番11:解決
「はぁ、はぁ、何とか…、終わった…」
3人が地面に座り込んで荒い息を吐いています。
まあ、初めてにしては頑張ったほうじゃないでしょうか?
そんな彼らを見ながら、わたしは残った家に火をつけて回りました。
「ど、どうして燃やしているんですか…?」
「簡単ですよ。燃やすことによって次に簡単に巣を作られないためです。もう一つ理由があるんですが、何故だかわかりますか?」
「え?えっと…。わかりません…」
「もしも中に子供が残っていても、燃やしてしまえば死んでしまうでしょう?」
残酷なようですが、ゴブリンは繁殖力が高いのです。1匹見たら30匹のあれと同じです。むしろ人間にとって脅威となる分、性質が悪いですね。あれも一部の人間にとっては十分な脅威ですが。そういえば、どちらも頭文字はGですね。意外な共通点がありました。
「今回は燃やしていますが、風のある日なんかは気をつけないといけませんよ?森に延焼でもしたら大変ですからね。そういう日は家の中を見て回ってから潰すんです。まあ、潰さなくてもいいですが、できれば潰した方がいいですね」
「お姉様は強いんですね…。あたし、驚きました。それに魔術まで使えて…」
「あー、まあ、これでもランクBですから…」
「それだけ強くてもランクBなんですか?ランクAやランクSの方って、どれだけの強さなんでしょうか…?」
あはは…。実は何度かランクAへのランクアップ試験の打診は受けているんですよね…。毎回断っているわけですけど。だって、ランクAになると国からの依頼とかあるんですよ?面倒じゃないですか。ランクBでも十分生活費は稼げますからね。
「まあ依頼も終わったことですし、村へ戻りましょうか。早くお風呂に入りたいですしね」
さすがにみんな返り血で汚れています。宿に戻って洗濯も済ませたいですしね。
粗方燃えた家に魔術で水をかけて、わたし達は来た道を戻りました。
村に戻って村長さんに報告し、お礼を言われる3人を尻目にさっさと宿に戻りました。え?だって、あの村長さんに捕まると長くなりそうなんですもの。わたしは早くお風呂に入りたいんです。
部屋に戻って荷物を置き、着替えを持ってお風呂へ向かいます。
お風呂へ向かう途中に食堂を覗いたんですが、昼間だと言うのにお酒を飲んでいる人が沢山いました。どうやらゴブリンが退治されたことを聞いての祝杯のようです。考えてみれば7日間も森に入ることが出来なかったんですから、喜びもひとしおでしょうね。わたし達冒険者にとっては依頼の一つでしかありませんが、この村の人達には生活がかかっていますからね。騒ぎたくなるのも仕方のないことかもしれません。
そんな彼らを横目に、お風呂へと向かいました。
背後から乾杯の声が聞こえます。
ふふ、あの笑顔を作ったのがわたし達だと言うのが少し誇らしいです。
お風呂に入ってまず自分の身体を洗い、しばらく湯船に浸かってから服や鎧を洗います。鎧は軽く洗っておけば大丈夫なんですが、服の方は中々血が落ちません。冒険者御用達の強力洗剤を使ってごしごしと擦ります。しばらくして、ようやく汚れが落ちたところで水洗いをして絞っておきます。
毎度のことながら、もっと簡単な方法は無いですかね?いっそ魔術でも作ってみましょうか?
そんなことを思いながら湯船に浸かっていると、慌ただしくドアが開きました。
「お姉様、置いていくなんてひどいです!あたしも一緒にお風呂に入ります!」
忘れていました!エセルの問題がまだ片付いていないんでした!
「え、えっと、ほら、依頼を受けたのは貴方達でしたし、ね?」
「でも、ゴブリンのほとんどを倒したのはお姉様です!お姉様がいらっしゃらなければ、依頼は達成できませんでした!」
いや、それはそうですが。それとこれとは違うというか、何というか…。
「だから、せめてお姉様のお背中を流したいと思って…」
「い、いえ、気持ちだけで結構です。もう身体は洗ったので…」
うう、お風呂に入っているのに冷や汗が出ます。
「そんな…。ならせめて一緒のお風呂に入ります!」
なにが“なら”なんですか?話が繋がっていませんよ!?
「うふふ、お姉様の肌って綺麗ですよね…。あたし達とは少し色が違いますが、とても綺麗で…」
危険です!本能が逃げろと言っています!
「わ、わたしは温まったのでこれで…」
「ああん、そんなに急がなくてもいいじゃないですかぁ」
脱出失敗!?敵に捕まりました!救出をお願いします!
このままでは危険すぎます。ここは奥の手です。本来ならわたしが言うのはマナー違反なのですが、背に腹は代えられません!身の危険の回避が最優先です!
「あの、わたしのことよりハロルド君の事をかまってあげた方がいいんじゃないですか?」
「え?ハロルド?なんでですか?」
「だってハロルド君はエセルのことが好きじゃないですか」
エセルの手が緩みました!もう少しで…。
「えー?やっぱりお姉様もそう思いますか?」
「……へ?」
「実はあたしもそうじゃないかと思っていたんですよぉ。でも、ハロルドったら何も言ってくれないし、あたしの勘違いかなって思っていたんですけど」
「そ、そんなことは無いんじゃないですか?ハロルド君の行動を見ていれば、みんなそう思いますよ?」
「えへへ、やっぱりそうですよね?」
あれー?つまりエセルは告白待ちだったってわけですか?そんな雰囲気が全くなかったので気がつきませんでした…。
「ハロルドったらいつもあたしに優しくて、村にいたときなんかも…」
「へ、へー?そうなんですね…」
「そういえばこんなことが…」
惚気か!?惚気ですね!?
「そうそう、あの時は…」
ちょ、いつまで続くんですか?
「ねえ?凄いでしょう?それから…」
吐く!砂を吐きます!他人の惚気がこんなに甘いとは!
「他にもこんなことが…」
あれ?頭がくらくらして…。
「うふふ、あの時のハロルドったら…」
も…、限界…。
「それから……って、お姉様!?」
ぶくぶく…。
「お姉様、しっかり!?」
長時間お湯に浸かり過ぎたせいと、エセルの惚気で逆上せてしまったようです。
おかげでエセルに救助されて看病されるという醜態を晒すことになりましたが…。
まあその甲斐もあってか、帰りはエセルがハロルド君にべったりとなったので結果的には良かったのでしょう。
ただ……迂闊に人の恋路には関わるまいと心に誓ったのでした。
あ、戻ってからギルドから頂くものはきっちり頂きました。