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021 懐かしい部屋で

「この部屋です」

 レンさんが一つの扉の前で立ち止まる。

 つられて、ぞろぞろとついてきた王様以下20名近くになる行列も歩みを止めました。

 相変わらずわたしは小走りで、周囲はみんな大男ばかりに囲まれて何も見えません。

 まあ、前世の知識を探れば今、どのあたりにいるかというのもわかるので問題はないといえばないのですが…。

 ドアの開く音がして、そちらを見るとレンさんと王様、王子と団長が部屋に入るのが見えました。

 続いてわたしも入ります。

 馬車を降りた時にいた貴族っぽいオジサマ、今の宰相らしいです。それに、ついてきていた数人の貴族……大臣でしょうか?が続いて中に入ります。

 騎士や他の人たちは部屋の外で待機、みたいです。

 見渡せば、前世の知識とほぼ、変わらない部屋のようです。いくつか見覚えのない物もありますが、基本、そのまま使っていたようです。

「部屋のものはライル師の時のまま、ほとんど変えていません。いくつかは新しくしたり追加もしていますが…」

 レンさんが申し訳なさそうに話します。

「レンさんはなんでそんなに縮こまっているんですか?」

 その様子に疑問が湧き出て、つい、問いかけてしまいました。

「いえ、あの、勝手に部屋の物を交換したりしたので師に怒られるのではないかと…」

 なんですか、それは。

「そもそも、わたしは確かにライル・ディストだったことを知っていますし、その頃のことも知識として持っています。ですがわたしはライル・ディストではありません。藤野 桜という別の人格なんです。それにライル・ディストにしても、その程度で怒るような人ではなかったはずです」

 少しむっとなりながら、大事なことなので言っておきます。

「そ、そうですか。すみません」

 なんでしょう?どうもレンさんはわたしに対して遠慮、というか怯えているような気がします。わたしなにかしましたか?

 このままというのも何やら居心地が悪いので、今のうちに聞いておきましょう。

「レンさん、わたし、あなたに何かしましたか?避けられてる、というか、怯えられてる、というか。うまく言えませんけどそんな風に感じるのですが」

 レンさんを見上げながら聞いてみます。

 ちなみにレンさんは王子よりも背が高いです。190cmくらいあるんでしょうか?

 子供の頃はもっと小さくてかわいかった気がするんですが…。

 そうですね、膝から下をもげば見上げなくてもすむかもしれませんね。

 そんなことを考えながら見ていると、

「い、いえ、なんでもないです!申し訳ありませんでした!」

 余計に怯えたようです。何ですかね…。

「とりあえず!その態度が気になるんです!もっと普通にしてください!わたしが怖がらせているみたいじゃないですか!」

 まったくもう。

「ひぃっ!すみません、すみません!頑張りますからお仕置きだけは!」

 さらに怯えてしまいました。

 お仕置きって何ですか?そんなことするように見えるんでしょうか?


 ふと、「お仕置き」という単語に引っ掛かりを覚えました。

 なんでしょう?

 気になったので記憶を探ります。

 …。

 あれですか…。

 前世のライル・ディストは弟子のレンさんが大ポカをやらかすと、「お仕置き」と称して魔術を使っていたようです。

 例えば、レンさんに防護魔術と拘束魔術をかけて木から吊るして魔獣の囮にしてみたり。

 その魔獣はレンさんにじゃれついている横から倒されていましたが。

 例えば新しい魔術の実験と称して防護魔術をかけて飛行魔術で人間大砲にしてみたり。

 飛ぶことはできましたが制御が安定せず、高速で木に突っ込んでいましたが。

 例えば特訓と称して防護魔術をかけたレンさんを的にして魔術を撃ちこんでみたり。

 魔術自体は防げていましたが、爆風による衝撃などでボロボロになっていましたが。

 もちろん、死ぬような危険なことはないようにし、怪我は治癒魔術で治していましたが。


 たしかに、あれはトラウマになっても仕方ないかもしれません。

 なんせ、弟子に入った時、5歳という年齢からですし…。

 まあ、ライル・ディストはともかく、わたしはそんなことをする気もありません。

 そもそも、魔術自体使えませんしね。

「落ち着いてください。さっきも言いましたが、わたしはライル・ディストじゃないんですから、お仕置きなんてしませんよ。そもそもわたしは魔術は使えないんです。そんなことしようがありません」

 このままでは、わたし=ライル・ディストとして扱われそうです。

 人格としては別人なので、このままではわたしという人物が無視されそうな気がするので、きっぱりと断っておきます。

「え?お仕置きしないんですか?本当ですか?」

 40も過ぎた大の男が何を言ってるんですか。

「ええ、しませんよ。それにできないって言ったじゃないですか」

「え?でもさっき身体強化の魔術を使ってましたよね?魔術が使えないってことないでしょ?だって、魔力も感じます」

 めんどくさいですねぇ。

 まあ言いたいこともわかりますが。

「さっき使っていたのは気功術という技です。わたしのいた世界の技術です。魔術のように見えたかもしれませんが、あれは技なんです」


 そう、気功術は基本的な部分は魔術と変わりません。

 魔術は体内のエネルギーを力として変換し、それにイメージを与えることで発動します。

 それに対して気功術とは、体内のエネルギーを使うのは同じですが、それを認識し、体内を巡らせて「気」に変換し、身体に纏わせる技術を言います。

 根本になるエネルギーは同じなのですが、変換の仕方や使い方が違います。

 ちなみに気功術は燃費がすごく悪いです。

 全身に気を纏って戦うなんてしていたらあっという間に疲れて倒れてしまいます。

 わたしも使うときは必要な部分に、必要な時だけ「気」を纏います。

 説明を見てわかる通り、魔術も気功術も体内のエネルギーを認識し、それを使うことは同じなのですが、わたしはなぜか、そのエネルギーを魔術としての力に変換することができません。

 レンさんが言っていた「魔力を感じる」というのは、この体内エネルギーを扱うことができる、ということです。

 体内エネルギーを操れるようになると、表面に「魔力」と感じ取れるものがあふれます。

 程度にもよりますが、この「魔力」を扱える人は他人の「魔力」を感じることができます。


「元の世界でもこちらの世界でも試してみましたが、魔術は使えませんでした。魔術と気功術は、元となるモノは同じです。その使い方が違うだけです。魔力を感じるのは、わたしが魔術の元となるものを気功術で使っているからでしょう」

 面倒だと思いながらも、説明しておきます。

 魔術を使えないのに当てにされても困りますからね。

 レンさんと話していると、王様が割りこんできました。

「まあ、サクラはまだ子供だろう?魔術が使えるのは早くても5歳くらい、遅いものは20歳近くになると聞くぞ。今は使えなくてももう少し大きくなれば使える可能性もあるだろう?まだまだ小さいんだ、焦ることもないだろう」

 なんでしょう。

 魔術が使えないことに対する慰めでしょうか?

 しかし、ここでも子供扱いですか。

「みなさん、子供子供と言いますが。わたしは15歳です。この世界では成人です。それに特に魔術が使いたいとは思っていません。見た目が小さいのは種族的な特徴と成長が少しだけ遅れているだけです。これから伸びるんです」

 この世界に来てから何度目の説明でしょうか。まだ3度目でしたか。

 あまりに出会う人に子供扱いされたので、説明するのも面倒に感じます。

「いやいやいやいや!成長が遅れているといっても程度があるだろう!?どう見ても5~6歳、欲張っても8歳だろう?ドワーフにしてもせいぜいが10歳だろう?ああ、異世界と言っていたな!この世界とは時間の流れが違うのだろう、そうだ、そうに違いない!」

 王様は目を見開いてまくしたてます。

 失礼ですね。

 王子と団長はニヤニヤしながらこちらを見ています。

 後でもいでやりましょうか?

 他の人たちも驚いた表情です。

「れっきとした15歳です。時間の流れ方はわたしのいた世界も、この世界も変わりません。1日が12刻、24時間で1年は365日。年の数え方も同じです。それとわたしは人族です。わたしの種族は女性の平均身長が160cmくらいで寿命は85歳くらいです。こちらの人族とそこまで変わりません」

「ええっ?いや、しかし、いくらそう言っても…。信じられん…」

 まったくもう…。

「王子と団長も何とか言ってあげて下さい」

 応援を呼ぶことにしました。

「そう言われても、だな。昨日も聞いたが正直言って、私もまだ信じられんのだ。むしろ、今10歳と言われればそちらを信じてしまうぞ?」

 応援どころかスパイだったようです。

「そんなに身長が大事ですか?ああ、ならみなさんの身長を縮めればいいんです。そうですね、膝から下を切り落とせばいいんじゃないでしょうか?そうすればちょうどいいくらいです。そうしましょう」

 そう言いながら何か切れるものがないか探します。

 王子や団長の持っている剣はどうでしょう?

 少し大きい気もしますが大丈夫でしょう。

「ちょ、待て、落ち着け。ああ、サクラは大人の女性だ。見た目は小さいけど15歳だもんな。うん、立派な成人だ」

 不穏な空気を感じ取ったのか、王子が焦ります。

 王様やレンさんや団長、他の人たちも肯いています。

 どうも、認められたような気がしないのは気のせいでしょうか?


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