表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
144/149

番37:依頼?命令?

「は?」

 思わず間の抜けた声が出ました。

「……すみません、もう一度言って頂けますか?」

 聞き間違いだったのかもしれないと思い、聞き返してみました。

「フジノ様にはAランクの昇格試験を受けて頂くようにと、ギルド長からの指示がありました」

 ええっと、どうして今更?


 一昨日に避暑地から戻って来て、一日の休日を挟んで日常に戻り、こうしてギルドへとやってきたところで受付のアイリさんに声をかけられたのです。

 アイリさんは少し話があると言ってわたしを別室へと誘い、切り出された話というのが……。


「とりあえず、理由を聞いてもいいですか?」

「そうですね。理由を申しますと……」

 申しますと?

「実は私も詳しくは知らされていないんですよ」

 所詮は受付ですから、と綺麗な笑顔。

「ギルド長から聞かされているのは、フジノ様がいつまでもBランクのままなのは周囲への影響が良くない、ということでした」

「周囲への影響とは?」

「フジノ様がBランクになられてから、随分と期間が経っています。その間に2年弱のブランク期間はあるものの、雷鳥討伐であったり先の戦争での功績など、大きな結果も残されています。他にも小さな依頼ですが功績としては他の冒険者の方に比べても十分なポイントを重ねられており、そのような方がいつまでもBランクでいるということは、ひいてはギルドへの不信と繋がる可能性があります」

「ですがそれはわたし自信が昇格を拒んでいるからであって、ギルド側には……」

「もちろん、ギルドとしてそれは承知しております。ですが、他の冒険者にそれはわからないことです。それに……」

「それに?」

「これは私の予想ですが、どうやらギルド長も誰かに指示をされたようです」

 え?って、そんなこと言っちゃっていいんですか?

「あくまで私の予想です。ですが、本来ギルドは登録されている冒険者の方の意思を優先し、フジノ様の意思としてAランクへの昇格は辞退されている、と認識しています。それにランクの昇格は冒険者側からの申請によって審査され、問題のないと判断された場合に昇格、もしくは昇格用の依頼が出されるのです。今回のようにギルド側からの要請というのは異例なのです。少なくとも、私の知っている限りでは過去にそのような事例はありませんでした。それに加えてギルド長の口ぶりや態度から、そうではないかと考えたわけです」

 え、えっと……そんなこと言っちゃっていいんでしょうか?

 そう思ったことが顔に出ていたのか、アイリさんは相変わらず綺麗な笑顔で続けました。

「もちろん、他の冒険者の方にはこのような事は伝えません。ですが今回は被害s……対象者であるフジノ様に納得して頂かないことには話が進みませんので、私の判断で話させて頂きました」

 今被害者って言いかけましたよね?そう思っているってことですよね?

「Bランクと違ってAランクになると得られる報酬も上がりますが、その分依頼の危険度も上がります。とは言っても、AランクやSランクの依頼はほとんどありませんが。しかしながらフジノ様が嫌ってらっしゃるように、Aランクでは断れない指名依頼も出てきます。当然、指名依頼には命の危険のあるような依頼もあり得ます。それを嫌ってBランクから昇格しない、というフジノ様の意思がある以上、それを曲げて昇格して頂く訳ですから、納得して受けて頂くように手を尽くすのが説明を請け負った私の役目だと思っております」

 なるほど、とりあえず背景は理解しました。

「あの、このお話は断ることは……?」

 恐らく無理だろう、と思いつつも聞いてみました。

「無理です」

 うわぁ、今まで以上に綺麗な笑顔で言い切られました。

「厳密に言えば断ることは可能です。ですがその場合、ペナルティとしてギルドランクの剥奪、ギルドに預けられている資産の凍結、以後のギルド利用の禁止がありますのでお薦めはしません」

 それ、普通に強制って言いませんか?最初から受ける以外の選択肢が用意されていないじゃないですか……。

「諦m……納得されたようですので昇格用の依頼の説明に移りますね」

 今諦めって言いかけましたよね!?

「もっとも、Aランクへの昇格なんてそうそうあるわけではありませんし、ましてそう都合よく適正のクエストがあるわけでもありません。それにフジノ様は能力的には問題ないと判断されていますので、今回は形式上、ということでこちらのクエストを受けて頂くことになります」

 さすが荒くれ者の集まる冒険者ギルドの受付なだけはあります。見事なスルー能力ですね、ちくしょう!

 なんだか完敗した気持ちでテーブルに置かれた依頼に目を向けます。

「……あの、わたしの見間違いでなければ娼館の警備、と書かれているように見えるのですが?」

 娼館って、あの娼館ですよね?

「はい、私にもそう書かれているように見えますね」

 ということは、見間違いではないと……。

 この依頼を選んだ奴、ちょっと出てきなさい!!

「……説明をお願いします」

 依頼には文句を言いたいところですが、アイリさんに言っても仕方がないでしょう。……別にアイリさんに文句を言うと無理矢理納得させられそうだとか思っていませんよ?

「はい、依頼内容は見ての通りの娼館の警備ですね。場所は王都で一番の娼館『ラ・モール』で、期間は明日から4日間、時間は娼館の営業時間の9の刻から3の刻までです。フジノ様もご存知でしょうが、娼館とはその特性上、女性を求めて様々な男性が訪れます。勿論、ほとんどの男性はルールを守ってご利用されますが、中には酔われている方もおられ、職員や女性に無体を働く方もおられます。そういった方の中には話が通じない方もいて、実力を持って排除……退店して頂きます。他にも警備の方はおられますが、フジノ様はそちらの方と協力して仕事に当たって頂くことになります」

 つまり、娼館の用心棒ってことですか。

「とりあえず、依頼内容はわかりました。でもどうして、この依頼が昇格クエストになるんですか? 娼館の警備ならもっと低ランクでもよさそうな気がするのですが」

「仰る通り、普通の娼館ならCランクの依頼でもよかったと思います。ですが今回の依頼主は『王都で一番』の『高級娼館』なんです。つまり、その利用客もそれに合わせた客層となって来るわけですね。名の知れた商人やその顧客、貴族なども利用すると聞いています。そういった客層ですと、利用客を守ることもですが、利用客自身が護衛を雇っていたりするのでそういった場合が大変なのです。お金を持っている、ということはそれだけ腕のいい護衛を雇えるということです。そういった方が相手だと、中級程度の冒険者ですと抑止力にならないどころか対処が出来ない場合もあるのですよ。それに守る相手は女性です。粗野な冒険者ですとギルドの評判に傷がつきますし、中には報酬と称して娼館の女性に手を出そうとする輩も出ないとも限りません。その点、フジノ様は実力も十分ですし、同じ女性として娼館の女性にも受け入れられるでしょうね」

 うーん……警備にしてはランクの高い理由はわかりましたが、それでもAランクへの昇格クエストには向いていないと思うのですが……。

「まあ色々と理由はありますが、ぶっちゃけて言えば今ある依頼の中で都合のいい依頼が無かった所に舞い込んできたので宛がったってところでしょうか?」

 おい……ぶっちゃけすぎでしょう……。というか、そんなこと言っちゃっていいんですか?

「そもそも、今回の依頼は警護の一人が急な用事で数日間抜けることになったので、その穴埋めとして一人用意してほしいという内容だったのです。ですが先程も申しました通り、この依頼はそれなりの実力と品性を持った人にしか回せない依頼ですから、人物の選定に困っていたところだったのですよ。そこにフジノ様の昇格の話が舞い込んできたのでこれ幸いとギルド長が手を回したようです。全く、報酬に釣られて何でもかんでも依頼を受け付けるから私達が苦労を……」

 おおーい?何か色々漏れていますよ?受付も大変なんですねぇ。

「コホン。とにかく、そういうことなのでフジノ様にはこの依頼を受けて頂くことになっています」

 ええ~、強制なら仕方がないですけど……。

「なお、今回の依頼の失敗時には依頼を受けなかった時と同等のペナルティが発生しますのでご了承ください」

 ……それ、ひどすぎやしませんか?いえ、依頼内容からすれば余程のことがない限りは失敗なんて無いというのはわかりますけどね。

 ああ、わざと手を抜いたりするなって警告ですか?

「はぁ~、どうせわたしに拒否権は与えられていないようですし、依頼を受けないと解放されそうにないですよね。わかりました、昇格クエスト、受けますよ」

「それは良かったです。私もフジノ様が快く受けて下さり、ほっとしています」

 どこが「快く」なんでしょうね?脅迫みたいなやり方で無理矢理受けさせておいて、どの口が言いますか……。

「それでは依頼主の方にはギルドから連絡をしておきますので、フジノ様は明日、8と半刻頃に『ラ・モール』の方へ行ってくださいね」

 そしてこれで話は終わりとばかりに、アイリさんに部屋を追い出されました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ