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異世界に出戻りしました?  作者: のしぶくろ
番外編とか後日談
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番09:後進育成

 黙って3人を見ていると、少しの話し合いの結果、まずは依頼人に会いに行くことにしたようです。わたしは少し離れて付いていきます。

 村長の家は、村の中で一番大きな建物でした。お約束ですね。

 ハロルド君がドアをノックして、出てきた人に自己紹介をしています。どうやら出てきた人は息子さんのようで、中に案内されます。

 ふむ、ハロルド君がリーダーなのでしょうか?たしかに決断力はありそうな感じですが…。ただ、あの仏頂面では交渉事には向いていないんじゃないでしょうか?

 冒険者というのは時にははったりも必要です。女だと舐められやすいので、エセルが前に出ないのは正解です。わたしも苦労しましたからね…。

 ですが、交渉事をスムーズに進めるのには愛想笑いも必要です。この点で言えば、ハロルド君よりはアルフ君のほうが交渉には向いていると思います。せっかく3人でいるのですから、それぞれで役割分担をすればいいのに…。仏頂面で村長と話しているハロルド君を見ながら、そんなことを思いました。

 3人の後ろで突っ立っていたわたしを不思議に思ったのか、村長さんが訝しげな顔で私を見ました。

 何度も言いますが、わたしはただの付き添いなので彼らの話に入る気はありません。問題がありそうなら割り込みますが、そうでないなら彼らの経験の場を奪うことになるからです。

 わたしは気にしないでくださいとメッセージを込めて、愛想笑いを返しておきます。村長さんは少し首を傾げましたが、何かに納得したのかそのまま会話に戻りました。

 村長さんの話を要約すると、ゴブリンを見かけたのは7日前のことだそうです。森に狩りに入っていた村人の一人が、3匹で移動していたゴブリンを見かけたそうです。そしてそのすぐ後に、同じように森に入っていた別の村人が、別の場所で同じように3匹のゴブリンを見たと言うのです。慌てて村長さんは使いを出して、ギルドへと討伐依頼を出したそうです。

 うん、ギルドで聞いた話と大差はありません。問題なのは、別の場所で同時間帯に複数で行動するゴブリンを見た、ということでしょう。アイリさんが言っていた通り、かなりの数がいる可能性があります。考えられる可能性としては、今までゴブリンが見つからなかっただけで、実はかなり以前から巣を作っていた可能性。もしくは、何らかの理由でつい最近に集落ごと移動してきた可能性があります。

 前者だとそこまで規模が大きくなるなら、これまでに何らかの予兆なりがあってもおかしくありません。それが無かったので、可能性としては低いでしょう。となると、集落の移動でしょうか?可能性としてはいくつか挙げられますが、確証がない以上は推測の域を出ません。それに今やるべきことは原因の推測ではなくて、実際の脅威となっているゴブリンの対処です。

 村長さんとの話が終わり、泊まっていくようにと勧める誘いを断って村長さんの家を後にしました。

 どうして誘いを断ったのでしょうか?駆け出しの間はお金に余裕が無いはずです。一泊とはいえ、宿代が浮くのですから断る理由が見当たらないのですが…。まあ、私がとやかく言うことじゃありませんから構わないのですが。

 外へ出た3人は、宿へ向かうのかと思ったらそのまま村の外へと向かいました。どこへ行くのだろうと思いながらついていくと、村を出たところで北へ向かい始めました。

 まさか…?

 一つの可能性が浮かびますが、いくらなんでもそれはないだろうと思いながら聞いてみます。

「あの、宿も取らずにどこへ行くんですか?」

 わたしの声に、3人が立ち止まりました。

「決まっているだろう?さっさとゴブリンを倒しに行くんだよ」

 馬鹿です!まさかとは思いましたが、馬鹿すぎます!

「貴方達、馬鹿ですか?村長さんの話を聞いていたんですか?今から向かうと、つくころには真っ暗ですよ?そんな中でどうやって戦うんですか?」

 思わず、わたしは怒鳴ってしまいました。だって、あと2刻もすれば完全に日が落ちるんですよ?森の中はそれよりも早く暗くなるでしょう。そんな中で、馬鹿みたいに松明を点ければ見つけてくださいと言うようなものじゃないですか。

「なんだと?暗くなって困るのは相手も一緒だろうが!それに、ゴブリンごときに負けるような俺達じゃねぇよ!こっちは3人もいるんだし、同じ条件ならこっちが有利に決まってらぁ!」

 ハロルド君が言い返してきます。が、その反論は穴だらけです。もう呆れてしまいます。

「だから馬鹿だと言っているんです。貴方達は相手がわかっているのに下調べもして来ていないのですか?ゴブリンは多少ですが夜目が効くんです。同じ条件な訳がありません。日が落ちてしまえば相手の方が有利になるんです。それに、村長さんの話で疑問に思わなかったのですか?」

 わたしの説明に、3人は初めて聞いたといった顔でぽかんとしています。全く、呆れてしまいます。わたしがいなければ、3人は今夜にでもゴブリンのお腹の中に消えてしまうところだったのですから…。

「はぁ…。敵のことを調べておくのは冒険者として基本のことでしょうに…。いいですか?ゴブリンは単体ではランクEに分類される魔物です。ですが、まず単体で現れることはありません。ゴブリンは群れを作る魔物です。群れとなった時の脅威はランクDに相当します。ですが、これは10匹程度までの場合です。それ以上となった時はさらにランクが上がります。ここまでなら、ランクEの冒険者3人がいれば問題ないと思います。実際、これまでの依頼では多くても20匹までしか確認されていませんからね。ですが、今回は別なんです。本来ならランクEが3人もいる依頼に、わざわざギルドからわたしが派遣されてきたのがおかしいと思いませんか?その理由が、先程の村長さんの話で確定しました」

 3人の顔が訝しげなものに変わります。恐らくは何も考えていなかったのでしょう。わたしの話も寝耳に水だったのだと思います。

「先程、村長さんは同じ時間帯に、別の場所でそれぞれ複数のゴブリンが見つかったと言っていましたよね?」

「ああ、それがどうした?」

「普通、巣を作り始めたゴブリンは、その大部分を巣作りに費やします。ですが、その間も食料は必要なのでゴブリンも狩りに行きます。狩りに行くのは数匹程度、全体の1割が基本です。これまで見つかった巣の場合、20匹なら2匹程度、10匹なら1匹が狩りに出ることになります。ですが、今回は2か所で、それぞれ3匹のゴブリンが見つかっています。これから想像できることはなんですか?」

 わたしの言いたいことが分かったのでしょう。3人の顔が青褪めて行きます。

「ま、まさか、60匹…?」

「ええ、もしくはそれ以上と考えられます。たまたま見つかったのが2か所と言うだけで、もしかしたらもっと狩りに出ていたのかも知れませんからね。これらのことは、きちんと下調べをしていて情報を整理すれば想像できることです。冒険者としての基本は、下調べと情報です。最低限、敵の情報を調べ、極力危険を回避する。これが生き残るための、確実な方法なんです。ギルドはこれらの情報を元に、いざという時の為にわたしを派遣したのです。最初は巣が完成しての周辺の偵察の可能性もありましたが、餌を探していたと言うことなのでその可能性は無くなりました」

「じゃ、じゃあどうするんだ?俺達だけで60匹以上のゴブリンなんて無理だぞ…?依頼は失敗になるのか?」

 そりゃ、顔色も悪くなりますよね。わざわざ乗合馬車に乗って、3日かけて来てみたら無理な依頼だったなんて…。まだそれほどお金に余裕もないでしょうし、このまま帰れば依頼失敗だなんて、困りますよね。

「ちなみに、今の状況から想像されるのは集落ごと移住してきた可能性です。この場合、ゴブリンの中に上位種がいる可能性があります。そうなると貴方達ではまず相手になりません」

 ゴブリンの上位種にはゴブリン・リーダーやゴブリン・ロードと呼ばれる魔物がいます。どちらも単体ランクCの魔物です。これらは大きな集落に1匹いるかいないか、といった魔物ですが、どうやって発生しているのかはまだ分かっていません。一説には、ゴブリンが進化した種類だという学者もいますが…。なんにせよ、たかがゴブリンと侮っていると痛い目を見ることになるのです。

「そんなの、絶対に無理じゃないか!どうするんだよ…」

「あ、ちなみに依頼内容から極端に外れていた場合、依頼失敗にはならないそうですよ?まあ、報酬はありませんが」

「失敗にならなくったって、報酬が無いんじゃ意味がないじゃないか!ここまで来るのだって無料じゃないんだぞ!?」

 ハロルド君が悲愴な顔で叫んでいます。アルフ君は唇を噛んで俯き、エセルは心配そうにハロルド君とアルフ君を見ています。

 まあ、このくらいにしておきましょうか。

「だからギルドはわたしを派遣しているんですよ。これでもわたしはランクBですよ?それを踏まえて、どうするかを考えればいいんじゃないですか?」

 まあ、ゴブリンが100匹くらいいようが上位種がいようが倒せますが。ですが、ここでわたしがそれを言ってしまえば彼らは考えることを止めてしまいます。今回のわたしはあくまで“付き添い”ですからね。基本は彼らに考えてもらわないといけないのですよ。従うかどうかは別として。

「お姉様がいれば、どうにかなるのですか?」

 うーん、その質問だと駄目ですね。

「わたしがいればどうにかなる、ではなくて、貴方達で考えてどうにかしないといけないのですよ?いつも誰かが助けてくれるわけじゃありませんから、自分たちで考えて道を作らないといけません。でもまあ、ヒントくらいはあげます。今、貴方達に選べるのは2つです。わたしを含めて作戦を考えてゴブリンを倒すか、それとも逃げ帰るか」

 え?ヒントになっていない?そんなことはありませんよ?きちんと言っているじゃないですか。「わたしを含めて作戦を考え」れば「ゴブリンを倒す」事が出来るって。まあ、作戦なんてあって無いような物ですけどね。なんせ、こちらはランクEが3人とわたしです。わたし以外は複数に囲まれると危ないでしょう。恐らく、魔物との戦闘もこれが初めてでしょうからね。

 仮にわたしが作戦を立てるとしたら、わたしが突っ込んでゴブリンを蹴散らし、討ち漏らしたゴブリンを3人が対処する、といったところでしょうか?え?作戦になっていない?だからそう言っているじゃないですか…。

「まあ、その前に宿をとりましょうか。どちらにせよ、一泊はしないといけませんからね」

 村長さんのお宅に泊めてもらうのは断ってしまいましたからね。まあ、わたしは最初から宿に泊まることを考えていたので問題はありませんが…。

 お風呂に入れることを喜ぶわたしとは裏腹に、浮かない顔の3人と一緒に村に一軒しかない宿に向かいます。


 部屋に荷物を置いて、お風呂に入ります。

 え?3人ですか?もちろん放置ですがなにか?どういう結論を出すにせよ、今は沢山悩んでもらわないといけませんからね。

「フフンフーン♪」

 やっぱりいいですよね、お風呂。まさに心が洗われるようですよ。

 一気に湯船に飛び込みたいところですが、まずはかけ湯をします。マナーは大事ですよね。

 持ってきたお風呂セットで身体を洗います。やはり2日もお風呂に入っていないとかなり汚れていますね。

 そういえば、ゴブリンのせいで忘れていましたがエセルの事はどうしましょう?あのまま忘れてくれればいいんですが、そうもいかないでしょうしね…。

 やはりハロルド君に目を向けてもらうのが一番いい気がします。問題はどうやって目を向けてもらうか、ですよね。

 ハロルド君に優しく……はあれ以上は無理でしょうし、そもそもエセルにとってハロルド君が優しいのは普通になっていますからね。

 うーん、わたしがエセルだとしたらどうでしょうか?どうすればハロルド君に興味を持つか…。

 ……思いつきませんね。考えてみたら、わたしはハロルド君のことを全然知りませんね。この際ですから、ハロルド君の方も置き換えてみましょう。わたしがよく知っている男性と言えば……って、どうして王子が浮かぶんですか!?勝手に人の考えに出てこないでください!

 ああ、ですがわたしが一番よく知っている男性と言えば王子ですし、仕方ありませんね。ほ、本当に仕方なく、ですからね?他意はありませんよ!?

 って、わたしは誰に言っているんでしょうか…。

 ゴホン。

 気を取り直して……興味を持つと言えば、ギャップでしょうか?そう言えば、いつもヘタレな王子の凛々しい姿に驚きましたね。ヘタレ王子のくせに、ちょっと格好いいとか思っちゃいましたもんね。……ほんのちょっとですよ?

 ああ、そう言えば王子が楽しそうに他の女性と喋っているのを見たときなんかも気になりましたよね。べ、別に覗いていたわけじゃありませんよ?偶然、そう偶然です!偶然、そういったシーンを見かけただけですから…。

 あ、後は作った料理を沢山食べてくれるところでしょうか?王子ってば、わたしの倍くらい食べるんですよ?新しい料理を作った時なんて、おかわりまでして…。一口目を食べた時の驚いた表情とか、黙々と、でも美味しそうに食べるところとか、ああ、作った料理を美味しそうに食べてくれるのが嬉しいなって思えちゃうんですよね。

 他にはいい大人のくせに悪戯好きなところとか、子供みたいで可愛いですよね。時々、突拍子もないことをしたりして驚かせるんですよ?

 そう言えば、王子はちゃんとご飯を食べているでしょうか?最近忙しいって言ってましたからね。無理をしてないといいですけど…。

 うーん、帰ったら精のつく物でも作ってあげましょうか?精の付く物と言えば、大蒜にウナギ、すっぽん、山芋などですが、大蒜以外は見たことが無いですからね…。

 豚肉や貝類もいいと聞きますから、その辺で何か作ってみましょうか?

「あれ?お姉様?」

「きゃっ!?」

「まだ入ってらしたんですか?よかったらご一緒してもいいですか?」

 なんだ、エセルですか…。びっくりしました…。

 もうそんなに時間が経っていたのでしょうか?

「あ、いえ。十分温まりましたので、あがります」

 心臓がバクバクしています。長く湯に浸かっていたせいか、若干逆上せ気味です。

「え~?残念です…」

 なんだかわたしを見るエセルの目が怖いので、そそくさと脱衣場へ退避します。

「今度は一緒に入りましょうね~?」

 ……聞こえません!


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