099 親友
途中、昼食を食べるのにも一悶着ありました。車を降りて店舗に入るのを拒否するわたしと、お祝いだからとお店に入ろうとする母。一歩も譲らない戦いがありました。父の仲裁によって、お祝いは家に戻ってからデリバリーを頼もうと言うことになり、昼食はドライブスルーのハンバーガーを買うことで落ち着きました。……お昼の混雑時に、お店の駐車場で入るか入らないかで揉めているわたし達は、いい迷惑だったでしょう。
約2時間をかけて、わたし達は家へと戻ってきました。ああ、懐かしき我が家です…。
おっと、感傷に浸るのは後でも出来ます。まずは、部屋に戻って着替えるのが優先です。こんな恰好を知り合いにでも見られたら、悶絶物ですから……ね…?
「あ、あははは…。今日戻って来るって聞いていたから来てみたんだけど…。しばらく見ないうちに、趣味が変わった…?」
ノォォォォォォォ!!!どうして!?なぜ!?ほわい!?
「な、ななななな、なんで美春と智子がここにいるんですかぁぁぁ!?」
「あら、早かったのね?二人とも、いらっしゃい」
「あ、お久しぶりです。桜も元気そうで…」
「いなくなったのも急だったけど、戻って来るのも急だったね」
「ほんとにねぇ…。全く、この子ったら周りに迷惑をかけて…。美春ちゃんも智子ちゃんもごめんなさいね?」
「いえいえ、これでも友達歴も長いですからね。このくらいはどうってことないですよ」
「ちょっと、何普通に話しているんですか!?まず最初に言うことがあるでしょう!?その前に言い訳をさせて下さい!これは…」
「智子、ロック」
「おっけぇー」
「ちょ、智子!?離して…!美春、カメラは駄目です!」
「んー、もうちょっと笑顔がほしいな…。智子?」
「おっけぇー」
「きゃっ、やめっ!あっ、そこはっ……あはははははははっ!!」
「いいねいいね。次はポーズをとってみようか?」
「こんな感じ?」
「そうそう。次はちょっとセクシーに…」
「いい加減にしなさーい!!」
「美春、後でデータコピーして」
「はいよ。お母さんもいりますか?」
「もちろんよ!二人が来てくれてよかったわぁ。この子ったら、家に着いた途端に着替えようとしていたのよ?」
「あらら、可愛いのに…。ではあたし達が来たのは丁度いいタイミングだったってわけですね」
「あ・な・た・た・ち…!いい加減に…」
「「桜」」
「う…、な、なんですか…?」
急に真面目な顔になっても許しませんからね!?久しぶりの再会なのに…!
「「おかえり」」
「……」
く…、不意打ちなんて卑怯です…。そんな風に言われたら、怒るなんてできないじゃないですか…。
「……ただいま。二人とも、心配かけてすみませんでした」
全く、こう言うしかないじゃないですか…。
安堵したような笑顔を見せる二人に、わたしも笑顔で答えました。
それから二人とリビングで少し話した後、わたしの部屋へ移って色々と話しました。ええ、あの日に起こった出来事から戻って来るまでの事です。もちろん、冒険者をしていたことや、戦争に参加したことなどは伏せておきましたが。あ、わたしがまたアルセリアに行く可能性があることも話しておきました。この二人に黙っていてばれたりしたら、色々と怖いですから…。
二人は驚きながらも黙って聞いていましたが、最後まで話し終えると「そっか…」とだけ呟いていました。
「えっと、あの……そういうわけですから…、先に謝っておきます。ごめんなさい」
しばらく頭を下げていましたが、何の反応も無いので窺うように頭を上げると、眉間にしわを寄せた顔が見えました。
「……なんで謝るかな?それって桜のせいじゃないじゃない。どうしようもないことなんでしょ?それとも、桜の意思で行くの?」
……確かに、そこにわたしの意思はありません。が、それを強く否定できない部分もあったのです。
「……確かに、わたしの意思に関係なく行くことになると思います。ですが、それを望んでいる自分も確かにいるんです…。もちろん、こちらの生活は大事です。が、それと同時にあちらの生活も同じ、とはいかないまでも、大切だと思える自分がいるのです…。向こうでの10ヶ月という時間は長すぎました。こちらで生きてきた時間に比べると短いですが、それでも完全に捨て去るにはもったいないと思えるものも出来てしまったんです…」
どちらが大切、という差ではありません。いえ、他の人から見たらそうなのかもしれませんが、わたしにとってはどちらも大切な時間だったのです。もしも、両方の世界を自由に行き来できるなら、と思わなくもありません…。
「はぁ~…。相変わらず、桜は真面目だね…。あれだ、男でも出来た?王子とか言っていた人を好きになっちゃった?」
「……なっ!?べ、別に王子の事なんて何とも…!」
あんなデリカシーのない、ヘタレな人なんて…!そうですよ、たとえ身分があって、剣の腕もよくて、お金もあって、顔もよくて優しくて……って、あれ?
「ふーん、やっぱり気になってるんだ?」
「顔、真っ赤だよ?」
「で、ですから、王子とはそういうのでは…!」
「おやぁ?ついに桜にも春がきたのか?桜だけに」
「ちょっと!なに上手いこと言ったって顔をしているんですか!?全然上手くないですからね!?」
「あれ?駄目?」
「駄目に決まっています!」
「桜散る。桜の恋も散る」
「何を言っているんですか!散るどころか、まだ咲いてすらいませんよ!?」
「あ、“まだ”なんだ?やっぱりその気はあるんじゃない」
「……っ!今のは言葉のあやです!何とも思っていませんったら!」
「ははっ、いいってば…。実際、その王子の事が無くても行くことにはなるんでしょ?なら仕方ないじゃない」
「もうっ…。ですが…、わたしはみんなを置いて…」
「だから?世界が違っても、桜とあたし達は友達なのは変わらないでしょ?それとも、あっちに行っちゃったら友達もやめるの?もしそうなら、あたしはこの場で友達をやめるからね」
「そんなこと…!どこにいようが、友達だと思っています!」
「ならいいじゃないの。桜は細かいことを気にしすぎなんだよ」
「ですが……もう戻ってこれない可能性の方が高いのですよ?二度と会えなくなるんですよ?」
「まあ、それは寂しいと思うけどさ…。あ、そうだ!なら桜が帰るための魔法を作ればいいじゃない!そしたらまた会えるよ」
「……そんな簡単な物じゃないんですよ?今回戻ってこれたのだって、偶然なんですから…」
「もう、最初から諦めていたら何にも始まらないって!そのくらいのつもりで行ってきなさいってことだよ!」
「……もう、色々と考えていたわたしが馬鹿みたいじゃないですか…」
「うん、だからそう言っているじゃないの。智子だってそう思うよね?」
「私は美春と同意見ね。どうにもならないことなら、それで悩むなんて馬鹿らしいことだと思うわ。ならそれまでに、私達と一杯、思い出を作ればいい。いつか帰ってきたいと思えるように……ね?」
「……本当に、二人にはかないませんね…。二人が友達で良かったと思います…」
「あははっ、今更だね。あたしはもっと前から桜と友達で良かったと思っているよ?」
「具体的には、美味しいお菓子を分けてもらえるから?」
「そうそう、って智子!?せっかくいい話だったのに…」
「ふふっ、なら、今度とっておきを作っていきますね」
「お、ラッキー!楽しみにしてるよ」
「ほら、やっぱりお菓子目当てだ」
「とぉもぉこぉ?」
「ふふふ…」
本当に、わたしは友達に恵まれていますね…。