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異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
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番39:警備室

「えっと、ここが警備の方のお部屋になります。少し待って下さいね。……おじさーん、新しい警備の人を連れて来たよー」

 応接室から詰め所に案内してくれた女の子(名前はフェリシアちゃんと言うらしいです。年齢は12歳だそうです)が詰め所に向かって声をかけました。詰め所にいる人とは仲がいいのか、ラフな声のかけ方ですね。

「フェリシアよぉ、俺はまだおじさんって年じゃねえんだ。お兄さんと呼べって言ってるだろうが」

「えー? おじさんはおじさんだよ? それより、オーナーに言われて新しい警備の人を連れて来たよ」

 なるほど、実年齢はわかりませんが、髭も生えていますし12歳のフェリシアちゃんから見れば立派なおじさんだと思います。本人の言い様からすれば見た目よりも若いのかもしれませんが、少なくとも見た目はおじさんだと思いますよ?

「だから……チッ、まあいい。で、どこに新しい奴がいるって?」

「何言ってるの、ここにいるじゃない。あ、もしかして、本当におじさんになって目が悪くなったの?」

 どうやら、フェリシアちゃんと目の前のおじさんは軽口を叩きあう仲のようです。おじさんも口調は乱暴ですが、本気で怒っているようには見えませんしね。

「はぁ? どこにいるってんだよ? いるのはフェリシアと、フェリシアよりちっちゃい子供じゃねーか」

「くふふ、もしかして本当にわからないの? 駄目だよ、おじさん。人は見た目だけで判断すると痛い目を見るよ?」

「何を一丁前に……。そういう台詞は客をとって一人前に稼げるようになってから言えっての。てことは、もしかしてこっちの子供がそうなのか?」

「ぶー。ふんっだ。そんな事言うと、あたしが一人前になってもおじさんなんて相手にしてあげないんだからね。あと、あたしはオーナーに言われて案内してきただけだから、詳しい事は知らないよ。新しい警備の人をここに連れて行くようにって言われただけだからね」

「どう見ても子供にしか見えねぇけどなぁ。ま、オーナーがそう言ったんならそうなんだろうよ。わかった、後はこっちでやるからフェリシアはさっさと戻んな。そろそろ店を開ける時間だろう。さっさと戻らんと、またあねさんにどやされるぞ」

「え? もうそんな時間? やば……じゃあ、後は任せたからね!」

「おう、急ぎ過ぎてこけんじゃねーぞ」

 ぱたぱたと去っていくフェリシアちゃんの背中を、少し呆気にとられて眺めます。二人の軽口の遣り取りに、ちょっと驚いてしまいました。片や無精ひげを生やしたいかついおじさん、それに対するは娘と言っても差し支えのない年齢の少女。そんな二人がぽんぽんと軽口を応酬し、そして最後は口は悪いですがおじさんがフェリシアちゃんを気遣うような言葉をかけています。おじさんとフェリシアちゃん、二人は仲がいいんですね。そう思って見てみれば、心なしかおじさんのフェリシアちゃんを見る目は優しいような気がしてきます。

「さて、こっちも仕事を始めるか。おい、新入りのお嬢ちゃん、話は中でするから入んな」

 おっと、お仕事お仕事。頭を切り替えて、言うだけ言ってさっさと部屋に入ったおじさんを追いかけます。


 詰め所の中は広さで言えば10畳くらいで、部屋の真ん中にテーブルがあり、奥には仮眠用でしょうか、簡易ベッドのような長椅子が置かれています。そして部屋にはおじさんともう一人、いかにも用心棒といった筋肉ムキムキの大男がいました。おじさんは見た目はそれほどゴツくなく、身長も平均くらいなのですが、マッチョさんはもういかにもって感じです。身長も高くて顔にも傷があり、気の弱い人なら見た目だけで威圧されそうですね。年齢は30代の半ばくらいでしょうか。ちなみに二人とも革製の防具を身につけています。武器は腰に下げた長剣のようです。

「あー、このお嬢ちゃんがマシュアの代わりに入った新入りらしい。名前は……なんて言うんだ?」

「今日から4日間、警備をすることになったサクラ・フジノです。冒険者ギルドからの依頼で来ました。短い期間ですが、よろしくお願いします」

「ってことらしい。フェリシアの話じゃ、オーナーからの許可は出ているそうだ。ま、俺達は仕事さえきっちりやってくれるならそれで構わねぇけどな。俺はゴードン・ガローム。ゴードンでいい。よろしくな」

 おじさん改めゴードンさんは気さくな性格のようです。わりとあっさりと認めてくれました。それともオーナーのオリーヌさんのことを信頼しているということでしょうか?これまでの会話ではどちらとも言えませんが……。

「俺はマッスル・グレイシアだ。よろしく頼む」

 ちょ……マッスルって、マッスルって!マッチョさんの名前がマッスルって、似合いすぎじゃないですか?思わず吹き出しそうになりました。いえ、さすがにそれは失礼なので耐えましたけどね?

「しっかし、こんなちっこいお嬢ちゃんが冒険者ねぇ。冒険者って確か、15歳以上じゃないと登録できないんだっけか? つまりお嬢ちゃんは15歳以上か……。信じられねぇが、ま、嘘なんかついてもオーナーにかかればすぐにばれるだろうし、本当なんだろうけどよ……。参考までに聞いとくが、お嬢ちゃんのランクは? ちなみに俺も元は冒険者で、Dランクだったんだぜ。マッスルは、確かCだっけか?」

 CとDランクですか……。ランクが直接の強さでは無いとはいえ、少なくともそのランクの実力はあると言う事ですので参考にはなります。

 ちなみにDランクは初心者を卒業、一人前になったばかりと言ったところでしょうか。Cランクはいわゆる熟練者と言えるでしょう。あくまで参考値ですが、二人ともその辺の相手なら負けはしない、ということでしょう。

 え?BとAランクですか?

 あー、Bランクは区分としては上級、一流と言われる部類ですね。実際、Bランクからは昇級試験が必要ですからね。

 Aランクは超一流、でしょうか?その証というか、Aランクで名の売れた冒険者には二つ名がつくこともあります。それはその人の外見であったり、戦い方であったりをもじった名前が多いようです。まあそのほとんどが、厨二な病気のような、わたしからすればかなり恥ずかしいと思える二つ名ですが……。

 そしてSランクは……あれです、ほとんど形だけの存在ですね。無理に区分をつけるのなら、人外、でしょうかね?功績や能力はもちろんのことですが、他にも色々条件があるみたいで……。実際、現時点ではSランクは0名ですからね。誰もいないのでよくわかりません。過去には何人か存在していますが、全てその時代の英雄とされている人物です。現在では形だけ存在しているランクですね。

 とまあ、各ランクの区分としてはこんなところでしょう。もちろん、これは平均的なもので参考値、です。

 つまり、何が言いたいかというと、ゴードンさんとマッスルさんはそれなりにできる人ということですね。室内では戦い方も制限されますし、そういう場所での対人の戦闘慣れという点では二人とも経験豊富のようですし、追い払うだけなら十分なのでしょう。

 おっと、思考が横道に反れていました。返事をしないので、ゴードンさんが少し訝しげな目で見ています。

「すみません、少し考え事をしていました。わたしはBランクですね」

「はぁっ!? び、Bだと!? お嬢ちゃんが? こんなちっこいのにか!?」

「さっきから小さい小さいって失礼ですね。わたしは身長が低い人種なんです。わたしからすれば、貴方達が大きすぎるんですよ。それにわたしはこれでも19歳、もうすぐ20歳になるんですよ?」

 嘘は言っていませんよ?日本人女性の平均身長は20歳で約158cm、こちらの人と比べればかなり低めです。……それに比べてもわたしはかなり低いですが。

 ゴードンさんは驚いているのか、口をパクパクとさせています。そんなに驚く事ですかね?

 マッスルさんは……見た目は変わらないように見えますが、よく見れば目が開いていますね。やはりこちらも驚いているようです。

「なんならギルドカードも見せましょうか?」

 二人の反応に少しムッと来て、ポーチからカードを出して見せました。

 それをゴードンさんがひったくるように奪い、表示されている内容を確認しています。

「どうです? ランクも年齢も言ったとおりでしょう?」

 他人が見れば恐らく今の私の顔は、ふふん、と擬音が聞こえそうな表情をしているでしょう。

「ほ、本当にBランクだ……。年齢も19と書いてある……」

 ふっふっふ、先程の言葉も今なら謝れば許してあげますよ?

「俺、3年かけてもCランクにもなれなかったのに……。こんなちっさいのがBランクとか……は、はは」

 まてコラ。身長とランクは関係ないでしょうが。Cランクまではポイント制で昇格試験もないのですから、きちんと依頼を受けて地道にしていればいけるでしょう。年月をかけてもCランクに届いていないのは、無理な依頼を受けて失敗して評価を下げているか、依頼をこなしていないかのどちらかですよ?

 ちなみにDランクになるためには早くて半年、一般的なペースで依頼をこなせば1年と少々でなることが出来ます。

 Cランクはそこからさらに1年~といったところでしょうか。Dランクからは依頼の拘束期間が長い物も多いですし、そちらの依頼の方が報酬額のいいものが多いのです。討伐依頼なども拘束期間は長めになりますし、そうするとどうしてもランクアップまでの期間も長くなってしまいます。わたしのようなイレギュラー的にポイントを稼いでいる方が珍しいのです。

「何にしても、強いのならそれに越した事は無いだろう。その方が俺達も楽が出来るし、心配する必要も無くなる。そうだろう?」

「え? あ、ああ、そう、だな……。言われてみりゃ、確かにそうだな。Bランクもありゃ、そこいらの奴には負けないだろうしな。まあ見た目は……仕方ないにしても、戦えるのは事実だし、仕事としちゃぁそれで十分だ。うん、問題ないな」

 あら、マッスルさんの言葉で納得しちゃいましたよ。うん、まあ、この話題でいつまでも引っ張られても困るのでいいのですが。

「それで、そろそろお仕事の説明をお願いしてもいいでしょうか?」

 この部屋に入ってから、それなりに時間が経っています。ここにはお仕事で来ているわけですから、いつまでも雑談しているわけにはいきません。

「ああ、そうだな。まあ、仕事の説明と言っても、店の周りを定期的に巡回して怪しいやつがいないかを確認すること、それと店の中を巡回して問題が起きていないかを確認することくらいだな。問題があればその場で対処、もしくは誰かに連絡して対処する、問題がなければここに戻って報告して待機するくらいだ。最初は俺達のどっちかについて回ってもらう。2,3回も回れば後は一人で出来るだろう。あと、ここに必ず一人は残ること。問題が起きたら最初に連絡が来るのがここだからな。後は……ああ、夜中、0の刻過ぎに夜食が貰えるから、それを食べればいい。飲み物はそこに水道があるから、水は好きにしてくれ。それ以外の飲み物は自分で用意すること。それと、この部屋にいる間は好きにしていればいい」

 ふむ、結構いい加減なんですね。定期的に巡回して、トラブルがなければ後はのんびりしていてもいいわけですか。まあ、警護なんてそんなものなのかもしれませんが。

「あ、もうお店は始まっている時間のはずですが、こんなにのんびりしていてもいいんですか?」

 この部屋に来たのが9の刻になる少し前です。それからそれなりの時間が過ぎています。とっくに開店時間は過ぎているでしょう。外に注意を向ければ、開店前よりも随分と騒がしくなっているのがわかります。

「ああ、店が開いてしばらくは問題なんてまず起きねーんだよ。起きるとすれば後1刻か2刻過ぎた頃に酔っ払った馬鹿が何かするか、勘違いした客が暴れるかだな。この時間帯はのんびりしてても問題ないさ。何かあれば誰かが呼びに来るようになっているからな。気になるならそこに覗き窓があるから、そこから入口が見えるようになっているぜ」

 なるほど、トラブルを起こすのは大体酔っ払った客ということですか。それならまだ宵の口のこの時間は、そんな客は現れない、ということですね。

「ま、しばらくはのんびりしていればいいさ。そうだな……最初は俺についてくるか? マッスルの旦那はこの通り、あんまり喋らないからな。最初の巡回は俺が案内してやるよ」

 言われてみれば、マッスルさんは自己紹介とその後に少し口を開いただけです。説明はゴードンさんの役目なのかと思っていましたが、マッスルさんが無口なだけでしたか。

「わかりました、その時はお願いします。ところで、それまで自由にしていていいのならお茶でも飲もうと思ったのですが……お湯はどうすればいいのでしょう?」

 部屋にあるのは水道だけで、調理設備なんてものはありません。コップは幾つかありますが……。まさか、水しかない、なんてことも無いと思います。いえ、男の人ばかりならお酒を飲んでいる可能性も……?

「それなら厨房に言えばポットで持ってきてくれるぜ。その辺にいる小間使いの娘を捕まえて頼めば、後で用意してくれるだろ」

「わかりました。ちょっと頼んできますね」

 そう言って部屋を出ようとしたところ、ゴードンさんに呼び止められます。

「待て待て。部屋を出る前に覗き窓で入口を確認しな。ここに来るのは一夜の夢を求めて来る客だ。そんな客の前に武装した奴が出てみろ。夢が壊れちまうだろ。俺達は緊急事態でもない限り、客からは目立たないように行動しなきゃいけねえんだ」

 ああ、言われてみれば確かに。綺麗な女の人に出迎えられてデレデレしている所に、むさいおじさんやムキムキマッチョなゴツイ人が出てきたらびっくりしますものね。わたし達は裏方で、表には華やかなお姉さん達が相応しい場所ですものね。

 しかしゴードンさん、いい加減にしているように見えて、意外としっかりとお仕事を考えているのですね。ちょっと見直しました。

 ゴードンさんの言葉に従って覗き窓から入口を確認、お客様が誰もいないのを確認して部屋を出ます。幸い、すぐに小間使いらしき人を見つけて警備室にお湯を運んでもらうようにお願いしました。


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