番17:看病?
額に感じる冷たさに、目が覚めました。
「ん…、あれ…?いつの間にか、眠って…?」
「あ、目が覚めされましたか?」
「あれ…?シフォンさん?」
そう言えば、王子がシフォンさんに連絡をするとか言っていましたね。
「はい。セドリム王子殿下から連絡を貰って、慌てて来たんです。偶には殿下も役に立ちますね」
……偶にはって、シフォンさん…。
「そういえば、その王子は…?」
視線を走らせてみますが、王子の姿は見当たりません。
「殿下は私が来てすぐに王城に戻られました。お仕事が残っているとか仰っていましたが、病床のサクラ様を放っておくなんて…」
シフォンさんの物言いに、思わず笑みがこぼれてしまいます。
それにしても、お仕事を放っておいて看病をしてくれていたんですね…。
シフォンさんにしても新婚なのに、わざわざ看病に来てくれて…。
「さて、サクラ様?眠っていて、随分と汗を掻かれたようですね?僭越ながら、私が身体をお拭きさせて頂きます。ああ、それと動けないようですので下のお世話もさせて頂きますね?」
ちょっと感動したらすぐにこれです!わたしの感動を返してください!
「え?ええ!?ちょっと、それは…」
「大丈夫です。私にお任せください」
「身体を拭くのはともかく、もう一つの方はトイレに連れて行ってもらえれば自分でできますよ!?むしろお願いですからそうさせて下さい!」
「駄目です。我慢は身体に毒ですよ?」
いや、そういう問題じゃなくてですね!
「ま、待って…」
「観念してください。私だって旦那様との時間を削って来ているんですから、少しくらい役得……ゴホン、いえ、優しくしますから、全て私に任せて下さいね?」
あ、旦那様って呼んでいるんですね。ってそうじゃなくて!やっぱり新婚生活を邪魔されたのを怒っているんじゃないですか!それに今役得って…。本音が出ていましたよね?
「優しくって、なんか違う…!」
「違いませんよ?サクラ様は黙って身を任せて下さい。そうしたら気持ちよくしてさしあげますから…」
「やっぱり何か違います…!」
逃げたいのに、身体が上手く動きません。なんとかベッドの端に逃げますが、すぐにシフォンさんに捕まってしまいました。
「さあ、もう逃げられませんよ?覚悟してくださいね?」
笑顔が、笑顔が怖いですぅ!
王子、助けて下さいぃぃぃぃ!!
「はふぅ…。ご馳走様でした…」
シフォンさん、台詞が違います!
うう、シフォンさんに辱められました…。黒歴史です…。
何故かうっとりと溜息をつくシフォンさんと、枕に顔を伏せるわたし。
「さあ、熱が上がらないようにもうひと眠りしましょうね?」
「熱を上げているのは誰ですか!?」
「あらあら、そんなに興奮されてはお身体に差し支えますよ?」
「誰のせいですか!」
「せめて動けるようになりませんと、また私が下のお世話をさせて頂くことに…」
「すぐに寝ます!」
あんな辱め、二度と御免です!
お布団に潜り込んで目を閉じると、先程のせいで疲れたのか、それとも風邪のせいかはわかりませんが、すぐに眠気がやってきました。
「ふふふ、お疲れさまでした。おやすみなさい」
眠りに落ちる前、シフォンさんの声が聞こえました。
疲れたのは、主にシフォンさんのせいですけどね!
次に目が覚めたのは夕方でした。
ぐっすりと眠ったお陰か、身体のだるさは随分とましになっていました。
シフォンさんの作ってくれた病人食を食べ、もう一度身体を拭いてもらってもうひと眠りすることにします。
この調子なら、明日には元気になっていることでしょう。
シフォンさんもわたしの様子に安心したのか、日が暮れる前に帰って行きました。
念のために明日は1日休んで、明後日からはまた依頼を受けに行きましょう。せっかく看病してもらったのに、ぶり返したりしたら申し訳ありませんからね。
け、決して黒歴史の再来が怖いわけじゃありませんよ?
あ、そう言えば、何か忘れている気が…。
オチ担当のシフォンさんでした。
そして忘れ去られる王子…。