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異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
120/149

番15:人助けというもの

番外編11話の後の話です。


「きゃあぁぁぁ!!子供が!」

 買い物を済ませて街を歩いていると、女性の悲鳴が聞こえました。

 慌てて声のした方を見ると、川べりで女性が川の方を指さしています。

「誰か、子供を助けて!」

 女性の周りには数人の野次馬らしき人達と、子供の姿が見えます。

 女性の指さしている方を見ると、子供が川に流されているのが見えました。どうやら水遊びをしていたところ、足を滑らせて川に落ちたようです。

 ちなみに野次馬が誰も助けにいかないのは理由があります。王都の付近には大河を始め、川はいくつかありますが、そこで泳ぐなんて事はありません。そもそも、川で泳ぐと言う習慣が無いのです。川は流れもありますし、水路として使われるか、もしくは上水道として利用されるので泳ぐこと自体が禁止されているからです。川遊びと言えば、川のほとりで水かけや足を浸す程度なのです。泳ぐことが出来るのは、その必要がある運搬の方や船乗りの方くらいです。つまり、一般の人はせいぜいが犬かきくらいしかできないのです。

 と、悠長に説明をしている暇はありませんでした。

 わたしは荷物をその場に置くと、川下へ向かって走ります。子供が流れてくるタイミングを見計らって、川へと飛び込みました。

 子供とはいえ、溺れている相手に正面から近付くのは危険です。しがみつかれたりすると、わたしまで溺れてしまう危険があるからです。子供の力と侮ってはいけません。生きようとする力は凄まじいものなのです。

 そういったことを授業の一環として習っていたことを思いだし、子供の背後に回り込んで片手で支えます。子供が暴れますが、無視して岸の方へとなんとか泳いでいきます。

 野次馬の一人が手を差し伸べてくれたので、それに捕まって、別の人に子供を預けました。その後に手を貸してもらって岸に上がります。

「やった、助かったぞ!」

「お嬢ちゃんが子供を助けた!」

 野次馬から歓声が上がります。

 子供の方を見れば、酷くせき込んではいますが、無事なようです。

「ダリル!ああ、良かった…」

 最初に叫んだ、母親らしき人が子供に駆け寄っています。

「お母さん、お母さん!」

「ダリル…!」

 抱きあう親子を見ると、助かったことにほっとします。

 もしもわたしが通りかかっていなかったら、もしも通りかかるのが後5分遅れていたら…。

 その時は最悪の事態だってあったのですから。

「あの、息子を助けて頂いて有難うございます!何とお礼を言っていいか…」

「いえ、無事で良かったです」

 お礼はその子が無事だったことですよ、なんていうのは気障でしょうか?そんな恥ずかしいことは言いませんが。

「なにかお礼を…」

「いえ、気を使わないでください。運よく助けることが出来ただけですから」

「そんな…。ならせめてお名前を…」

「本当に気にしないでください。ではわたしは急ぎますから…」

 このままだと無理矢理にでもお礼をされそうな雰囲気になってきたので、無理矢理話を打ち切って逃げるように帰路につきました。あ、もちろん荷物は回収済みです。

 ここで物語なら「名乗るほどの者ではありません」なんて言えるのでしょうが、生憎わたしはそこまで自分を捨てていませんからね。それに、捜す気になればわたしのことなんてすぐにばれてしまいますからね。

 「名乗るほどの者ではありません」なんて言っておいて、すぐに素性がばれたりしたら恥ずかしすぎますからね。

「くちゅん」

 あ、くしゃみが…。いくら7月とはいえ、上旬だと泳ぐのには少し早かったですかね…。今日は早めにお風呂に入って温まりましょう。


「そう言えば、今日の夕方に水路でおぼれた子供を助けた者がいたらしいな」

 夕食の席で、いきなり王子がそんなことを言い出しました。

「へ、へぇ~?」

 唐突だったので、少しどもってしまいました。

「最近の騎士団はそんなことも調査しているんですか?」

「いや?巡回中に人が集まっていたので話を聞いたらしい」

「あ、そうなんですか?」

「ああ。なんでも、子供を助けたのは長い黒髪の子供だったそうだ」

 ちょ、誰が子供ですか!

「珍しいよな、黒髪なんて…」

 くっ、気付いて言っているでしょう?

「……本当に珍しいですね。会ってみたいですね」

「意外と近くにいるんじゃないかと思っているんだが、なあ?」

 そのにやにや顔を何とかしたいと思うのは、きっとわたしだけじゃないはずです。

「そうですかね?……くちゅん」

 あ、またくしゃみが…。

「大丈夫か?」

「あはは、大丈夫ですよ。……くちゅん」

「水浴びでもしたのか?水浴びにはまだ早いぞ?」

 わかって言っているのがむかつきますね!

「風邪でも引いたら大変だからな。早めに休んだらどうだ?」

「健康なのが取り柄なんですが…。まあ、忠告に従って今日は早めに休みますよ」

「そうしたほうがいいな。では私も早めに退散するとしようか。……気をつけてな」

「ありがとうございます。王子も気をつけて」

 いつもよりも早くお城へ帰る王子を見送り、夕食の後片付けをしてお風呂に入ります。

 王子の言葉に従うわけではありませんが、今日は早めに寝ることにします。……くちゅん。


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