015 気になる評価
準備を終えておかみさんに料理の作り方を説明しているうちに、食堂のほうが騒がしくなり始めました。
騎士団の人たちが食事に来たようです。
わたし達は調理場をのぞいていた宿の人と協力しながら、慌ただしく配膳をします。
騎士の人たちの評価が気になります。
配膳をしていると王子も起きてきたようで、団長と同じテーブルに座っていました。
「おはようございます」
挨拶をかけつつ、わたしは王子と団長のテーブルに3人分の料理を運ぶと、後は宿の人たちに任せて朝食を食べることにしました。
「これは全部、サクラが作ったのか?」
並べた料理を見ながら王子が尋ねてきました。
「はい、おかみさんにも手伝ってもらいましたが。昨日約束しましたからね」
そう答えて、わたしは自分の分を食べ始めます。
うん、この状況では十分な出来ですね。もっと仕込みができれば凝ったものも作れそうです。惜しむべきはパンですね。これは早急に解決する必要があります。
そんなことを考えていると、王子と団長がスープを口に入れた瞬間、固まりました。
昨日からどれだけ固まる気でしょうか。
「「美味い…」」
ぼそりと、呟くような一言だけ残して猛烈な勢いで食べ始めます。
「スープは大分多めに作りましたから、そんなに急いで食べなくてもお代りはあると思いますよ?」
餓えたように食べる二人を見て、思わずそう声をかけました。
すると他のテーブルの騎士たちから次々と「おかわり!」と声が上がりました。
見ればみんな、同じように黙々と食べています。
いくら多めに作ったといえ、こんな勢いで食べると他の人の分が無くなるんじゃないでしょうか?食堂にいる人の数も10人程度、一度に来ずに交代で来ているようです。
このままではまずい、と感じたので王子を使うことにします。
「王子、交代の騎士の人がいるんじゃないですか?お代りがあるといってもそこまで作っているわけではありません。お代りは1回にしないと交代の人の分が無くなる可能性があります」
せっかく作った朝食です。できれば全員に食べてもらいたい、と思います。
「おい、お前達。お代りは一人1回までだ!交代の分まで食べてしまう気か!?」
王子は意図をきちんと理解してくれたようで、注意を促してくれました。
食堂のあちこちから不満の声が上がりましたが、大きな文句は出ませんでした。自分が食べれなかったかもしれない、と考えれば不満が出ないのかもしれません。
わたしはスープのお代わりは無しで、朝食を終えました。
どうやら評判は良かったようです。
みんな満足そうに料理の感想を述べています。
王子と団長も「これは昼も期待できるな」などと話していました。
朝食を終えて食器を調理場に運び、後片付けをしようとしたが、おかみさんに
「こんな美味しい朝食を作ってもらったんだ。片づけなんていいからゆっくりしな」
と言われて追い出されました。
確か出発は4の刻過ぎ、と言っていました。
今が7時半ごろですからあと30分少々でしょうか。
微妙に時間が余ります。
交代の騎士たちが黙々と食事をしているのを尻目に部屋に戻り、荷物を整理することにします。
なるべく荷物の数を減らすことにします。
捨てることはできないので、まとめるだけになりますが。
朝、脱いでいた道着をたたみ、道着袋に入れてそこにお弁当箱も入れておきます。
スパイスや香草は意外とかさばるので少し悩みましたが、これも道着袋に詰め込んでおきます。道着袋がパンパンになりました。
勉強道具の入った鞄はさすがにどうにもなりませんが、幸い、というかこれは背負うこともできるタイプです。当面は邪魔にはならないでしょう。
冒険者として動き始めると荷物が問題になってきますが、確か、鞄の容量を増やせる『魔具』があったはずです。
冒険者ギルドに行けばわかるでしょう。
無ければその時に考えましょう。
ちなみに『魔具』というのは、特別な道具で古代文字を書き込んだ道具のことです。
特別な道具を使わなくても、古代文字を書き込むことができれば『魔具』は作れますが、効果が低くなるかしばらくすると効果が切れるものがほとんどです。
よくある魔剣と呼ばれるものも『魔具』の一種です。
古代文字を学び、古代文字を道具に刻める職人を『魔工師』と呼び、『魔工師』は魔術を使えなくてもなれるので希望者の多い職業です。
『魔工師』の技量によって作成される『魔具』の質は大きく変わりますから、優秀な『魔工師』の作る『魔具』は高値で取引されます。
容量の大きな鞄などは冒険者には必須で、これを作っている『魔工師』も数がいます。
冒険者ギルドに行けば、そういった『魔具』も扱っている、と知識にはあります。
ただ、わたしの前世の知識と今のこの世界の常識は差異がある可能性もあるので全面的に信頼するのは危険です。少なくとも、今のところ大きな差は感じていませんが、注意するにこしたことはないでしょう。
前世の知識を思い出しながら、出発できるように準備していきます。
と言っても荷物はそれほどありませんし、鞄を背負って竹刀袋に入った木刀と道着袋を持てば準備は終了です。