100 穴、再び
学校へは、身体の事や周辺事情もあって、1週間を置いてから戻ることになりました。
1学期の期末試験は……補習+追試ということで勘弁してもらいました…。10か月以上も前の事を覚えているか心配でしたが、必死に復習をして、なんとか合格点を取ることができました。
わたしが学校へ復帰した反応は……温かく迎えてくれる人、遠巻きに眺める人、噂をする人など様々でしたが、それなりに仲のよかった人は概ね喜んでくれました。
最初のうちは噂などもありましたが、人の噂も75日という言葉よりも早く、丁度中間試験や学園祭があったこともあって、2ヶ月もしないうちに噂は消えて行きました。
わたしは今まで通り、いえ、今までとは少し変わって、家では出来るだけ親孝行を、学校では勉強と遊びを頑張るようになりました。
いつアルセリアに行くことになっても悔いのないように、毎日を精一杯楽しむことにしたのです。
あ、智子の紹介でアルバイトも始めました。もちろん、いついなくなるかもしれない身なので遠慮したのですが、それでもいいからということで、アルバイトをすることになったのです。
……しかし考えてみると、急にいなくなっても大丈夫なんて、いてもいなくても問題なかったんじゃないでしょうか?
そう思って聞いてみたのですが、確かにいなくても大丈夫らしいのですが、一人いてくれるだけで随分と助かるのも事実だと言うことでした。ちなみにアルバイト先は喫茶店なのですが、それなりに高齢のマスターが一人でやっておられるので、意外と大変なのだそうです。
まあ、わたしもアルバイトをしたいと思っていたので、有難かったのですが。え?なんでアルバイトをしたいか、ですか?もちろん、お金の為ですよ。自分の稼いだお金で、何か形に残る物をプレゼントしたいと思ったのです。家族と友人、それにこんなわたしでも雇ってくださった喫茶店のマスターの6人と、自分にです。あ、あと一応ですが、師匠にも何か残したいですね。あまり高い物は買えないのですが、そこは気持ちということで勘弁してもらいます。
季節が何度か過ぎ、今日、ついにわたし達も高等部を卒業しました。
桜の季節にはまだ早いですが、4月には綺麗な桜を咲かせるだろう、我が校自慢の桜並木を通り抜けます。
わたしの右手には、美春と智子とお揃いのリングが光っています。少し高かったのですが、デザインが気に入ったので頑張って買いました。もちろん、二人も喜んでくれましたよ?今までは校則の為に学校でつけることはありませんでしたが、卒業してしまえば問題ありません。
さて、わたしが何をしているかというと、散策です。今更?と思われるかもしれませんが、なんとなくってやつです。なんとなく、ゆっくりと見て回りたくなったのです。
式が終わってみんなと別れた後、家にも帰らずにゆっくりと学校を見て回っているのです。今は一通りを回り終えて、教室へと向かっている所です。
思えば色々ありました…。アルセリアから戻って来てからは、文字通り、毎日が一生懸命だったと思います。そのおかげで、入学したころには思いもつかなかった、ですが、とても充実した高校生活が送れたと思います。
もちろん、嫌な事も、辛いこともありましたが、今となってはそれもいい思い出です。それ以上に、楽しい事が一杯でしたから…。
そんな思い出の詰まった校舎とも、今日でお別れです。
高等部最後の1年を過ごした教室へと戻り、鞄を持って教室を出ました。
これで、お別れです…。なんとなく、そんな予感がしていました。
鞄の中には、魔具のポーチが入っています。ポーチはいつも、どこへ出かける時も持ち歩いているのです。いつ、どこでアルセリアに行くことになるかわかりませんからね。
廊下を歩き、階段を降りて行きます。
……そういえば、この階段から足を滑らせたのが始まりでしたね。
まあ、今は足を滑らせるなんてミスはしませんが。
そんなことを思いながら、最後の一段を降りました。
……降りたはずでした。
体重をかけて踏み出したそこには、あるはずの床が無く、例の真っ黒な穴が開いていました。
もちろん、そんな状態ですから、避けるなんてことは不可能です。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やっぱりぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
わたしは真っ黒な穴へと、二度目のダイブをしました。