが殺されたセルバトス共和国への外交使節団。あれも本来なら担当の大臣が行くはずだったんです。それを、『共和国の代表の娘がお前に惚れているらしくてな。お前が行ったほうがいいだろう?だから行って来い』って無理矢理行かせたんですよ?断れば『王命だ』、とか言って。そもそも、120歳にもなる男に15歳になったばかりの娘を当てがおうとか、どうなんですか?」

 前世でカイル様から受けたあれこれを知識から引っ張り出しながら説明します。一部感情が乗っている気がするのは、恐らく、印象の強かった部分がわたしと同調しているせいでしょう。いくら「前世の記憶」が「知識」として刷り込まれている、といっても一人の人間の脳に収まっているのです。特に印象の強かった部分は、わたしの人格形成に影響を与えていると思います。全く影響を受けていないとは言い切れません。


 ライル・ディストはエルフ族でした。享年120歳。

 エルフ族は大体100歳までは若い姿のままですが、それを過ぎたころからゆっくりと老化が始まり、寿命を迎えるころにはよぼよぼのご老人になります。

 ライル・ディストが「賢者」と呼ばれていたのは、エルフ族で寿命が長く、長い年月を研究に費やし、知識が豊富だったからでした。

 その「賢者」の実績で、カイル様が勧誘したらしいです。宮廷魔導師になったのは97歳でしたか。

 そして120歳のライル・ディストの見た目は、30歳手前くらいだったはずです。

 いくら見た目が良くて若そうに見えても、120歳と15歳って…。


「それに、ですね。王様の子供の頃も知っているんですよ?カイル様に負けず劣らず、でしたよね?必要なら話してみましょうか?まあライル・ディストが死んでからのことは分かりませんが、わたしの知識にある王族というのはお二人が基準なんです」

 そう言って王様を見ると、苦虫を噛み潰したような顔、とでもいいましょうか。顔をしかめています。

 他の人の顔を見ると、王子は苦笑い、というか困ったような、というか。何とも表現しがたい顔をしています。

 レンさんは口を開けて、ポカーンとした、と言うのが一番適切な顔です。

 最後に宰相を見ると、キラキラした顔で席を立ち、わたしのそばまで近寄り、手を握りしめました。

「同士よ…!」

 ああ、この人も苦労されているんですね…。


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