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異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
148/149

番41:警備中日

 2日目は特に何事もなく、3日目。

 2日目と同じく午後6時前にお店に入り、準備中のお姉さん達と少しお喋りをしてからお仕事にかかります。今日は最初の巡回で外回りなので、それまではゴードンさん、マッスルさんと話をしながらそれまでの時間を過ごします。この2日で聞いた話では、マッスルさんは何と、奥さんとお子さんまでいるそうです。お子さんはまだ小さく、可愛い盛りらしく、家族の事を話すマッスルさんは、いつもよりかなり饒舌でした。ちなみにそんなマッスルさんがどうして娼館の警護なんて職についているかというと、元々冒険者をしていたのが結婚をすることになり、冒険者よりも安全な仕事を探していた時にかつて依頼で関わった人から紹介されたらしいです。

 ゴードンさんの方は、依頼の途中で怪我をして、その怪我が元で討伐などの遠征するような依頼の遂行が難しくなってしまったのだとか。その時に今帰省しているもう一人の警備の人に紹介され、ここで働くようになったらしいです。

 ちなみに娼館の警備は冒険者に比べると安全な上、決まったお給料が出るので冒険者のように一攫千金は無理でもそれなりな生活が出来るらしいです。それに規則としてお姉さんに手を出すことは禁じられているので、マッスルさんのように妻帯者や恋人のいる人でも文句は出ないらしいです。むしろ娼館の開いている時間がお仕事の時間なので、そういったお店に行く時間もなく、他のお仕事よりもよほど安心らしいです。


 時間になったので外の巡回に出たわけですが、巡回の最中に「奥さんや恋人が安心できない他のお仕事」に就いている知り合いに出会いました。

「あれ? 高橋さん?」

 こちらの世界にソウティンス国によって勇者として召喚され、騙されてわたしとソビュール王国の王族の命を狙ったという過去のある、元勇者の高橋さんです。騙されていたことを知り、あげくに殺されそうになっていたところを王子によって助けられ、今では騎士としてソビュール王国の為に働いています。元は黒目黒髪だったのでしょうが、召喚時の影響か、金髪に金色の目になっています。その癖日本人の顔立ちなのですから、わたしからすれば違和感で一杯です。まあ、それなりに長い付き合いではあるので慣れましたが。

「え? げ、藤野さん……」

 げ、って失礼ですね。うら若き乙女に出会って第一声がそれですか?

「こんなところで奇遇ですね」

「あー、うん、そうだね……」

 実際、この付近は高級店が並ぶ区域です。そういった区域で知り合いに出会うとは思ってもいませんでした。

 ちなみに高級店の区域と言っても、通行まで規制しているわけではありません。お金がなくても通るだけならタダですし、あわよくばちらりとでも高級店のお姉さんを見てみたい、といった方がうろつくこともあり得ます。

「あー、どうして藤野さんがこんな場所に?」

「お仕事ですよ。ギルドからの依頼でお店の警護をしているんですよ」

 そう言って『ラ・モール』の方を指さします。

「げ、超高級店じゃん」

 おや、知っているのですね。さすが王都で一番のお店ですね。

「そう言う高橋さんは?」

 まあ、こんな場所にいるのですから、選択肢はそう多くはありませんけどね。

「え? い、いや、俺はその……」

 案の定、視線を彷徨わせながら、しどろもどろになりました。高橋さん、それじゃあ言葉にしないだけで答えているような物ですよ。

「まあ、こういう場所なのですから聞かなくても想像はつきますけどね」

「う……」

「気にすることはありませんよ。男の人なのですから、そういった事に興味があるのは当然でしょう」

 男性が娼館に通うのは仕方のないことだと思います。需要があるから供給もあるのです。娼婦は最古の職業とも言いますし、商売として成り立っているのですからお客様として通う男性を咎めるのはおかしいという物です。抑圧して性犯罪に走るよりは余程ましだと思います。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。今日は先輩に誘われて仕方なくついてきただけで、いつもはそんな……」

「分かっていますよ。だから気にしなくても大丈夫です」

「いや、分かってないよね? その言い方、分かってないよね!?」

「いやいや、分かっていますよ? だから楽しんできてください」

 高橋さんは何故か必死に言い訳をしていますが、気にすることなんてありませんのに。高橋さんだって健康な男性、そして年齢は20のはずという、そういったことに一番活発な時期です。こういったお店に通っていてもおかしくは無いと思いますし、ましてや恋人や決まった人がいないのなら、問題もありません。

 実際、騎士という職業は冒険者に続いて娼館の利用が多い職業だと聞きます。戦うことで気持ちが高ぶるのか、はたまた疲れを癒すためなのか、それとも戦う人というのは男性としての本能が強いのかは知りませんが、歓楽街に来る方は多いのだと娼館のお姉さんから聞きました。尤も、騎士の給金だと高級店なんて無理なので、中級店より下のお店の話らしいですが。

 その後しばらくの間、高橋さんは必死に誤解だとか言っていましたが、わたしもお仕事の途中なので適当に頷いて別れました。別れ際に高橋さんがぶつぶつ言っていましたが、その内容は聞き取れませんでした。


「ただいま戻りました。外は異常なしです」

 巡回を終えて警備室に戻ると、店内の巡回だったマッスルさんはすでに戻っていました。どうやら自分が思っている以上に時間が経っていたようです。

「おう、遅かったな。もう少しして戻らなければ、様子を見に行こうかって話していたところだぜ」

「あー、知り合いに会ったもので、少し話していたんです」

 余計な手間をかけさせなくて良かったです。マッスルさんは問題ないでしょうけど、ゴードンさんはうるさそうですからね。

「へぇ、なんだ? お嬢ちゃんのいい人なのか?」

 わたしの返答から何を勘違いしたのか、にやにやと笑いながら斜め上の質問が飛んできました。

「違いますよ。同郷の人で、今は騎士団に入っています。本人曰く、先輩に誘われて来たそうですよ。今頃はどこかのお店に入っているんじゃないですかね?」

「なんだ、この店に連れてくれば良かったのによ」

「平騎士のお給料じゃ、このお店は無理でしょう。一度くれば、お給料のほとんどが無くなるじゃないですか」

 『ラ・モール』は高級店というだけあって、料金も高いです。騎士のお給料がいくらくらいかは知りませんが、平民の一ヶ月のお給料が1万ゴルシュくらいで、このお店の料金は一番安いお姉さんでも8千ゴルシュくらいだと聞いています。騎士のお給料は平民よりは少し多いと聞きますので、1万2千ゴルシュとしても、半分以上が消えてしまいます。

 ちなみにこのお店の一番の娼婦は、初日に会った魔乳のお姉さんだそうです。その料金は一晩で2万ゴルシュになるのだとか。

 それを聞いた時、正直耳を疑いました。だって、あの天然な勘違いをしていたお姉さんですよ?確かにあの魔乳は男性を虜にしそうですが……。

「つーかよ、騎士に知り合いがいるなら、そこから誰か紹介してもらってさっさと結婚すればいいんじゃねぇか? 将来が有望な騎士は結婚相手として人気だって話だぜ? あ、すまんすまん。お嬢ちゃんにはちょっとばかし無理な話だったか?」

 むっ。まるでわたしには男女関係なんて無縁だと言わんばかりですね。実際、少し前までは自分自身でもそう思っていましたけども。ですが今のわたしには、まだ仮とはいえ婚約者がいます。そんな安い挑発には乗りませんよ?まあ、婚約者がいるなんて言ったらからかいのネタにされるのが見えているので言いませんがね。

 ですがそのにやにやとした笑いはむかつくので、少し言い返させてもらいましょう。

「人の事よりも、ゴードンさんこそどうなんですか? そんな風に言うからには、素敵な恋人がいらっしゃるんでしょうねぇ?」

「ぐっ……、そ、それは」

 案の定、ゴードンさんは言葉に詰まりました。冒険者やこういったお店の警護は決して真っ当な仕事とは言えません。同じ荒事とは言っても、国が身分を保障してくれる騎士とは違うのです。当然ながら、先がはっきりとしない男性に喜んでついて行きたいと言う女性は少数でしょう。元々冒険者時代に結婚を決めて、その後に転職をしたマッスルさんとは違うのですよ。マッスルさんくらいにどっしりとして任せて安心、と思わせるくらいの器量があれば、また違うのでしょうけどね。

 その日はゴードンさんをからかい、からかわれながら時間が過ぎて行きました。


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