番23:反省と対策
さて…。
あれからなんとか2人を説得して別荘に戻ってきたのですが…。
戻ったら戻ったで大変でした。
なんせいきなりアリア様が王妃様に小屋でのことを話し始めたのですから…。
しかも!わざとかと思うほどにわたしの説明した部分を端折って…。おかげで王妃様の目は輝き、またしても4半刻近く説明をする羽目になりました。もう勘弁してください…。
あ、襲撃者は途中で回収してきました。王子が担いで、ですが。
気を失ったままでしたし、拘束もされていましたから逃げられてはいませんでした。まあ、手足の骨を折られていたのですから、逃げようもなかったと思いますが。
ともかく、これで襲撃者が単独で仕掛けてきたというのはわかりました。後はどういう理由で襲いかかってきたのか、雇い主は誰なのかを聞くだけです。
え?骨折ですか?放置ですよ。一応継木だけは当てていますが、王族を襲撃したのですからどう考えても死刑ですからね。それに襲撃者のせいで返事もできませんでしたし、その上に今朝のあれですからね。優しくしてやる必要はないのですよ。
とりあえず襲撃者は別荘の警備の兵士に渡して、わたし達は遅い朝食です。バタバタしたおかげで、もう9時を回っています。
王子の何か言いたそうな視線が気にはなりますが、色々あったせいで疲れているので無視しておきます。
朝食の後は自由時間です。
本当ならのんびりと散歩でもしたいところですが、疲れているのでベッドでゴロゴロとしておきます。
ゴロゴロとしながらも考えるのは、2つの事です。
1つは襲撃者の事。誰が命令したのかは襲撃者に聞くとして、別荘に滞在中に他にも襲撃者が現れる可能性があります。
わたしや王子なら襲われてもなんとかできるでしょうが、王妃様やアリア様だとそうはいきません。かと言って警備を増やすにしても、すぐにというわけにはいきませんし…。
何か対策を打つにしても、相手の狙いがわからない以上は動きようもありません。
つまりは襲撃者の回復待ち、ということになります。
一応は王妃様やアリア様には、外出時には護衛の兵士を連れて行くように注意してもらうように言っておきましょうか。
そして2つ目は、王子との事です。
別荘に滞在するのは今日を含めて4日。5日目の朝にはこちらを出発して王都へと戻る予定です。襲撃者次第では早まる可能性もあります。
つまりここに来た目的を果たすためには、出来れば明日中に返事をした方がいい、ということです。
それはわかっています。わかってはいるのですが、どういう風に切り出せばいいのか…。
話があるからと呼びだす?それではあからさますぎないでしょうか。
では偶然、二人きりになった時に?いえ、二人きりになることが無いとはいえませんが、その時の状況が不透明です。それに雰囲気というものがあります。ただ二人きりになればいいのなら、家で夕食を食べている時でもいいのですから。
理想としては偶然、もしくはさりげなく二人きりになって、なおかつロマンチックな場所でいい雰囲気になった時に言えれば…。ああ、こうやって考えると昨夜の状況がいかに理想的だったかがわかります。おのれ、襲撃者め…!
「ねえ、エル…。なかなか上手くいかないものですね」
思わず、お腹の上で丸くなっているエルに話しかけてしまいます。
「にゃ~」
「どうすれば理想的なシチュエーションになりますかねぇ?」
「に~」
「エルも少しは考えて下さいよ。ご主人様のピンチなんですよ?」
「に~」
もう…。人が真剣に悩んでいると言うのに、エルったら嫌そうに尻尾を振っています。
もっとも、猫に相談する方も悪いんですが。
コンコンコン
ノックの音がしました。
「どうぞ?」
誰でしょうか?アリア様やシフォンさんが朝の事でからかいにでも来たのでしょうか…?
ですが入ってきた人物は、予想外の人でした。
「くつろいでいる所をすまない。先程衛兵から、襲撃犯が意識を取り戻したと連絡があったので伝えにきた」
「え?王子?」
「にゃっ!?」
慌てて起きあがったせいか、お腹に乗っていたエルが落っこちて悲鳴(?)をあげました。が、わたしはそれどころではありません。だって、つい先ほどまで王子の事で悩んでいたのですから…。
「ど、どうして…?」
つい挙動不審になってしまうのは仕方がないことでしょう。
エルが抗議の為か、足を叩いていますが今は放置です。
「いや、用件は先ほど言ったのだが…。ああ、もう1つ、サクラに確認したいことがあった」
「え…?な、なんですか?」
「今朝のことなんだが、アリアが言った言葉に対して、サクラが“まだ”と言っただろう?あれはどういう意味だったのか…」
ええ!?今ここでそれを聞きますか!?こんなムードも何もない状況で…?いくらなんでもそれはないでしょう…。
「そ、そう言えば襲撃者の尋問をしないといけないんですね!さあ、早く行きましょう!」
大きな声を出して無理矢理話題を変えると、さっさと部屋を後にします。
「え?あ、おい、サクラ…?」
ふん!女心のわからない王子なんて放置です!
少しでもムードを作ってくれれば、わたしだって…。
ですがそんなことを気にせず、素直に告げることが出来ないのはわたしが悪いのでしょうか?
それともはっきりと返事が出来ないのは、王子のヘタレが移ったのでしょうか?
いえ、これは一生残るかもしれないことです。後から思い出した時に、後悔するようなことはしたくありません。
そう考えると、やはりデリカシーのない王子が悪いのです。きっとそうです!
後から追いかけてくる王子の気配を感じながら、どうしてこんな人を……と溜息をついてしまうのでした。




