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異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
139/149

番32:犬も食わない

「全く、人が忙しくしている時に何をしているんだ」

 はい、仰るとおりです。返す言葉もございません……。

「そ、それで、応援の騎士はいつ頃こちらに来る予定ですか?」

 王子の棘の生えた独り言と言う、針の筵のこの状況から逃げたくて別の話題を振ってみます。

「ん? ああ、はっきりとはわからないが、早ければ今夜にでも着くだろう。遅くても明日の朝には着いているはずだ。その後は、到着した騎士を交代で休ませながら警備を強化する。王都に戻るのは状況を見ながらだが、予定通り3日後にするつもりだ」

 なるほど、すぐに戻らないのは応援の騎士を休ませて、万全の体制にする為でもあるんですね。確かに今夜到着して明日の早朝に出発などと言う強行日程だと、騎士や騎馬も疲れなどできっちりと働けませんからね。さすが騎士をまとめる立場です。きちんと考えているんですね。

「母上達にも伝えるが、それまでは大人しくしておいてくれよ? くれぐれも、一人で行動したり無茶な事はしないように」

 なんですか、その言い方は。まるでわたしが一人で無茶をするような言い方じゃないですか。これまでだって、そんなに無茶な事をした覚えはありませんよ?……多分。

 そんな風に思っているのが伝わったのか、それとも顔に不満が出ていたのかはわかりませんが、王子の手がわたしの頭に乗せられました。

「そんな顔をするな、心配なんだよ。サクラなら大丈夫だとは思うが、昨夜のような状態だってあるんだ。せっかくプロポーズが受け入れられたというのに、正式に婚約をする前に怪我なんてしてほしくないんだよ」

 そんな風に言われると、何も言えないじゃないですか。それに……昨夜の事は、いくら気持ち的に一杯だったとはいえ、気がつかなかったのは事実です。その結果、王子に庇われてあんなことに……あんなこと……あんな……。

「どうした? 急に俯いて……」

「な、なんでもありません! もじゃもじゃとか芋虫とか、成長した芋虫とか思い出してなんていませんから!」

 余計な事まで思い出してしまい、顔が上げれません。恥ずかしすぎて、頭に置かれている手も振り払ってしまいます。

「ちょっと落ち着け、意味がわからんぞ? もじゃもじゃとか芋虫って……まさか、今朝の事を言っているのか?」

「ななな、何を言っているんですか!? わたしは別に、茂みから顔を出した芋虫が朝になったら成長していたとかホットドッグのフランクフルトより大きかったとか、そんなこと一っ言も言っていませんよ!?」

「だから落ち着け! 余計に意味がわからなくなっているぞ!」

「わたしは落ち着いています! そもそも、王子があんなもの見せるからいけないんじゃないですか!」

「あんなものとはなんだ、あんなものとは!」

「あんなものはあんなものです! しかも朝になったら成長していますし!」

「成長って……あれは生理現象だと言っただろう! それに見せたくて見せたわけではない、サクラが勝手に見たんだろう!」

「勝手にって、あの時はああしないと命の危険があったじゃないですか! それを……」

「それにしても言い方ってものがあるだろう? 大体、あんなものと言われるほど粗末な物ではないつもりだ」

「粗末って……そりゃ、どちらかといえば立派なものだった気はしますが……。って何を言わせるんですか!?」

「知るか。サクラが勝手に言ったんだろう」

 ふぅふぅと、お互いに息を荒くしながら睨みあいます。冷静に見れば、お互いになんて話題で言いあっているのかと思いますが、この時は売り言葉に買い言葉で興奮していた、というのが言い訳です。

「お二人とも、落ち着いてください。騒がしいので様子を見に来てみれば……。全く、何をくだらない事で言いあっているのですか」

 そんな二人に割り込むように、声がしました。

「シフォンさんっ!? いつからそこに……?」

「茂みから顔を出した芋虫、あたりでしょうか?」

 言い争いのほぼ最初からじゃないですか!

「内容が内容だけに、口出ししにくかったのですが……聞いていてあまりにどうかと思った物ですから」

 うぐ、仰ること、ごもっともです。

 第三者に注意をされて少し冷静になると、バツが悪くなりました。ちらりと王子に目を向けると、王子もバツが悪そうにしています。

「今のお二人に丁度いい言葉があります。『痴話喧嘩は犬も食わない』ですよ」

「痴話喧嘩って、わたし達は別に……」

「お二人とも、口約束とはいえ婚約しているのですから、早く仲直りをしてください。いいですね?」

 取り付く島もなく、シフォンさんはそう言い残して部屋を出て行ってしまいました。そして気まずい雰囲気で残された、王子とわたし。

「……すみませんでした」

 しばらく逡巡した物の、わたしが先に謝罪を口にしました。落ち着いてみれば、どう考えてもわたしの逆切れのような物です。そもそもわたしが余計な事を思い出したり口走らなければ良かった事ですし……。

「いや、私の方も悪かった。勢いとはいえ、余計な事を言わなければ良かったな」

 お互いが気まずげに謝罪をし、これで仲直り……なのですが。

「そういえば、聞いておきたかったことがあるんですが」

 せっかくですし、気まずいついでに聞いておきましょう。

「なんだ?」

「王子はどうしてわたしを? 正直言って、王子に好かれるようなタイプではないと思うのですが」

 そう、プロポーズを受けておいて今更、と思われるかもしれませんが、ずっと気にかかっていたのです。

「だってわたしは背も小さいですし、胸だってぺったんこです。肉付きだって薄いですし、王子の好みからは完全に外れていますよね」

 自分でも、女としての魅力は無いと思うんです。王子だって胸の大きい女性が好きなはずですし、いわゆるボン・キュッ・ボンな体形が好みなはずです。

「いきなり何を聞くのかと思えば……私の好みとはなんだ? まさか、いまだに私がおっぱい星人とか言うやつだと思っているのか?」

 おや、覚えていましたか。随分前に言った言葉でしたのに。

「あのなぁ。以前にも言ったとは思うが、私は別に大きな胸が好きなわけではないぞ? 女性の好みだって、胸の大きさで決めているわけではない」

「でも、どちらかと言えば胸は大きいほうが好みですよね?」

「そりゃあないよりはあったほうが……って、違うと言っているだろう」

 中々認めないですね。

「何度も言うが、私は外見だけで女性を選んでいるつもりはない。そりゃあ一般的には女性らしさと言えばまず胸に目が行くが、胸の大小なんて個人差だろう。一部の男は胸の大きさに絶対的な比重を置いている者もいるとは聞くが、私は胸の大きさはそれほど大切だとは思っていない」

「え? じゃあ何が大切なのですか? はっ! まさか、やはり幼女愛好家……?」

「またそれか……。サクラは私のことをどういう目で見ているんだ?」

 どういうって、そりゃあ、ねぇ?

「いいか? 確かにサクラは小さいし見た目は子供だし胸だって無いに等しい。それに肉付きだって薄いし尻だって大きくはない。お世辞にも肉感的とはいえないだろう。そういう意味では女性としての魅力はないと言える」

 すみません、話を振ったのはわたしですが、本人を目の前にしてちょっと言いすぎではないでしょうか?内容が事実なだけに、文句も言えません。自分でも自覚はあるものの、面と向かってそう言われると結構きついです。しかも、仮とはいえ婚約者からの言葉です。

 ……泣いてもいいですか?

「だからと言って、サクラに魅力が全くないわけではない」

 先程までの落とす言葉とは違う言葉に、項垂れていた顔を上げました。

「それは例えば料理だったり、家事能力だったり、性格だったりと色々ある」

 ほうほう、いきなり持ち上げますね。というか、料理や家事なんて平民ならある程度出来て当然の気もしますが。まあわたしの料理はこちらの物とは違いますが。

「ちなみに王子はどこが一番魅力だと思いますか?」

 気になるのはここです。つまり王子にとって、魅惑のボディラインよりも大切ということだからです。

「一番か……」

 わたしの質問を受けて、王子は少し考えるように顎に手を当てます。

 即答では無いんですね。

「一番といわれると難しいが、サクラを意識する切欠ならあるな」

 ふむ、それは気になりますね。

「ま、それが何かは秘密だけどな」

「ええ!? 何でですか!」

「どうしてもだ。ともかく、外見だけが全てでは無いということだ。ああ、もちろんサクラの外見が悪いって言っているわけではないぞ? 確かに子供みたいだし胸もないが、顔は可愛いしな」

 むぅ、口は堅そうです。っていうか、今さらりと可愛いとか……そ、そんな言葉で誤魔化されませんよ?

「ま、まあ今は追及するのは止めておいてあげます」

 これは誤魔化されたわけではなく、追及しても喋りそうにないので無駄な時間を使うのを避けただけです。そこのところ、勘違いしないでくださいよ?


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