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009 お茶とクッキー

「すみません、お茶を入れたいのですが道具をお借りできますか?」

 わたしは食堂に入って、調理場に向かって声をかけてみます。

 食堂にいた他の騎士や、村人と思われる人達から視線が集まります。どうやらわたしの着ている道着が珍しいようです。見世物じゃないんですがね。

「うちには偉い人に出せるほどの物は置いてないけどいいのかい?」

 おかみさんらしき人が出てきてくれました。

「かまいません。3人分お願いします」

 そう答えると、おかみさんは「少し待っとくれ」と言い残して調理場のほうに戻って行きました。

 しばらくすると、おかみさんがお湯の入ったポットとカップといった一式をお盆に載せて出てきました。

「落とすんじゃないよ」

そう言ってお盆を渡してくれましたが、どうも言い方というか、子供扱いされているようで気になります。

「大丈夫です」

 おかみさんを見上げて言うと、なんだか「仕方のない子だね」といった顔をされました。さらに子供扱いされたような気分になりました。


 釈然としないものを感じながら、王子の部屋に戻ります。

 両手がお盆でふさがっているので、声をかけてドアを開けてもらいます。

「桜です。お茶を持ってきました。開けてもらえますか?」

 少しだけ待つと、中からドアが開き、ライアス団長が顔を出しました。

「入れ」

 無愛想な一言に促されて中に入ります。

 メインのテーブルはわたしの私物で埋まっているので、ベッドの横にあるサイドテーブルにお盆を置き、お茶の用意を始めます。

 このお茶はハーブティでしょうか、どのような味だったか前世の知識を探ります。

 前世の知識から味や効能を思い出しながら、現世で培ったおいしいお茶の入れ方を組み合わせて用意していきます。

「もうすぐお茶が入るので、テーブルの上を片付けて下さい」

 用意しながら、まだノートやお弁当箱、腕時計を眺めていじくっている二人に声をかけます。

 お茶を入れて振り向くと、とりあえずはテーブルにはお茶を飲むスペースができていました。

 お茶の入ったカップを二人の前に置き、自分の分を持って椅子に座りました。

「お口に会うといいのですが。お茶受けはこのクッキーをどうぞ」

 そう言いつつ、わたしはクッキーの入った袋を開けてテーブルの中央に置き、一枚とって自分の口に入れます。

 うん、おいしい。ちなみにシンプルなバタークッキーです。

 わたしが食べるのを確認し、ライアス団長、セドリム王子がそれぞれクッキーに手を伸ばします。

 わたしはそれを見ながらお茶を一口、口に含みました。

 美味しいですね、どうやらうまく淹れれたようです。

 美味しいものを求めて自分で料理を始めて8年、それはこの世界でも通用するようです。

「これは…、美味いな。口の中で広がる香りと甘さ、クッキーは今までも食べてはいたがこれは全く別物だな。この香りはなんだ?香ばしいような…」

王子が驚いたような声を上げています。

二人のほうを見ると、王子はクッキーに手を伸ばし、団長は何やら固まっているようです。どうしたんでしょう?

「香りはおそらくバターです。牛の乳から作られるものです。甘さは砂糖は控えめですからバターの風味でしょうか。お茶と合わせると甘みが引き立ちますよ」

 そう声をかけると、王子はクッキーを咀嚼しつつ、お茶を口に含みました。

 団長も固まっていた状態から再起動したようです。同じようにお茶を飲んでいます。

「なるほど、この茶はハーブティか?いつも飲むものとはずいぶん味も香りも違うが…。しかしこのクッキーにはよく合うな」

 言いつつもさらにクッキーに手を伸ばしています。食いしん坊ですね。

「王子様がいつも飲むものは高級なものでしょう?これは安物のハーブティです。味も香りも王族が飲むような高級品とは比べ物になりませんよ」

 世間知らずなのでしょうか。少し呆れながら答えておきます。

 王子は「そうか」とだけ言ってクッキーとお茶を口に往復させています。見れば団長も同じような感じです。

 わたしはまだ1枚しか食べてないのに、クッキーはもうなくなっています。私のクッキーが…。


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