102 懐かしき
王都へと出発して3日目。ようやく王都を囲む城壁が見えてきました。
「あと一息ってところですか…。王都に着いたら、まずは家ですね。2年間も放置していたので、どうなっている事やら…。いえ、それよりも契約自体がどうなっているか、確認しておかないといけませんね…。最悪、また宿暮らしということになるのでしょうか…?まずは不動産屋さんに行って確認ですか…」
一人だと、つい寂しさから独り言が増えてしまいます。
わたしはもう一度城門を見てから、止まっていた足を動かします。
それから1時間ほどをかけて門まで辿り着くと、門番の人に冒険者カードを見せて王都へと足を踏み入れました。……通っておいてなんですが、冒険者カードって半年以上更新を受けていないと、失効するって言っていた気がしますが…。それとも、失効するのは冒険者としての扱いだけなんでしょうか?……まあ、冒険者ギルドに行ってみればわかりますか…。
冒険者ギルドへは落ち着いてから行くとして、まずは不動産屋さんですね。
はてさて、どうなっている事やら…。
結論から言うと、契約はそのままでした。
賃料のほうは、戦争に行くときにギルドの口座からの引き落としになっていたで問題なかったのですが、さすがにずっと戻ってきていなかったので契約が打ち切りになろうとしていたらしいです。しかし、貴族のお嬢様がそれを止めてくれたらしいのです。なんでも、「必ず戻ってこられるので、少なくとも3年間はこのままにしていてほしい」と言ってくれたのだとか。しかも、そのお嬢様によって定期的に家も清掃されていたらしく、2年も放置していたとは思えないほど綺麗な状態らしいのです。
どこのお嬢様かは知りませんが、ありがとうございます!おかげで宿無しにならずに済みそうです!
そうとわかれば、夕飯の買い物を済ませて我が家へと帰りましょう!
2年、いえ、わたしの感覚からすると2年半ぶりですか…。
かつて、9か月を過ごした我が家に帰ってきました。不動産屋さんの言う通り、定期的に手入れがされていたのでしょう。2年間も不在だったにもかかわらず、少なくとも見た目は荒れた様子はありませんでした。
ポーチから鍵を取り出し、手を少しだけ震わせながら、玄関を開けました。
少しだけ埃っぽい気もしますが、窓を開ければすぐに気にならなくなる程度です。
リビングを通り、キッチンへ行って食材を片づけておきます。冷蔵庫などの出力の高い魔具は、さすがに魔力切れのようです。まあ、魔力石に魔力を注いであげればすぐに回復しますが。
さて、早速夕飯の準備に取り掛かりましょうか。
さすがにパンは今からだと間に合わないので、酵母の準備だけしておきましょう。
スープとサラダ、スパゲティを作ればいいですかね…。
「にゃ~」
「はいはい、エルのご飯も作りますから……って、エル!?いつの間に…?」
「にゃ~」
「シフォンさんのところにいたんじゃなかったんですか?」
「に~」
「え?なんとなく?黙って出て来たんですか?」
「にゃ~」
「はぁ…、仕方がありませんね…。そういえば、シフォンさんは元気ですか?随分と久しぶりになってしまいましたが…。……エル、シフォンさんに迷惑を掛けていませんでしたよね?」
「にゃ~」
「早いうちに挨拶に行かないといけませんね…。やはり心配、させたのでしょうね…」
「にゃ~」
「ふふっ、大丈夫ですよ。シフォンさんは優しいですから、きっとわかってくれます。……さて、夕飯をつくっちゃいましょうか。大人しく待っていてくださいね?」
「にゃ~」
パスタは……多めに作って置いておきましょうか。スープも今の季節なら明日までは大丈夫ですし、明日はすることが多いのであまり食事に時間をかけられませんからね。多めに作って作り置きをしておきますか。
こんなことなら、固形スープの素などもポーチに入れておけばよかったですね…。




